G1目指して頑張ります   作:あかし/さんさい

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EX2:スタートワンの領域講座② 聴講者:黄金世代

 と言うわけで、全員が見えやすい位置にホワイトボードを置き、指示棒を伸ばす。

 

「さて、それでは皆さんに領域についてご説明をしたいと思います」

「はい、よろしくお願いしますっ」

「ではまず……と言いたいところですが。その前に、皆さんが領域についてどこまで知っているのかという事を聞いておきましょうか。これが分からないと、こちらもどの段階から話さなければいけないのか分かりませんから」

「あー、たしかに」

「私達も、細かい点についてはどこまで知っているという擦り合わせはしていませんでしたね」

「そういう事です。どういうものか、というのは最低限で構いません。こんなものであるというのが出てこなければ、自分にとって領域はこんな感じだった、入っている間、こんな風に感じた、というもので十分です。どんなものだと思っていますか?」

 

 それぞれ腕を組んだり天井を見つめたりして考え始める。最初に印象を述べたのはここまで話を先導してきたスペシャルウィーク。

 

「そうだなぁ…。なんとなく、凄く集中して走ってる時に入れたっていうイメージがあります」

「私もそれかなー。ホープフルの時の感じが強いんだけど、なんかこう、自分の見てる景色が一気に開いたような、けど見てる場所はそれまでよりも一気に狭くなったというか…。なんだろう、頭の中がすっきりして、まるで自分を俯瞰的に見てる、もう一人の自分と一緒に走ってるような感じでしたねー」

「思考が分割されたような感じ、という事ですか?」

「に、近いのかなぁ…。あ、でもあの時、スぺちゃんとキングが競り合いに来た瞬間、その感じがぎゅーっと強くなったと思います」

「あっ、それエルもわかりマス! 皆を追い抜いて、それから飛び立っていったデス!」

 

 セイウンスカイに同意するエルコンドルパサー。研ぎ澄まされた感覚が、そのまま自分が鳥のように飛翔していく印象に繋がったのだろう。その名の通り、コンドルの如く…といった感じか。

 

 三人の感想を受け、ツルマルツヨシが指を立てる。

 

「やっぱり概ねの印象としては、レース中の集中状態がそのまま領域に入る事に繋がったって感じですね。私も大体同じ感じで、ぐわーっと身体が軽くなりました!」

「私は正直、そこまではっきりとしたものは見えなかったわ。誰よりも速く、と言うのは人一倍思っていたつもりだけれど……。」

「私も同様です。前に出る瞬間、頭の中が一気に整理されたような感じはありましたが、一際に大きなものだったかと言われると、そこまでは……」

「ふむ……。大体は分かりました」

 

 四人と比べると、キングヘイローとグラスワンダーは領域を完全に開くことが出来ていないという事か。それでG1を勝ち取ったり二着に食い込んでいるあたり、地力で勝利まで押し込んだのだろう。末恐ろしいな。

 

 とにかく、このあたりで打ち止めにするのがいいだろう。手を叩き打ち止めにすると伝える。

 

「さて、簡単な感想も貰えたことですし、本題に入りましょう。領域とは何なのか、それはどうやって使うのか。まずは一般的な領域、いわゆる“ゾーンに入った”という状態について話しましょうか」

 

 ホワイトボードに領域、その上に振り仮名としてゾーンと書き込む。

 

「このゾーンというのは、大雑把に説明すると特別に高められた集中状態を指します。状況に対する判断能力、反射神経等の身体能力の向上、それらによる総合的なパフォーマンスの上昇……。私達ウマ娘のレース以外のスポーツでも言われるゾーンというのは、こうした集中状態が本人の限界以上に引き出されている時発生します」

「このあたりが、私達のイメージしたものよね」

「そうだと思います。そしておそらくですが、この部分はウマ娘でも変わらないのではないですか?」

 

 グラスワンダーの問いに首肯する。集中する事が領域への入門におけるトリガーになっているのは、基本的に人間のアスリートだろうがウマ娘のアスリートだろうが変わらない。

 

「集中しているか否かが重要な観点である事は間違いありません。ですが同時に、私達の場合における領域がこれらとはまた少し逸脱した基準において行われている事も、ご理解出来ますね?」

「それは、まー確かにそうですね」

「走ってるときに別の場所に突然居るみたいな事になるのは、絶対普通じゃありえないですよね!」

「それどころか、私達誰がどの場所を出したか分かるんだもんね。絶対おかしい!」

 

 まったくもってその通りだ。まるでテレパシーのように相手の思考を共有して行われる領域の展開は、人間以前に色々と謎の多いウマ娘の謎をより深めている。この世界では領域という形で集中状態に入る事の出来るウマ娘が多いという点も、また少し特異を示すものだ。

 因みに、この世界でレースに出るウマ娘の内、領域を発動させる事が出来るのは全体の二割程。明らかに特別な扱いをされていた実際のウマ娘と比較すると桁違いの割合である事は間違いないが、実際の所、そこからアプリで実装されていたウマ娘に相当する密度の領域を展開出来るのは一割以下にまで低下する。大半は領域未満の領域しか展開出来ないため、結局完璧な領域の使用割合は非常に少なくなる。そもそも、G1に出走出来るポテンシャル自体が無ければその未満すら発動出来ないので、どちらにせよ特別な能力である事は揺らがない。

 そして、この謎を誰よりも正確に理解出来るのはこの場で、そしてこの学園でも私だけだろう。

 

 

「殊この部分が、ウマ娘の持つ領域の特徴ともいえます。故にゾーンとは違い、そのアプローチ法も異なってきます。領域の発動における最大の鍵……実は、その答えは皆さんにはすごく簡単なことです。ただし、集中する事、という答えでは、正解はあげられません」

「へっ?」

「……領域とは、極度の集中と意志により発生する形ある幻覚。ここで重要なのは集中している事ではなく意志の方。あなた達それぞれの本質が求める理想、その理想に裏打ちされた己の本質。そしてそれを包み込み、意味あるものへと変える集中…。それが領域の正体です」

「か、形ある、幻覚で…」

「意志と、理想と、本質?」

「視覚的に分かりやすい方が良いでしょうし、図にしましょうか」

 

 ホワイトボードの文字を消し、半分を使って改めて書き込んでいく。

 

 理想と本質の大きな円と、その二つが重なり合う範囲に領域という文字。更に周囲には関わり、練習、戦い、プレッシャーに覚悟といった幾つかの小さな円と、それら全てをまた包み込む集中の円。

 弁図と連想図の複合になるので、一見するとかなり見にくい形だ。これをどこまでわかりやすくするかは、私の語り次第だな。

 

「どうしても難しい図になってしまうので、一から見ていきましょう。皆さんが俗に言う“領域”。これはあらゆる円の中心に位置しています。ウマ娘がウマ娘として持つ力、その発動により展開される、皆さんの最終的に求める世界、言わば到達地点という事ですね」

「は、はい」

「この領域の形成において必要になるのが理想と本質。領域と直結する、根幹の部分です。まずは理想について話しましょう」

 

 余っているホワイトボードのもう一方に理想と書く。合わせる解説文には“求める力、目標や壁など”と記入。

 

「理想とは、ひっくるめて言えば皆さんの「こうなりたい」という気持ちです。目標のレース、成績がある、或いは越えたい人が居る。走るうえで最も分かりやすいモチベーションとなる部分を指します。壁や目標が典型例ですが、これは達成された場合であっても、また一つの理想の形になります」

「一度超えれば終わり、という事では無いと?」

「その通り。目標を越えたからこそ、あの人に勝ったからこそ自分はここに居る。掲げていた理想そのものに己がなる。或いは自分が新たな理想として誰かの目標を作る……それもまた理想の一つです」

 

 例として書いた人物はメジロライアン。メジロマックイーンという目標を越えるため、そして越えた後は自身がメジロ家の新たな象徴として。この世界では宝塚記念だけでなく秋の天皇賞も制覇した彼女は、春の天皇賞三連覇を成したメジロマックイーンと共にメジロの三至宝と呼ばれている。彼女を理想に走るのは、黄金世代より少し早くデビューしたメジロドーベル、メジロブライトの二人だ。名前は知っていても面識の無い人だと思うので、簡単にデフォルメした彼女も描いておく。

 

「かわいい……」

「次に本質。これは目標を掲げる事にも近いですが、それ以上に自身の在り方、ウマ娘としては、走るという事に対する心構えを指します」

「聞いている感じだと理想とあんまり変わらない気がするけれど……どう違うのよ?」

 

 即座に入るキングヘイローの指摘。うん、私もちょっと苦しいのは自覚している。だがこう書くしかないし、割と今の世界でも当てはまっているのだから仕方ない。

 

「理想を未来の自分とするならば、本質は今の自分、過去の自分です。現在までの延長線にある“私”の考え方、培った性格や好き嫌いなどもここに当てはまりますね」

 

 “自分の人生そのもの。過去や性格など”と書き込み、例にはサイレンススズカを記す。ぼそりとスペシャルウィークがスズカさんと呟いた。

 

 走る事、その先に見える景色を求めるのは、彼女自身が走るという事を楽しみ、愛しているから。クラシック戦線を終え、シニア期に向け牙を研いでいる彼女が、本質が一番強く滲み出しているウマ娘だ。

 翌年迎える秋の天皇賞がどうなるかは私にも確実なことは言えないが、トレーナーと共にいれば、その運命はきっと変わるだろう。もし不味そう時は私も出張ってなんとかしてやるつもりだ。

 

「この両者が領域を形作るものです。ただ、領域の発現においてそのバランスが安定していることが重要な点で、どちらかのバランスが崩れていると領域は出ない、あるいは不安定なまま出力されてしまいます」

 

 ウマ娘の中で言えば、理想に押し潰されかけていたのが先の例に出なかったメジロパーマーだ。メジロライアン達との切磋琢磨に強い刺激を受け、春秋グランプリ二年連続連覇といったはちゃめちゃな結果を残した彼女も、トゥインクル・シリーズの中で新たな自身の在り方を見つけ出すまで、良家の令嬢として生まれた故の重圧に苦しめられた。

 一方、本質が強かったウマ娘としてはマヤノトップガンか。その才能が故に目標が無い、目標が無い故に走る事に意義を見いだせない。彼女の場合は比較的早くにトレーナーと出会えたお陰で素行不良として扱われずに済み、三冠ウマ娘にして現生徒会副会長、ナリタブライアンと今もレースの度に大激戦を繰り広げている。

 

 この他、まだデビューしていない子達で言えば前者のパターンがエアシャカールやアドマイヤベガ、後者のパターンではアグネスデジタルなどが当てはまる。

 

 

 ……ただ、本質の部分にはこれだけでなくどうしても前世、つまり競走馬としての部分も色濃く、むしろそこが中心となって出てしまう。「この世界でのみ」を存在の基点とするウマ娘達の領域が“うすい”のもこれが原因だ。

 己の根幹を成すもの、という要素には、そこに一度の生だけでは説明が出来ないものが混ざり合っている。

 

 今回は皆納得してくれたが、かつての姿での走りが受け継がれるという部分が一番であるという推測が私の考える領域論であるために、上手にそれを誤魔化しながらの説明は結構難しい。

 

「二つの周囲に書いたものは、これらと同じでありながら、同時にこれらと独立した位置に置く方がよいものになります。自分を支える誰かや、自分の力を伸ばす鍛錬、己が理想を叶える為の覚悟など。意識しているものが強い場合は、領域を形作るさらなる要因として置く方が分かりやすくなります」

 

 一つ一つ書いていては手間なのでその他とし、“細やかな要因達、幹を支える根の一部”と付け加える。

 例に挙げたのはミホノブルボンとライスシャワー。三冠の為気狂い染みた鍛錬を行い、無敗のまま二冠を、その後に取れなかった三冠に代わり秋シニア三冠を達成したミホノブルボンと、彼女に勝ちたいが為菊花賞にて鬼となり、その後春の天皇賞を回避し大阪杯へ、翌年四連覇を目指したメジロマックイーンを下したライスシャワーは、そのまま春シニア最後の一冠である宝塚記念を制し、真に世間が認めるヒーローとなった。二人は今も切磋琢磨を続け、互いの持つ称号を己も取るべく奮闘している。

 彼女達などは、特に鍛錬や覚悟といった要因が突出している模範例だろう。

 

「これら一連の全てを包み込むのが集中。レースの中で誰もがまず念頭に置く領域のトリガーであり、また展開する領域の精度を高める一番わかりやすい部分でもあります。これは言い換えれば、集中状態によっては相手の領域に精度で負けていても、十分な効果をもって走れるという事でもあります。部屋の片づけと言って押し入れにものを詰め込んでも、戸を閉めてしまえば外は綺麗に出来てしまうのと同じです」

「本当にその例えでいいの?」

 

 残る余白に集中と記入、“領域を使用するためのトリガーであり、精度を高める意味でも重要”とする。

 恐らく、領域を完全に展開出来なかったグラスワンダーらが好走を見せる事が出来たのも、これによる影響が大きいだろう。内のバランスが崩れていても、外が上手く保たれていた為に一先ずなんとかなってしまったのだ。

 

「自分自身の気持ちを理解する事。領域所有者の多くは、自分の領域に名前を持つ事が多いです。ただ、これは本人がその名前を付けているのだと思われがちですが、実はそうではなく、完璧な領域を発動した時点でその名前が自分の作り上げた世界の名なのだと理解するのです。シンボリルドルフさんであれば『汝、皇帝の神威を見よ』、マルゼンスキーさんであれば『紅焔(プロミネンス)ギア/LP1211-M』と言った感じに」

「そうなんだ…。私は分からなかったべ……」

「エルはちょっとだけわかりマース! 『プランチャ☆』デシタ!」

「名前が分かる段階まで来ているならあともう一歩、ですね。不完全でも領域の展開に成功したのなら、次のステップは己の領域の名を知る事となります。なので、本人がつけたものじゃない事はあらかじめご理解しておきましょう。人によっては名前を恥ずかしいと思っていたりする可能性もありますから」

「あ、そういう子居るんだ……」

 

 具体的にはナイスネイチャなどがそうである。普段から自分が熱血な子に見られないよう気にしている彼女が、『きっとその先へ……!』という実に熱い感情を領域に隠している、と知られた時の羞恥の絶叫はレース場に響き渡ったほどだ。菊花賞にて発現した領域を胸にトウカイテイオーを下し、シニア一年目の有マ記念にてもう一度自身の勝利を噛み締めた彼女は今、毎年のように同レースに出走し続けている。連続出走記録という珍記録が今もなお更新されているのは、なんだか感慨深い。

 

 因みに、アプリ版ニシノフラワーの育成イベントにて固有スキルは宣伝用のイメージ映像であるという風に言われていたが、この世界ではそんな事もなく、展開した際のものをそのまま再現してもらったり、逆に自分を表す映像のリクエストをした結果、後で同じだったことが分かるというパターンになっている。

 領域“が”寄っているというよりも、領域“に”寄っているといった方が自然なわけだ。

 

「というわけで、図の簡単な説明はこんなものです。質問はありますか?」

「んーと…、一ついいですか?」

「なんでしょうツルマルツヨシさん?」

「集中状態に入る事で領域が出て、しかもその精度を左右するんですよね? スタートワンさんも、重要だって言いましたし」

「ええ、その通りです」

「でも、集中が最終的な精度を決めるんじゃあ、理想と本質ってどういう風に必要なんですか?」

 

 ふむ、まあ自然な質問だ。あれもこれも大事なのではどれが重要などと分ける意味もないし、結局集中が状況を左右するのでは、そこが大事なようにも聞こえるだろう。

 

「そうですね…。領域は一度使用出来れば、後はどこまで自分の領域を完璧なものにするかというのを突き詰めていく事になるので、最終的な結論で言えば、ツルマルツヨシさんの質問の通り、外側たる集中力をどれだけ高めるかを重要視するというのもまた一つの答えとなります」

「やっぱり、そうですよね」

「ええ。しかしここまで聞いたのなら、それではいけないのだという事と、何より皆さんはまだそんな事を考えられる段階に居ない、という事は理解していますね」

「それは、まあ…」

 

 完成ではないからこそ、こうして私に聞きに来たのだから。

 

「集中する、というのはいわば最終段階、全ての準備を整えた中で最後の一押しをするためのものとなります。理想を掲げ、本質に向き合い、そして集中し全てを高める。レースというのは誰もが全力で臨む場。あなた達がそうであるように、相手も高い集中力を持って走ります。磨き上げられた玉同士がぶつかり合う時、相手を打ち砕くのは外だけでなく内側が硬く結びついた、より密度のある方…でしょう?」

「…………はい」

「なにより、利点もあるんです。敵を知り、己を知れば百戦危うからず。レースの出走者の情報を事前に調査するのは当たり前の事ですよね? なら、自分の事を知っているのも当然の事。自分の在り方を知る事で、自分の武器(勝ちたい理由)を理解する。それは領域への入りやすさにも繋がり、発動確立も、その効果も上がっていきます」

「そんなにも変わるんですか……」

「ええ。後でどうとでもなる後者と違い、前者は早期に完成させておく方が良い。故に領域について語る上で、私は理想と本質を重要な位置に置きました。ご理解いただけましたか?」

「……なるほど。ありがとうございます」

「ややこしいうえ長い話なので分かりにくいとは思いますが、とりあえず、聞くだけは聞いてみてください」

 

 そうだな、私も少し脱線気味だった。彼女達が何よりも聞きたいのは発動の方法であって、領域そのものの事ではない。

今のところは全員ちゃんと聞いてくれているが、勉強が苦手な子もいる分、結論は早めに提示する方がいい。

 

「そうですね、良い質問が来たところなので、皆さんの求めている領域の発動について話してしまいましょうか」

 

 私の言葉を受け、六人が俄かに色めき立つ。ここを求めていたのだから当然か。

 ……ちょっと申し訳ないな。説明の順がややこしくなったのも、これからの話も。

 

「……とは言いますが、実はこれについては、私も細かい事は言えません」

「えっ、そうなんですか!?」

「と言いますのも、私の場合領域の取得における経緯があまりに特殊過ぎて、説明を聞いても納得出来ない事が多いと思うからです。皆さんは、私の走りについて聞いたことはありますか?」

 

 その一言の直後、室内の空気が分かりやすい程に固くなる。全員の視線が迷い、誰か代わりに言ってくれないかというアイコンタクトの応酬が繰り広げられているほどだ。

 うむむ、我がことながら、何とも罪作りな力だことで。軽くフォローしておこう。

 

「大丈夫ですよ。その呼ばれ方には慣れていますし、呼ばれるだろうことも覚悟の上でしたから」

「…………死神の走り。だったわよね」

「ええ」

「皇帝に次ぐ圧倒的な実力と、あまりに恐ろし過ぎる領域。対戦者の心を完膚なきまでに砕く姿から、皇帝を狙う暗殺者、強者を狙う死神……そう呼ばれているって聞いたわ」

 

 意を決したキングヘイローの言葉に苦笑しながら頷く。昔は「挑戦者」とか、もっと可愛らしい呼び方だったんだけどなあ。

 ホワイトボードを裏返し、裏面に新しく文字を書く。

 

「領域は主にG1のような極めて集中力の高まるレースで発動される印象が強く、また事実としてそのパターンが最多例となります。しかしG2以下の重賞、あるいは未勝利戦ですら発動したという例も多く、必ずしも限定された状況でなければ使えない、という事はありません。私達が幻視する各々の世界のように、領域にも種々の在り方が存在するのです」

 

 書いていくのは三つのチェック。それぞれにタイプ1、2、3と書いていく。

 

「私はそれを大きく三つの種類に分けています。一つは発動率の高い自主発動型。マルゼンスキーさんが典型的で、自身の内に潜る事で能力を高める効果を持つ領域になります。二つ目が周囲の状況によって発動する環境型。シンボリルドルフさんの領域はこれに該当し、発動がある程度状況に左右される代わりに、発動時点で桁違いの能力を発揮させる事が出来る領域です。そして三つ目が完全無作為型。上記二つとは違い、何かしらの条件を整えると本人の意思とは関係なく発動する、領域の中でもちょっと困った力です。使用者の意思では制御が非常に難しいのもこのパターンの特徴であり、私の領域はこの三番目に該当します。そして――」

 

 三つ目の領域の例として私の名前を書き、そこに『EXECUTE→Don't Stop RUN(私の領域名)』を書いていく。

 

「今後持つ人が現れないであろうレア中のレア、本人を含む完全無差別型の領域。私ごと敵の心を削っていく、破滅を求める悪夢の世界……それが、私の領域です」

 

 

 

 

「おかしいですね。予定では全員から「そんなレアものあってたまるか」というツッコミが入る予定だったのですが」

「今のどこにそのツッコミを入れられる余裕があると思ったのですか?」

 

 うーん、捕らぬ狸の皮算用になってしまったか。




実はこの蛇足話元々二話構成で、文字数が多くなり過ぎた結果三話構成になりました。一話目が変なところで途切れているのもその所為だったりします。
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