G1目指して頑張ります   作:あかし/さんさい

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31 周回遅れの初詣

「そういや」

「そういや?」

「初詣、結局行ってねえな」

 

 弥生賞から少し日を置いた、週末のトレーナー室。

 皐月賞も近いと言えまだハードトレーニングには戻せない為、昼頃には終わる軽めのトレーニングを終えて機材を片付け戻ってきた頃に、突然彼がぽつりと呟いた。最初は意味を測り兼ね、それから少し考える。

 初詣、と言えば……。

 

「ああ、年明けは家に直帰させられましたね。そういえば」

「あれからもう三ヶ月も経っちまったからよ。流石に年度末まで放置するとは思ってなかったんだがな」

「まあ、確かに。弥生賞に出るに当たって、使える時間は全部トレーニングに次ぎ込みましたからね」

 

 初の重賞制覇の為手を抜けないというのもあったが、この年始から年度末までの間に、鍛えられるだけ身体を鍛える必要に駆られていたというのもある。何せ学年が一つ上がった直後には皐月賞が、そこから一ヶ月もすればダービーが待っている。時間的猶予が一番多いのがこの期間だった。

 

「しかし、もう三ヶ月以上経つのに初詣は意味が無いのでは?」

「今からじたばたしても意味がねえしな。願掛けくらいやっておいてもいいだろ?」

「……それで素直に願いを聞いてくれるとも思いませんけどね」

 

 この世界で生活する以上必要だからと各歴史は大体頭に入れている。そしてこの世界におけるレース史でも元の世界でもそうだったが、競馬に関わる神は展開を面白くするためならばどれだけでも鬼畜になれる思考を持っているらしい。願掛けなどに行ってしまえば、祝福の代わりに死んだほうがましな呪いでもかけてきそうですらある。

 

「あんまり嫌そうならやめておくか」

「行かないとは言ってないでしょう。三女神じゃなくて、勝負事の神様ならまだ融通が利くかな、と思っただけです」

 

 ま、どうせ今日の予定は終わっているのだ、空いている時間に出掛ける程度なら問題もあるまい。

 

「ところで、勝利の女神と三女神はなんで別々の担当なんでしょうね? ウマ娘にとっての神様が三女神なら、レースの神も三女神になりそうなものですが」

「……そういやそうだな。だが、ほら、学問の神はいても学業成就のお守りは大体どこでも売ってんだろ? あんな感じなんじゃね?」

「……神様のルールってよくわかんないですね」

 

 マチカネフクキタルなら神社の娘だし分かるのだろうか。……ご利益がありそうならなんでもいい彼女の場合だと、分からなそうだな。

 

 

 大國魂神社。

 学園の直ぐ近くにある神社で、なんでも西暦100年頃に武蔵の国を開いた、大國魂大神という神様を祀っている神社らしい。由緒があるどころか境内も相当に広く、いかにも並の神社以上のご利益がありそうな雰囲気がある。まあ、全てトレーナーと行く事を決めた際に検索した情報の受け売りなのだけど。

 

 そう、この神社、多分だがアプリでの育成でお出かけする際見られる神社に行くイベントでモデルになった場所だ。境内の写真を見ていた時無性に見覚えがある建物があり、ほぼ忘れかけていた背景のイラストを思い出す事が出来た。

 自主練習などで学園の周りを探索する際も近場を何度か通ったので、その存在は知っていた。中々行く予定が無かったので今日まで参拝することは無かったが、まさかこんな直ぐ近くに出掛けていたなんて。

 

「さ、行きましょうか」

「おう」

 

 外出の準備を整えてトレーナー室を出発。校舎を抜けて校門まで向かうと、

 

「ん? おや、スタートワンじゃないか」

「シンボリルドルフさん。それに、トレーナーさんも」

「こんにちは二人共、これからどこに?」

 

 待ち合わせでもしていたかのように仲睦まじい様子で歩いていた二人は、私達を見つけると嬉しそうに近づいてくる。邪魔にならないように通り過ぎようかとも思ったが、彼方から声をかけてこられたら対応せざるを得ない。

 

 今日は合同トレーニングの無い日だったのだが、まさかこのタイミングで会う事になるとは。

 

 先に私とシンボリルドルフが挨拶を交わすと、彼女のトレーナーが続く。質問付きのそれを、トレーナーが軽く指で行先を指しながら返した。

 

「そこの神社にな。初詣行ってねえからよ」

「そこの、というと、大國魂神社にか?」

「ええ。お二人は何処に?」

「……私達も、丁度そこに行く予定だったんだ。初詣には行ったものの、あまり時間を取れなかったからね」

 

 おや? これは。

 

「となると、願掛けでもしにいくのですか?」

「ああ、もう一月もしないうちに新学期が始まってしまうし、余裕があるのは今くらいだ。どうだろうか、予定も同じことだから、一緒に行かないか?」

「私は構いませんよ。トレーナーさん、どうでしょう?」

「聞かなくてもダメとは言わねえよ」

「だそうです。一緒に行きましょうか」

「ああ」

 

 と言うわけで、四人連れ立って神社へ赴く事に。仮にも揃って重賞勝利しているからか、街行く人の視線は決して少なくない。しかし、声をかけてきたり写真を撮ろうとする人はまず居なかったし、居てもトレーナーが真っ先に対処してくれた。マネージャー的な業務もこの仕事に入っているためか、二人の心遣いには頭が下がる。

 

「っと、言い忘れていたね。弥生賞勝利おめでとうスタートワン。君ももう重賞ウマ娘だね」

「ありがとうございます。私も皐月賞目指して頑張りたかったですから」

「ふふ、その時を楽しみに待っているよ」

 

 G2の称号だけというのも少し寂しい。皇帝から奪い取った星は、私の胸でさぞかし輝いてくれる事だろう。

 

 っと、しまった。こっちも忘れていた事がある。

 

「私も言い忘れていました。もう過ぎてしまいましたが、お誕生日、おめでとうございます」

「! 知っていたんだね。話した記憶は無いのだが」

「やや偶然ではありますが、知る機会がありまして。生憎と練習三昧だったものですから、プレゼントなどは用意出来なかったのですが」

 

 勿論嘘だ。彼女の誕生日である3月13日は弥生賞の大体一週間後になる事が多いので覚えやすく、ちょっと意識していただけである。

 学園の公式書類に乗っている情報なので調べればわかる事だが、実はこの学園だと誕生日に関する情報はそこまで重要な扱いをされる事が無かったりするので、意識して聞かないと殆どの子は誰も教えてくれない。

 なにせ学園に所属するウマ娘だけでも滅茶苦茶な人数が居て、大体が冬から春先の誕生日。数ヶ月の間毎日のように誰かの誕生日が来るので、それこそ寮の同室のような極めて仲が良い相手でもない限り、学園ではあまり誕生日を祝うという習慣は薄かったりする。精々がこうして口頭で祝う程度だ。

 

 そういえば、その誕生月に関する話で少し面白い話がある。日本のウマ娘は異常と言ってよい程春先に生まれる者が多いのだけど、ウマ娘が春以外の季節に生まれる事は非常に稀な事らしく、仮に生まれたとしても全て年明けや初夏に纏まる事が多い。更に言えばこの傾向は南半球と北半球で逆転する関係にあり、例えばオーストラリアなどのウマ娘は秋頃に生まれる者が多い。

 恐らく競走馬、というより馬の生態特徴や繁殖期のシステムがウマ娘に受け継がれている為に起こる事なのだろう。この世界ではウマ娘は同じウマ娘から、稀に人間からも生まれるが、先述の事からそれ以外の季節に生まれる子は人間だけだ。科学的な実証が出来ない為に研究はあまり進んでいないが、一部の学説ではウマ娘は人間より環境に左右されやすい発生条件を持っているのではないかと言われている。事実を知っている身としては面白くもあり、そうなるかともなり。ちょっと複雑な感情を覚える。

 

「いや、構わないよ。学園ではトレーナー君とマルゼンスキーくらいしか知らないから、君に言われた事自体がサプライズのようなものだ」

「なら良かったです。そろそろ学園でも同じように誕生日を祝う声が聞こえ始める頃ですね」

「そうだな…、そういえば、スタートワンの誕生日はいつなんだ? 聞いた記憶が無くてね」

「調べれば直ぐに出ますよ。もう一月も無いくらいです」

 

 誕生日を教えると、彼女は覚えておこうと微笑む。ウマ娘としてはいかにもどんぴしゃの時期に生まれた事にしているので、逆に馴染んでいるのではないだろうか。まあ、当日は彼女が何かしら祝いの言葉を言ってくれるのを楽しみにしておこう。

 

 

 ……しかし、彼女とは去年もこうして不思議なタイミングで会う事があったな。案外、変な縁でも出来ていたりして。

 などと思っていたら、隣を歩くシンボリルドルフが我慢出来なかったかのように笑い出す。

 

「ふふっ、なんだか、去年の事を思い出すよ」

「前言っていた、スタートワンとの出会いか?」

「ああ。クラスも違えば立場も違ったというのに、不思議とスタートワンとはよく会ったものでね」

「付き合いが長ェとは言ってたが、そこまで唐突に会ったのか?」

「入学直後は何かと偶然出くわす事が多かったですからね。あれがあったからこそ、こうして私達が関わるようになったとも言えますが」

「確かにそうだ。合縁奇縁、あの頃はただ目的の為入学したに過ぎなかった筈なのに、今ではレースの時が来るのを楽しみに思う自分が居る。それだけじゃあない、私の周りに、私が思っていた以上の人が集まってくれている」

 

 笑みを湛えながら、彼女は私の方を向く。いつもなら凛と響くような声音の彼女から、今は花が開くような温かさが漏れ出していた。

 

「君のおかげだ、スタートワン」

 

 ……私の知る『絶対の皇帝』とは違う、充実した学園生活。ちゃんと送れているんだな。

 それは良かった。本当に、好かった。

 

「良い刺激になれているのなら、こちらとしても光栄です。ですがレースはレース、あまり現を抜かしていると、その寝首、掻かせて頂きますので」

「勿論。私が不甲斐ない姿を見せているようだったら、遠慮無く追い抜いて行って欲しい。……見せているようなら、だけれどね」

 

 あまり感謝され過ぎても私が困るので、ある種の嫌味を言ってみたのだけど、ものの見事に意趣返しをされてしまう。そういう所はやっぱり『シンボリルドルフ』なんだなあ。

 

「……お前らなあ、のほほんとした空気出すのかぎらつくのかどっちかにしろ」

「まあまあ。これが二人の距離感なんだろうさ」

 

 のほほんとはしている。ついでに互いの交戦意欲を高めているだけだ。

 

 呆れ顔と苦笑いのトレーナー達に、私とシンボリルドルフは互いを見ながら微笑んだ。

 

 

 予定を急ぐ意味はないが、時間をかける意味も無く。

 

「トレーナーさん、鳥居をくぐる前にはお辞儀です」

「あん、そうだったか?」

「よく知っているねスタートワン」

「行くに当たって調べましたし。というか、トレーナーさんが忘れるのが早すぎるんです」

 

 私達は境内へ入ると共に参拝の手順通りにお参りを行う。手水舎で手を濯いで、参道を通り拝殿へ。

 

「……百円しかねえ」

「別に悪くはないと思うが……」

「気持ちの問題と言いますから。なんなら紙幣でも」

「硬貨じゃあだめという訳でもないのだから、自分の願いに合わせた額で良いと思うよ」

 

 お財布から十円を取り出してお賽銭箱に入れる。トレーナーは百円、シンボリルドルフは十円を三枚、彼女のトレーナーも同様に十円を三枚お布施した。

 

 それから四人で並び二礼二拍手。胸の内で願う事はシンプルだ。

 叶えてさえくれるのなら、私の目標は何時になっても構わない。

 

 願わくは、この身体持つ限りシンボリルドルフと、死力尽くす戦いが出来る事を。

 

 暫くの間無言の時間が続き、各々のタイミングで合わせていた手を離す。そして再度一礼し、本殿を後に。

 

「二人は、何を願ったんだ?」

「ええと、そうですね……」

「ふふ、それを言ってしまっては意味が無いだろうトレーナー君」

「スタートワン、言わねえ方が良いぞ」

「……そうですね。すみませんが、今回は秘密に」

「それもそうだな。すまない」

 

 シンボリルドルフ達に止められ引き下がる。別に言っても言わなくても変わらない程度のものだったので気にしなかったのだけど、まあ、彼らの言を聞かない理由もない。

 

 という訳で、本来の予定は終わったわけだが。

 

「学園も近いですし、かなり早くに終わってしまいましたね」

「そうだな、流石に少し時間も余っている……おや。そうだな、スタートワン。あそこのおみくじなんて引いてみないか?」

 

 籤…か。ふむ、願掛けが届いているのかも気になるし、ちょっとした運試しには丁度良いかも知れないな。

 

「悪くないんじゃないですか?」

「ふふ、だろう? トレーナー君もどうだい?」

「トレーナーさんもどうです?」

「……いや、お前らだけで引いとけ」

「俺もいいかな。二人で引くといい」

 

 引き下がってしまった二人に少しもったいなさを感じながらも、私達は籤の置いてある場所まで行き籤を一枚ずつ受け取る。

 さて、運勢は如何程のものか……。

 

「これは! 見てくれトレーナー君、大吉だ!」

「凄いじゃないか! 内容は…、案ずるより動くが吉、迷わず前進、思い強ければ叶う」

「ふふ、思い強ければ、か」

 

 嬉しそうに結果をトレーナーへ見せるシンボリルドルフ。彼方の成果は上々。

 一方此方は。

 

「どうだ?」

「……末吉」

「……何々、焦って前だけを見ると躓く、望むものは身近にあり、注意せよ…だとよ」

 

 今後に不安の残る内容の籤を出されてしまった。というか、なんで内容がシンボリルドルフと微妙に対照的なんだ。

 

 こんな結果でいざクラシック、は流石に遠慮したい。

 

「引き直し」

「……は?」

「引き直しを要求します」

「ひ、引き直すのか?」

「いやまあ、確か悪くはなかったと思うがよ……」

 

 三人の反応を尻目に、再度お金を払って籤を受け取る。今度こそは多少いい結果に…………。

 

「……凶」

「……焦りは失敗を重ねる、不安あるなら一度立ち止まること、無理に走らない」

「……なっ、何が走らないですか、これからレースに出るというのに! もう一回! もう一回ですっ!」

「やめた方が良いんじゃねえか?」

 

 トレーナーの言葉も聞かず更に一枚。苦笑いの二人も気にしない。

 次だ。次こそ大吉とは言わずとも、せめて中吉くらっ……!!??

 

「だ、大凶……!?」

「えっ、この神社大凶があるのか!?」

「あー…っと。焦るな走るな、とにかく落ち着け、だって」

「だから走らないとレースに出れないでしょうがっ!」

「バカ野郎地面にたたきつけんな! 目立ってんだよさっきから!」

 

 こんのっ、なんで籤如きに諭されにゃいかんのだ! 私を荒れさせてるのはそっちの方じゃないか! しかも内容が若干補完関係にあるのもまた腹立たしいし! なんでどれもこれも最初に焦りについて言及してるんだ!

 

 ああもう、何なんだ今日の運は!?

 

「ふぅーっ、ふぅーっ……!」

「どうどう。スタートワン、そうかっかしては運も何もないだろう。ほら、くじを結びに行こう、そういう悪運は、ここで消化していくのが一番いいだろう?」

「ぐっ、んん……。そうですね」

 

 ここまで貶されると一周回って気持ちも落ち着く。こういう悪運を思わせるものは早めに結んでしまって、ちょっとでもよい事が巡ってくるようにしておこう。

 

「それにしても、まさか大凶とは……。念のために言っておくが、お祓いなどは必要か?」

「…運の悪さと悪いものが憑いている事はまた別じゃないでしょうか? お祓いをするにしても、今日明日でいきなりという訳にもいかないですし」

「それはまあ、そうだが」

「何かあれば自分である程度対処できますから、一先ず様子を見ておきますよ」

「何かあった時はちゃんと言ってくれ。私も少しなら力になれる筈だ」

 

 ウマ娘なので物理的な現象への対処能力は高いし、一部のウマ娘達に起きていたような不可思議現象にも現状ほぼ遭遇していない。敢えて言うなら私がウマ娘になった事が一番不気味な事態なので、そういう事に対する耐性も否応なしについてしまっている。

 まあ結局は運の問題なので、この一年は心を引き締めて乗り越えるしかないだろう。

 

 籤の結び場に到着し、さてそれを結んでしまおうという所で、

 

「ああ、そうだった。ちょっと待ってくれないか?」

 

 突然シンボリルドルフが制止をかけ、籤を手にスマートフォンを取り出す。

 

「何かするんですか?」

「ふふ、ちょっとこれを……」

 

 画面を滑らせた彼女はカメラ機能をオンにし、そのまま内カメラで自身を写す。籤の結果を見せて……ああ、自撮りか。

 

「シンボリルドルフさんも自撮りをするんですね」

「ん? ああ、この間、マルゼンスキー達に更新用の写真くらい撮ったらどうかと言われてね。実はここに来たのもその話で見せてみてはどうかと提案されたからなんだ」

「更新用とは」

「これの事だよ」

 

 一枚写真を撮る音がしてから彼女が見せてくれたのは、この世界のSNS、ウマッターの画面。ユーザーネームはシンボリルドルフとなっていて、彼女自身のアカウントである事が分かる。ツイートの数は多くはないが、そのフォロワーの数はそろそろ五桁も目前という所にあり、G1ウマ娘として既に注目を受けているのだなと分かる。

 

 というか、あの二人がSNS……ああ、そっか。この世界はトレーナーの補正があるからあの二人も若干行動が変わってるのか。ミスターシービーはともかくマルゼンスキーがSNSをやっているイメージがちょっと出来ないな。今度調べてみよう。

 

「ウマッター、やってたんですね。しかももうそんなにフォロワーが居るなんて」

「ミスターシービーには相当差を付けられているのだけどね」

「半年ちょっと前がデビューなんですから当然ですよ。これから宣伝していけばいいんです」

 

 仮にデビュー直後から開設していたとしても本番はクラシック路線を走り始めてからなのだから、今の時点でそこまでの人気があるのなら十分な方だと考えていい。

 

 上手くいくかは分からずとも、この世界ならシンボリルドルフもきっとミスターシービーに人気でだる絡みをするような未来からは脱却出来る……はずだ。

 少なくとも、私がその一助とならねば。

 

「ところで、君はウマッターはやっていないのかい? 設立に当たって君の名前で検索をかけてみたのだが、出てこなくてね」

「ああ、やってないんです。SNSは」

「そうなのか? ウマッターじゃないならウマスタグラムなどのアカウントも?」

「作ってません。精々LANEくらいです」

 

 目を瞬かせるシンボリルドルフに苦笑いを返す。人気を出すためならやった方が良いというのは分かっているのだが、今のところSNS関連をやる気には一切なれない。前世では一応開設はしていたのだが、見ているだけで炎上だ漏洩だハッキングだ…と傍目ですら胃もたれしてくる地獄のような状況を見てきたので、この世界でくらい息を抜いて生活をさせてほしい。

 

「まあ、仮に作るとしても見るだけになるでしょうし、現状無くて不便を感じていないので。自分のアカウントを上手に管理する技術にもちょっと不安がありますし」

「そうか…、君が作っているようなら、フォローをしておきたかったのだけれど…、残念だな」

「今はまだ必要になった時に、とさせてください。その時はシンボリルドルフさんを真っ先にフォローしますから」

「ふふ、そうかい? ならその時を楽しみにさせてもらうよ。……そうだ、折角なら、スタートワンも写ってみないか? 君のアカウントが無いのなら、代わりに私の方で投稿したい」

 

 ああ、それはいいかも。アプリの方だとプライベートが分かりにくいキャラというイメージが先行していた気がするし、今のうちに取っつき易い人と思わせておけば、クラシックに入ってからも人気が安定しそうだ。

 

「いいですよ。私の籤の結果も見せますか?」

「それは……いや、さっきのもので十分だ」

「そうですか? 大吉と大凶で面白い組み合わせになると思ったのですが」

「やめとけ。えげつない当てつけだと思われるぞ」

「あ、トレーナーさん。さっきからやけに静かだと思ってたら突然喋りだしてどうしたんです」

「嫌味か」

 

 本当にさっきまでずっと静かにしていただろう。なんだと思ったぞ。

 私のトレーナーに代わり、シンボリルドルフのトレーナーが質問に答える。

 

「いや何、ちょっとそこで買い物をね」

「何を買ってきたんだい?」

「これ」

 

 そういって二人が見せてきたのは手の中に納まってしまう小さな布袋。表面には装飾と共に「無病息災」と書かれている。

 ぽんと放り投げられたそれを受け止め、眺める。明るい緑色に金の刺繍で書かれた文字。

 

「お守りですか。しかも健康祈願とは」

「お前に怪我されると面倒だからな。神頼みでもしとかねえと」

「まったく」

「まあまあ、いいじゃないか。私も君もこれからクラシックなんだ、怪我に気を付けたいのは当然さ」

 

 まあ、ここで一年無駄にするとか、たった二年で引退なんて事になるのは避けたい。有難いものと言えば確かに有難いものだ。

 私が自分に渡されたものを眺めている間に、シンボリルドルフのトレーナーが彼女にそれを手渡す。私のものとは違い、赤色に此方のものと同じ金の刺繍。

 

「はい、ルドルフ」

「ありがとうトレーナー君。ふふ、綺麗な赤だ」

「君ならきっと気に入ると思ったんだ」

「そうだな。うん、とても良い…、流石トレーナー君だよ」

 

 まるで宝石でも見ているかのようにうっとりとした目のシンボリルドルフ。そしてお守りの紐をつまみ、私の顔のすぐ横に持ってきた。

 

「ふふ、スタートワンの髪のように鮮やかな色をしているね」

 

 ……もしかして、それで気に入ったのか? うーん、ここは私も何か返さないといけないよな。

 貰ったお守りは緑色なのだけど、彼女の髪は緑じゃあ全然……いや、丁度いいのがあった。

 

 手の平にお守りを乗せ、彼女の胸元まで持っていく。

 

「それならば、私のお守りはあなたの勝負服のようですね。とても美しいです」

「……君は本当に、嬉しい事を言ってくれるね」

「お褒めに預かり光栄です。なにせ」

 

 手を握り、にこりと微笑んで見せる。勿論形が崩れない程度に力は抜いたまま。

 

「これからその勝負服にどんな土をつければ、あなたが悔しがってくれるのか。考えるのが楽しみになりますから」

「それは確かに楽しみだね。君がどれだけ諦めずにいられるか、試させてもらうよ」

「先に根を上げる結果になっても知りませんよ」

「さあ、どうだろうね」

 

 笑顔と笑顔が交差する。彼女はどんな勝利を飾るのだろう。私はどうやって彼女を越えるのだろう。

 ああ、本当に楽しみだ。

 

 

「さて、それじゃ今度こそ撮り直そうか」

「そうですね。結局籤も一緒に撮りますか?」

「いや、丁度いいからお守りの方にしよう。とはいえ君のものはちょっとよれてしまっているが…私のものと交換するかい?」

「ちょっと惹かれる提案ですが、遠慮しておきます。トレーナーさんの贈り物なんですから、大切にしてあげてください」

「ふふっ、ありがとう」

「……だからお前らさあ」

「あれが二人の遊びなんだ、そう思おう」




実際問題馬とウマ娘の生態的相違ってどうなってるんでしょうね。なあなあにするのが色々と安泰ですが、普通に気になる。
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