転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
ーーーーside『R』ーーーー
おねえを連れ戻し、そして、パパとママの手がかりを探るため、わたしと霧彦さんは、早速風都署にやってきていた。出張から戻った照井警視正に会うためだったけど……。
「俺に質問をするな」
春奈ちゃんパパは酷く不機嫌だった。というより、キレてる。当然といえば当然。だって、
「それよりも春奈の件だ」
春奈ちゃんが危険な目に遭ったのは、既に彼の耳にも入っていた。霧彦さんの顔色が良くないのを見るに、たぶんこれは相当怒ってる。
「……そ、そのことは本当に申し訳ないと思っているよ」
「申し訳ないで済んだら警察はいらん。そして、俺がその警察だ」
「…………っ」
眼光の鋭さに思わず体が跳ねてしまう。春奈ちゃんからはいつもパパは優しいと聞いていたから、そのギャップがまた恐ろしさを加速させてる。
けれど、不意にその眼光を隠すように、彼は顔を伏せ、口を開く。
「っ、すまん。少し取り乱した」
少し……? や、冷静になってくれたならいいけど。
ともかく春奈ちゃんパパはひとつ咳払いをして、話を進めた。
「目撃情報を総合すると、『マグマ』を使った人物は15年前、黒井秀平によって撃破された元『財団X』の男だろう。本来、風都刑務所に収容されていたんだが……」
「脱獄した。そう翔太郎から聞いているよ」
「あぁ。だが、刑務所の警備レベルは、13年前の『NEVER』の事件を受けて格段に上がっている。少なくとも一個人が容易に脱獄できるはずがない。そして、極めつけはあの『マグマ』……あれは我々警察が『origin』のアジトから押収したものだった」
「内通者がいると?」
霧彦さんの質問に、春奈ちゃんパパは静かに頷いた。少なくとも脱獄を手引きし、メモリを提供した協力者はいるだろう、とも言う。今回の出張もそれを捜査していたみたい。その間に娘が巻き込まれたんだから、怒るほど心配にはなるか。
「左たちにも協力依頼は出してある。俺もこのまま捜査に戻るつもりだ」
「私にできることはあるかな?」
「今回の件は氷山の一角だろう。ガイアメモリ犯罪が再び増える可能性もある。須藤霧彦、お前には春奈の警護を頼みたい。それから彼女も」
そう言って、春奈ちゃんパパはこちらに視線を向けて。一応、わたしも狙われた身だし、配慮してもらえるのはありがたい。だけど、わたしはーー
「おねえを見つけ出して、連れ戻さなきゃ」
ただ守られるだけじゃダメ。
わたしはいつもおねえに守ってもらってきた。わたしよりずっと小さいその背中で。
だから、今度はわたしが守るんだ、おねえを!
「…………」
「…………」
しばらく春奈ちゃんパパと見つめ合う。見定められてると感じる。だから、目は反らさない。反らしちゃダメだ。
数十秒はそうしていた。やがて、春奈ちゃんパパはひとつため息を吐いて、霧彦さんに告げる。
「春奈の方はシュラウドに動いてもらう。場合によっては、ときめに世話を頼もう」
「……すまないね」
「いや、恐らく何を言っても、この娘は譲らないだろう」
そこまで言って、彼は小さく笑う。
「本当に、あの男にそっくりだな」
ーーーー霧彦宅・瑠璃の部屋ーーーー
「ふぅ」
わたし用にと霧彦さんが用意してくれた部屋。その中央を陣取るセミダブルのベッドに横になり、大きく息を吐く。
よし、どうにか許可はもらえた。
「……大丈夫」
1人呟く。『ドーパント』や『ガイアメモリ』なんていう想像を超えたものと関わって、おねえを取り戻す。そして、パパとママも見つける。正直、怖い。
だけど……うん、大丈夫。
こういう時には、いつもわたしを支えてくれるから。
「……ママの『お守り』」
バッグから取り出したのは『お守り』。かわいい桜柄の小さな巾着袋。
……忘れもしない。失踪する前日に、ママがわたしにくれたもの。
「っ」
ママの優しい笑顔を思い出して、つい泣きそうになる。
でも、我慢。大丈夫、大丈夫。
ーーピリッーー
「あっ!?」
ーーコツンッーー
「いたっ!?」
いつもよりずっと強く握ってしまったからだと思う。弱くなっていた巾着の縫い目が破けてしまって、『お守り』の中から何かが落ち、寝転んでいたわたしの額に直撃してしまった。
おでこをさすりながら、体を起こし、わたしのおでこに降ってきたものを握る。その瞬間、
ーービリッーー
まるで電気が走ったかのような衝撃。静電気かと思って、近くにあったペンで『それ』を手繰り寄せた。そこにあったのはーー
「っ、ガイア、メモリっ!?」
色こそ違うし、なぜか一部の外装が壊れていて、なんのメモリなのか分からないけど、『マグマ』と同じ代物だってことは分かる。反射的に飛び退いた。
なんでママの『お守り』から? そんな疑問は、それ以上の衝撃のせいで消し飛んでしまう。
『おい』
「っ、だ、だれっ!?」
どこからか声が聞こえてきたんだ。女の人の声。誰かがいるのかと、見渡しても誰もいない。気のせいかとも思ったけど、
『ここだ、ここ』
「…………え」
その声はどう考えても、そのガイアメモリから鳴ってるように聞こえる。
『はっ、なるほどな。雫にそっくりだ』
「っ」
ママの名前を出すその『メモリ』。頭の中に次々とハテナが浮かんでは消える。そうして、どうにか捻り出したのは、
「あなた、は……何者……?」
混乱したままのわたしに、その『メモリ』は名乗った。
『あたしは『イービル』』
『まぁ、なんだ……お前のもう1人の母親、みてぇなもんだ』
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