転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
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その男は万灯雪侍と名乗った直後に、忽然と姿を消した。謎の男だった。5年前に失踪したというパパの名前を知っていたのも謎だし。
結局、何がなにやら分からないまま、私たちは呆けながら家まで戻ってきていた。そこで待っていたのはーー
「っ、あかねちゃん! 瑠璃ちゃん!」
「霧彦っ」
「霧彦さんっ」
須藤霧彦。
私と瑠璃を残していなくなったパパとママの代わりに、私たちを育ててくれた人。
口煩い保護者・霧彦は、私たち2人を抱きしめた。無事でよかったよかったと何度も繰り返す霧彦。それはこっちの台詞なんだけど、と思いながら、ふと思い出す。私と霧彦は喧嘩中だった……。
「っ、離せよっ」
「おっと」
私にはね除けられ、霧彦は軽くよろけた。よく見れば、少し煤に汚れていて、あの『化物』の被害には遭っていたのだと分かる。喧嘩はしていたけど、心配は心配。だから、目線をそらしながら聞く。
「…………怪我は、ないわけ?」
「あぁ、問題はないよ。ギリギリで逃げ出せたからね」
「ふーん、そっか」
ひとまず無事は確認できた。あとは……。
「霧彦さん」
「ん? なんだい、瑠璃ちゃん」
「あの『化物』は、なに?」
私の代わりに、核心をつく瑠璃。
そうだ。私たちの家を燃やした『マグマ』のような体をした『化物』。そして、私たちを助けてくれた『化物』。あれは一体……。
「そうだね……」
霧彦は少し考えると、場所を変えようかと言い、私たちを連れて歩き出した。
ーーーー鳴海探偵事務所ーーーー
着いたのは鳴海探偵事務所。つまり、そこには、
「邪魔するよ、翔太郎」
「よう、みんなお揃いでどうした?」
左翔太郎。
鳴海探偵事務所の私立探偵が優しく微笑んでいた。
「こんにちは、翔太郎さん」
「おう、瑠璃ちゃんも元気そうだな」
「うん」
「それと……」
「しょ、しょうたろうさんっ! こ、ここここんにちはっ」
「お、おう。あかねちゃんもいつも通りで何よりだ」
いつも通りに、明朗快活にあいさつを返した。
声が裏返ってる? 目線が合わない? 顔が赤い?
……なに言ってんだ、殺すぞ。
「で、珍しいな。黒井ファミリー全員揃って来るなんて、明日は空からマグマでも降るんじゃねぇのか? はっはっは」
「その『マグマ』が今日、彼女たちの家を焼いたんだよ」
「!」
翔太郎さんの軽口に、霧彦は神妙にそう返した。すると、翔太郎さんの顔つきが変わる。
「おいおい、例の『ドーパント』の被害者ってまさか!?」
「怪我はしなかったさ。けれど、家が焼かれた」
「……すぐ相棒に『検索』を頼む」
「あぁ、よろしく頼むよ」
「「???」」
私と瑠璃の頭上にはてなが浮かんだまま、話が進んでいく。
「あ、あのっ! 翔太郎さんっ」
「ん、あぁ、悪い。なんでもないさ、気にしないでソファにでも座ってーー」
「ーーあの『化物』はなんなんですかっ」
私の問いを受けて、翔太郎さんは霧彦に目配せする。頷いた霧彦を見て、翔太郎さんは口を開いた。
翔太郎さん曰く、あの『化物』の名前は『ドーパント』。なんと人間が『ガイアメモリ』というUSBメモリのようなものを使い、変身した姿。
「超人の噂、聞いたことないか?」
「……そういえば、昔聞いたことがあるかも」
瑠璃の言うように、私も昔聞いたことがあった。人の域を超えた超人の噂。でも、それはずっと昔の話で、最近はそんな話なんて全然なかった。
「まぁ、ガイアメモリの流通もずいぶん減っているようだからね。『仮面ライダー』のおかげだよ」
「『仮面ライダー』?」
「『ドーパント』から風都を守る戦士のことさ。どこの誰かは分からないけれど、陰ながら守っていたようだよ」
「へぇ」
「……あー、なんだ。とにかくガイアメモリ自体の数は減って、ガイアメモリ犯罪も最近はほとんどなかったはずなんだがな」
久しぶりに猫探し以外の事件だ。
そう言う翔太郎さんの目はいつもよりも鋭くて、少しどきっとした。
「こいつは街の危機だ。照井にも連絡して、すぐに犯人は探し出す」
「照井? 照井って、春奈のお父さん?」
「あぁ、瑠璃ちゃんと春奈ちゃんは同級生だったか。そうだな、春奈ちゃんの親父さんは、えーと、ほら、警察官だからな」
「ふーん」
警察と連携して、『ドーパント』になった人間を探し出す。探偵の仕事なのかと疑問には思うけど、これも困った人を放っておけない翔太郎さんの優しさなんだろうと納得した。うんうんと頷いていると、話は進んでいく。
「それで、君のところで2人を預かってほしいんだが」
「ひょっ!?」
「え?」
変な声が出た。え、ええ!? なんでっ!? 混乱していると、霧彦はさらに話を進める。
「私の方はどうにでもなるが、うら若き乙女2人をネットカフェやカプセルホテルには泊まらせられないからね。その点、君のところには彼女がいるから安心だろう」
「あー、あいつは……そうだな。まぁ、聞いてみるだけ聞いてみるか」
「助かるよ。というわけだ、2人ともーー」
「霧彦さん、おねえ出てっちゃった」
ーーーー風見埠頭ーーーー
余計なお世話。霧彦の提案はまさにそれだった。
あの野郎……なんで翔太郎さんの、翔太郎さんの家になんてっ! そんなん嬉しいけど、嬉しいけどさぁぁっ!!
「流石に心臓に悪いし……」
左胸を抑えながら呟く。そういうところ、霧彦には分からないんだろうなぁ。だから、未だに独身なんだよ。
心の中で毒づきながら、港の淵に座る。そして、深いため息を吐いてーー
「悩んでいるのかい?」
「っ」
突如として、その人は現れた。
「……万灯雪侍」
「また会えて光栄だ、黒井あかね」
にこやかに笑う万灯。胡散臭い笑みだ。
「胡散臭ぁ……」
「フッ、胡散臭い、か。君の父親ーー黒井秀平にもそう言われたよ」
「また、パパの名前っ」
不意にその名前を出されたせいで、心が揺れる。
知りたい。そう思ってしまった。だから、私は口を開いた。
「教えて」
「なんであんたがパパのことを知ってるの。なんであの『マグマ』の奴がパパのことを知ってるの。なんで、なんで……」
それだけを聞くつもりだったのに、久しぶりにパパの名前を聞いて、不意に溢れてしまう。想いが濁流のように溢れ出てくる。
「パパもママも…………なんで、私たちを置いていったの……。2人はどこにいるの……?」
幼い頃に2人は消息不明になっていた。ある日突然、パパとママは私たちの前から姿を消したんだ。
小さく消え入りそうな私の問いに対して、万灯はその理由については分からないが、と前置きをして、答える。
「黒井秀平。彼は今、『裏の街』にいるよ」
「閉ざされたはずの私達の街にね」
その答えは今の私にとって、訳の分からない答えだった。余計に混乱する。でも、少なくともこれだけは分かる。
「……パパがどこにいるのか、知ってるんだ」
「あぁ」
「じゃあーー」
目を何回か擦って、私は万灯を再び見据えた。
「私をそこに連れていって」
「……フフッ、喜んで」
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