G1目指して頑張ります   作:あかし/さんさい

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21 おでかけ

 これがいいかな。いや、こっちの方が目立たない? これは、ちょっと地味過ぎて逆に浮きそうな気がする。

 これを着るのが早いか…気合が入ってるように見えないか? 変に意識して見えるのは困るのだけど……。

 

「んー……。何が正解なんだ……?」

 

 マンションの自宅にて、部屋の備え付けの姿見の前であれも違うこれも違うと考えこむ。床やベッドには制服やジャージの他、数えるしかない私服の全てが散らばっており、その数少ない組み合わせの中から最適なものを選び出そうと四苦八苦している。

 

 トレーナーに外出すると言われて既に一週間。明日になれば私は彼と街へ繰り出すことになる。

 本当は練習に行きたいのだけど、彼のあの反応からして絶対に聞き入れてもらえはしない。それはもう諦めるしかないとして、今の私にとっての問題は。

 

「私服なんてほとんど無いのに、どうしたらいいんだろう……」

 

 これが一番ネックな点。私は服に大した頓着はないため、どうせ学園に入ればほぼすべての生活で制服を代用出来るからと私服など一週間分も用意していない。入学以前に着ていたものも既にいくつかは着られなくなってしまったので、手元には残していない。

 

 服を買っておけば早かったろうと言われれば返す言葉は無いが、出かけると言われても何をするのかが分からないせいで、どんな準備をすればいいのかが分からなかった。おかげで前日になって何を着ていくかを考えているざまである。

 こういう時、日常からファッションに気を付けていれば良かったな。ちょっとくらい洒落の効いたものを用意していれば……、

 

 

「……なんで私は、男と出かける事にここまで頭を悩ませてるんだ…」

 

 

 ふと冷静になって思わず額を抑える。この姿で生活をする事既に十余年。異性がどう、同性がどうという感覚は既に元のものよりぐちゃぐちゃになっていて、特別どちらに気持ちを寄せたいと思う事は無くなっている。

 

 当然、彼に対してもトレーナーという以上に意識する事など無いはず……なんだけどなあ。いきなりあんなことを言われて、まだ気持ちの整理がついていないのだろうか? こんなことをしている時間なんてないというのに、休みがあるという事に舞い上がっている?

 

「…ばからしい。てきとうにでも選ぶか」

 

 これ以上頭を悩ませてどうにかなるものじゃない。

 とにかく、明日彼が何をするつもりなのか分からない分、此方も準備だけはしておこう。

 

 

 朝早く。とは言っても、学園の登校開始と比べて少し早い程度の時間。

 

 待ち合わせにしていた学園の門へ行くと、同じように外へ出る予定だろう生徒達の中、立っているトレーナーが居た。此方に気付いた彼が、一瞬だけ眉を動かす。

 足元にはキャリーケースが一つ置かれていて、その持ち手を掴んでいる。何を入れているのだろうか。

 

 傍まで歩いて行って、開口一番。

 

「……人に制服厳禁と言っておいて、自分はいつも通りの服ですか」

「ワイシャツにズボンならどこだろうが大概の場所で通用すんだろ。それに……お前が何を着てくるか分からなかったからな」

 

 そういって彼は私の目から視線を落とした。

 今日の服装は制服でもジャージでもない。厚手のセーターにメンズコートを合わせたパンツスタイル。大きめのネックウォーマーに手袋もつけている。冬場という事もあり、そこそこ暖かい服をチョイスした。勿論インナーを着ているので、内側は基本的に隠れたままだ。

 貴重品などはウエストポーチに入れているので、両手が空いており荷物は最低限に抑えてある。

 

「それはまあ、そうですけど……。というか、寒くないんですか?」

「見て分かんねえのか、ベストも着てんだろ」

「聞かれてわからないんですか?」

「……寒くねえんだよ」

「…そうですか」

 

 もっと語彙力のある会話をしてほしいと思ってしまうのは高望みだろうか。

 

「それで。その足元のキャリーケースは?」

「後で使うモンだ。とにかく、今日はいろいろと移動する。ついてこい」

「えっ、いきなりですか? どこに行くとか…」

「時間がねえんだ、ぼさっとしてんな」

「あ、ちょ…、もうっ」

 

 説明くらいしてほしいなあ! まったく!

 

 

 私を置いていきかねない速さで学園から離れていくトレーナーを慌てて追いかけ、うやむやなまま外出が始まる。

 

 後をついていくことしかできないまま町を歩き、最初の目的地に着く。大きなショッピングモールにすたすたと入っていくトレーナーは、中にある店の一つで足を止めた。

 

「……なんでゲームセンターに?」

「時間潰しだ。もう少ししたら別のところに行く。時間になったら教える」

「……遊べと?」

 

 無言で頷かれたので、そういう事らしい。いや、流石にいきなり遊べなんて言われても…ってまた勝手に進んでいくし。

 彼が連れてきたゲームセンターは、ショッピングモールの中に併設されたもの。専用の店舗ほどではないが、もともとが大きなモールという事もあり結構な大きさがある。

 筐体の大きな音が混ざり合って相当にうるさい場所だが、ウマ娘の聴力の事もあり音量は元の世界より調整されていて、まだ我慢出来る程度の音になっている。

 

 彼は置かれているクレーンゲームの一つに行き、財布を取り出してお金を入れる。中にあるのは排出口の手前で塔のように積まれたお菓子だけど…というか。私を放置して自分で遊び始めるのか。

 

「取れるんですか」

「一回じゃ無理だ」

「まあ、クレーンゲームってそういうものですけど……」

「いいから見てろ」

 

 そういって彼はクレーンに集中し始める。取り合えずその動きを見ていると、彼はアームを器用に動かしながら、何度も塔を突き崩していく。一度ではなく、何度も何度もそのバランスを不安定にし、そして。

 

「これで…っと!」

「…おお」

 

 ばさばさと音を立てながら塔が崩れ、取り出し口に瓦礫が積み重なる。数だけでも軽く十以上、これだけあれば暫くは菓子類に困らないな。

 回数こそかかったが、ちゃんと景品を獲得できているのはすごい事じゃないだろうか。

 

「おめでとうございます。よく取れましたね」

「昔は毎日のように入り浸ってたんだが……前と比べりゃ大分落ちたな」

 

 この結果を見て何がどう落ちたと思ったのか…? 聞かない方が良いか。

 どこからか取り出した紙袋で落ちてきた景品を全て包んだ彼は、そのまま次のクレーンに移動する。

 

「さ、次だ次」

「えっ、まだ取るんですか?」

「これ含めてあと二つもありゃ十分だ。お前はやんねえのか?」

「え……いえ、やりませんよ」

「金が要る時は言え、お前の分も下ろしてある」

 

 彼の行動がよく分からないので監視…もとい視界に入れておきたいというのもあるが、何より私はゲームセンターでテンションをあげられるタイプではない。素直に喜んで遊ぶには、ちょっとばかり年齢を重ね過ぎてしまっている。

 何かしたいゲームというのも……それ以前に、ゲームセンターにあるようなゲームはそこまで得意じゃないんだよなあ。

 

 流石に邪魔をするのも悪いので、少しだけ離れつつも彼を見失わない程度の位置で店舗内をうろつく。並んでいるものといえばクレーンの他にレースゲームやリズムゲーム、クレーンゲームは派生形が多いので一括りに景品ものと言った方がいいだろうか。子供も遊ぶ場所だからか、釣りの出来るテーブル状の大きな筐体には子供が数人張り付くようにして遊んでいる。

 ショッピングモールなだけあり、利用者は結構多いようだ。対戦系の筐体なんかも並んでいて、丁度ウマ娘が二人対戦している……、

 

「んっ、中々、うまいじゃないっ!」

「そっちもっ! ってか、レースゲーム以外も出来るんだねっ!」

「当然! あっ、もう、やったわねっ!?」

 

 …………死ぬほど見覚えがある二人だった。そこはレースしないのか。よく見ると二人の両側から男性が二人、面白そうに観戦している。……ダブルデート?

 

 

 あの後、彼女達に気付かれたら話が長くならないかと思っていたが、幸運(でいいのだろうか?)にも彼女達がゲームをしている間にトレーナーがゲームセンターから離れたので、私達はモール内を再度歩くことになった。

 

 結局彼は更にお菓子のクレーンをいくつかと、ついでにぬいぐるみも複数取っていった。居た時間としては20分未満。コンスタントに景品を取り続けた彼の手際の良さは脱帽ものだ。

 

「マルゼンスキーさんとミスターシービーさんのものもあるんですね」

「ぱかプチか? お前は良く会ってるから忘れてるかもしれんが、あの二人は世間的にも有数の人気者だからな。ここに並ぶくらいには商売として成り立つってことだ」

「学園内だとなかなか外の様子は見にくいですからね。私もG1が取れればこうなりますか?」

「どうだろうな。取れる前に人気が出る事もあるからな」

 

 そういって彼は袋の中に入れたお菓子の一つをこちらに軽く放り投げる。受け取ったそれは…板チョコが二枚。

 

「まだ昼前ですよ?」

「飯がちょっとばかし遅れるから、今のうちにな。腹減ってきたらそれ食っとけ」

「……ほんとに、今日は何をするつもりなんですか?」

「まあ待ってろ、そん時わかる」

 

 微妙なはぐらかしにさっさと答えを言えと言いたくなった。まるでサプライズでもしようとしているようにも思えて、じれったいし面倒だし正直うざったいと思わなくもない。

 

 しかし、基本的に嘘や誤魔化しをしない彼がここまで隠すという事は、そうすることそのものが何かしらの意図を持っているはずだ。よほど私を驚かせたいのか、或いはもっと別の何某を目的にしているのか。

 

 なんにせよ、この様子だとぎりぎりまで話してはくれないだろう。その時まで、モールを進む彼をじっと追うだけに留めておく。

 次に来たのはスポーツ用品店。よく見るとウマ娘専用のショップだ。

 

「入り用ならカゴ持ってきて入れておけ」

「トレーナーさんは?」

「備品補充ついでに他のモンも見る。そうだ、ついでに蹄鉄とかシューズを見ていけよ。この間も履き潰してたろ、今の内に買っておけ」

「そんな事急に……もう」

 

 彼はそう言ってそのまま店の奥へ進んでいく。私の事はほったらかしか。よほど私から隠し通したいらしい。

 

 暫く彼の消えた方に目を向けていたが、諦めて置いてある籠の一つを取り店の中を物色する。

 売っている物が基本的にウマ娘向けだけという違いはあるが、それでも大半は普通のスポーツショップと大きく変わらない。シューズや蹄鉄の他、テープやスプレー、トレーニング時のシャツなどラインナップは見覚えが多い。

 なぜかトゥインクルスタークライマックスで散々に見た安眠枕やアロマ、蹄鉄用のハンマー、虹色のメガホンなども置いてあるが……この世界では普通に利用されるものだったのだろうか。

 

「……それにしても。蹄鉄が普通に売ってあるの、相変わらず違和感があるな……」

 

 元の世界でも、一応既製品が無いわけではなかったけれど。基本的には一頭ずつそれぞれに合わせて専用の蹄鉄が用意されていて、そもそもこんな風に分かりやすく並べられているものでもなかったはずだ。眼前の叩き売り出来る数が大量に用意されている棚は、陸上などのスパイクと同じ扱いなのだろうとは推測出来るが、今も時々違和感を持ってしまう。

 蹄鉄のオーダーメイドとかも行われているみたいだけれど、どのくらいの需要なのだろうか。イクノディクタスのように蹄鉄の力で未来を大きく変えた競走馬も居るので、そのあたり気になる事が多い。

 

 それはまあ今はいいとして。必要なものがあれば籠を用意しろ、なんて言われても、私もどうしたらいいものか。今まで使っていたものを一通り予備としておく……だけでいいだろうか。というか、私一人で決めさせていいものなのか? いくら何でも放任が過ぎやしないか。

 

 こんなことなら彼と二人だけで外へ出るんじゃなくて、他にも何人か一緒に連れていけばよかった。シンボリルドルフやハッピーミークも……いや、今頃は生徒会で忙しいだろうし、ハッピーミークは反応が薄すぎて桐生院トレーナーが困るってイベントがあったな。素直にあきらめる方がい……い…。

 

「トレーナー君、いつものシューズでいいかい?」

「構わない。それと、こっちも試してもらっていいか? それよりも軽量だが丈夫らしい」

「分かったよ」

「……あれ、ふらんすぱんみたい……」

「ハッピーミーク、こちらのシューズはどうでしょう?」

「……あ、うん。いいと、おもう」

 

 ……ダブルデート? いや、ちょっと違うか?

 あの様子だと、URAシナリオ中のイベントみたいなことが起こっているみたいだけど、このタイミングで二人にも会うなんて、今日は何か起こっているのだろうか。

 

 

 イベントの進行中らしいので邪魔しない程度に必需品を揃え、トレーナーを待つために店の端へ移動しておく。十分ほど待っていたが、少し用を足しに商品を戻して店を出る。軽く店内を歩いてトレーナーを探すが見つからず、念のためトークアプリで連絡は送っておいたが、既読を確認する前に移動する事にした。

 

 お手洗いを出てからスマホを確認すると、既読に合わせて『分かった、こっちはもう少しかかる』という簡素な返事だけが届いている。

 何をしているのか知らないけど、一緒に出掛けているのだから一人で勝手にするのは短い時間で終わらせてほしいものだ。

 

「まったくもう……」

「ねえ、急にごめんね?」

「はい?」

 

 とりあえずまた店に戻って彼を探そうかと思ったところで、声を共に視界へ人影が入り込む。画面から目を離して顔を上げると、立っているのは男性が二人。私より背が高いのはいいとして……大学生くらい、だろうか。

 

「あっ、やっぱり可愛い! ねえ、今ヒマ? 一緒にお茶でもどう?」

「……こんなところでナンパですか? すみませんが、人と来ているので」

「そういわずにさ! そこのカフェとかどう? 俺らが奢るから!」

 

 すぐさまその場を去ろうと彼らを避けようとするも、二人もいるせいで壁になられて避けにくい。これは…面倒になるかもしれないな。

 

「すみませんが私はまだ学生です。そういったことはご遠慮願います」

「学生なの? 丁度いいじゃん、俺らも大学生なんだ!」

「ウマ娘ってことは、トレセン学園の子? 待たせてるのってクラスメイトなの? なんなら、その子も連れてきていいからさ!」

 

 何がちょうどいい、だか。トレセン学園が近いことをわかっていて声をかけるとはなかなか剛毅な人達だ。惜しむらくはなぜ私に声をかけたのか、もっと魅力ある子が今モール内に……よく考えたら彼女達男性と一緒に居たな。

 アプリなどではこうした声かけは大抵ファンや知り合いなのだけど、まあ、ユキノビジンのストーリーに詐欺師が出ている事もあったし、元の世界を踏襲している以上こういう事もあるか。あ、そういえばエアグルーヴのシナリオにははっきり出てきていたっけ。ナンパ男。

 

 

 ……待つ側が待たせる側になるなんてことはしたくない。

 あまり使いたくはないのだけど、仕方ないか。

 

「あの、私の目を見てもらえますか」

「えっ?」

 

 ナンパさん達に合わせる様に、じっとその眼を見つめる。それと同時に、セーブしている枷を緩めた。どこか間の抜けた破裂音の幻聴が響き渡る。

 

 最初は不思議そうだった二人は、一瞬身体を大きく震えさせたかと思うと、途端にかたかたと全身を小刻みに振動させ始めた。

 

「え、あ、あ…」

「ごめんなさい、予定が入ってるんです。ではこれで」

 

 微笑みでやんわりと拒絶しつつ、彼らから離れる。よし、取り合えず上手くいったみたいだ。

 小さく震える手を上着のポケットに隠そうとして、指先に触れた質感でチョコを渡された事を思い出す。せめてものお詫びとして、固まったそれぞれのポケットに突っ込んだ後、再度手を隠しながら思い切り握りこんで誤魔化す。

 

 強硬手段に出てしまったのは謝るしかないが、出来る限り無害なものにはしておいたのでそれで勘弁しておいてほしい。

 

 

 

 あらためて店に戻り、再度品物を籠に入れ直して待つ。

 五分ほどして、彼は店内ではなくモール側から戻ってきた。

 

「待たせたか」

「何か隠しているのはいいですが。トレーナーさん、二人で出かけているというのに、異性を待たせるのはいただけませんね。しかも二度も」

「…それお前が言うのか?」

「未成年と言えど、です。…言って良い事と悪い事もありますね?」

「……悪かったよ」

 

 少し咎める意味を強めて睨むと、気まずそうに首に手を当てるトレーナー。流石に思う所はあったようだ。

 

「それで? 目的は問題なく済ませられたんですか?」

「……ああ。買うモンは決まったか?」

「どうぞ」

「……こんだけでいいのか? 小っちぇえのが二、三個しか入ってねえぞ」

「どこまで遠出するかも聞いていないのに、山盛りの籠を渡せるわけがないでしょう」

「んなこと学生が気にすんな」

 

 そう言って籠を私から掠め取るとそのままレジカウンターへ歩いていく。……あれでは、彼女が出来た時が少し心配になるな。めちゃくちゃなプランを立てないようになっていて欲しいのだけど。

 

 

 足早にモールを後にして、私達は次の場所へと向かう。このルートは……駅に行くつもりか。どこか別の場所が本命の目的地なのだろうか。

 そういえば、学園のある府中の駅はアニメで何度か描写されていたな。基本的にここから出ている路線は京王線だから、よほど遠くに行かない限りは一日で事足りると思うのだけど。かなり遠くに行くつもりなのか? 着替えは持っていないから、日帰りしか出来ないぞ。

 

「どこまで行く予定で?」

「その前に、ほれ」

「? 特急のチケットですか。しかもこの行先……」

「ほれ、行くぞ」

「っ、わかりましたっ」

 

 改札を抜け電車に飛び乗り、揺られること数十分、一度東京へ出てから乗り換え、途中の売店でお弁当を買ってから特急列車へ。ほぼ手ぶらの私に対し、彼はキャリーケースや景品の入った袋を収納スペースに突っ込んでから座席に腰掛ける。

 

「……昼が遅れるってそういう事ですか」

「そうだな。学園からだと大分離れて往復にゃ時間がかかる」

「それでわざわざ朝早くから……。終電までに帰れるんですか?」

「宿は取ってある。明日の電車で帰るから、時間もそれなりに取れるぞ」

「着替えなんか持ってないですけど」

「何のためにこれがあると思う」

 

 そう言ってキャリーケースを示す。私を休ませていた一週間にでも整えたのか、用意周到だ。

 

「買ったんですか? 怪しまれませんでした?」

「桐生院に頼んだに決まってんだろ」

「ああ、なるほど。書類は? いくら私が一人暮らしと言っても、あなたはトレーナー寮に住んでましたよね」

「書類はもう提出してある。お前の分もついでに出してあるぞ。ちょっと手間はかかったがな」

「……それ私に言っておけばよかったじゃないですか」

「…………」

 

 無言でそっぽを向かれた。図星を突かれたか。

 

 ちらりと窓の外に目を向ける。まだ昼には早いというのに、週末という事もありホームを歩く人の波はかなり大きい。

 外を眺めている脳裏で、チケットに書かれた行先が過る。

 

「時間を取らせる気満々ですね」

「お前、学園に来てから一度も帰ってねえだろ? 夏も延々学園でトレーニングばかりでその気すら見せねえでよ」

「……やっぱりそのつもりでしたか…。というか、よく連絡が付きましたね」

「そのくらいのコネなら俺だって持ってる」

 

 テイエムオペラオーのトレーナーか。っと、そうじゃないそうじゃない。

 

「いつかは戻るつもりでしたよ。それに今年引っ越したばかりなのに今年戻っても久しぶり、なんて感じ無いでしょう」

「子供なんざ半年会わないだけで案外長い間会ってないと思うもんだ」

「……大した成果も出していないのに」

「ぐちぐち言ってねえで潔く会いに行ってやれ。連絡送ったらすげえはしゃいでたぞ。あの様子だと、定期的な連絡も大して送ってねえんだろ」

 

 開いた口を直ぐ閉じる。思う所が無いわけでは無かったから、返すに返しにくい。トレーナーは私の頭に手を当て、ぐりぐりと撫でた。

 

 ……久しぶりに、あの子達に会うのか。それにあそこに戻る事にもなるとはな。

 あの子達は、今の私を見てどう思うのだろう。

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