転生したらミュージアムの下っ端だった件(完) 作:藍沢カナリヤ
ーーーー王道学習塾跡地前ーーーー
「ここ?」
「あぁ」
早速、わたしと霧彦さんは王道学習塾跡地に来ていた。建物を見上げる。10年以上放置されているらしく、外壁の一部が所々崩れてたり、落書きがされていたりとかなり荒れてる。建物自体を壊せばいいのにって思うけど、なにやらお金や権利の関係でそうもいかないという話を聞いた。とにかく、ここで『オウル』……梟の『ドーパント』がホームレスに目撃されてるって話だけど。
「霧彦さん?」
「ん、あぁ……すまない、私もここは少々嫌な気分になるんだ」
昔、ここにあった学習塾の塾長が学生にメモリをばらまいてたって事件のことを教えてもらった。霧彦さんがその事件解決に関わってたことも。風都の『未来』を大切にしてる霧彦さんが、この場所に嫌悪感を感じるのは当然だろうな。
『まぁ、気持ちは分かるぜ』
霧彦さんに同意するのは『イービル』さん。フロッグポッドから接続したイヤホンマイク。スピーカーモードにしたことで、霧彦さんにもその声は聞こえていた。
「分かってくれて何よりだよ」
『あぁ、今だって胸糞悪くてしょうがねぇよ。この建物から気味の悪い気配が漏れ出てる』
「例の『ドーパント』……やっぱり、ここにいるの?」
『あぁ、ビンゴだ』
霧彦さんにはここで待つように言われたけれど、そうもいかない。わたしが引かないのを再確認した霧彦さんから、自分から離れないようにという注意を受けて、わたしたちは学習塾跡の廃ビルに足を踏み入れた。
ーーーー廃ビル内部ーーーー
学習塾だっただけあって、内部は多くの部屋があった。授業をしてたであろう部屋や広さ的には自習室ぽい部屋。どの部屋で『ドーパント』を見たとか詳しい情報はないから、地道に一部屋ずつ警戒しながら進んでく。やがてーー
「けほっ」
霧彦さんがその部屋の扉を開けると同時に軽く咳き込んでしまう。長年使われてないし、埃が溜まってたみたい。扉を開けたことで部屋内の埃が舞う。見たところ倉庫だろう。この部屋には『ドーパント』はいないよね。
『……おい、霧彦』
「あぁ、分かっているよ」
「……?」
『この部屋だ。気色悪い気配がする』
わたしには分からないけど、2人はこの部屋からなにかを感じ取っていた。狭くて人が隠れるスペースはないと思うけど。そう思いながらも、『イービル』さんに促されるままカビの生えたダンボールを移動させていく。すると、
「あ」
「なるほど、隠し扉か」
天井を調べていた霧彦さんは、納得したように床にある扉を覗き込んだ。わたしも改めて扉を見る。扉は鉄製で、ドアノブはない。工具があれば開けられるかもだけど、勿論、そこまでの用意はしてない。残念ながら一回引き返すしかない。そう思っていると、おもむろに霧彦さんが立ち上がった。
「霧彦さん?」
「瑠璃ちゃん、少し下がっていてくれたまえ」
霧彦さんの言葉通り、数歩後ろ、倉庫の入り口付近で待つ。それを確認した霧彦さんは軽く息を吸いーー
ーーバゴッーー
その扉を拳で叩き割った。鉄製の扉は見事に真っ二つになっていて。
「すごい……」
「さぁ、行こう」
何事もなかったかのように、霧彦さんは微笑んだ。
ーーーー地下道ーーーー
カツンカツンと地下道に足音が反響する。霧彦さんが前を進み、わたしはその後ろに着いて歩いている。
「霧彦さん、さっきのは……?」
後ろからわたしはさっきのことを訊ねた。
人間とは思えない超怪力。隠し扉は鉄製だった。空手の達人でも鉄を叩き割るなどできるはずがない。なにかカラクリがあると思った。
「…………魔法、さ」
「もしかして、メモリの力なの」
「誤魔化されてはくれないか」
歩を進めながら、霧彦さんは話をしてくれた。
霧彦さんもガイアメモリを持っていて、その力が人のままでも一部使える。
「私の持っているメモリは相当強いメモリでね。その影響が人体にも現れ、人間態でも能力の一部を出力できる。『ハイドープ』……そう呼ぶようだ」
「『ハイドープ』……強い『ドーパント』」
「あぁ、概ねその理解で違わなーー
『おい! 霧彦! 後ろだっ!』
ーーザンッーー
わたしの視界が揺れる。背後から斬撃が飛んできて、霧彦さんがわたしを抱きかかえて回避したのだと理解したのは、その数秒後のこと。
混乱する頭で、霧彦さんに抱き締められながら周囲を確認する。そこにいたのはーー
『フゥゥゥゥ……フゥゥゥゥッッ』
首なしの巨人だった。白く筋肉質な肉体。首元からは頭の代わりに木の根のようなものが生えているのも、その不気味さに拍車をかけていた。
「弟の攻撃を避けるとはぁ……お前、何者だぁ」
一本道の地下道に響いた化物とわたしたち以外の声。コツコツと足音を鳴らしながら、暗闇から現れたのは1人の男。年齢は五十代くらい。長身やせ形で、白い長髪と髭。やつれた頬と目の下の濃い隈。まるで骸骨みたいな男だと思った。
「ただの風都を愛する一般市民さ。そういう君こそ何者だい?」
「俺かぁぁ。俺は……」
ーーガシャッーー
「っ、『ガイアドライバーREX』!」
「梟だよぉぉ!」
『オウル』
骸骨男は懐から『ベルト』のようなものを取り出した。そして、起動したそのメモリを『ベルト』に挿入し、わたしよりも小さな梟『オウル』へと姿を変えた。
って、ただの梟じゃ……?
『しゃがめ! 瑠璃!』
「ッ」
『イービル』さんの声に反応し、反射的にしゃがむ。同時に後ろから瓦礫の崩れる音がした。チラリと背後を確認すると、わたしたちが進もうとしていた方向の壁が崩れていた。
「あの一瞬で攻撃したということか。相当なスピードだ」
『当たりだぁ! 破壊力では弟の方が上だが、速さは俺の方が圧倒的に上ぇ! 音もなく、お前もそこの小娘も切り刻めるんだよぉぉ!』
恐怖で足がすくむ。そんなわたしを庇うように、霧彦さんは一歩前へ出て。
「『オウル』……照井くんから聞いた情報は当たりだったようだ。瑠璃ちゃん、前へ走るんだ! 今ならまだ瓦礫の隙間が空いている。君なら通り抜けられるはずだ」
「霧彦さんはっ!?」
「大丈夫。さっきも言っただろう、私は強い『ハイドープ』なんだ」
そう言うと、霧彦さんは懐から『それ』を取り出し、腰に装着した。
『ハハッ、『ガイアドライバー』ぁぁ? そんな旧時代の産物など恐れるに足らないぃぃ』
「そうだろうね。君が使っているものより旧式だ。だから、その性能差はーー」
『ナスカ』
「これで埋めよう」
霧彦さんの姿が変わっていく。
『小娘ががら空きだぁっ』
ーービュンッーー
『瑠璃!』
「えっ!?」
変身する霧彦さんに気を取られていたことで、『オウル』の攻撃への反応が遅れてしまった。殺されちゃう。そう思ったけど、
『止めてもらおうか。その娘は私の大切な友人の娘でね』
斬撃は届かない。わたしの目の前に現れた蒼色の『ドーパント』が光り輝く翼で止めていたから。
『瑠璃ちゃん、早く!』
「は、はいっ」
『『イービル』ちゃん! 任せたよ』
『当たり前だっ!』
その『ドーパント』に背を向けて、わたしは走り出した。
ーーーー霧彦視点ーーーー
気味の悪い気配は、恐らくこの2つだけ。『イービル』ちゃんもいるし、瑠璃ちゃんはこれで大丈夫だろう。少しだけ安心した私は、改めて『オウル』に向き合った。
『その姿、『ナスカ』ぁ……? 園崎霧彦かぁぁ!!』
『その名は疾うに捨てている。今はただの『ナスカ』さ』
剣をその梟へ向ける。2対1だが、問題はないだろう。2人合わせてかかってきたまえ。そう告げると、奴らは動き出した。
『弟よぉぉ! 奴のお望み通りに、2人『合わせて』行くぞぉ』
『ウン、ニイチャン』
そう言うと、骸骨男の方の『オウル』が飛び上がり、止まり木の方の『オウル』へ。2体が触れ合った瞬間に、白い巨人の頭の木が蠢き、梟の足に接合した。
『ハハハハッ! ドウダ、この姿! キョウダイの絆……この真の『オウル』の力を受けてミロぉ!』
高笑いをする『オウル』。言うが早いか、こちらへ斬撃を飛ばしてきた。確かに速い。だが!
『避けられない攻撃ではない』
ーーグッーー
『だよナァァァ!』
『!』
攻撃はフェイク。斬撃の後に、奴は距離を詰めてきた。その巨体でその速度。喰らえば一溜りもない。『超高速』で奴らの左へ!
ーーギュンッーー
避けたはずだった。だが、一撃目に放たれた斬撃が命中していた。これは軌道を曲げたのか。
『なるほど。これが君たちの『ハイドープ』能力ということか』
『ソウぅ! 斬撃を自由自在にコントロールできる力ダァァ!』
ーーザンッーー
ーーザンッーー
ーーザンッーー
さらに、斬撃を繰り出す『オウル』。攻撃は3回に見えたが、恐らくそれ以上に繰り出しているだろう。全ての斬撃を避け、かつ曲がる軌道を予測するのは不可能だ。
『シネぇぇぇ!!』
そう。無理だ。以前までの私ならね。
『ふぅ……』
目を閉じる。そしてーー
『……『超感覚』』
再び目を開けた私は一歩前へ踏み出した。
ゆっくりとした歩みだ。それでも攻撃は当たらない。私の進む先に攻撃は決して来ない。そうして、私は無傷で彼らの目の前に辿り着いた。
『な、なにヲッ!?』
『これをすると少し疲れるんだ。終わりにさせてもらうよ』
『ふ、ふざけるナァァァッ!!』
拳を振りかぶる『オウル』。けれど、それも当たらない。
私は『ナスカ』を体外へ排出して、素早く『ロストドライバー』へ付け替える。この街では『彼ら』に流儀を合わせよう。
『ナスカ マキシマムドライブ』
マキシマムは『オウル』の接合部を捉え、エネルギーが2体に分散して爆発した。轟音が狭い地下道に響く。
「……近所迷惑になってしまったかな」
意識を失った骸骨男とその弟らしき大男を放って、私は瑠璃ちゃんたちを追うことにしたのだった。
ーーーー瑠璃視点ーーーー
大きな音が聞こえ、一瞬意識がそちらへ向きそうになる。だけど、どうしても目の前の光景から目を離すことができなかった。
「なに、ここ……?」
そこはまるで実験施設のような場所で。けれど、わたしでも感じ取れるくらいに、エネルギーに満ちていた。まるでこの場所自体が生きているみたいな……。
『おい、瑠璃。その辺から流れ出てる『水』には触るなよ……嫌な感じがする』
「……うん」
『イービル』さんの言う通り、そこら中から『水』のようなものが湧き出ている。これは一体……?
「『
わたしの疑問に答える声。聞き覚えがあった。わたしたちが『マグマ』に襲われた時に助けてくれた男の人の声だ。
辺りを見渡すと、その姿は確認できた。蠢く柱のうちの1本、その陰からその人は現れた。名前は確か……。
「万灯雪侍」
「名前を覚えてもらえて光栄だよ、黒井瑠璃」
にこやかな笑み。だけど、胡散臭くて信用はできない。
「先ほど君は『yoke』に興味を持っていたね。教えようか、『yoke』と『安らぎの泉』のことを」
「…………」
情報が圧倒的に足りない今、聞いておいた方がいいのは分かってる。胡散臭いけど、害意はないみたいだし。けど、今はそれよりもずっと聞きたいことがある。
「そんなことより、おねえはどこ?」
そう。わたしが聞きたいのはそれだ。
『マグマ』に襲われた後、この人はおねえと一緒に姿を消した。だから、きっとおねえの居場所も!
「ここだよ、瑠璃」
「っ」
声。
聞き間違える訳がないその声の主はーー
「おねえっ」
「…………1週間ぶり」
きょろきょろと見渡しても、おねえの姿はない。声は聞こえるのに!
「どこ、どこにいるのっ? 姿を見せてよ」
「……ごめんね。今は会えない」
「っ、なんでっ」
「………………ごめんね、瑠璃」
「おねえっ!!」
わたしの声は反響するだけ。返事はない。
いつの間にか万灯の姿もなく、またもおねえの手がかりは暗闇に消えてしまった。
ーーーーーーーー
『o』編終了。
霧彦の『ハイドープ』化。
なぜ雑魚が『ガイアドライバーREX』を持っているのか。
なぜあかねが姿を見せないのか。
新展開や謎をお楽しみください。
次回、新章開始。