転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
ーーーーside『R』ーーーー
春奈ちゃん曰く。
わたしを守るために、おねえは『ガイアメモリ』を使った。そして、あの『マグマ』と戦った。擬音のオンパレードでよく分からなかったけど、要約すると、おねえの体から放出された黒い稲妻が『マグマ』を跡形もなく消し飛ばした、と。
それからさらに気になることも……。
ーーーー霧彦宅ーーーー
事件から2日が経った。
その後、わたしは『ドーパント』に襲われることもなく過ごした。わたしに万が一のことがあったら大変だからと、この2日間は警察病院に入院。そして、やっと今日退院できた。バタバタとしながらも、結局、しばらくの間は霧彦さんのお家にお世話になることになり……。
「無事でよかったっ、瑠璃ちゃん」
ーーギュッーー
玄関を開けた瞬間に、霧彦さんに抱き締められた。お父さんがいなくなってから、ずっとわたしたちの面倒を見てくれてたんだ。きっとこの2日間だって、心配で堪らなかったと思う。本当に心配をかけちゃったんだな、そんなことを再認識する。
「心配かけて、ごめんなさい」
「いいや、君が謝ることなんてない。むしろ、今回の件は私達の不始末のようなものなんだ。謝るのはこちらだよ……申し訳ない、瑠璃ちゃん」
わたしを抱き締めるのを止め、今度は深々と頭を下げる霧彦さん。止めてくださいとどうにかお願いして、頭を上げてもらえた。
それから話をし始める。おねえとわたしの身に起きたことを。その中でも特異だったのがーー
「『ガイアメモリ』が、あかねちゃんの体内から……?」
「うん。春奈ちゃんにはそう見えたって」
「……そうか」
わたしの言葉を聞いて、霧彦さんは考え込んでしまった。
「ねぇ、霧彦さん」
「ん、なんだい?」
「……教えて、パパとママのこと。2人はどうしてガイアメモリと関わって、どうして失踪したの?」
「…………少し長くなるよ。それでもいいかな」
「うん」
それから霧彦さんから教えてもらった。
パパが『転生者』というこの世界以外から来た人間だったこと。
ママはそんなパパに助けられて、惚れちゃったこと。
そして、2人が辿ってきた戦いの日々と何気ない日常。
わたしはそれを聞き終えて、
「………………」
言葉が出なかった。あまりにも色んなこと聞きすぎたんだ。でも、なんとなくは理解できた。今、わたしとおねえが巻き込まれつつある出来事を。
だから、わたしは改めて言葉を紡ぐ。
「霧彦さん。わたし、パパとママを探したい。それにおねえも連れ戻さなきゃ」
「……2人が失踪した理由にはガイアメモリが大きく関わっている。あまりに危険だ。私は君とあかねちゃんを2人から預かる身……許可はできない」
「…………」
「大丈夫さ、幸いなことに手がかりは掴んでいる。あかねちゃんのことも、私や翔太郎に任せるんだ」
「…………」
霧彦さんのことだし、その答えは想定はしてた。なら、仕方ない。わたしだけでこっそりと調べるしかない。
「………………はぁぁぁ」
と思っていたら、霧彦さんに大きなため息を吐かれてしまった。
「霧彦さん?」
「自分だけでも調べてやる、そう思っているだろう?」
「うっ……」
「まったく……本当に、似た者親子だ」
呆れた表情。でも、どこか優しさも含んだ表情で、霧彦さんは続ける。
「仕方がない。許可しよう」
「!」
「ただし、1人で勝手な行動をしないこと。保護者である私や翔太郎たちが危険だと判断したら、すぐに逃げるんだ」
「……わかった」
私の返事を聞いて、霧彦さんは満足そうに頷いた。
「それで、さっき言ってた手がかりって?」
「あぁ、今、ガイアメモリの流通数は少ない。流通元を辿れば、あの男にメモリを渡した人間に行き着くはずさ。それに、照井警視正が帰ってきているんだ。彼と連携し、『マグマ』メモリの出所を探る」
ーーーーside『A』ーーーー
「………………ん」
意識が浮上する。ぼんやりと靄のかかっていた視界が少しずつクリアになっていき、私は目覚めた。体を起こす。
ここは……? 一体何が……?
「意識が戻ったかい」
「……万灯」
体を起こした私に、水を差し出してくる万灯。それを受け取り、飲む。何日間か眠っていたようで、水が体に染み渡っていくのを感じた。同時に、
「う……っ」
吐きそうになる。空腹感はあるのに、それ以上に気持ちが悪い。頭と心の中がぐちゃぐちゃで、全身を掻き毟ってしまいたい感覚に陥る。そんな私に、万灯は毛布をかけてくれる。
「どうやら君は、精神がメモリの影響を多大に受ける体質のようだね。過剰適合し、メモリの性能を限界まで引き出せるが、逆に副作用すらも強く引き出してしまう」
「副作用……この不快感が……?」
「あぁ。何故か君の体内から現れたメモリ『イービル』は『邪悪』の記憶を内包するメモリ。ここ数日の君は、目に写るすべてを壊さんとしていたよ」
「なに、それ……」
瑠璃を守ろうとして飛び出したのは覚えてるし、その後、体内から飛び出してきたメモリを使ったところまでは覚えているけど。
「父親とは正反対だ。彼はメモリの副作用が精神に影響を及ぼさない。その代わりに、体調はよく崩していたがね」
「パパも、そんな体質だったんだ」
きっと遺伝だろうね。万灯は微笑みながらそう言う。
「ともかく今後はメモリの直挿しは止めたまえ。代わりと言ってはなんだが、これを使うといい。フィルター代わりにはなるだろう」
そう言うと、万灯は私に『それ』を差し出した。
これ、こいつが使っていたベルトみたいなやつ。あんたのじゃないのかと訊ねると、私はもう録に戦えないからと言われて。そんなこと言われても……。
「私、別に戦うつもりはないし……」
あの時は非常事態だったから。そう伝えると、万灯はひとつ息を吐き、こちらへ手を差し出してきた。手を取れってこと?
警戒しながらも手を取り、立ち上がる。
「は?」
私の目の前には街の夜景。だけど、明らかに違う。風都じゃない。ここはーー
「いいや、君は戦わざるを得ないよ。ここは『裏の街』……獣の蔓延る『街』」
「ようこそ、死臭漂う我等が『街』へ」
こうして、私のパパ探しが始まった。
ーーーーーーーー
a編終了。
次回、新章『o』編スタート。