転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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004 aがもたらしたもの / 顕現せし超人

ーーーー1時間前・照井家・瑠璃視点ーーーー

 

 

「なんでやねん!」

 

 

ひとまず同級生の照井春奈ちゃんの家に一時避難したわたしは、彼女の部屋で雑談をしていた。そんな中、スリッパを高く掲げて、春奈ちゃんはツッコんだ。ツッコミはおねえの言動に対してのもので……まぁ、わたしも春奈ちゃんと同意見。

 

 

「翔太郎のこと好きなら好きって言えばええのに!」

 

「ん、そうだね」

 

 

勿論、翔太郎さんには既に相手がいるし、残念ながらおねえの恋は成就しないのが目に見えてるけれど、言うだけ言えばいい。まぁ、初恋は実らないものだって聞くし、仕方ない。

 

 

「はぁぁ、瑠璃ちゃんもそんなんじゃダメやで。好きな相手は奪い取るくらいせんと!」

 

「……いや、わたしは別にそういう人いないし」

 

「略奪上等や。恋の障害は高ければ高いほど燃え上がるっちゅうねん!」

 

 

わたしの話など聞かず、ヒートアップして、ものすごいことを言う春奈ちゃん。わたしと同級生だというのに、こうも謎の恋愛理論をもっているのは、いつも見ているという昼ドラのせいか、はたまたお母さんのせいか。どちらにせよ、恋敵にはしたくない子だなと思う。

 

 

「それはそれとして、あかねちゃんはどこ行ったん?」

 

「んー、たぶん風都タワーじゃない? おねえは高いところ好きだし。ほら、馬鹿となんとかは高いところが好きって言うから」

 

「……瑠璃ちゃん、けっこう酷いことさらっと言うなぁ」

 

「まぁ」

 

 

それもお互い様だから。

おねえはわたしのこと邪険に扱うし、わたしもおねえのことを存外にしてる自覚はある。けれど、それはお互いに信頼してるから。それを2人とも分かってる。だから、こんな軽口も言える。

 

 

「仲、えぇなぁ」

 

「……それなりに」

 

 

わたしの答えに、にかっと笑う春奈ちゃん。春奈ちゃんには隠し事ができないな、なんて思ったり。

まぁ、それはそれとして、春奈ちゃんにおねえの愚痴でも聞いてもらおう。そう思い、口を開こうとして、

 

 

ーープルルルルーー

 

 

会話を切るように、着信音が響く。

 

 

「春奈ちゃん、電話」

 

「ほんまや……て、なまくらぁ?」

 

「真倉さん?」

 

「うん、なんやろ?」

 

 

相手はおじいの元部下、そして、春奈ちゃんのお父さんの部下である真倉さん。がーるずとーくの邪魔をするなと怒鳴り散らかしながら、春奈ちゃんは通話し始めた。春奈ちゃんは声が大きいから、耳を傾けずとも内容が入っている。

 

 

「はぁ? あかねちゃんが風都署に? なんで? メモリ? なんやそれ……は? なんでもない!? なまくら、お前っ、もやもやすること言うんやないっ! ほら、言え言え!」

 

「!」

 

 

予想外のところから、おねえの名前が出て驚く。それだけじゃなくて『メモリ』って単語も聞こえた。

おねえ、まさかまたあの化物ーー『ドーパント』に……?

 

 

「っ」

 

「ちょ、瑠璃ちゃん!? どこ行くん!?」

 

「風都署。おねえ、いるんでしょ」

 

「ま、まって。もうあかねちゃんは署にはいないって」

 

「話は向かいながら聞く。早く向かおう」

 

「ウチの話聞いて、聞いてっ」

 

 

わたしは春奈ちゃんの腕を引き、照井家を飛び出した。

 

 

ーーーー風都署前ーーーー

 

 

「だから、言ったやん。もう帰ったって」

 

「……うん」

 

 

勇み足だった。自分でもがっくりと肩を落とし、落胆してるのが分かる。真倉さんによると、おねえが風都署に来たのは『ガイアメモリ』を拾い、届けるため。しかも、少し前に署を去っていたらしく。

勿論、何もないに越したことはないけど、心配損。

 

 

「それにしても、あれやねぇ。瑠璃ちゃんもなんだかんだ心配してるやんか」

 

「…………うん」

 

「ふふっ、早く帰ってくるとええね」

 

「うん」

 

「待ってようか」

 

 

まだあの『ドーパント』は捕まってないみたい。刃野さんのお孫さんを危険に晒すわけにはいかないよ、と真倉さん。送っていってくれるらしく、少し待つために風都署前のベンチに座る。

おねえの居場所に思いを馳せて約5分。声をかけられ、顔をあげるとそこにいたのは、

 

 

「探しましたよ、お嬢さん」

 

「誰?」

 

 

知らない男の人。随分と濃い隈とやつれた頬。かつては真っ白であったであろうボロボロの白い服。おおよそ普通の人間の雰囲気じゃない。

気になるのは、わたしを『お嬢さん』と呼んだこと。初見でわたしを『女』と判断できる人はほぼいない。となれば、目の前の人の候補として挙がるのは、ただ1人。

 

 

「あの時の『ドーパント』……」

 

「ご名答」

 

 

『マグマ』

 

 

メモリから『マグマ』の声が鳴り響き、男はメモリを首へ差し込んだ。次の瞬間には男が変わっていく。人間から『化物』に。

 

 

『上級メモリも私の能力も……全て、全て失った。『マグマ』などという下級メモリを使わなくてはいけないのも、黒井秀平のせいですッ!!』

 

「……何言ってるか分からない」

 

『分からなくて結構。この屈辱は私にしか分からないッ! それに、どうせ貴女は死ぬのですからァァ!!』

 

ーーグツグツグツグツーー

 

 

『マグマ』が右腕を挙げると、その腕がグツグツと音を立てて燃え上がる。それをそのままーー

 

 

「あほぉぉぉ!!」

「春奈ちゃっ!?」

 

 

『マグマ』が風都署の壁ととわたしを焼く間際、飛び込んできた春奈ちゃんに助けられた。身を屈めたことで、どうにかわたしたちは無事だ。

 

 

「走るで!」

 

「うんっ」

 

 

すぐさま立ち上がり、手を繋いで走り出す。何がなんだか分からないけど、今は逃げるしかない。とにかく走る。

 

 

ーーーー風見埠頭ーーーー

 

 

「はぁっ、はぁ……ここまで来れば追ってこんやろ」

 

「……はぁっ、は、どうだろ」

 

 

逃げて逃げて辿り着いたのは風見埠頭。ここなら人がいないし、水もたくさんある。最悪、海に飛び込んで逃げればーー

 

 

『無駄です。海に入ったとして、『マグマ』によって急激に温められた海水は爆発します。そうすれば、貴女方は確実に死ぬ』

 

「っ」

 

「こいつ、なんやねんっ。この『化物』ッ!」

 

 

『ドーパント』を相手に啖呵を切る春奈ちゃん。すごい胆力で、いつもなら感心するところだけど……。

 

 

『『化物』……そうですねぇ、『化物』……。本来ならば、こんな姿になるはずはなかったのです……こんな、こんなッ、下劣な『化物』にッ!!』

 

 

春奈ちゃんの言葉に激昂する『ドーパント』。様子が、おかしい?

 

 

ーーガシッーー

 

『私を『化物』と呼ぶなッ! 私は神になるはずの人間なのですッ!!』

 

 

叫びながら『ドーパント』は春奈ちゃんを無理矢理掴み上げる。

 

 

『それを、こんな、こんなッ』

 

「春奈ちゃんっ!」

 

「あっ、がっ……っ」

 

「止めてっ、その子を離して!」

 

 

わたしの言葉で、『ドーパント』はこちらに視線を向けた。

 

 

『……そう、そうです。元はといえば、お前のせいだ。お前の、お前の父親がァァ!』

ーーブンッーー

 

「あうっ」

 

 

怒りの矛先がこちらに向いたお陰で、春奈ちゃんは放り出された。かなりの距離吹き飛ばされたけど、ちゃんと生きてる。とりあえずよかった。でも、

 

 

ーーブルッーー

 

「っ」

 

 

不意に足がすくむ。恐怖を感じているのを思い出した。

怖い、怖い怖い怖い怖い。尻もちをつき、後退る。おかしい。なんで……前回は動けた。この『化物』を前にしてもおねえを庇えたのに……。

 

 

「あっ」

 

 

そこで気づく。あの時は、おねえに危機が迫ってたからだ。おねえが殺されちゃうと思って、咄嗟に体が動いた。その後もおねえがわたしのことを抱き締めてくれたから、大丈夫だっただけで。

決して、この『化物』が怖くない訳じゃないんだ。それを自覚したせいで、余計に体が震えてしまう。

 

 

『ぃ、殺しましょう、殺す殺す、コロスコロスコロスコロスッ』

 

「っ」

 

 

ゆっくりと迫る『ドーパント』を見たくなくて、思わず目をつぶる。そして、ポツリと零れ落ちた言葉。

 

 

 

「おねえ……っ」

 

 

 

「人の妹に手を出すな、ボケがァァッ!!」

 

ーーバギィッーー

 

 

 

耳に入ってきた声に、恐る恐る目を開ける。そこにいたのは、

 

 

「おねえ……」

 

「大丈夫、瑠璃?」

 

「~~っ、うんっ」

 

 

『ドーパント』の後頭部に蹴りを叩き込み、わたしの前に現れたその背中を見間違う訳がない。おねえだ。おねえが助けに来てくれたっ!

 

 

『あぁ、もう1人ィィ、ノコノコと現れましたねぇ』

 

「気持ち悪い声を出すなっ、雑魚がッ」

 

『雑魚ぉぉ!? 貴女ごときが大口をォォ!』

 

「はっ、雑魚でしょ! やっちゃえ、万灯ぉ!」

 

 

『あぁ』

 

 

おねえの呼びかけで突然現れたのは、前回もいたもう1体の『ドーパント』だった。

 

 

『どこからっ!?』

 

『降ってきたのさ』

ーーガシッーー

 

 

そう言うと、オーロラみたいな『ドーパント』は『マグマ』を光の腕で拘束した。素人目から見ても、力量差は明らかで。このまま上手くいけば助かる、けど……なんだろう、嫌な予感がする。その予感は残念ながら的中して。

 

 

『くっ……』

 

 

急に光の『ドーパント』の方が膝をついた。

 

 

『やはり……もう無理、だね」

 

「なっ!? あんた、あいつなんて余裕で倒せるんじゃ!?」

 

「そうは言っていないさ……実は私はもう、マトモに戦える状態じゃなくてね。最近は調子がよかったから大丈夫だと思ったのだが」

 

「あー!! ホントに適当野郎っ!」

 

 

言い合いをするその人とおねえを余所に、もう1体の『ドーパント』がこっちに歩いてくる。予想外の反撃にさっきの数倍激昂していて。

 

 

「瑠璃! 逃げるよっ!」

 

「うんっ、おねえ」

 

「ほら、あんたもっ!」

 

「……いいや、2人とも逃げるんだ。恩人の娘に死なれては、私の立つ瀬がない」

 

「うるさいっ! あんたも逃げるのっ! あんたが死んだら、パパの居場所分からなくなるでしょ!」

 

 

強引に膝をつく男の人を抱え、『ドーパント』から逃げ出す。でも、そんなんじゃ、逃げられる訳がなくて。

 

 

ーーグツグツグツグツーー

 

『娘を目の前で殺し、絶望する黒井秀平の顔が見たかったのですが……残念ですよっ』

 

 

そう言い、『ドーパント』はまた腕を振り上げる。

だめ、だめだめっ! このままじゃっ!

 

 

「っ」

 

 

咄嗟に足が動く。気づけば、わたしは『ドーパント』の前に躍り出ていたんだ。

 

 

「瑠璃っ!」

「瑠璃ちゃんっ」

 

『ハッ、貴女が盾になろうと結果は変わりません。全員ここで死んで終わりですよォォッ』

ーーブンッーー

 

「っ」

 

 

反射的にまた目を瞑ってしまう。恐怖で耳も遠くなる。何もかもが剥離していって。

だから、わたしは何も見ることができなかったんだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

『イービル』

 

「止めろ……妹に、瑠璃に触るな、このゲス野郎がッ」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「………………え?」

 

 

気を失ってたんだと分かるのは、それから少ししてから。

今までのことはすべて夢だったんじゃないのかと錯覚してしまう。そんなことないのは、離れたところでうずくまる春奈ちゃんが証明してくれてる。

慌てて駆け寄って、怪我がそこまで大したことないのを確認してから、わたしは春奈ちゃんに訊ねた。何があったのかと。その質問に、春奈ちゃんは答えた。

 

 

「あかねちゃんが……『化物』になって」

 

「あの『化物』を跡形もなく『消しちゃった』」

 

 

そうして。

わたしの姉・黒井あかねはわたしの前から姿を消した。

 

 

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