G1目指して頑張ります   作:あかし/さんさい

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13 休息

「明日と明後日、休みとする」

「……休み、ですか」

 

 四人での併走から少し日を置いて。トレーナー室へ赴いた私は開口一番にそう言われた。

 確かに、大分全力だったあの日の後もトレーニングは続けていたし、その分体力も減っているだろう。しかし、なんとも突然だ。

 

「今日は合同トレーニングも無いので、久しぶりにあなたとだけのトレーニングだったのでは?」

「にする予定だったんだがな。お前、この間からちょっと調子崩れてんだろ」

「えっ…そうですか?」

 

 少し鼓動が跳ねたのを無理矢理抑え込んでそう言うも、彼の表情は険しい。

 

「隠し事がバレたくないのは分かる。だが、あの併走での経験が引っ掛かりになって、今のお前は走る事をセーブしつつある。そのことはわかってるな」

「……。」

「デビューも近い状況で、その精神状態じゃ話にならん。だから一旦、気持ちを切り替えさせる。簡単にゃいかねえが、まずはリフレッシュだ。いいな、レースだデビューだ、ってのから逃げるんじゃねえ、もう一度向き直るために時間を置く」

「……了解です」

「……暗い顔すんな。今日明日で完全にしろとは言ってねえ、頭整理する準備だけでもしとけってだけだ」

「…はい」

 

 頭を乱雑に撫でられた後、部屋を出て廊下を歩く。突然与えられた休みの予定など何も考えていない。何時もなら自主トレーニングとして学園外に出たり、或いは図書館で本を読んでいるのだけれど……先の言葉もあって、流石にそれらをしようという気になれない。

 

 暗い顔……か。そうもなるだろう。あの併走では、思う事が多過ぎた。

 

 

 いや、うん。色々と分かってはいたのだ、ゲーム内で実装されていたウマ娘の中でも上から数える強さの彼女達に勝つ可能性など初めからなかったことも、自分がウマ娘としてこの世界に居る以上、種族としてのルールにある程度沿っているという事も。

 

 しかし、実際にその瞬間を体験してみてからというもの、心の整理が出来ていない。セーブする事さえ疎かにして走ったあの感覚に、私自身が困惑を隠せないでいる。

 

 中庭へ出て、ベンチに座りながら周囲を眺める。行き交う生徒とトレーナーらしき男女、それに楽し気な会話の声と、時折空から鳥の鳴き声も聞こえてくる。

 

 のどかな足取りで現れたキジトラ猫にふと視線が向いた。学園に住み着いた野良だろう。

 キジトラはびくりと身を震わせて此方を凝視した後、逃げる様にその場を走り去る。

 

「……だめだな、落ち着かないと」

 

 ささくれだった気持ちが大分漏れ出しているらしい。どくどくと脈打つ胸を指先がなぞった。

 

 

 ベンチを立ち、中庭を歩く。

 

 本当は本番でも何でもないあの場所で本気になる予定は無かったのだけど、自分でも思っていた以上に気持ちのタガを外してしまっていた。

 勝てるとまでは思っていなかったが、実装されていたウマ娘の中でも有数の実力者相手と言え、あそこまで完敗すると流石に少しショックもある。

 何より、負けそうになった事に自分があれほどの反応を見せるとは。勝ちたいというウマ娘の本能によるものとしても、その事に納得が出来ていない。

 

 何故ここまで自分の中で納得が出来ていないのか。理由は一応、分かっているつもりだ。

 

 『ウマ娘』に実装されていた競走馬とは違う、元となる存在を持たないウマ娘でも。人間以上の能力を持ち、勝ちたいという本能を持つ。種族としての特徴とかつての姿の持つ力は、近しくはあれどまた別のものという事だ。

 である以上、例え元は人間だった私だってその例外になる筈がない。本気を出せば体格で優れているトレーナーだって簡単に組み伏せられるし、勝利の為に走りたいという気持ちだって最低限存在している筈。

 

 だが、その事実に、誰よりも私自身が動揺している。

 

「惨敗だけはしたくない、か……」

 

 シンボリルドルフに負けた選抜レースの時と、先日の四人でのレース。それに少し前の同級生や先輩を含めた併走もだろうか。

 あの三つの違いは私の着順だ。前者は敗北でこそあったが十二人中の二着、割合で言えば圧倒的に上位。初の合同トレーニングの時は先輩にも負けていたが、同級生三人よりは先着していた。

 これに対して四人での結果はほぼ中止同然の状態になってしまったが、途中までの流れから見て私一人が完全な最下位、三人がほぼ逼迫状態……その結果は揺らがない。

 私はあの時、完膚なきまでに叩き潰されていた。

 

 その結果を前に、私は「勝つため」……いや、違う。

 あの時の私は、「負けないため」に本気を出した。勝負の最中である盤をひっくり返し、強引に戦い()()()()をなかったことにしようと動いた。例え勝つことを中心に置いていたからだとしても、この結果は変えられない。

 

「……くそ…っ」

 

 苛立ちが口を衝いて出てくる。握り締めた手と噛み締める歯が脳に響く音を立てる。

 

 勝てなくて腹を立てただけならまだいい。勝てないから中止に追い込むなど、私は何を考えている? それはレースに挑む彼女達に対する侮辱、それどころか、シンボリルドルフを越えるという私自身の目標すら馬鹿にしている。

 実装されていたウマ娘には勝てないことくらい初めから想定していただろう。それをどうにかするためのトレーニングに意地を出してどうする。挙句トレーナーにまで気を遣わせて、要らぬ休息まで取らせてしまった。こんな惨めな姿、何の価値も無い。

 

 負けた事を潔く認めろ。認めて、それすら力にしろ。それが私の出来る事じゃないのか。

 そうしなければ、私は勝てないだろうが。

 

 

 

「――わんちゃ――。すた―――、もうっ、スタートワンちゃんっ!」

「っ!? え、あ、なっ、なんでしょう?」

 

 目の前いっぱいにウマ娘の顔が広がって思わずのけぞる。び、びっくりした…。

 誰かと思えば、選抜レース以来付き合いの増えたクラスメイト。いつの間にここに来ていたんだ?

 

「なんでしょうじゃないよ! どうしたのその手!」

「て…? 手が一体…うわっ!?」

 

 彼女に促されて視線を落とすと、手袋から赤いものが滲み出して地面に滴っている。っていうか、なんか痛い!?

 慌てて開くと、手袋の爪が当たった部分が破れ綺麗な爪痕が出来ており、そこに血が溜まっている。薄手のものだから、無理に力を込め過ぎて破れてしまったらしい。そういえば、顎もなんとなく疲労感を覚えるような……。

 

「ほら、とにかく保健室行こう!」

「え、あ、その……」

 

 クラスメイトに引っ張られながら、以前休みに言って以来の保健室へ。

 

「仕方ないわねえ。消毒するから一旦手袋取るわよ」

「わかりました…」

「ほら、あなたも治療の邪魔だから、一旦出た出た!」

「はっ、はーい!」

 

 念のためだろう、先生が私だけを部屋に残してから、手袋を取って消毒を始める。ちょっと痛むが我慢。

 

「まったく、ウマ娘なんだから、力籠めれば手袋くらい爪でも破れるわよ。しかもこんな血塗れにして……」

「す、すみません……」

 

 知らず知らずに立ち止まって、相当な力で手を握り込んでいたらしい。少し考えるのに没頭し過ぎていたようだ。爪は定期的に切っているのだけど、以前切ってから少し期間も空いている。伸ばし過ぎていたか。

 後でトレーナーがこれを知ったら怒られそうだな。……いっそこのまま隠しておくのがいいか、普段から隠しているし、二日もあれば最低限治るだろう。

 

「で? こんなになるまで気付かないで考え込んでたって、何を考えてたの?」

「それは…、その、先日色々とありまして」

「あなたが走ったっていうあの?」

「……知ってるんですか」

「上級生、しかも学園でも特に有名な二人が、デビュー前の二人相手に本気で走ったって有名になってるわよ。結局一人倒れたからレース自体が中止になったってこともね」

「…………そう、ですか」

 

 あれだけの観衆があれば情報の伝播も早いか。

 

「それで、その後あなたがここに来た記憶が私にはないのだけど」

「それは、その…。体力の消費でしかないので休めばいいだけです、あまり保健室に入り浸っても邪魔になりますので」

「学生アスリートが体調管理の為、保険医のお世話になる事は何も問題無いわ。無理して倒れて、後々実は調子が悪いなんて言われても困るでしょう?」

「…耳が痛い話ですね。ですが倒れたのは怪我ではありませんし、トレーナーさんも居ますので問題はまず起こりません。あまり気にされても、私も困ってしまいます」

 

 そう言うと、先生は顔を顰めて額に手を当てる。私だってこの場所の重要性は分かっているつもりだ。必要な時に利用するべきで、だからこそ今もこうして手の処置を任せている。

 しかし、ここはいざという時の為の保健室。一日もあれば復帰出来るような疲れの為に何度も来るのは単なる邪魔にしかならないし、そのいざという時が極力無いようにするのがトレーナーの役目。そのことが分かっているから、先生も反論出来ないのだろう。

 

 互いに沈黙している間に、消毒を済ませ掌にガーゼが留められる。

 

「とりあえず、これでひとまずは完了ね。血は治まってきてるから、念のため明日もう一度来なさい。確認するから」

「ありがとうございます」

「ええ。……何時でも待ってるわ。何かあったなら、ちゃんと来なさい」

「……はい」

 

 破れた手袋をつけ直し、保健室を後にする。予備はあるけれど、今は自宅に置いてあるので回収してこないといけない。まあ、破れているのは指先や掌部分だけで済んだので一日誤魔化す程度なら何とかなるはずだ。まだ乾いていないので少しべたつくのと、すでにガーゼが赤くなってきているのが困るので……、早めに帰る方が良いかな。今度予備を用意する時は、念のため厚手のものを買っておこう。

 というか、その前に中庭の血を何とかしないと、あれを放置して暴力沙汰でもあったのかと思われたら不味い。

 

 廊下に出ると、クラスメイトが少し離れた場所に立っている。私を待っていたようで、此方に気付いて駆け寄ってくる。

 

「スタートワンちゃん! 大丈夫だった?」

「問題ないですよ。大きな傷ではありませんから、消毒だけで済みました」

「そ、それなら良かったけど…、なんで中庭であんな事したの?」

「それはまあ、トレーナーさんにお休みをもらいまして、色々考えていまして」

「…やっぱり、あの併走の事?」

「! ……。分かりますか?」

 

 首肯に思わず息を吐く。見て直ぐ察せるくらいわかりやすかったか。

 

「…気を遣わせてしまいすみません」

「あ、謝んなくていいよ! 怪我してたら心配になるじゃん!」

「今は落ち着きましたので、心配しなくても大丈夫ですよ」

「ほんとにそうなら、あんな怖い顔したりしないよ!」

 

 極めて個人的な問題なのであまり深入りさせるのも忍びない。時間がかかるとしても、私だけでどうにか解決できるようしなければ。

 安心させるつもりでちゃんと笑いながら言ったのだが、クラスメイトは思い切り表情を暗くした。というか、私そんなに怖い顔だったのか?

 

「もう気にしていませんよ。それより、中庭に残っている血をなんとかしないといけませんから」

「そ、それはそうだけど……」

「とにかく、私はここで。先ほどはありがとうございました」

「え、あ……。まっ、まってっ」

 

 呼び留められ、振り向く。クラスメイトは少しだけ視線を落として、私と目が合わないようにしていた。

 

「私も行く」

「…特に面白い事なんてしませんよ?」

「そ、それでいいから」

「…まあ、あなたがいいのなら」

 

 不思議な反応を見せるクラスメイトに内心どうしたのかと思いながらも、気にしても仕方ないと移動を再開する。途中の自動販売機で水を購入し中庭へ。

 もったいないとは思うがボトルの水を使って血の跡を誤魔化す。地面に出来た血溜まりは思ったより大きかったが、ボトルの水の大半で薄めると後は何とかなりそうな状態になった。残ったのは一口分だったので、それを飲んでしまってゴミ箱へ証拠を捨てる。

 

「……本当にずっとついてきましたね」

「うん」

 

 結局、隣で私の行動を見守っていたクラスメイトは、周囲に人が居ない事を確認してから、暗さの残る顔で私を見る。

 

「スタートワンちゃん」

「なんでしょうか」

「その、さ。手の事なんだけど」

 

 そこで思わず自分の手を見る。今はガーゼで隠されているが、破れた部分は確かに一度外に晒されていた。間近で見ていた彼女が気付いてもおかしくは無い。

 

「もしかして、スタートワンちゃんがいつも」

「その通りですが、すみません。それ以上の事は言葉にしないようにしてもらえると助かります」

「う、うん」

「その上で、ですが。出来れば今日見た事はご内密にしてください。話す時が来たら、私が自分で話をします」

 

 返事は頷き。良かった、ここでバレると考えていなかったので少し焦りもあったが、話すだけで解決出来たのは僥倖だ。思っていたより察しが良いなこの子。

 

「あんなに強いのに、スタートワンちゃんでも悩む事なんてあるんだ。…あ、いやその、ごめん悪い意味じゃなくて…!」

「分かっていますよ。ですが、強いからこそもっと上を目指したくなるものなんです」

 

 気持ちとしてはオンラインゲームで上位の成績を目指そうとするのに近いだろう。時間と資金のある相手には叶わなくても、他者より上の結果を残そうとついつい力を入れてしまう。『ウマ娘』はチーム競技場やチャンピオンズミーティングなどランキング化されたものが多くあったので、そういう気持ちを猶更強くさせられたものだ。

 

 現状に満足出来ない。先日の私が意地を見せたのも、そういう思考の結果だ。

 

「…私が言うのも変なんだけどさ。スタートワンちゃんはすっごく強いし、それに一緒に走ったのはシンボリルドルフさんと、上級生の、しかもマルゼンスキーさんとミスターシービーさんだったんだよ。だから、そこまで思いつめなくてもいいと思うよ?」

「…、そう言ってもらえると嬉しいです。ですが、ただの練習で負けているようじゃ話にならないんです」

 

 ただ強いだけで私の目標は達成出来ない。そして私はまだ自分が納得出来る程に「強い」と言えない。

 シンボリルドルフと競い合うに相応しいだけの能力が必要なのだ、でなければ、私は私の掲げた未来に挑む事すら叶わない。

 

「だったら、たまには息抜きしないと! 私スタートワンちゃんが休んでるところ見たことないよ!」

「え、っと……。一応、休息はトレーナーさんが入れてくれているのですが……」

「そうじゃなくて……! もうっ、ちょっとこっち来て!」

「えっ、あの、ちょっと……?」

 

 手を掴まれて、彼女に何処かへ連れていかれる。彼女の手に血がついてしまうので拒むべきかと思ったが、心配されている側なので流石に振り解けず流されてしまう。

 

 着いたのは学園内に併設されているカフェテリア。アプリ版でも利用している事がたびたび示唆されていた場所だ。

 大人数が利用する食堂と比べれば規模はやや小さいが、それでも利用者の数が多いためかなり大きい。ここでは食堂と違って間食中心のメニューが多く、特にパフェ、ケーキ、アイスといったスイーツが絶品なのだと聞いている。

 

 置かれた二人席のテーブルに無理矢理座らせられ、反対にクラスメイトが座る。

 

「休みの日くらい楽しくしようよ! ほら、ここスイーツが人気でね、ケーキにアイスにパフェに…ほら、ティラミス! これとかマルゼンスキーさんがよく食べてるんだよ!」

「……。そう、ですか」

「私いつもここでケーキ頼むんだ! ほら、スタートワンちゃんは何にする?」

「ええと……、そ、そうですね…?」

 

 渡されたメニュー表を眺めるも、特に食べたいと思うものはない。サンドイッチやトースト、パスタなど軽食もあるが、今は何を見ても食指は動かず飲み物にページを移す。スイーツが有名と聞いていたのだけど、見ていると表の中には無い。このメニュー表には無いのかな。

 

「……えと、アイスコーヒーでいいでしょうか」

「…せめて甘いものにしない?」

「えっ、あ、そ、そうですね! ええと、じゃあ麦茶……は甘くない……、カフェラ、テはホットだ。え、ええと……あ、アイスココアで」

「……スイーツは裏だよ」

 

 ……本当だ、さっきからずっと普通の食事ばかり見ていた。というかわざわざメニューを別にする必要なんてない事くらい考えれば直ぐ分かるじゃないか。

 

「こ、このぷりんを……」

「……店員さん呼ぼっか」

「……はい」

 

 だめだ、大分調子が狂っている。

 頭を抱えそうになっている間にもクラスメイトは店員さんを呼び、私の分まで注文を済ませてしまう。

 

「本当にすみません……」

 

 恥ずかしいやらなにやら、何とも言えない気持ちで頭を下げると、クラスメイトは頬を掻きながら苦笑する。

 

「……スタートワンちゃんのトレーナーさんが言ってた事、ちょっとわかった気がしてきた」

「…え、トレーナーさんが?」

「うん。さっき私がスタートワンちゃんを見つけたのも、トレーナーさんに言われたからなんだ」

 

 突然現れた名前に驚かされる。何故彼が? というか、二人は知り合いなのか?

 思わず呟いた疑問に、彼女は何処か笑みを堪える様にして頷く。

 

「ほっとくと何するか分かんないから、ちょっと見といてくれって。ここ最近ずっと様子おかしかったし、私も気になってたから」

「そんな事を…って、あなたも気にしていたのですか?」

「うん、だってこの数日すごく変だったもん。授業中もご飯食べててもずっと考え事してるし、シンボリルドルフさんと一緒に走ってる時もなんか別の事考えてるみたいだったよ」

 

 そ、そこまでわかりやすかったか?

 

「で、学園探して見つけたタイミングでさっきの事だからさ、こりゃだめだと思って」

「そうだったのですね……。すみません、本当に余計な心配をかけてしまったみたいです」

「いいっていいって、このくらい気にしなくていいよ」

「それでもです、私が原因ですし…。トレーナーさんも態々人に頼まなくても…」

「私も言ったけど、年が近い方が話しやすいだろうからってさ。前々から思ってたけど、スタートワンちゃんはさ、ちょっとストイック過ぎるんじゃないかな」

「ん……と、そうでしょうか」

「そうそう。トレーナーさんだってそのために休みにしたんでしょ? じゃあ、ちゃんと休んで、すっきりしないと」

 

 にこにことした笑みを浮かべるクラスメイト。将来敵と成り得る可能性のある相手に対して、躊躇なく手を指し伸ばしてくれるなんて。まだレースに出ていないからなのか、それとも彼女自身の優しさなのか。

 

 ……なんにせよ。ここまでされたのだから、私も少しは息を整える必要があるのだろうな。

 

「そうだ、明日皆と外に出る予定なんだ! スタートワンちゃんも一緒に行かない?」

「…………ええ、皆さんが良いのなら」

 

 私の事など気にしなくてもいいのに、そこで態々一緒に居ようとしてくれる。

 余計な手間をかけさせて申し訳ないのと同時に、その優しさをありがたいと思う。

 

 走る事ばかりの思考を少し切り替えるには丁度いい。切り替えて、もう一度準備を整えよう。

 

「あっ、来たみたいだよ! 楽しみだなぁ!」

「ふふ、どれもおいしそうですね」

 

 

 

 後日の事。

 

「随分リフレッシュ出来たみたいだな」

「はい。まだ万全とまでは言えないと思いますが、十分走れると思います」

「そりゃ上々だ。……んで?」

「…………? はい?」

「お前隠してる事あるだろ」

「……なんのことでしょう」

「…………」

「あ、やめ、いた、いたたたたた! 手を、手を押さないでください!?」

 

 手袋を盛大に剝ぎ取られて思い切り叱られた。隠しきるつもりだったのに。




この話一回やらかしたことがあるのですが多分見てる人はいない筈なのでセーフです。
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