学園の一角、各チームの部室が置かれた棟の一室。
普段は私とトレーナーだけが利用している部屋に、今日は珍しい客人が来ていた。
「月刊トゥインクルの乙名史悦子と申します。本日はお二人共、取材を了承していただきありがとうございます」
「スタートワンです、此方こそ私共に取材をしてくださりありがとうございます。全てに答えられるかは分かりませんが、答えられるものにはちゃんとお答えしたいと思います」
「それは有難いです、では早速なのですが……」
乙名史悦子さん。桐生院トレーナー、樫本代理と同じくアプリ版から登場した人間女性のキャラクターであり、同時にウマ娘レースのニュースを扱う記者でもある。彼女をメインに据えたシナリオ「Make A new track!!」もあり、『ウマ娘』全体でも知名度は低くない。
そして、
「――ってわけだから、俺達はクラシックを目指す。勿論、シンボリルドルフを越えるためにな」
「……す」
「す?」
「素晴らしいですっ!」
「うおっ!?」
……これだ。
取材途中、突然感極まった乙名史記者。トレーナーは面食らった顔で仰け反る。
「己の身を挺し子供達を守った彼女を、今度は自分が守り、そして皇帝へ挑むための支えとなる……そのためには例え自分の身すらも捧げようというその覚悟……! 感服しました!」
「おい、んな事言ってねえぞ」
「しかも! 彼女の日々にも気を配り、時には自分の時間を削り、陰に日向に彼女の心の安息を作り出す……まさにトレーナーの鑑ですっ!」
「それは妄想じゃねえか」
「それだけでなくっ!」
「まだあんのか…?」
「トレーナーさん、突っ込み疲れる前に諦めた方が良いですよ。多分もう少し続きます」
「いつまで続くんだよこれ」
私に聞かれてもわからないに決まっているだろう。アプリでも困惑したレベルのクセの強さなのだから。
ウマ娘レースに関する事ならばなんでもテンションが振り切れる乙名史さんのこのクセは、実物を生で見ると結構反応に困る。トゥインクルスタークライマックスの頃は割と常識的な思考の人だと分かった筈なのだけど、なんで初対面だとこうなるのかなあ。
以前会った時は普通に会話が出来る人だったんだけど…、案外、トレーナーと会話する時だけバグ状態になるのだろうか。
少し過去に思いを馳せていると、隣のトレーナーに肘でつつかれる。
「おい、お前アイツと面識あるんだろ? ちょっとくらい止めらんねえのか」
「会ったのは一度だけなんですが……まあ、あまり独り言を言われても困りますし、試してみましょうか」
という訳で、ぶつぶつと呟きながら熱心にメモを取る曲者記者に声をかける。
「乙名史さん。質問はこれで終わりなのでしょうか?」
「トレーナーとウマ娘の信頼、その形は千差万別。しかし彼女達のコンビの関係は、最早一つの夫婦の形の様ですら……」
「……乙名史さん、一つ、昔話をしたいのですが」
「目指す皇帝の高き壁に……え、昔話、ですか?」
お、ようやく顔を上げた。ネタになりそうな事には反応するところは記者らしいな。
「私がまだ学園にも在籍していなかった、名前も知られないウマ娘だった頃の事です。その頃に、一度だけ取材を受けた事があるのですが」
「取材、ですか?」
「ええ、先の通り、火事からあの子達と一緒に脱出して入院、そこから退院した私に山のようにやってきた取材陣から、一人だけを選んで質問に答えた事がありまして」
そこまで言うと手袋を外し、分かりやすいように彼女の前で掌を見せる。
乙名史記者は手を見て一瞬不思議そうに表情を変えた後、少し置いて何か気付いたように、同時に少しだけ困ったように眉を下げ、口の端だけ笑う。
「……まさかスタートワンさんからその話をしてくるとは思っていませんでした」
「お久しぶりです。あの頃はまだ入学の受験も受けていない頃でしたね」
「あれからもう何年も経つんですね……。あ、言い忘れていました。少し遅いですが、改めてご入学、そして重賞勝利おめでとうございます」
「わざわざありがとうございます」
こういう律義さを持っているところは、報道業界の人間として私が信頼出来る理由の一つかもしれない。
あの火事の後、たった一度だけ受け入れた取材。それを行った人物こそ、今私達の取材を行っている乙名史記者だ。
事故発覚の直後は切羽詰まった状況で、私がやらざるを得なかったのは事実だが、あの行動はこの世界でもかなり色の強い…センセーショナルなニュースになる。当然脱出直後も入院中も、なんなら退院後ですら私とコンタクトを取ろうとした記者やテレビ陣などは多かった。姉妹の家族が私と面談が出来るまでは取材は受けないと言っていた事、そして面談時の極力取材は受けない方がいいという私の進言からメディアへの対応をしないという事を明言して以降すら、その状況は続いていた。
家族に迷惑がかかるのを嫌った事も勿論、マスコミにある事ない事を書き立てられるのも困る。その為この世界でもまだ問題のなさそうな相手を探していた所で、偶然彼女を見つけたのが初対面になる。
そして今回、彼女と再び会って取材を受ける事にしたのも、その経験から信頼出来る相手だと分かっているからだ。
「そろそろ一度は大きな取材を受けなければと思っていた所だったので、乙名史記者の名前を見た時はびっくりしました」
「今回月刊トゥインクルの取材を受け入れて下さったのも、私が理由だったのですね。実は上司にも驚かれたんです、「あのメディア嫌いのコンビが何故!?」なんて大騒ぎにすらなっていまして」
「メディア嫌いって…。私、そんな風に思われてたんですか?」
「取材もほぼ受け付けない、レース後のインタビューも質問が終われば即撤収、SNSを始め情報の発信もしない。それでどうやって取材されるのが好きだって解釈されるつもりなんだ」
ああ、そういう…。シンボリルドルフが結構コンスタントに取材を受け入れているから、その分目立つのかな。クラスメイトやハッピーミークも時々ニュースになっている所は見た事があるし、私だって最低限受け答えはしているのだけど。というかそれ、あなたも同じ扱いじゃないか。
……まあ、どちらかというと、態度に出ていたとかの方が在り得そうだ。
「人前に出る事自体はどうでもいいですが、そういうのはあの時だけで十分だと感じましたから。余計な詮索をされるのはもう懲り懲りです」
実際、当時は結構酷かったのだ。家族の住宅にアポ無しの突撃をかますところもあれば、私の入院している間に当時住んでいたマンションを隠し撮りしたところもあり、更には病院側から情報を取ろうとして医師や看護師さんたちから大目玉を喰らったところまである。
真っ当に新聞や雑誌を作っている人だっているのだとは分かっているつもりだし、その条件に当てはまっているのが目の前の乙名史記者なのだが……こういう言い方は悪いのだけど、今の私にとって、メディアは前世と比べ嫌い寄りの感情が先に出てくる方だ。
「だからほぼ独占の、しかもここまで深入りしての取材は乙名史記者のところが初めてになります。あなたならば、私も安心して話が出来ますから」
当時の乙名史記者も月刊トゥインクルに記事を掲載していた記者ではあったのだけど、まだ経験を積んでいる新人だったらしく、私への取材は別雑誌ながらウマ娘関連のニュースとして、編集部から偶然彼女に白羽の矢が立ったらしい。
乙名史記者は私がまだ幼い子供だったにも関わらず、一人の取材対象として懇切丁寧に、そして慇懃な態度を崩さずに接してくれた。だからこそ、インタビューに細かく答える事が出来たし、言いたい事についても色々と伝えられた。
そしてそれが雑誌に独占インタビューとして掲載され、ゆっくりと子どもによる救出劇というニュースは影を薄めていった。
私の情報が学園内でも比較的穏便に隠されていたのも、実は彼女の功績が大きかったりする。内心では頭の上がらない人なのだ。
私の言葉を受け、乙名史記者は少しだけ背を伸ばした。
「そうまで言ってもらえると、私も記者冥利に尽きます。本音を言えばもっと沢山質問をしたいのですが……」
「内容によって、という点はありますが、どうぞ気兼ねなく質問をしてください」
「ではお言葉に甘えて。今回の取材、一切取り溢さず記事にさせていただきます!」
というわけで、ようやくトリップ状態から戻ってきた乙名史記者と取材を再開する。トレーナーが返答する時は若干意識が旅立ちかける事はあったものの、私が引き留める事で何とか継続させていた。
「なるほど、弥生賞に出走されたのは、条件を確実にするだけでなくそのためも……」
「トレーナーさんに言われた事の受け売りですが、納得もしましたので。強さの証明があれば、非難の声も多少収まりますから」
重賞を取っている事とG1で期待される事は結構連動する。人気というシステムがその証明であり、また番狂わせという別方向からのドラマを生み出す。
しかし、既に私はホープフルステークスで二着という成績を残している。となるとまず間違いなく人気は一定の水準で保たれる事になり、当然それに見合うだけの結果を残していないと難癖をつけられる事もある。
そうならないために私が欲しいのは、単なる“偶然の勝利”ではなく“必然の執念”だ。
「クラシック路線に行くのなら、優先出走権のもらえるレースに出ておくほうが確実です」
「では、本気でシンボリルドルフ選手を…」
「狙います」
一瞬、空気が張り詰める。私の言葉の意味を理解出来ない者など、今この場には居ない。今日こうしてインタビューを受けたのはこの瞬間の為だ。
今年いっぱい、私の事を嫌でも意識してもらうぞ、シンボリルドルフ。
「シンボリルドルフさんの己の強さを証明し、将来への礎とするという志。それは評価に値しますし、そして一人の人物として尊敬します。しかしそれとこれとはまた別、彼女は先を見るあまり、足元を見ていない。そこに転がる路傍の石として、彼女を転ばせてやろうと思っています」
「……既に決意は固まっているようですね。そこまで、固執する理由とは」
「彼女のように大それた志も何もありませんよ。負けて悔しいとか、自分より強い相手を見返したいとか。その程度の理由です」
嘘ではない。シンボリルドルフが少しでも楽しくレースに臨めるようにという気持ちと、私が彼女を下し勝利したいという気持ちは矛盾しないというだけだ。
生まれの問題でマルゼンスキーやミスターシービーのライバルとなることは出来なかったが、他の子の好敵手となることならまだ可能性がある。今の自分のポテンシャルを全力で使い潰せば、勝機だって狙える。トレーナーには止められるだろうが。
乙名史記者の真剣な眼差しは、私の言葉を軽い気持ちで聞いてはいない事が分かる。
そしてそれは。
「シンボリルドルフ選手を、必ず倒すという事ですか」
……なんていうか、メディアミックスされていた時から薄らと思っていたんだけど。
この世界、特別枠みたいな扱いの子が複数いるんだよな。元々アイドル並みの人気のあったオグリキャップやアニメで主役を張ったスペシャルウィークはまだわかるけれど、今学園に居るデビュー年が早い三人も同じように、デビュー前にも関わらず別の扱いをされていた感じがある。
まあ、それだけ特別な存在という事なのだし、今乙名史記者が問うてきているのもそれが理由だ。
私への期待値は、決して高くない。「勝って当たり前」のシンボリルドルフと「それに負けて当然」のスタートワン…という構図は、誰の目から見ても明らかなのだ。
「それが何時になるかは、私にもわかりません。ですが、必ず、互いが同じレースに出続ける限り。何度でも挑戦します」
彼女の栄光には、欠片ほどの曇りも必要無い。それは単純な勝敗ではなく、彼女自身がその栄光を胸に自分の誇りを掲げることが出来る、その為の最高の思い出作りをするという事。
「あんなに楽しそうに走られたら、次も一緒に走りたくなるじゃないですか」
あの日のホープフルステークスで見せた笑み。それをもう一度…いや、何度だって。
困難な道を進もうとする彼女のためにも、私だってそのくらいの気概を見せなければ意味がない。
「勿論、クラシックが終われば次の道は考えますよ。今はまあ、寄り道をしているようなものです」
「…………」
「……ん? あれ、乙名史さん? おとなしさーん?」
突然無言になる乙名史記者。なんだ? 突然電源が落ちたみたいに微動だにしなくなった。
「………………す」
「え?」
「……おいスタートワン、これ」
「す、ば、ら、し、い…っ、ですっ!!」
「つめてっ!?」
うわびっくりした!? なに急に!?
咄嗟に隣の腕を掴んで眼前の様子を伺うと、興奮した様子の乙名史記者がぐっと顔を近付けてくる。
な、な? な、なんなの?
「親愛なる友人のため、自分の身だって犠牲にしてでも全力の場を用意する…素晴らしい心意気ですっ!」
「は、はあ……」
「その為にトレーナーと二人三脚、それどころか共に玉砕する事すら躊躇わない! なんという覚悟! 危うく、そして儚くも気高い! これこそウマ娘とトレーナーの理想の関係ですっ!」
……この人、そういう方向からもトリップ出来るんだ。
「こうしちゃいられません! 今すぐ記事を書かなければっ! それではお二人共、今日はここで失礼します!」
「あ、は、はい」
「本日は本当にありがとうございましたっ!」
「うわっ?」
扉を盛大に開いて(ついでに外にいたらしい誰かを驚かせながら)去っていった乙名史記者。滅茶苦茶にテンションが上がっていたが、そこまで面白い話と受け取ったのだろうか。
「あれ、大丈夫なんですかね」
「俺に聞くな俺に。つか何時まで掴んでんだ」
「あ、すみません。びっくりしてつい」
身を寄せていた彼の腕から離れ、少し呼吸を落ち着かせる。近くに居たものだから思わず掴んでしまっていた。
彼女の性格は多少なり理解しているつもりだったけれど、まさかトレーナーとか以外でも同じ反応をするとは知らなかった。
「……まじで今度からあの記者に取材受けんのか?」
「一応、あの性格さえなければ良い人なんですよ……いい人なんです、ホントに」
トレーナーの微妙な顔にフォローが正しいのかちょっと分からなくなってくる。エアグルーヴの育成に出てくるパパラッチと比べれば遥かにましなんだけどなあ…。
「ん、スタートワン?」
「ん? なんでお前が」
「それはこっちのセリフなんだが」
そこで部屋を覗き込んできたのはシンボリルドルフ。彼女のトレーナーと共に部屋を伺って、不思議そうに眉を顰める。
互いのトレーナーは一旦放置し、問いかける。
「シンボリルドルフさん? 何故ここに」
「いや、今日は取材を請け負う予定でトレーナー室へ向かっていたんだが……」
「……もしかして、月刊トゥインクルですか?」
「そう、だな」
…………なるほど。
「おとなしさーん! ストップ、ストップですっ!」
二人で駆け出して、乙名史記者を追った。
暴走記者を何とか部屋に引き戻し、シンボリルドルフ達の取材を続行させた後。
私達は取材終わりに一旦休憩をしようと、トレーナー室を目指し構内を歩いていた。人通りとざわつきの多い外はまだ午後に入ったばかりだが、準備などを含めると今日のトレーニングをするには残っている時間は微妙だ。今日はこのまま拠点に戻って皐月賞の作戦会議になるだろう。
「なんか、無駄に疲れたわ……」
「まあまあ。何とか見つかりましたし、良かったじゃないですか」
「お前なあ。今後あの暴走機関車みたいな奴と付き合ってかにゃならねえってのに楽観が過ぎるだろ」
「概ね同意ではありますが、本当に悪人ではないんですよ」
念押ししなければならない程度には信用出来ない部分があるのも事実なのだけど。
「今度の記事になんて書かれるか逆に怖くなってくるな」
「……以前から時折読んではいましたが、内容自体は特に問題があるわけではないですよ? そういう点でも選んだ人ですし」
「ならいいがよ……」
少なくとも私や学園の粗を重箱の隅を楊枝でほじくるように探すとか、シンプルに貶めるような記事を書く人ではない。場合によっては鋭い意見を飛ばす事もあるけれど、それもまた学園やレースを俯瞰的に見るべき立場である故の行為である事は記事を読んでいるだけで伝わってくる。
「時間も時間だから、ライブの練習は若干明日に回すしかねえな」
「皐月賞までならまだ余裕もありますし、この後も二回チャンスはありますから。気にしなくてもいいんじゃないですか?」
「……そもそも予定通り進んでりゃこういう話しねえで済んだんだよ」
それはまあ……。今回は初めてだったから失敗しただけ、次回から此方が舵取りすれば、問題も起こるまい。
こちらに気付いてその場を去っていく猫に視線を向けながら、学園の噴水前を通る。周囲で行われる飾りつけと沢山の袋や機材を運ぶ生徒達の群れ。残り時間は数週間も残っていないから、最終調整を煮詰めるのに熱心なのが伺える。
「そろそろ感謝祭ですね」
「だな。もう年度末って考えると、違和感しかねえ」
ファン感謝祭。或いは秋に行われる聖蹄祭との差別化の為大感謝祭とも称される春の催し物。年度の始めに行われる地域の住民やレースのファンに向けて学園を開放する、ある種文化祭のようなものだ。年二度行われるにも関わらず人入りは非常に多い。
生徒達が開く出店やトークショーなどのイベント、エキシビジョンレースなど、多くの行事が数日かけて行われる。ゲームではシニア期の春のみ、「クライマックス」シナリオでも秋の方はハロウィンと併せて行われる程度しか描写が無かったイベントでもある。
「私も何か手伝えればよかったんですけどね」
「設備設置とかはシニア級だけだからな。お前は潔く楽しむ側に回っとけ」
「去年なんか殆ど楽しめなかったので、ちょっと期待していたんですけどね……」
ゲームではシステムの都合上割愛されていた、クラシック期までの感謝祭。勿論現実の世界として生きている以上、省かれていたそれらも毎年開催されるものに変わる。
ただ、ここは同時にあくまでアプリ基準の世界でもある。色々な塩梅が調整された結果なのか、入学直後、それからジュニア、クラシック期の生徒はあくまで学園への入場者と同じ扱いでの参加となる。皐月賞に出走する私やシンボリルドルフ、それに桜花賞を選んだハッピーミークに至っては、何かあってからじゃ不味いという事で実質ボランティアなども禁止だ。
更に言えばアニメ版で何度か示されていた入学希望の小学生向けのオープンキャンパスも同時期の開催になっている。二期の方ではトウカイテイオーの皐月賞の後に行われていた様子だったけれど、連続するイベントの為予定が繰り上がって同時進行になっているようだ。
とはいえ、入学直後に行われるイベントという事もあり、学園での最初の生活に上手く馴染む事に大体の子は集中する。私もその例に漏れず、去年は感謝祭も殆ど楽しめなかった。
「今年も楽しめるかっていや微妙だろ。あの実質双子が来るんだからよ」
「双子じゃないですって。まあ、あの子達を楽しませるのも必要だというのは事実ですが」
そう、年末年始に会っていた家族の姉妹も、このオープンキャンパスに合わせて学園に足を運んでくる予定なのだ。将来は学園に入学したいと言っていたし、一度は実物の様子を見てみるのも良いという話になったのだ。本当は別の先輩が姉妹の案内をするので、私がそれに勝手に付いていくという形になる。
両親も久しぶりに覗きに行きたいという事だったので、当日は四人とその先輩と一緒に行動する事になるだろう。
「あなたはどうするんですか? 何かのイベントに参加でも?」
「んなわけねえだろ。普通に裏方だよ。お前も休みになるから、手ェ貸せって言われてんだ」
「そうだったんですか。なら、私も時間が空いたら手伝いますよ」
「どうせ一時間もやりゃ終わりだから、そのまま双子のお守りしとけ」
「そうですか。なら、少しのんびりさせてもらいますね」
本当に裏方させられる予定だったらしい。彼の予定が終わったらほどほどに労ってあげよう。出店で何か買っておく方が――、
「……どうした?」
「……、すみません。先に行っていてください。少し、用事が出来ました」
怪訝そうなトレーナーをその場に、一度通り過ぎた道を引き返す。人の流れが絶えず起こっていたハズなのに、何時の間にかここには私と彼の二人だけしかいない。遠く聞こえていた生徒達の声すらも途絶え、まるでこの場所だけが隔離されているかのようだ。
そして、そう感じるというのは間違いではないのだろう。
視線の先にある噴水。その中心に立つ、三人のウマ娘を象った私の倍ほどの大きさの石像。古代ギリシャやローマなどを思わせる衣服を身に纏った、学園の守り神達。
「…………多分、貴方達が呼んだんですよね。三女神」
声をかけれども、返事などある訳も無く。当然生物でもない彼女達が突然喋り出す事も、一人暗闇の中へ放り出される事も無い。
三方を見つめる像達は、ただ沈黙のままに鎮座している。
次回投稿は年明けになりますかね。皆さま良いお年を。