G1目指して頑張ります   作:あかし/さんさい

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EX3:スタートワンの領域講座③ 聴講者:黄金世代

 領域とは、自分が求めるものを一つの形にしたもの。

 だからこそ、自分の望みを理解している事が領域の発動のきっかけになる。

 

 そのルールに当てはめた時。私の領域はちょっとばかり当てはめに苦労する。

 

「この領域は、私がレースに出る前ではなく、走る事を覚える前から。おそらくは、私がこの世に生まれ落ちたその瞬間から持っていたものになります」

「そ、そんなに前から?」

「多分ですけどね。分かっている段階では幼少期、保育園などに上がるような年には領域の存在を自覚していました。どうやら私の領域はかなり集中力の乱れた状態でも安易に発動してしまうようで、今でもたまーにうっかりして、ぽろっと出かけるんですよね」

「そんなつい忘れ物しちゃった、みたいに言われても……」

 

 既に説明をしたはずのトレーナーでさえ、改めて話されて少し唖然としている。発動のしやすさは本来利点が多いのだけれど、その基準があまりに緩過ぎるとこういった弊害も起こるらしい。

 

「幸運だったのは、初めての発動時に私自身しか居なかった事。恐怖を与える対象が居なかったおかげで受けるダメージが最小限に済み、そこで私は自分の内になにかの力が宿っている事に気付きました。当時は時折無意識に発動してしまう事があり、今でも警戒は続けなければいけませんが、余程別の事に意識を割かない限り開閉強弱(オンオフハイロウ)、自在に操る事が出来ます」

「……え? ち、ちょっと待ってください。受けるダメージが最小限、ってことは」

「あら、鋭いですね。推察通り、私の領域は無差別であると同時に、そこに私しか居なくても必ず発動します。そして発動すればフィードバックも必ず発生する。実質的には、私自身に向けた領域なんです、まあ、その場合は精々身体が震える程度ですがね」

 

 使い勝手最悪の意味はここに一番深く表れている。私自身のものにも関わらず、まともに言う事を聞かないとんだじゃじゃ馬っぷりだ。言い換えれば、私は領域を直ぐに発動出来る程度には常日頃から高い集中状態を維持しているという事でもある。本当にそうなのかは私自身にも分からないが。

 

 まあ要するに、私の領域は常日頃から勝手に発動している。発動する為に試行錯誤している彼女達と反対に、周囲に領域を撒き散らさないように意識的に枷を嵌め、制御する必要がある。

 やっている事が真逆の為、概念を教える事は出来ても取得のアドバイスはあまり得意じゃあない。なので一旦別の人に教わってほしいと言ったのである。

 

「な、なんなんデスか、その訳の分からない性能……」

「さあ、私も未だ正確には分かっていませんので。さ、私の事は蛇足になるので、一旦ここで止めておきましょう。それよりも重要なのは、発動についての方です」

「え、そこまで聞かされてセイちゃんたち投げっぱなしですか?」

「聞いたところで皆さんがどうなるという事はありませんからね。精々私が手札を知られて困るだけですから」

「その手札、私達に知られても欠片ほども痛くありませんよね……?」

「正解です」

 

 例え耐えようと防げなければそこで終わり、無効化出来た者はそもそも私を歯牙にかけるレベルの実力ではない。そして『EXECUTE→Don't Stop RUN』はシンデレラグレイのように、条件を満たさないようにして強制的に発動をストップさせるなんて手が一切効かない。使えば詰みの、言葉通り必殺の一撃なのだ。

 

 尚、詰みには相手が負けの時と私が自滅の時の2パターンある。どちらに転んでも必(ず)殺(す)なので、注意は必要だ。

 

 

 あまりの情報に頭を寄せ合って何かを話しあっている黄金世代に、手を叩いてその秘密の会議を終了させる。セイウンスカイがソファから降りて参加しているくらいだから、やっぱり六人そろって仲が良いんだな。

 

「ほらほら、そうやってあれこれと話し合っている時間はもったいないですよ。発動について聞く気は無いんですか?」

「あっ、すいません!」

「いやー、あんまりとんでもない話が出てきたものだからつい」

「言っておきますと、私の領域は間違いなく特例中の特例の筈なので、前例にはなれど後続が出る事はほぼ無いと考えておいてください。仮に出たとしても、その頃には学園の生徒は一人残らず入れ替わっていることでしょうから」

「ええ……?」

 

 まだ聞きたい気持ちがあるのか、若干ながらしぶしぶと話を聞く体勢を整える彼女達。それを無視して、説明を続ける。

 

「私の領域取得と発動はあてにならないので、別の人を例とします。領域の発動における好例としては……まあ、シンボリルドルフさんを挙げるべきでしょうね」

 

 ホワイトボードに彼女のイラストを描いていく。

 

「己の出自からなるすべてのウマ娘を幸福に、という信条。そして信条を達成するための弛まぬ鍛錬。両者からくる自信、レースに臨む集中、手に入れた領域をたった一度で完全にものにする才能……。理想、本質、集中。全てをトップレベルに、そしてバランスよく整えるシンボリルドルフさんは、間違いなく日本はおろか世界でも有数の天才と言って良いでしょう」

「流石シンボリルドルフさんです!」

「とはいえ、彼女の場合あまりにコンスタントに領域へ到達しているので、逆に取得の難易度が分かりにくい面もあるんですよね。そういう意味ではあまり例として適切ではないところもあります」

「何で同年のクラシック世代が揃ってそんなに特殊なんですか」

 

 私にも分からないんだな、これが。

 

「しかし、不要な情報が適度に削ぎ落されている分原因の究明は非常にやりやすいでしょう? ほら、領域の発動における必要情報は全て先にお話ししたもので説明がつきます」

「……あー、本当だ」

 

 シンボリ家の出身として過ごした時間とそこで培われた信条は、共に掲げた理想とその理想を追う本質の関係になる。それが鍛練をはじめとする多くの要因で錬磨され、最後にレースの中で引き金を引くことにより、領域へと至る……。

 彼女の領域発動までのプロセスは、無駄が無いからこそわかりやすく、そして簡単に突き崩せない頑強な世界を作り出す。

 

「領域の発動に必要なのは、自分自身は何者なのかを知っている事、自分が目指しているものは何なのかを知っている事、そして、合わさった二つを極限の集中状態によって走るエネルギーへと変換する事」

「…………。」

「集中する事、走る事はその理解へのトリガーでしかありません。恐らくですが、領域とは私達ウマ娘が本能的に持つ何かの力の一端なのでしょう。その力の存在を理解したとき、私達はそれを使う事が出来る。だから私のように、レース中じゃあなくても使用する事が出来るのだと考えています」

 

 その力の名前は、多分ウマソウルとかいう面白いネーミング呼ばれたりするのだろう。

 

「ここまでは私の憶測を主にして話してきました。しかし、これだけは絶対に確実だという事が一つだけあります。……領域とは、願えば手に入るものではありません。しかし望んで無理に手を伸ばしても届かない」

 

 六人の内、私から一番近くの椅子に座ったスペシャルウィークの下へ歩き、彼女の額にとんと指先を当てる。

 

「己が頭で求めるものを考え」

 

 スライドさせ眉間に、

 

「目で周りを認識し本当にあっているのか考え直し」

 

 口許に、

 

「言葉にして二度と忘れぬよう刻み込み」

 

 胸の中心、心臓に。

 

「全てを背負って、走る。領域とは、これまでのあなたが育んできた未来のあなた。それを求め、奮起する者の下に、必ずやってくるでしょう」

「……!」

 

 彼女から指先を離し、全員を見る。この部屋へ入ってきた時と比べ、少しだけ目の光が変わった、未熟で精強な若人達。その姿に、思わず笑みが溢れてくる。

 

「皆さんはデビューして直ぐの新人です。今はまだ、自分の思い描く自分がはっきりしていない、もしくは、求めるものに対して自分が信じ切れず、あと一歩を踏み出せないでいるのでしょう。その一歩の為に、今一度自分や自分の周りを見てみるのも良い事だと、私は思います。案外、きっかけは直ぐ近くにあるものですよ、暖かいベッドとか、美味しいごはんとか、共に競い合う親友でライバルとか――自分だけを見てくれた、自分だけのトレーナーであるとか」

 

 最後はぼそりと言ってみると、全員が一瞬視線を虚空へ彷徨わせ、そして頬を赤くする。うんうん、それでこそ『プリティーダービー』だ。

 

 再度手を叩き、どこかぼんやりしている六人の意識を覚まさせる。

 

「さ、これで私の講義はおしまいです。具体例よりも概念とか抽象的な説明が多かったので、効果があるかは分かりませんが……どうですか? 何か糸口は掴めましたか?」

「……はい。多分ですけど、分かった気がします!」

「そうだねー。ちょっとだけ、セイちゃんも本気になっちゃおっかな?」

「未だ見えぬ道の先…ですが、少しだけ、光を感じとることは出来ました」

「エルも、このままトレーナーさんとどこまでも飛んでいきマース!」

「……このキングに、相応しい未来ね。いいわ、目指してやろうじゃない、どこまでだって……!」

「私だって、絶対ぜったい、トレーナーさんと勝ち続けますから!」

 

 彼女達の輝く笑みを共にした返答に、此方もまた笑みが零れる。

 ああ、来年のクラシックが、本当に楽しみになるなあ。

 

「なら、よし。あなた達の歩みが、数え切れぬ幸福と共にある事を願います」

 

 

 

 六人が部屋を去った後、また二人でのんびりとお茶を啜る。

 すっかり冷めてしまった残りのお茶を飲み干し、おかわりを注いでいると。

 

「……理想と、本質、ねえ」

「彼女達に語ったことは、間違いではありませんよ。少なくとも、この学園の領域保持者に関してはほぼ全員に当てはまります」

「……お前のそれは、何が基になってんだろうな」

「何事にも、例外はあるものです」

 

 彼に返すのは苦笑い。というより、二人そろって困ったような笑みを浮かべている。

 

 仕方ないだろう。『EXECUTE→Don't Stop RUN』の理想や本質なんてもの、軽率に人に聞かせられるものじゃあないのだから。

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