『女神、再臨。』

かつて人類の文明化を助けた、異星種族。 
銀河を分ける大戦の中、地球を訪れた目的は!?

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長編『Lucifer(ルシファー)』第二章を、次の作品に感動して口語化しました。

イラスト:『千早』 https://www.pixiv.net/artworks/61620952
『如月千早』 https://www.pixiv.net/artworks/79171941
『アルベド』 https://www.pixiv.net/artworks/68033001
『不死者之王』 https://www.pixiv.net/artworks/100680706
『星を繋いで』 https://www.pixiv.net/artworks/96842614
『紫霧』 https://www.pixiv.net/artworks/93033388
『Lily』 https://www.pixiv.net/artworks/45203956
『百合姫』 https://www.pixiv.net/artworks/98922201

動画:『千早 kokoro』 https://www.nicovideo.jp/watch/sm5842944
(コメントは右下吹き出しをクリックで消えます)
『約束』 https://www.nicovideo.jp/watch/sm21988300
『悠久の旅人』 https://www.nicovideo.jp/watch/sm1375891
『月下儚美』 https://www.youtube.com/watch?v=3m0x-Xfi6Xg
『FairyTaleじゃいられない』 https://www.youtube.com/watch?v=3ZMdF3bhJR0
『M@STERPIECE』 https://www.youtube.com/watch?v=LULl-LJiRVw

素敵な刺激を与えてくれる、素敵な文化的作品に感謝します。

人類の歴史や神話を題材にした、壮大な物語が書きたいと思いました。
あくまでも星間帝国の興亡を描いた、SFです。

昔、私的な問題に悩みネカフェ通いを楽しみにしていた私は、
様々な動画に感動し、『古代の宇宙人』説による暗めの小説を書きました。
しかし動画の素晴らしい芸術性ゆえか、どんどん話が建設的になり、
とうとう社会に役立つ(と思う)文明論まで考えることができました。

ご興味がおありの方は『Lucifer』シリーズの他作品や、
『文明の星』シリーズのエッセイもご覧いただけましたら幸いです。


イシュタル

1 戦況

 

 

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〝新帝国〟の艦隊司令官は、長い黒髪が美しい、ひたむきな眼差(まなざ)しの少女だった。

 

「前回の定期訪問の後、旧帝国軍残党からの攻撃により、新政府からの連絡がしばらく中断したことにつき、私はここに遺憾の意を表します」

 

銀色に輝く優美な形の大宇宙船が数隻公海上に浮かび、全世界に向けて声明を放送している。地球政府代表団の随行員として、私は旗艦の広い会見室で彼女の声を聞いていた。

 

「今回の訪問に伴う情報提供でお知らせしたように、旧帝国の残党を率いる〝中枢種族〟は、私達新帝国の〝理事種族〟と同じく〝心結びしもの〟であり、高度の戦力と技術力を持っています。すなわち、種族を構成する全個体の精神を量子頭脳に移して結び、〝種族融合体〟を形成した最先進種族です」

 

いま銀河系は、多数の異星種族からなる〝新帝国〟と〝旧帝国〟の内戦状態にある。

 

「種族融合体においては、個々の人格は保たれますが、意思疎通が遥かに緊密化し、迅速広範な情報共有と高度演算、政策決定の能力を得るので、種族全体が星間国家の役職を務められます。また、必要に応じて人格群が様々な量子頭脳や人工体に移動し、〝分離体〟や〝分離個体〟として活動することも可能です。さらに、各人格は内部の仮想空間で多様な生活を送り、その安全な模擬実験(シミュレーション)の結果は現実活動の改善にも活かせるのです」

 

開戦当時は世界政府も持たなかった人類は、本来なら公式な接触さえできなかった。しかし戦争の勃発で予定が早まり、後者に加わることになったのだ。

 

「中枢種族は従来使われてきた亜空間航法に対し、より高次の空間を経由する、超空間航法ともいうべき新技術を開発しました。彼女達はこれにより、配下の種族を伴って銀河系からアンドロメダ銀河に逃亡した後に、現地の有力な種族達を征服しました。そして、私達が銀河系の再建に努めている間に艦隊を新造し、散発的ながらも組織的な反撃を加えて来たのです。この航法は、さながら車両技術に対する航空技術のように高速で、星間物質の希薄な銀河間宇宙の航行も可能ですが、発着宙域と航法精度に制約があります。この弱点を知った私達は、出現後の敵艦隊による目標の探索と襲撃を阻止するために、通信・交通を制限せざるを得ませんでした」

 

理事種族は多くの場合、愛らしい少女の姿で現れる。相手種族に威圧的な印象を与えないよう、その基本的な遺伝子型を持つ性別の、魅力的な若年個体の形態を選ぶそうだ。

 

「我が艦隊は敵を撃退できても本拠地までは追撃できず、帝国各所は多大な被害を受けました。しかし、新帝国でもすでに超空間を経由した通信・移動手段を開発中であり、先頃その実用化と前後して、アンドロメダ銀河の抵抗運動から、超空間通信による情報提供と救援依頼を受けました。それによると、旧帝国の逃亡政権は同銀河中央部の制圧に成功したものの、強権統治の失敗を繰り返し、先住諸種族のみならず科学長官ラジエルや文明開発長官レミエル、親衛軍提督ラグエルの離反をも招いたものと判明しました。また、技術的な情報提供により早期に発進できた先遣艦隊の報告から、同銀河の速やかな平定は確実視されるようになったのです」

 

新帝国の理事種族は悪魔や古代神の名を持ち、旧帝国の中枢種族は天使の名を持っている。ただし本当の神や悪魔、天使ではない。

 

現皇帝種族の〝光輝帝(ルシファー)〟サタンはかつて文明開発長官を務め、〝知恵の光を運ぶ者〟という意味でその別名を得た。彼女は初め、自身と友好種族が神を演じる神話によって、当時の人類など発展途上種族の文明化を助けた。次に、善悪二元論による一神教が初期文明の支援に有効と分かると、将来のことも考えて、〝先帝〟種族に似た厳しい善神が、自らの名をもつ魔王に打ち勝つ神話を用いるようになった。しかし、心優しい忠臣サタンのこの配慮が、後に裏目に出た。

 

おりしも銀河系統一が完成し、拡大の限界に達した旧帝国では、側近団をなす中枢種族などの軍事種族が腐敗と抗争に陥り始めていた。彼女達は〝先帝〟種族を傀儡(かいらい)化したあげく、遂には内戦を始めてしまい、これに巻き込まれた〝先帝〟は消息不明、帝国も崩壊の危機を迎えてしまった。

 

そこで、すでに発展しつつあった産業・技術種族や穏健派の軍事種族は、行政種族サタンを中心に新帝国を設立し、平和と復興をめざした。しかし途上星域の神話で、自分達の名前が異教の神や悪魔についていたことが災いし、支持獲得に余分な苦労が必要になったというわけだ。

 

ちなみにサタンの基本個体は、可愛い猫と蝙蝠(こうもり)の合いの子のような姿をしている。そんな容姿に慎重な性格も反映してか、人類型の分離個体(ヒューマノイド・アバター)を使う時には、可憐で繊細そうな少女の姿をとることが多い。

 

 

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2 理事種族ベールの意見

 

「もとより旧帝国では私達は反乱軍とされ、闇の帝国とさえ呼ばれていることは、捕虜の情報から周知の事実です。また新帝国でも、旧帝国側種族に対し、厳格な処断を下すべきだとの意見は少なくありません。例を挙げれば、旧帝国時代から引き続き銀河系外周星域長官の職に在る、〝辺境王〟ベールがその筆頭でしょう」

 

 

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司令官の隣には、母性的で優しい微笑みを浮かべる、魅惑的な女性の映像が現れた。今後の映像体や分離個体を決める前の、試行的な方法だろう。彼女の本体は、木星のような巨大気体惑星(ガス・ジャイアント)に浮かぶ浮遊大陸だ。液化気体に浮かぶ藻類が集まって生命圏を形成し、そこで進化した多数の生物種に共有神経網を提供して生まれた、天然の種族融合体といえる。

 

「彼女は永きに渡り、他星域の種族とは基盤元素も文明様式も大きく異なる外周星域諸種族の指導者として、その発展に尽力してきました。また、今回の大戦では両陣営の戦力が拮抗(きっこう)する段階において、道義的理由から私達の陣営に参加してくれました。これは旧帝国の過酷な政策方針からして、敗北時には関係種族絶滅の危険を伴う勇断でしたが、彼女はその人望から外周種族の圧倒的な支持・協力を獲得し、新帝国の勝利に貢献しました。しかし他方では、中枢種族ガルガリエルを中心とした旧帝国軍により同胞種族が甚大な被害を受けたため、戦後処理については旧帝国側の全指導的種族への厳罰を求めて譲らない状況です」

 

外周種族は、かつて旧帝国との戦争に敗れて併合され、以後も発展を制限され続けてきた。しかし新帝国系種族との交流により、技術革新と経済発展が進み、その政策もいわば情愛深い専制統治から、自由で民主的なものに移行しつつある。今回の強硬な意見には、新帝国の駆け引きに協力した面もありそうだ。

 

 

3 理事種族バールゼブルの意見

 

「旧皇帝領復興開発長官バールゼブルもまた、厳しい意見を持っています。彼女は大戦勃発時、皇帝親衛軍の提督でしたが、先帝を守護し、その真意を確認するため、独断で皇帝直轄領に進入しました。しかし、超空間駆動を装備する中枢種族ゾフィエルの秘匿艦隊から、反乱軍と断定され、超新星化攻撃を含む奇襲を受けました。彼女は自艦隊と皇帝領の全滅を阻止すべく、機転によって自らもやむを得ず複数の恒星を先行破壊し、重力場の攪乱(かくらん)による超空間離脱点の変動を利用して、辛くも敵艦隊の撃破に成功しました。しかし、この戦闘では多数の臣民が巻き込まれて犠牲となり、他種族間での戦闘もあいまって、皇帝領の大半が不可住宙域となってしまいました」

 

 

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バールゼブルは小柄だが気品があり、育ちの良さそうな少女の姿をしていた。彼女は王族・女官・労働者からなる生物学的階層社会を築く、蜜蜂に似た社会性昆虫から進化した種族だ。かつてはその冷酷非情さと、〝アバドン〟と呼ばれる群知能(ぐんちのう)兵器を駆使した戦術で恐れられる軍事種族だった。しかし彼女もまた、量子頭脳への人格移転(マインドアップローディング)を機に、民主的で平和的な種族に生まれ変わっている。これは中枢種族の専制化が、人格群への権限配分の偏りと固定化にあるとみたサタンが、処置を担当する友好種族ストラスに助言して、改善を図ったことによる。

 

「戦後彼女は自ら現在の地位を希望して、〝地獄王〟の異名を甘受しつつ星域の復興に尽力しました。彼女はまた大戦の真相を究明すべく、技術部門副長官アミーと情報部門副長官グラシャラボラスの良き補佐を得て、旧帝国遺物の回収と分析に努めました。特に最近の業績としては、星域内で〝先帝〟のものと思われる記憶組織の破片が発見され、そこには中枢種族による途上種族への重罪を構成する、多数の発展歪曲・対立煽動工作が記されていました。この事実は旧体制下における歴史的犯罪と、証拠隠滅工作を含む内紛による先帝の崩御または重大な損傷を推認させるものであり、これにより彼女もまた、旧帝国の責任ある種族に対する厳正な処罰、あるいは修復・再生の放棄を求める意見を有するに至ったのです」

 

かつては命令と本能で動くだけの個体を数多く抱え、政治的には下級種族と見られていたことや、人格量子化後の不調を名目に親衛軍の第一線から外れていたことから、彼女の変心は広く知られることはなかった。しかし、以後の発展を考えると彼女にも、交渉のために強硬派を演じている部分があるのだろう。

 

 

4 理事種族アモンの意見

 

「しかしまた、帝国内には穏健な意見も数多く存在することを、忘れてはなりません。現在、帝国本土防衛司令官である〝強健侯〟アモンは、かつて現皇帝の軍事部門副官でしたが、大戦初期に最愛の友好種族カイムと戦う悲運に見舞われました。両者は同じ赤色巨星のもとで進化を遂げた姉妹種族であり、永く紛争を続けていましたが、(たゆ)まぬ努力の末にようやく和解を達成しました。彼女達は帝国加入を認められ、以後は協力して発展の道を歩んだ結果、最先進種族となって軍高官の地位を得ました。しかし、中枢種族バラキエルからサタン殺害を命じる(にせ)の皇帝勅命を受けたアモンが、異議を唱えて再確認を求めた時、その討伐に派遣されたのはカイムだったのです」

 

「帝国の処断を恐れたカイムは一切の通信を断ち、その可動母星ごと奇襲をかけてきました。アモンはあらゆる交信手段を通じて停戦を求め、遂には絶望的な努力として、自らの光線(ビーム)兵器の出力を下げ、かつて共にした母なる恒星の色彩波長に合わせて発信しました。結局、彼女は攻撃を制止できず、やむなくカイムの惑星を破壊したのですが、後にカイムも、相手を完全には破壊しないよう攻撃を制限していたことが判明しました。アモンは平素、任務においては私情を交えず、凶悪な犯罪種族や組織に対しても敢然と職務を遂行する一方、社交においては彩り豊かな感情に溢れた種族です。しかし、救援に到着した我が艦隊に勝利を告げた彼女の通信は、一大種族の集合意識と思えぬ暗黒の悲嘆と、漂白されたかのような虚脱を示していました」

 

「幸いにも、後にカイムの修復可能な破片が発見された時、現皇帝はアモンとの一時的融合と、失われた情報の収集・復元によるその再生を勧め、アモンも喜んでそれに従いました。かかる温情は旧帝国では考えられないものだったので、アモンと同様、彼女の内部で復活したカイムの人格もまた、新皇帝への支持を誓いました。アモンの精神は生彩を取り戻し、その士気・能力と共に、旧帝国への変革を求める意欲は劇的に高まりました。しかしアモンは、そうした苦難を経てもなお、逃亡政権種族の討滅や文明剥奪等の過酷な処分は望まず、むしろ相手方の自暴自棄により、さらに同胞相討つ悲劇が繰り返されることを恐れ、戒めています」

 

アモンは(ふくろう)、カイムは多数の触手を持つ蛇のような基本個体を持ち、共通個体は人類から見れば悪夢のような姿だ。しかし、両者の悲劇は多くの種族に参戦をためらわせ、新個体は両種族の情愛と新帝国の平和を示す象徴になった。人間型の映像としては、男の子のような短髪の、健康的で実直そうな少女が映し出されている。

 

 

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5 理事種族アスタロトの意見

 

「アモンの悲劇には及びませんが、後に戦闘が激化した際、私も同様の哀しみを経験しました。それは、私の艦隊が中心星域で転戦し、旧帝国派の勢力を引き付ける間に、現皇帝が途上・外周星域に赴いて協力を求めるため、別れの挨拶を交わした時のことです。もし一方が破壊され、他方がその残骸を回収した場合には、アモンと同様に融合と再生を図ることを約束し、私達は各々の目的地へ進発したのです」

 

「しかし、これもまた幸いなことに、現皇帝の誠実な告知と謝罪を受けた途上星域の諸種族は〝強健侯〟に協力して健闘しました。〝辺境王〟と指揮下の外周星域種族も〝光輝帝〟の智略と〝熱情王〟の政略に支えられ、勇戦しました。彼女達の努力は、正当性を失った旧帝国軍の士気喪失ともあいまって、現皇帝の命を救い、両星域の戦況を優位に保ちました」

 

「一方で私の艦隊もまた、旧皇帝領におけるバールゼブル艦隊の活躍と、中枢種族の分裂による混乱に助けられ、旧帝国戦力の外周方面への進出を防ぎ、さらには懸命な説得により、その大半を新帝国に帰順させることに成功しました。旧帝国の激烈な内紛と非人道的戦略により、多くの宙域が荒廃したことを考えると、新たな帝国の(いしずえ)となる星域を守り抜けたことは、誠に不幸中の幸いでありました。ゆえに私もまた、今後さらにそのような悲劇的事態を繰り返すことは、本意ではありません」

 

〝正義公〟アスタロトは渡り鳥から進化した種族で、自由と平等を尊ぶ生真面目な種族だ。実はその性格が災いして、旧帝国時代には中枢種族の罠にかかり、治安任務の遂行中に、母星が荒廃するほどの被害を受けている。そのため当時、彼女の資質を惜しんで復興に協力し、艦隊司令官の地位にまで導いたサタンに対しては、絶大な信頼と忠誠を抱いている。

 

 

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6 理事種族アスモデウス及びグラシャラボラス、アドラメレクの意見

 

「現皇帝が文明開発長官であった時代に民政部門の副長官を務め、新帝国設立時には同長官、中心・途上星域が合併し中央星域となった今では、遠征艦隊の民政部門副司令官を務めるアスモデウスもまた、報復政策を望みません。〝熱情王〟の別名を持つ彼女を動かすものは、憎悪や復讐心ではありません。帝国の文明支援事業が悪用されることなく、真に銀河系全体の発展に貢献してほしいと願う、現皇帝と共に抱く理想と情熱なのです」

 

この紹介は少ないが、重要だ。なぜならアスモデウスはサタンの最側近であり、その政策の実現に不可欠な、様々な種族の健康・教育や融和を支える生体情報産業種族だからだ。色鮮やかな金属箔の装飾をつけた爬虫類のような基本個体は一見恐ろしいが、長い寿命と高度な知性ゆえに、命を尊び、交渉熱心で人道的・平和的な種族だ。投影像には、髪に可愛いリボンを結んだ、快活そうな少女の姿が現れた。

 

 

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「かかる心情は、バールゼブルの情報部門副司令官として、豊かな感情表現で彼女の対外交渉を支えたグラシャラボラスや、ベールの技術・情報部門の副長官を兼務して、外周星域の平和的発展に寄与したアドラメレクという、彼女の友好種族でも同様でありましょう。彼女達はいずれも、戦後処理に関しては、報復よりも戦災の拡大・再発防止を重視すべしとの意見を表明しています」

 

グラシャラボラスは有翼の犬のような基本個体の種族だ。好戦的な近隣種族達の中で、唯一防御戦略を採用して生き残り、親衛軍に選ばれたが、本当は平穏で豊かな生活に憧れる種族だった。アドラメレクは金色の鳥のような天才肌の種族と、褐色のラバに似た質実剛健な種族からなる混成種族で、異種族理解による外交政策の第一人者と言われる。共通個体は虹色の光沢を帯び、二本の腕を持つペガサスのような姿だ。彼女達もまた、新帝国と親衛軍や外周星域の仲立ちに最適任の種族だろう。両者の姿は、二つ結び(ツインテール)の純真そうな少女と、金と茶の髪色をした利発そうな少女として映し出された。

 

 

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7 理事種族ストラスの意見

 

「旧帝国時代からの科学長官〝賢明王〟ストラスもまた、同意見です。かつて現皇帝が、開発途上星域で数々の不審事件を発見した時、彼女の依頼でその分析を行ったのがストラスです。彼女は従来、政治的中立を以て知られ、〝帝国よりも科学に忠実な者〟と評された種族です。しかし同時に〝科学は全ての知的種族の幸福のためにある〟を信条とし、主として中枢種族が技術と権益を独占する旧帝国の組織風土に対して、密かに疑問を抱き続けていました」

 

ストラスは極寒の大型岩石惑星で、超流動・超電導などの極限物性により生まれた結晶生命体であり、緑色に輝きながら惑星全体を網状に覆う単一個体種族だ。彼女は外周種族と同様、中央星域の大多数を占める酸素・炭素系の個体群種族とは異質な種族だが、人格量子化技術の普及でその違いは意味を失いつつある。実は人格量子化技術自体も、外周種族との戦争で劣勢にあった旧帝国が、ストラスを生きた計算機兼実験台として開発し、辛勝を得たものなのだ。そうした経緯から彼女も、いかに戦争の苦難や悲劇を防ぐかを考え続けてきた種族である。

 

「彼女は、多くの途上文明が惑星政府を樹立し、自然環境の保全、社会環境の制御、人道的な資質向上や惑星外進出の能力を実証して、帝国との交流資格を得たにも関わらず、これを許可されなかったことを確認しました。彼女はまた、特に有望な文明に対しては腐敗と衆愚化への誘導、危険な軍事技術の供与や要人暗殺等の、意図的な干渉が外部から行われていたことを発見しました。加えて彼女は、これらの妨害・破壊工作が単なる犯罪組織・種族ではなく、他ならぬ帝国の中枢部で立案されたことを見抜きました。さらに、干渉から生じた凄惨な種族内・種族間闘争に生き残った〝優秀〟な戦闘種族は、いずれもその後に帝国の支援を受け、親衛軍・正規軍や有力種族の私兵軍に編入されていた事実を解明したのです」

 

「彼女は以後予想される事態に対処すべく、分析結果を現皇帝に通知すると共に、帝国が道を誤った時は協力して正す旨の盟約を結び、大戦時にはこれに従って新帝国の設立に参加しました。また彼女は、親衛軍と正規軍の穏健派司令官、すなわちバールゼブルと私の副司令官として、自らの副長官だったアミー及びヴォラクを派遣することに成功し、新帝国の勝利に多大なる貢献を果たしました」

 

「しかしその彼女も『新帝国の存立目的は、報復や制裁それ自体ではなく、全ての知的種族の繁栄と幸福である。ゆえに中枢種族の討滅よりも、科学的な分析と修復・矯正によって悲劇の反復を防止すべきである』という意見を述べています」

 

司令官の隣には、古風な眼鏡をかけた賢そうな少女の姿が映し出された。ここらへんの〝変換〟感覚は、面白い。

 

 

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8 理事種族アミー及びヴォラクの意見

 

「アミーとヴォラクは双子種族です。帝国では種族間の均衡を保つべく、量子人格種族の複製増殖は禁じられています。しかし、彼女達の前身種族ウォフ・マナフは、時に奇抜ながら独創的な才能を発揮し、途上種族の発展に大きく寄与しました。そこで彼女の複製実験が帝国議会に提案され、好奇旺盛な彼女もそれを了承しました。しかしその後の検証期間中、アミーは〝未来あるもの〟への参政権付与を主張して中枢種族から激烈な非難を受け、ヴォラクはその革新的艦隊機動案の欠陥により演習を大混乱に陥れ、いずれも他に特段の業績を挙げませんでした。そのため両種族は科学省の預かりとなり、長官ストラスの情報・民生部門の副長官に就任しました」

 

「しかし、両名のさらなる一部複製体と融合したストラスが、その膨大な種族的記憶を暗号鍵とする秘話通信回線を構築し、かつ帝国最高の賢者と称されたストラスの知力にアミーとヴォラクの創造性が加わって、一個の超高性能な並列演算装置の能力を得た事実を知る者は、当時いませんでした。彼女達は大戦で、その能力を大いに発揮しました。〝皇帝領の戦い〟で、敵艦隊の超空間跳躍の法則性を算出し、次なる予測出現位置にバールゼブル艦隊を誘導して、更なる虐殺行為を阻止すべくこれを撃破したのはアミーです。その他の中心星域の戦いでも、旧帝国派や分離派の諸侯・軍司令官に対し、我が艦隊に完璧な包囲陣形を形成させ、最小限の犠牲で彼女達を降伏させたのはヴォラクです。これらの事実を知った銀河系諸種族は、旧帝国時代における彼女達の真意を察するに至りました」

 

「戦後の調査によれば、そもそも複製実験が行われた真の理由は、先帝を(よう)する中枢種族が、超空間航法の開発と平行して強力な戦闘種族を量産し、銀河系での覇権を維持すると共に、直近のアンドロメダ銀河への侵略を図ったためと判明しました。そうした経緯で誕生したアミーとヴォラクの活躍が旧帝国敗退の一因となったことは、歴史の皮肉だと評する者もあります。しかし両名が元より有する才気と良心は、彼女達が〝光輝帝〟と共に抱く〝全種族のための文明発展〟という理念のもとでのみ、発揮できるものでしょう。また彼女達は〝賢明王〟の姉妹種族として、その合理的思考も共有する種族です。ゆえに、両者の戦後処理への意見もストラスと同様であることは、言うまでもありません」

 

両種族の前身ウォフ・マナフは、高い知性と強靭な身体をもつ、アザラシに似た種族だった。二人の分離個体は、悪戯っぽい笑みを浮かべたお転婆そうな双子の少女だ。お下げの髪や髪飾りの、左右の違いで区別をしているようだ。

 

 

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9 説明の理由

 

 

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「今回、私が以上のとおり銀河系とアンドロメダ銀河の現況について説明した理由には、次の三点があります。第一に、人類の皆様にも、今回の遠征艦隊に同行していただく、戦闘及び戦後処理に関する視察団の派遣を要請するためです。銀河系の中心部が荒廃し、かつアンドロメダ銀河の統治も継承すべき現在の帝国にあって、旧開発途上星域の〝未来あるもの〟達による、新帝国政策への理解と支持は不可欠です」

 

「第二に、今後予定される帝国の民主化に向けて、基礎的な情報を提供するためです。従来帝国では、先進種族〝歴史あるもの〟の一部にしか選挙権と被選挙権が与えられませんでした。しかし、先の帝国議会において、しかるべき情報処理技術の支援のもとに、責任ある種族的意思決定をなし得る種族には順次、各種の政治的権利を認める法案が可決されました。この改正は科学・技術の進歩に伴う、経済・社会活動の拡大、省力化と複雑加速化に応じた、制度・政策の広域化と分権化、特に民主化の同時進行という、文明発展の法則に基づく必然の改革です。こうした事実は、今や民主的な統一政府樹立を成し遂げた人類の皆様にも、もはや自明の(ことわり)でありましょう。現皇帝もこの理に従い、理事種族や議員種族だけでなく、他の賢明なる諸種族の意見も取り入れながら、国策を決定する方針を発表しました」

 

 

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「第三に、今なお皆様の間に残っているかも知れぬ、旧帝国系種族への憎悪や恐怖、偏見の解消を要請するためです。今日では超空間通信・航行技術及び超新星兵器の実用化によって、二大銀河の統一は実現が可能、かつ必須の課題となっています。人類と帝国の正式な接触の契機が今回の大戦となり、またその影響から地球でも痛ましい内戦が生じたことは、誠に悲しむべき事実です。しかし今や、皆様もまた過去の遺恨を捨て、巨大な星間社会への参加に対する迷いを払い、他種族と未来への展望を共にして、新たな一歩を踏み出す時を迎えました」

 

「私は現皇帝が文明開発長官であった時代、アモンの前任の軍事部門副長官として、イシュタルやアスタルテの名で地球を支援させていただきました。本日こうして再び懐かしき地球を訪れ、人類の目覚ましい発展を拝見して、感慨無量です。今後は皆様が、新帝国の実力と正当性への信頼のもとで、来たるべき社会の変化に対して一体性を保ちつつ、両銀河を中心とする素晴らしき新世界の建設に参加されるよう、ここに私、帝国艦隊司令長官兼アンドロメダ銀河遠征艦隊司令官アスタロトは切に願うものです」

 

ここでは語られていないことが、三つある。第一に、残念ながら抵抗運動の三種族は、停戦交渉時の騙し討ちにあって壊滅した。直前に報告があったので、演説内容が修正できなかったようだ。このことは、状況がなおも予断を許さないことを示している。

 

第二に、ラジエルの私兵軍司令官ゴモリーと、アンドロメダ銀河の中心的な先住種族マルコシアスは善戦しており、戦勝の暁には理事種族となるだろう。大型の猛禽類から進化した種族と、グラシャラボラスよりも精悍な外見をした、有翼の狼のような種族だ。事前に見せられた彼女達の未使用画像は、どこか神秘的で凛々しい佇まいの少女と、褐色の肌をした活発そうな少女だった。

 

 

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第三に、実はサタンは〝先帝〟種族から多数の移民を受け入れ、事実上の混成種族となっている。〝先帝〟内の良識派が、腐敗した中枢種族を淘汰して新体制を作るため、サタンを依代(よりしろ)にしたという噂もあるが、このことはむしろ、新帝国政権への信頼を高めているようだ。

 

 

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いずれにしても今後、私達人類はさらなる変動を経験することになる。それを大きな飛躍につなげられるよう、願ってやまない。



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