G1目指して頑張ります   作:あかし/さんさい

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11 実力の差

 シンボリルドルフとの間に交わした約束から少し日を置いて。

 ついに合同トレーニングの初日がやってきた。

 

「それじゃあ、よろしく頼むよスタートワン」

「はい。と言っても、今までと変わるかと言われればそこまでですけどね」

「ふふっ、そうだな」

 

 併走自体は以前から行ってきていたので、二人並んでコースに来るのは新鮮でも何でもない。せいぜいこれまでと違うのは私達の走る様子に以前より多くの観客が出来た事と。

 

「ルドルフ、今日のメニューだ」

「ああ、ありがとう」

「スタートワン、お前もちゃんと確認しろ」

「了解です」

 

 私達にトレーナーが居る事だ。一方は服装を正し落ち着き払った優しそうな男性で、もう一方はやや厳つく服装もラフに着こなしている。

 

 二人は走る私達にあれこれと指示を飛ばしながら、互いにトレーニングの様子について議論も交わしている。先日会ったにしては、随分打ち解けるのが早いようだ。

 

 毎回のように差をつけられながら、それでも息も絶え絶えにシンボリルドルフと走っているのだが、どうしても話し合っている二人の様子が気になってしまう。

 もしかしてあの二人、結構付き合いが長いのか?

 

「トレーナーさん達、随分仲が良いんですね」

「うん? ああ、確かトレーナー君と君のトレーナーは、同期で面識深い仲だそうだ」

「え、そうなんですか?」

「聞いていないのかい?」

 

 いやまあ、どっちも比較的年が若い方だし、初対面にしてはやけに会話がするすると進んでいる感じはあったけど。

 

「私に対してもあんな感じだったので、てっきりそういう人なんだと」

「そ、そうか。もう気安い関係になったのかと思っていたが……」

「やっぱりあれ、ちょっとは矯正した方がいいですよね」

「…お、お手柔らかにしてやってくれ?」

 

 口調を変えさせるか、或いはあのまま丁寧な人だと思わせる素振りを身に着けさせるとか……。色々とやり方はありそうだ。

 

「スタートワン! 手ェ抜くな!」

「あっ…、もう、分かりましたっ!」

「ふふっ、あまり現を抜かしていると、私を追い抜けないぞ? はぁっ!」

「っ、その余裕、今から無くしてあげますッ!」

 

 いけないいけない、今の予定はこっちだ!

 

 

「うん、良い調子だ。このまま全体のバランスを整えながら、スピードとスタミナの増強に努めよう」

「ああ、分かったよ」

「全体的に足んねェが、今はパワーだな。スパートの時に末脚を意識しろ、足全体の筋肉を使い尽くせ。んで……、聞こえてるか?」

「……いちおう……」

 

 聞こえてはいるが、声と言うより若干音になりかけている。膝に手をついて何とか倒れずに済んでいるが、息は保たないし、シンボリルドルフは圧勝していくし、ついでにトレーナーの指摘は辛辣だし。

 

「大丈夫かスタートワン?」

「もちろん…。本当に……っ、強いです、ね。シンボリ、ルドルフさんはっ……」

「ふふっ、そう言ってもらえると嬉しいよ。それよりほら、私の肩を持つといい、身体に負担になっている」

「……すみません」

 

 流石に息の乱れはあるが、特に疲れた様子の無い彼女の様子に何とも言えない気持ちにさせられる。

 彼女を目標にした事に後悔は無いが、間違いではあったかも知れない。自分から苦行に突っ込んでいく事はしない方が良いなあ、まったく。

 

「……トレーナーさん、もう一本。シンボリルドルフさん、良いですか?」

「私は構わないが……」

「その前に休憩だ。今度は大差以上になるぞ」

「……了解です」

「ルドルフも、少し休んでくるといい。俺達はもう少し予定を話し合うよ」

「ああ、ありがとうトレーナー君」

 

 彼の言う通りなので素直に従う。シンボリルドルフと共に道具などを置いたベンチへと移動し、用意されたドリンクで喉を潤しながら息を整える。

 

 合同トレーニングを申し出たのは彼女だし、私はそれを受け入れた。

 しかし、選抜レースを挟んだことで改めて走ってみると嫌でも分かる。彼女の能力は少なくとも私一人でどうこう出来るようなものではない。下手すれば、同学年の全員が軍団を作って挑んでもなんの事は無く負けるだろう。

 

 それこそマルゼンスキーやミスターシービーのような、掴むべくして栄光を掴む事を許されたようなウマ娘。それが彼女なのだ。

 

 そういえば、競走馬シンボリルドルフは併走トレーニングの際、他馬を潰してしまうために数頭の馬とリレーのように区分分けして走っていたのだったか。これまで一月以上付き合っておいてなんだが、果たして、私がトレーニングを手伝う意味はあるのか。いや、そもそも彼女にトレーニングは必要なのか? 休息などのスケジュール管理を行う者は必要かも知れないが……。

 

「ふふっ……」

 

 本当に、何のために私が居るのだか。

 

「? どうしたんだ?」

「ああ、いえ。考え事を」

 

 誤魔化しながら思考を止め、しっかりと休む事に集中する。とにかく頭を使わず、どこか適当なところを見ているのが丁度……と、

 

「そういえば、随分とギャラリーが増えましたね」

「そう、だな。やはり選抜レースで注目度が上がっているのだろう。皆此方の一挙手一投足を気にしている」

「トレーナーや教官はともかく、他の皆さんも練習せず見てくるのはやっぱり変な感じがしますけれど」

「はは…。まあ、見取り稽古のようなものと思えばいいさ」

 

 乾いた笑いのシンボリルドルフ。その視線が向かう先には、練習のつもりだったのかジャージに着替えながらもこちらの様子を眺めている生徒達の群れ。元々衆目は集めていたのだけど、あの選抜レースがあったからか、その数は増え続ける一方だ。

 

 風の音に交じって聞こえてくる話し声に少しだけ耳を澄ますと、その内容の一部が聞こえてくる。

 

「子が一緒に」

「ボリ家に擦り」

「無様なす」

 

 聞こえた部分だけでも、彼女達の言葉が何を言っているのかは大体受け取れる。

 敢えて言葉を綺麗に継いでみると、

 

「なんであんな子が一緒に」

「シンボリ家に擦り寄ってる」

「無様な姿で見苦しい」

 

 恐らくはこんなところだろう。さもありなんというか、なんというか。言っているのは同級生らしい子達と、恐らく上級生達。言語として聞こえたのは少ない数だったが、下地の数は果たして十か二十か。

 

 仲が良くなってから色々と聞いた話で、彼女自身の出身や境遇についても何度か聞いたことがある。シンボリ家にメジロ家、他にも幾つかの冠名を元とする家の話も教えてもらっているので、遠巻きな声の通り、今の私は良家のご令嬢に擦り寄る馬の骨……もとい、凡骨といった感じなのだろう。

 

 どこまで人の性格が柔らかくとも、感情の機微そのものは人間とも元の世界とも変わらない。メジロパーマーやカワカミプリンセスなど、アプリですらそういう言動の出るシナリオがあったのだから……まあ、こういう意見があっても別に妙ではない。

 ウマ娘の聴覚を考えると、いくら距離があると言え少し集中すればこちらに聞こえる程度には声が出ているのだから、そのあたりはまだ子供らしくてかわいいものだ。

 

 相手をやっかむくらいなら、素直に自分も飛び入り参加して擦り寄りに行けばいいのに……っと?

 

「すまないスタートワン。少し待っていてくれないか?」

 

 あー……、しまった。私でも聞こえるんだから、そりゃあ彼女にも聞こえているよな。前にもこんな事があった気がするなあ、あの時よりも状況は悪いけれど。

 

 心此処に在らずといった様子で立ち上がる彼女の手を取り、一旦動きを止めさせる。表情こそ普段と大して変わらないが、その耳は明らかに後ろへ絞られ、尾の動きも少しばかり激しい。

 

「シンボリルドルフさん。まずは座りましょう。深呼吸ですよ」

「悪いが、私は自分の友人に対する侮辱を許す程おおらかでは無くてね」

「シンボリルドルフさん、状況を――」

「何、休憩が終わる頃には彼女達も自分の練習に励んでいるだろう」

「――シンボリルドルフさん。」

 

 張り上げない程度に声の圧を強め、もう一度名前を呼んだ。掴んだ手を伝って彼女の僅かな震えを感じ取る。

 

「改めて、もう一度言いますね。落ち着いてベンチに座り、深呼吸をしましょう。いいですね?」

「……わかった」

「なら、よし」

 

 シンボリルドルフが座り直すのを見てから手を離し、その胸がちゃんと上下している事を確認する。

 十秒ほどして、彼女は少し耳を下げながら此方を見た。

 

「すまないスタートワン。少し熱くなった」

「構いませんよ。あなたが私を友人と呼んでくれた事、嬉しいです」

「そうか。君が良いのなら何時でも言うつもりだが」

「大丈夫ですよ。そこまで高望みはしません」

 

 アプリ版などではまず見られなかった同年代の親しい相手という枠に私が入れているという事は、身近に親しく出来る人が欲しいという彼女の望んだものの一つを叶えられたという事でもある。

 これからの事は分からないが、少なくとも私がこの学園に居る限りはその役目を全うしよう。

 

 しかし、その継続にはこの状況は少し良くないな。これではシンボリルドルフが気に入った相手を贔屓しているという視点を持たれかねない。それは流石に今後の生徒会の活動を考えると支障が出かねないし、私だけがその恩恵に肖っているように見られて、また要らぬ陰口を叩かれても面倒だ。

 「シンボリ家」「新入生代表」「生徒会所属」「来年の顔」……。良くも悪くも「シンボリルドルフ」というネームバリューの持つ影響を思い知らされるな。

 

「ふむ……」

「どうしたんだ?」

 

 彼女の返答には答えず、手で少し待ってほしいと伝える。

 

 さて、少し頭を捻ろう。私達の評価を落とさず、且つ練習の効果を落とさずに、更には私が彼女と走る事を観客に納得させる事が出来る方法。

 あわよくば今後のいけ……あー、おっほん。予定が合わなかった時、私と彼女の併走をしてくれる相手も用意しておきたい。上手くいけば、彼女の新しい友人を作る事にも成功するだろう。

 

 となると、思いつく案は多くないのだけど……。

 

「おーい、二人ともー!」

「休憩終わりだ! さっさと戻ってこい!」

「ん、もうそんな頃か」

「みたいですね。丁度いい」

「……ちょうどいい?」

 

 生返事のシンボリルドルフに、にやりと笑みを返す。気分的には悪戯を思いついた子供のような気分だ。ミスターシービーが私にちょっかいをかける時も、こんな気分なのだろうか。

 

「少し時間がかかるので、先に行っててもらえますか? トレーナーさん達に遅れると伝えて欲しいのですが」

「何をする気なんだ?」

「と、その前に一つ。シンボリルドルフさん。併走の時間は毎回、先の選抜レースと同じくらいの走りを続けてもらえませんか?」

「……なるほど。構わないが……スタートワン」

「はい?」

 

 じっと観客の方を見つめていたのだが、そこで視線を隣へ戻す。

 シンボリルドルフは、まるで悪戯ばかりの子供に手を焼く親のような表情で私を見ていた。

 

「あまり困らせないように頼むよ?」

「我々が困っている以上、相手にも相応の困難を与えたくなるのは人の性というものです。それに」

「……それに?」

 

 顔を見られないようベンチから立ち上がり、もう一度烏合の衆を睨む。

 

「これでも私、結構大人げないんですよ」

 

 

 

 トレーナーに呼ばれて、そこから遅れること五分ほど。

 

「という事で、ここからは彼女達も併走に参加してもらう事にしました」

「…スタートワン」

「なんでしょう」

「こいつらのトレーナーから許可は取ったのか?」

「大丈夫だと思いますよ。私が聞いた時はオッケーしてくれましたから。そうですよね?」

 

 にこりと笑みを携えながら声をかける。視線の先のウマ娘達は、私の目から逃れる様に顔を背けた。

 

「……ね?」

「大嘘こくな」

「いいんですよ。どうせ私達の併走を見ているだけでしたし。それに参加者は多い方が楽しいです。ね、シンボリルドルフさん」

「まあ、確かにそうだな…?」

 

 彼女の(胡乱な笑みと一緒の)返事を受けて、トレーナーも流石に黙認せざるを得ない。あらかじめ私が何かする事を分かっていた分状況に乗ってくれた形だが、ここまでの鶴の一声だと話がしやすくて助かる。シンボリルドルフさまさま、という奴だ。

 

 さて、私がこの場へ連れてきたのは五人。三人は同学年の他のクラスの子で、私ともシンボリルドルフともあまり接点はない。残る二人は上級生、一人は以前シンボリルドルフが走った模擬レースにも出走していた事を教えてもらった。

 同学年の三人は未だに居心地悪そうに視線を彷徨わせており、上級生の一人もあまり表情は明るくない。残る一人は声をかけたわけじゃないのだけど、話を聞いていたのか自分から参加したいと乗り込んできた。それもあってか気合十分、大分入れ込んでいる。

 様子からして彼女は陰口を言っていないようだったが、参加者が増えるのは喜ばしい事なので連れてきた。

 

 手を叩いて、そんな全員の意識を整える。

 

「さてさて、そんな事よりも練習を続けましょう。私達だけでは寂しいだろうと飛び入り参加までしてくれたんです、あまり遊んでいては時間の浪費になってしまいます」

「それは、まあそうだが……」

「いいのかルドルフ? 君の予定では…」

「大丈夫だトレーナー君。せっかくの好意、無碍にしてはいけない」

 

 にこりと微笑む彼女にトレーナーも言い返せない。私の策とは別に、シンボリルドルフの方も乗り気ではあるようだ。

 トレーニングは基本一人、一緒に走るときも私以外は先輩、今回だって二人だけともなると、こうして他の人と走れるというのは願ってもない事なのだろう。

 怪訝そう、というよりも最早怪しんでいるトレーナー二人を置いておき、私達七人は併走の為移動を始めた。

 

「あのさ」

「……? なんですか?」

 

 ふと声を掛けられ振り向くと、同学年の三人が何とも言えない目で私を見ていた。

 三人の内、一人が代表として口を開く。

 

「あんた、何考えてんの?」

「はて、私は一緒に走ってくれる相手を募集しただけですので、何を考えていると言われましても」

「ふざけないでよ。あんた、私達が言ってたこと聞こえてたんでしょ」

「それが?」

「……は?」

「それがこの練習と一体どう繋がるんですか?」

 

 表情の固まった三人に、にこりと笑いかける。

 

 自分の事を悪く言われて、怒らない人間は基本的にいないし、私はそういう聖人のような人格者でもない。

 さあ、どこまでも悪辣にいこうか。

 

「いいじゃないですか。シンボリルドルフさんと一緒に走りたかったんでしょう? ついでに私より強い事も証明出来る。ふふ、彼女風に言うのなら、一石二鳥ですね」

「何、言って」

「何を怖がるのです? かのシンボリ家に擦り寄る羽虫を叩き落とせるチャンスですよ。しかもここで良い印象を与えられれば、今度は自分がお近づきになれる。ここでその機会を失うのは致命的じゃないですか。それとも」

 

 ぐっと代表の一人に顔を近付け、じっとその目を見つめる。

 

「まさか、動けもしない自分がその立場になれない事に嫉妬していたとか、そんな事は言いませんよね?」

「……ッ!?」

「スタートワン、遅いぞ!」

「おっと、トレーナーさんに呼ばれてしまいました。ふふ、折角の絶好のタイミング。お互いに頑張りましょうね。色々と」

 

 そういって彼女達に背を向け駆け足で進む。呆然としたままの三人は、その場に突っ立ったままだった。

 

 休憩中に聞こえた陰口に対して私が取った行動は、シンプルである以上に効果的な事。

 この併走に参加させればいいのだ。どうせ自分の鍛錬も放って間抜けに様子を見ているだけの観衆。今日の予定ついでにいい経験も出来て、先に言った通り、一石二鳥だろう。

 

 私と彼女の交流は単なる偶然がとんとん拍子に関係を結ぶものへと変わっていったものだ。その偶然が重ならなければ、今頃彼女と私は赤の他人も同然の状態のままだっただろう。それに不満を漏らす者が現れても何もおかしくはない。

 だからこうして同じ偶然を発生させ、彼女達の前に手を伸ばした。平等の権利を与えた以上、それを掴むか弾くかは彼女達次第だ。

 

 トレーナーの隣まで行くと、彼は一瞬後ろへ視線を向けて、それから私を見た。

 

「何してたか知らねえが、一応同級生だろ」

「ええ。ですが自分の望みに全力も出せない、中途半端な子達です」

「厳しい奴だな」

「あら、担当にして嫌になりましたか?」

「バカ言え。まだ一月も経ってねえだろ」

 

 

 早速併走を開始。私の隣を走るシンボリルドルフと、少し先を往く先輩の二人、陰口の三人は私達から少し遅れた位置を追走している。普通に横に並べばいいものを、なぜかレースのような位置取りで走っている。

 

「いいのかスタートワン?」

 

 不意に心配そうなシンボリルドルフが問いかけてくる。

 

「何を心配しているんですか?」

「選抜レースのように走る事は構わない。しかし、君は……」

 

 ……ああ、そういう事か。口を濁さなくても、素直に「ぶっ倒れないか」と聞いてくれていいのに。

 

「問題ありませんよ、翌日には普通に生活していましたよね? あの時言ったように、放っておけば勝手に何とかなりますので、不安視される程の事ではありません」

「いや、まあ、そうだが」

「それに…そんな事を気にしていては、私に勝てませんよ…っ!」

 

 少しだけ足を速め、シンボリルドルフから一気に離れる、そのまま先輩の横をすり抜けて、先頭を取った。

 

「さあ、練習と言えど勝負は勝負! 先頭はいただきましたよ!」

「!?」

「おおっ! 言ってくれるね!」

 

 打倒ルドルフな先輩は私の発破に乗って加速、隣の先輩は少し気圧されたようで取り残される。

 一瞬だけ後ろを向き、シンボリルドルフと目を合わせる。言葉は何も言わず、代わりに意地の悪い笑みを見せつけた。

 

 気を抜いてると喰らってやる。その栄光と一緒にな。

 

「! ……ふっ、いいだろう、手は抜かないぞ!」

「そうでなければ!」

 

 言いたいことは伝わったらしく、彼女は一瞬面食らったものの、直ぐに復帰して私を追い抜かさんと走り出す。最後方の三人は、置いていかれる事を危惧して慌てて本腰を入れ出した。

 

 走り出せば後はもう流れ作業だ。それぞれが好き勝手に自分の全力で走りながら一着を目指す。走れば走るほどに息を切らし、地面に大の字で伏せながら、また併走を繰り返す。

 最初はトレーナー達もペース配分を考えろなどと指示を飛ばしてきていたが、そのうちに諦めたのか時折走り方のアドバイスを入れる程度で、二人でまたメニュー表を見ながらあれこれと議論を交わしていた。

 

 

 先頭を走る打倒先輩とシンボリルドルフ、その後ろを三人が死に物狂いに走っている。私と先輩は更に後方、互いの出方を伺いながら、一気呵成の瞬間を見極める。

 

「はあっ、はあっ、はあっ……!!」

「失礼っ!」

「くっ、負けない…っ!」

「ひえっ…!?」

「は、はやい……!?」

 

 先輩と共に必死の形相で走る彼女達の横を抜き去り、前方を追う。

 

「ルドルフ! アンタに勝利は渡さないよっ!」

「いいでしょう、ついてきてくださいねっ!」

「待てぇーっ! 勝つのは私だぁっ!」

「いいえ、私がっ、勝ちますっ!」

 

 私達の猛攻を受け、二人も一気に速度を上げる。四人で並びながら、ゴールの目印目指してスパート。最初に息が保たなかった私が脱落し、次に私と一緒に走っていた先輩、打倒先輩は残りの二十メートルほどまでは善戦していたが、ついに限界を迎えて足を緩めた。

 

「む、むりぃ…!」

「――ふ、ッ!」

 

 そんな先輩を尻目に、ただ一人ゴールまで速度を落とさずに駆け抜けたシンボリルドルフはゆっくり速度を落とすと、ふらふらになりながらゴールした私達を見て嬉しそうに笑った。

 

「ふふ、また私が最初をもらったよ」

「ふ、ふ……、みたい、ですね」

 

 年相応の華やぐ笑みを見て、私もつられてしまう。そのついでにその場にゆっくり崩れ落ち、顔を芝につけた。本当に、今日はもう動けない。

 

 いや、うん。休憩を挟んでいるといえ、軽く十回以上走ってるんだけど……どんなスタミナしてんのこの子。私諸共上級生までダウンしてるんだけど。

 二番目にゴールした先輩が、その場に座り込みながら爆笑している。

 

「いやー、はは、強すぎっしょ!? なんつースタミナしてんのさ!?」

「鍛錬は怠ってきませんでしたから。先輩も、見事な走りでした」

「あー、やめてやめてそういうの。アンタに畏まられるとこっちが参っちゃう」

「いえ、しかし」

「いいのいいの! アタシが言ってるんだから好きにしな!」

「……すまないな。そして、ありがとう」

 

 手を目の前に出されて、少し困った顔で、しかし先と変わらぬくらい嬉しそうな顔でその手を握ったシンボリルドルフ。

 

「もー、とんでもない子が来たとは思ってたけど、ここまでとはね。アタシもうかうかしてらんないや」

「ああ、互いに奮励努力し、勝利を目指そう」

「ははっ! レースに出る時は、絶対負けないかんね!」

「私も、全力で挑ませてもらうよ」

「あ、そこは手ぇ抜いてくれていいからね、私惨敗まではしたくないから」

「えっ」

 

 互いにとって桁違いの刺激になったようだ。

 

 絶対的な強者にして絶対的な孤高の存在。

 王としての姿には確かに相応しいかもしれないが。中には親しい王というのが居てもいいと私は思う。それもまた王の在り方だ。

 

 来年、再来年彼女が生徒会長になった時、その周りに善き人が集まっていると良いな。

 

「……あのさ」

「…はい?」

 

 その様子を眺めながら一人これからの事を考えていると、もう一人の先輩が寝転がる私の隣まで歩いてきた。

 彼女は少しだけ耳を下げながら、どこか気不味そうに視線を彷徨わせる。

 

「……その、ごめん。で、ありがと」

「……はて、何がどういう、意味の言葉か、わかりませんが」

「えっ」

「何がどう、ごめん、で、何が、どう、ありがとう、なんでしょうか?」

「そ、そういうのこの場面で求める!?」

「言葉にしないと、分からない、事、って、ありますよね? 言葉にすると、色々なことが、伝わりますから」

 

 継ぎ接ぎの言葉をなんとか続けながら身体を起こして、先のように意地の悪い笑みを見せてあげる。言葉にしなければ余計な事は起こらなかったのだ。それを言わないでおいたのが、私なりの優しさだ。

 

 先輩はぐっと渋面を作り、そして大きく溜息をついた後、してやられたという感情が露わになったまま苦い笑みを浮かべる。

 

「あなたの事、悪く言ってごめん。それと、色々すっきりした。ありがと」

「こちらこそ、上級生との併走は良い経験になりました。また予定が合えば、一緒に走りませんか?」

「はは、それは遠慮しとくよ。あの子はともかく、あなたと走るのが一番精神にくるから」

「……えっ?」

 

 

 

 それから、シンボリルドルフとの合同トレーニングを眺める観客は少しだけ減った。自分達の見ている相手がただ強いだけの普通の女の子だと分かって、自分の練習に集中しようと考えるようになったのだろう。それでも未だ人だかりが出来るのは、もう仕方ない事なのだとは思うのだけど。

 

 それから、本当に稀にだけど、彼女の併走相手に二人ほど上級生が付くようになった。ぽつんと一人で走っている姿を見る事が減ったのは、とても良い変化だと思う。

 

 

 尚、私の方は上級生との併走は増えなかったが、同級生と一緒に走る事が以前より減った。……なんで私が以前のシンボリルドルフに近くなってるんだ。おかしいだろう。




念のためアンチ・ヘイトタグ入れた方がいいかちょっと悩み中。個人的にはそこまでキツい表現ではないつもりなんですけども…。
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