転生したらミュージアムの下っ端だった件(完)   作:藍沢カナリヤ

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久しぶりの更新です。
新章『y』編開幕。


009 yの邂逅 / 適者生存

ーーーーside『A』ーーーー

 

 

「おえ……っ」

 

 

胃液が逆流し、また吐く。これで今日は3回目。そのせいで声も少しおかしくなってしまっている。まぁ、どうせ誰に聞かせるでもないし、こんな『街』を汚すことになんの感情も湧かないからいいけど。

 

 

「瑠璃と……会っておけばよかったかな」

 

 

1週間前、メモリの副作用を抑えるための薬・『yoke』を『安らぎの泉』に取りに行った時、偶然出会えた瑠璃のことを思い出す。たぶん今の私は1週間前よりももっと酷い顔をしているだろう。

そんな感傷に耽っている間にも、また敵は来る。

 

 

『グルルルルル……』

 

「また『ロード』」

 

 

2週間ぶっ通しで同じような奴らの相手をしたんだ。今さら驚くこともない。とにかくこの『街』は私をまだ休ませてくれないみたい。

 

 

『イービル』

 

 

『ガイアドライバーREX』に再び『イービル』を挿し、変貌を遂げる私。姿の変化は少ない。髪の色が白銀に変わる程度。けれど、纏う雰囲気は相当に変わるようで、それを感じたのか『ロード』は急に殺気立ち、こちらへ向かってくる。

 

 

『ガルルァッ!!』

 

『ふん』

 

 

攻撃を軽く躱し、奴の首へ蹴りを叩き込む。『ドーパント』とはいえ、急所への一撃だ。たまらずよろけた『ロード』の足元を払い、奴は無様に倒れた。

 

 

『ぐ、オォォ……』

 

『…………っ』

 

ーーバギィッーー

 

 

仰向けの『ロード』の鳩尾へ体重を乗せた肘鉄をかますと、奴は動きを止めた。

 

 

『ガァァァッ!』

 

『……まだいたの、かよっ!』

 

 

『ロード』の知能は低い。分かりやすい雄叫びをあげて迫ってきたもう一体の『ロード』を避け、再び足払い。

……ちょっと体力は温存したいな。

体勢を立て直している敵を視界には入れつつも、辺りを探る。幸運なことにこの近くに『歪み(ひずみ)』があるのを見つけた。これを利用しない手はない。私はそのまま『ロード』の首を掴み、

 

 

『落ちろッ』

 

 

歪み(ひずみ)』の方ーー『街』の下層へと落とす。私もそのまま落下して、自重と落下の衝撃を込めて、『ロード』の顔面を踏みつける。グシャリと顔の潰れる音が聞こえた。生々しい感触に、また吐き気が込み上げてくる。

 

 

『……っ」

 

 

メモリが排出され、姿が戻った。仰向けに横たわる。風都の青色の空は見えるはずもなく、ただ重苦しい真っ黒な空が広がっていた。

 

 

「気分はどうだい」

 

「……万灯」

 

 

そんな私の顔を覗き込んでくる万灯。余計に気分が悪くなったと答えると、気にしていないように笑い返してくる。

……むかつく。こっちはこんなに苦しんでるのに。

 

 

「副作用は……ないんじゃなかったの……」

 

「そうは言っていないさ。あくまでも副作用がマシになる程度と、そう言ったはずだ」

 

「薬、使えばよくない……?」

 

 

あまりの精神的苦痛に、そんな提案をする。そもそもそのために『yoke』を回収してきたんだ。一度も使わないまま、腐らせておくのはもったいない。

 

 

「止めておいた方がいい。あれはあくまで最終手段だよ」

 

「依存性があるんだっけか」

 

「あぁ、無闇に使うものじゃない。まぁ、今の気分不快の原因は『ロード』を殺したことに起因する。要は気の持ち様さ」

 

「……人を殺しておいて、気分がいい訳がないじゃん」

 

「あれは人ではない。『ガワ』だけの存在だから、気に病むことはないよ」

 

 

それでも感触はある。

顔面を踏み潰した感触が。内蔵を貫いた感触が。首を跳ね骨すら斬った感触が。そんな感触をこの2週間味わい続けてきたんだ。そんなに簡単に割り切れない。

 

 

「その辺りは分かり合えない、かな」

 

 

やれやれと肩をすくめる万灯。

万灯は紛れもない人殺しだ。罪を重ね続け、人を殺すこと自体には何も感じないと言っていた。だから、不思議だった。そんな人間が私をこうして助けているのが。

恩人の娘だから。奴はそう話していて、そのことを詳しく聞き出そうとしたけれど、のらりくらりと躱されてしまっている。

 

 

「とにかくいつまでも『歪み(ひずみ)』にいるのはよくはない。ここもいつ壊れるか分からないからね。一度、借りるよ」

 

『オーロラ』

 

 

そう言うと、万灯は私が落とした『ドライバー』を拾い上げ、『オーロラ』に姿を変えた。掴まっているんだよと私に告げて、『街』へと飛翔する。

 

 

 

ーーーー裏風都・路地裏ーーーー

 

 

この『街』・裏風都はおかしい。

地面は赤黒く、空も闇に覆われたように暗い。ビルや建物はあるように見えるけれど、外側だけで中に入ることはできない。『歪み(ひずみ)』とかいう巨大な地面の陥没もある。そこがさらに崩れると『そこ』にいた者は例外なく消える。実際に見たから間違いない。

昔は違ったと万灯は言うけれど、今は少し休憩するのにも、こんな路地裏で『歪み(ひずみ)』に注意を払わなきゃいけないし、休んだ気がしない。風都とは大違い、最悪の『街』だ。

 

 

「……本当に、こんなボロボロの『街』にパパがいるわけ?」

 

 

万灯が用意してくれた濡れタオルを顔に当てながら訊ねる。

 

 

「それは間違いない。私と『街』の繋がりはそれなりに強くてね、そこにいる者の存在をある程度感じ取ることができる」

 

「……ママもいるの?」

 

「それは分からない。残念ながら、私は君の母親には会ったことがないんだ」

 

「じゃあ、やっぱり……あの『塔』を目指すしかないか」

 

「あぁ」

 

 

ここからでも見える、この『街』の中心にそびえ立つ『塔』。出来損ないの風都タワーのような見た目をしているあの場所は、万灯曰く『街』の中核を担う管理室のようなものだという。

 

 

「きっと『あそこ』に……」

 

 

秀平くんが訳もなく失踪するはずがない。

霧彦はよくそう言っていた。パパがここにいるとしたら、確実に何かの目的があるんだろう。だとしたら、『街』を管理する『塔』に行けば、会える可能性は高い。

 

 

「必ず見つけるよ、パパ」

 

 

ポツリと呟いた言葉は、路地裏に小さく響いて消えた。

 

 

 

ーーーーあかねの知り得ない光景ーーーー

 

 

「………………」

 

 

椅子に座っていたその男は、ゆっくりと目を開けた。眠っていた訳ではない。彼はこの『街』に来てから、心と体を休めたことはなかった。

 

 

「………………」

 

 

目を開けたのは、気配を感じたからだ。最近、『街』が騒がしい。『奴』が『街』に入ってきたのかと思ったが、それにしては静かだ。つまり、『奴』以外の何者かがこの『街』に入ってきたのだろう。

 

 

「…………少し様子を見に行くか」

 

 

椅子から立ち上がった彼は、おもむろに部屋の隅に置かれたベッドに近づいて跪く。寝ている彼女の額に軽く口づけを交わし、ポツリと呟いた。

 

 

「行ってくるよ、雫ちゃん」

 

 

返事はない。当然だ。

その様子を見て、ゆっくりと死んでいくと思っていた心が怒りと憎しみに染まるのを彼は自覚していた。

 

 

ーーーーーーーー




すまんな。
14時間労働で死にそうなんや。
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