転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
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『イービル』。
素性の分からないその人はそう名乗った。意志疎通がとれるメモリなんてあり得ないとも思ったけど、同時にわたしはガイアメモリの知識がない。だから、こういうこともあるのかと受け入れることにした。
彼女曰く、元々ママと共に戦っていた人で、『イービル』メモリから生まれたママのもうひとつの人格が『イービル』さんだと言う。
「だから、もう1人のママって」
『それ以外に説明のしようがねぇからな。勿論、あたしは雫とは完全に別人格だから、正確にはお前の母親って訳じゃねぇけど』
「でも、声はそっくり」
『そりゃそうだ。別人格だけど、あいつがベースになってるし』
壊れかけたメモリから確かにその声は聞こえていた。言われてみれば、ママの声にかなり似てる。口調は全然違うけど。
とりあえず『イービル』さんについては理解した。次の質問だ。
「なんでママの『お守り』の中に入ってたの?」
『それはあたしが知りたいくらいだ。そもそもあたしの人格は昔に消滅したはずで、あたしがここにいること自体訳がわかんねぇ』
「そうなの?」
『……あぁ』
残念。そっちの謎は分からず仕舞い。
『じゃ、今度はそっちが説明する番だ。今の状況を教えてくれ。何がなんだか分からねぇ』
「うん」
説明が終わると、『イービル』さんは黙ってしまう。一瞬、壊れてしまったのかと思い、メモリを振ってみるとキレられた。
ともかくわたしの知っていることを全部伝えて、
『ったく、娘放っておいて、どこで何をしてやがるんだ、あいつらは……』
「………………うん」
『っ、ま、まぁ、なんだ! どっかに行っちまった姉貴と、失踪してる雫とあのボケを探し出す。お前のやりたいことは分かった』
「うん」
『協力もしてやるよ。まぁ、メモリ自体の機能は壊れてるのか『力』にはなってやれねぇだろうが』
それでも話し相手やら相談相手やらにはなれる。お前よりもメモリについての知識はあるだろうし。
『イービル』さんはそう言ってくれた。口は悪いけど、優しい人だ。
『とりあえず明日から動くんだろ。探偵にフロッグポッドってのを用意してもらってくれ。そうすりゃ、あたしもある程度行動できるはずだ』
「分かった。翔太郎さんに言ってみる」
『あとは霧彦にも会わねぇとな……って、ここ、霧彦の家ならすぐにでも会いに行けるじゃねぇか』
「あ、いや。霧彦さんはもう寝てると思う」
『は? まだ8時だろ? お子ちゃまじゃねぇんだから』
「なんでも病気で、かなり長い時間寝なきゃいけないって聞いてる」
『……なるほど、あれから10うんたら年経ってる。『ナスカ』メモリの副作用か』
「『ナスカ』?」
『んあー、なんだ、明日直接聞いてみろ』
それ以上は話す気がないようで、『イービル』さんはそれ以上の話をしなかった。明日は忙しくなる。今日はしっかり寝ておけ、という『イービル』さんの助言に頷き、わたしは布団をかぶったのだった。
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「まさか君が戻ってくるとはね」
おねえを探す前に、大事な話がある。
霧彦さんにそう伝え、昨日言われたフロッグポッドのことを頼んだ。霧彦さんはすぐに用意してくれて、わたしは『イービル』さんをそこに挿入した。その結果、フロッグポッドから『イービル』さんの声が流れてきて。
『久しぶりだ、ずいぶん老けたな』
「あぁ、あれから10年以上が経っているんだ。当たり前だよ」
懐かしむような表情の霧彦さん。こんな表情、初めて見たかも。保護者代わりだったその人が初めて見せる表情に少し驚く。わたしの視線を感じたのか、霧彦さんは少し微笑み、話を進める。
「瑠璃ちゃんが、母親ーー雫ちゃんからもらった『お守り』の中に『彼女』が入っていたというなら、十中八九それをしたのは黒井くんたちだろう。そこから考えるに……」
『あいつらは瑠璃に『あたし』が必要になることを予想してた、ってことだよな』
「あぁ」
「……わたしがガイアメモリに関わることを予想してたってこと?」
わたしの問いに霧彦さんは頷く。
「メモリに関わる者は惹かれ合う。君たちはあの2人の娘だ。絶対数は少なくなったが、いつかメモリに纏わる事件に巻き込まれるのを予想するのは難しくない」
『護身用か……佐奈みたいなことを考えやがって』
「流石は姉妹といったところかな」
「?」
わたしがポカンとしているのを見て、霧彦さんは話を軌道修正する。『イービル』さんはわたしのことを見守り、危険なことがあれば霧彦さんにすぐに伝える。霧彦さんの提案を『イービル』さんは受け入れて。そして、話題は今後の方針へ。
「既に照井くんから連絡は来ているよ。ガイアメモリに関する事件の情報だ」
「……メモリ事件を追えば、おねえは見つかる?」
「断言はできない。けれど、ここ最近は影を潜めていたはずのメモリ犯罪が少しずつ起き始めている。偶然といえばそれまでだろう。だが、私はこの件が繋がっているようにしか思えないんだ」
「……うん。分かった」
霧彦さんの言うことならば信じられる。
そんなわたしたちのやりとりに水を差すように、『イービル』さんが口を開く。どうやら『イービル』さんは待てない人みたいだ。
『で? そのガイアメモリに関する事件ってのはなんなんだよ?』
「あぁ。とある廃ビルに住みついていたホームレスがある『ドーパント』を目撃したようでね。その『ドーパント』に変身するためのメモリは中々に珍しくーー」
『話が長えよ、霧彦! そいつは一体なんの『ドーパント』だっ!』
『イービル』さんの言葉に、呆れたようなため息を吐いた後、霧彦さんはその『ドーパント』の名を告げた。
「『オウル』」
「昔、『仮面ライダー』が倒したはずの梟の『ドーパント』だ」
ーーーー王道学習塾跡地ーーーー
『キリサキタイ、キリサキタイィ……ウゥゥ』
「落ち着けぇ、焦らなくてももうすぐ切り裂かせてやるからよぉ」
『ウン、ウン……ワカッタヨ、ニイチャン』
「あぁぁ、お利口な弟だぁ。大丈夫、兄ちゃんも早く『為って』やるからなぁぁ」
『オウル』
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