G1目指して頑張ります   作:あかし/さんさい

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3 寒いダジャレは

 入学から数週間が経っての放課後。今日は自主練習ではなく、学園の地理を確認していた。シンボリルドルフに触発されたというのもあるが、いい加減ある程度学園の事を覚えておこうと思ったからだ。クラスメイトの何人かにも同じように探索しないかと誘われもしたのだけど、一人で確認したいからと断っている。

 

「えーと、こっちが切り株の穴。あの道の先に食堂があって、であの校舎内に図書館……」

 

 トレセン学園は広い。何せ生徒と職員、トレーナーなど全てを含めて千を超える人員が入る場所なので、当然その人数に見合うだけの大きさが必要になる。オグリキャップが迷子になっていたように、土地勘という原因だけでは無い、迷うなりの理由があるのだ。

 

「まだ行ってない所といえば…、トレーナー室のある棟、それから屋上、野外ステージ。あとは……三女神の噴水、は、今度でいいか」

 

 学園生活を始めて一度行ったところは多い。が、まだ行っていないところも実はそこそこある。屋内プールやトレーニング器具のあるトレーニングルームは授業や自主練習で訪れて(勿論水着は全身を隠すものを使って)いるが、それ以外の基本トレーニングとして使われない所は説明があったくらいだ。トレーナー室のある場所なんて専属の居ない私達には、何か理由でもないと行く事自体無い。

 さて、そういう事で現状使わない所をめぐっている私なのだけど、行き当たりばったりに歩いているので次に行く場所が決まっていない。

 

「そうだな……まあ、図書室でも行ってみようかな。あっ猫……、行っちゃった」

 

 何人かのシナリオでもあったけど、この学園結構動物が居るんだな。

 

 

 ふらふらとした足取りで学園を進み、図書室に入る。校舎内にあるので小さいものかと思っていたが、意外にも室内は広々としていて結構な蔵書があるとわかる。というか、本当に広いし本の数も多い。ちょっとした図書館くらいはあるんじゃないだろうか。

 

 ウマ娘から先生、トレーナーまで色々な人が利用していて、本を手にノートを取っていたり、レース映像を見ていたりといった様子だ。静かな空間ながら、真剣さでちょっとだけ空気が固い感じがする。着いただけで目的が達成された私ですら、何か読んで学ばないといけない気がしてくる。

 ……まあ、うん、ちょっとだけ、本を見ていこう。

 

 本棚の一つに近づき、並んだ本の題に目を通す。レースの為の学園なだけありほぼ全ての本がそれに関連したものだ。レースの歴史やレース場の情報、トレーニング理論や人体学、後は栄養とカロリーのバランスを考慮した料理本なんてのも置いてある。こういう言い方もあれだが、この世界レース第一主義みたいなところがあるんだよなあ。

 ただ、普通の本が置いていないのかといえばそうではない。新聞も雑誌も置いてあるし、小説だってある。小さなコーナー程度だが漫画やライトノベルもある辺りは、一応は思春期の少女達が通う学校らしい。……アプリなどからするとお嬢さまが多い場所でもあるので、読む人が居るのかは分からないが。

 

 並んだ棚を見ながら歩いていると、小柄な生徒が棚上に手を伸ばしているのが見えた。背伸びをして頑張っている姿は少し微笑ましさを覚えるものの、脚立も使わずに横着しようとするのはいただけない。強引に引っ張りだそうとするせいで、目当ての周りの本が動きにつられて外へ飛び出しかけている。ハードカバーのようなので、下手に落とすと怪我をするかも。

 

「すみません、それ――ッ!」

「きゃっ…!?」

 

 注意をしようと近付きながら口を開いた瞬間、生徒が本を引っ張り出してしまった。案の定本が転がり出て彼女へと降りかかる。タイミングが遅かったか!

 咄嗟に踏み込み、彼女の制服を掴んでこちらへ思い切り引っ張る。勢いよく後ろへ下がったその背を抱き込んで受け止めると、自分でも力が出ていたらしく勢いが殺しきれておらず、尻もちをついた。一瞬前まで彼女が居た場所を本が床へ落ちていく。

 

「危なかった…。大丈夫ですか?」

「は、はひ……」

 

 何が起こったのかよくわかっていないのだろう、目を丸くしながら頷く生徒。見る限り怪我などは無いが、耳が恐怖やらなにやらでへたり込んでいる。引っ張る力が強すぎたか。ちょっと申し訳ない。私よりも十センチは小さいようなので…140センチ台か。かなり小柄な子なので、流石に怖かったろう。

 大きな音に数人の視線がこちらへ向くのを大丈夫と誤魔化し、自分が立ち上がるのに合わせて彼女も立たせ、床に散らばる本を棚に戻していく。

 

「今度からは脚立をしっかり使いましょう。あまり横着にしては、今回のような危ない目にあってしまいますよ?」

「す、すみません……」

「構いません。こちらも咄嗟といえ力が強すぎました。痛みなどはありませんか?」

「あ、え、えと、大丈夫、です…」

「なら良かったです。それでは」

 

 放心状態の抜けきらない生徒に別れを言い、その場を去る。流石にちょっと居心地も悪いので、場所を移動したかった。

 

 

 そうして図書館の端へと移動し、少し息を落ち着かせる。ああいう事は、出来ればなくなってほしいものだ。彼女も今後は注意してもらえるとありがたい。

 気持ちも整ってきたので、再度本の散策。図書室の端の方だけあって、先程まで見ていたようなラインナップも少なく、想定される図書室や図書館のような様々な本が並んで……ん? な、なんか、いかにもトレーニングの為の本棚って中に、変なものが混ざっている。背表紙が日に焼けていて、いかにも年季の入ったものだ。

 

「『面白だじゃれ1000』…こんなの誰が入れたんだろう………ん?」

「おや、君は……」

 

 本を取ろうとつい手が伸びたところに、反対から同じように手が伸びてきて互いに動きを止める。相手の方を見ると、そこには既に見覚え以上の覚えがある鹿毛の少女。

 

「…これで三度、いや、四度目だね、スタートワン」

「四度目になりますね、シンボリルドルフさん……」

 

 まさかまさか。生徒会長様と(今はまだ生徒会所属でもないようだが)こんなところでまでも会おうとは。クラスも違えば直接の関係も無いのに、不思議な縁もあるものだ。

 

「そうだ。先日の模擬レース、観戦させてもらったよ。見事な走りだったね」

「ありがとうございます。とはいっても、あのレースに出走したのは全員同じ学年の子達だったので運勝ちですよ」

「ふふ、そう謙遜しなくてもいい。あの追い込みは十分素晴らしいものだった」

「それを言えば、シンボリルドルフさんの模擬レースなんて見事な勝利だったじゃないですか。上級生相手に一バ身なんて、私じゃ出来ないですよ」

 

 そう、数日程前に新入生の能力テストとして模擬レースが行われ、私もシンボリルドルフも一着を取る事が出来た。とはいっても、私が同じ新入生相手だったのに対し、彼女はエキシビジョンマッチとして去年デビューした上級生と共に走り、なんという波乱も無く圧勝したのである。私はなんとかハナ差で勝ちをもぎ取り、彼女は軽く突き放した勝利だったので、結果にもかなりの差があると言って良い。

 と、その辺りの話はひとまず置いておこう。

 

「ええと、それで」

「あ、ああ。君はこれを借りに来たのかい?」

「え? あーっと、違います。ちょっと気になって読んでみようと……」

「ほう……、この本の良さを知っているのだな」

「えっ?」

「えっ?」

 

 互いが無言になる。

 

「えっと、お先に読みます?」

「…いいのか?」

「構わないですよ。ちょっと気になっただけですから」

「すまないな。君も読みたいだろうに」

「いえ、そこまで読みたいわけではないので」

「えっ?」

「えっ?」

 

 再び無言が流れる。

 

「もしかしてだが、君は洒落などに興味があったりとか」

「という事はありませんね、はい」

「……そうか。……君が良ければなのだが、スタートワン。これを私と一緒に読まないか?」

「えっいいです」

「そうか、なら一緒に机に行こう」

「え、いやいいですって肯定したわけじゃなくて」

「人の居ない机はあそこか。さあ、行こう」

「あ、あの、シンボリルドルフさん……シンボリルドルフさん…っ!」

 

 こ、この人…無駄に力強く私の腕を引っ張って……!

 

 

「『画鋲が無くてガビョーン』…ふ、ふふっ、これなどどうだい?」

「えっと、まあ、そうですね…?」

「おお、こんなのもあるぞ。『チョコをちょこっと食べたい』…くっ、っははっ…! い、いいと思わないか? スタートワン…!」

「……んー、と…」

 

 図書館なので静かに、けれど隣で延々とくすくす笑っているシンボリルドルフにうまく相槌が出来ない。正直「だじゃれだね」とだけ対応したいものの、いかにもウキウキな様子で私に本の内容を語っては笑っている彼女を見ると、なかなか言い出せない。

 

 アプリの運営が開始されてから判明したシンボリルドルフのダジャレ好き。対等に仲良くしたいという理由から嗜み始めたという、彼女らしい優しさが元になったこれだが、なるほど直に聞いてみると結構な破壊力がある。どちらかというと悪い意味で。

 

 推測だが、良家のお嬢さま、それも普通に良い関係の家族に育てられたらしいシンボリルドルフの事だから、こうした単純な笑いに弱いのだろう。落語や講談の方が聞き馴染みありそうだし、和歌に込められた言葉遊びで笑ってそうなイメージすらある。

 未来ではエアグルーヴのやる気を下げる原因になるほどのめりこむのは、むしろ取りつかれ過ぎだと思うが。

 

 ナイスネイチャ? 彼女については……単に笑いのツボが浅いだけだと思う。

 

「これは! 『布団がふっとんだ』…ぐっ…ふふっ…! 何度も聞いてきた洒落だというのに、何故ここまで面白いのだろう……! スタートワン、君もそう思わないか?」

「えっその……」

「これなどどうだ? まだまだネタはたくさん載っているぞ」

 

 やばい。このままだと私のやる気の方が持っていかれかねない。というかこの人は何時まで私に語りかけてくるんだ。なにか別の方向に話を逸らした方がいいか? えーっと、何を話せば……。

 

「し、シンボリルドルフさんは、こうした洒落が好きなんですね」

「このダジャレなど……うん? ああ、そうだな。韻を踏みながら文を作る。面白いのも確かだが、語彙の練習にもなる」

「まあ、確かに…。それならラップなども似たようなものですけど」

「そうだな。だが会話の中でとなると、此方の方が使いやすい。私はどうにも話す相手を皆緊張させてしまう。少しでも話しやすい空気を作るなら、私が洒落を言って笑わせる方がいいだろう?」

「……ええ、そうですね」

 

 本当に、この人は凄いな。なるべくして頂点になる器がある。そういうキャラクターであると事前に知っている私ですら緊張しそうになるほどなのだから。

 

「シンボリルドルフさんは凄いですね」

「ふふ、そうかな?」

「ええ」

「ありがとう。でも、君も私を前に自然体で会話してくれる。だからこそ、私も気負わずに話しやすいんだ」

「そうなんですか? あまり気にしてなかったですが」

「ああ。とてもありがたいと思っているよ」

 

 そんな風に評価されてたのか、ちょっと意外だ。まあ、偶然で何度も会ってる相手だからこそ他の子と比べて多少印象が違うというのはありそうだが。

 

「もう少し言わせてもらえるなら、もっと気安い口調で話してほしいのだけどね」

「それはちょっと難しそうですかね。癖なので」

「ん…、そうか」

 

 残念そうだったが、苦笑いを浮かべるだけにとどめておく。私のこれは先生からクラスメイトまで誰に対しても同じなので、そう崩せるようなものではない。

 

 まあしかし、彼女が気安く声をかけられる相手に私がなれているのなら嬉しい話だ。私の知る限り『ウマ娘』という括りの中でそういう枠に居る相手は、マルゼンスキーやミスターシービー、後は少し違う気もするが幼馴染だというシリウスシンボリくらいしか知らない。この世界ではどちらも先輩、かつシリウスシンボリはまだ入学していないので、同学年で肩の力を抜いて話せる相手は現状私くらいのはず。そのくらいの役目なら軽く請け負えそうだ。

 

「なるほど、洒落を学ぶのもそうした理由なんですね」

「そうだな。だが、それだけではないぞ」

「はい?」

「こうしたジョークを学ぶのは…、ふふっ、私が好きだからだよ。こんなにも奥深い世界、面白いと思わないかい?」

「…………ソウデスネ」

 

 ……エアグルーヴのやる気を守るためにも、私が一肌脱ぐべきなのだろうか、これは。取り敢えず、今後この話をする時は私が洒落について教えるとしよう。ちょっとは普通に笑える会話を作れるようになってほしいが……なるかなあ?




ダジャレっていざ考えると結構難しいですね。


活動報告にてちょっとだけ裏事情を書いています。読みたい人がいるかは分かりませんが読んでみてください。
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