G1目指して頑張ります   作:あかし/さんさい

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次回投稿は年明けになると言ったな。

あれは嘘だ。


33 女神像は何も言わない

 三女神、この世界ではウマ娘という種族の守り神とされる特別な存在。元の世界を知る私には、三大始祖という名称の方がしっくりとくる。

 

 ダーレーアラビアン、ゴドルフィンアラビアン…ウマ娘ではゴドルフィンバルブ、バイアリーターク。

 サラブレッドの血統において必ずその根幹に存在する、人間にとってのミトコンドリア・イブにも似たはじまりの競走馬達と、それをモチーフに生み出された三柱の神。

 やや不確定で推測の抜けないそれと比べれば、実在しているだけ遥かに明確な存在だが。“始祖”の通り彼らが居なければ、シンボリルドルフはおろか『ウマ娘』というコンテンツが生まれる事も無かった。

 そのくらい特別な存在だ。

 

 競争馬という概念の発生と、その繁栄において最も重要なこの三頭が、この世界においてはウマ娘の安寧と繁栄を示す存在となっている。

 その存在の重要性はアプリなどでも描写され、一番目につくところでは継承システムの根幹を、そしてレースにおける馬身差の基準などでも見る事が出来る。五つ目のシナリオ「グランドマスターズ -継ぐ者達へ-」では主役でありシナリオの根幹を担う存在として登場する(あくまで彼方はAI(人工知能)ではあるが)。

 

 学園に像が設置されているのも、未来のウマ娘達にもその加護を齎す守護像としての役目を担っているからだ。

 

 ……そして、私にとっては何の脈絡も無く異世界へと連行された原因。犯行を行った揺るぎない張本人達といっても差し支えない、半ば悪神めいた忌まわしい存在でもある。本音を言えばこの像も邪教の邪神像のようなものを見ている気分になるのであまり見ていたくはない。

 

「せめて弁明の一つでもあるだろうと思っていたのですが、今になってようやくアクションを起こすんですね。それほど両方の世界で地獄を生み出す事に熱心になっているのですか?」

 

 なじるつもりの言葉にも、像は澄ました顔を続けている。当然と言えば当然だが、正直その反応が私にとってはかなり神経を逆撫でする。

 

「貴方達に何の説明も無く連れてこられて、もう十年以上になります。継承もなくここまで来るのは本当に大変でしたよ。なにせ元の世界というブーストも何もなく、己の身一つで成果を上げる必要がありましたからね。まあ、後遺症を経て尚頑強な身体を作ってくれた事だけは感謝に値しますが」

 

 そのおかげで、楽しい友人達とシンボリルドルフという最高の宿敵を得ることが出来た。ここだけは数少ない礼が言える事だ。逆に言えば、それ以上に褒められる事は一切無いという事の裏返しでもあるのだが。

 

 

 初めて自分がウマ娘としてこの世界に生まれ直した時の事は、いくら曖昧な記憶の増えた今でも覚えている。というか忘れられない。以降の五年は元の世界との情報の擦り合わせとその記憶を忘れて迂闊な事を言わないようにする特訓と、あらゆる生活基盤を固めるために大変だったし、更に五年は身体を鍛えてレースに備える事に腐心した。

 勿論周りの手を借りられるような事では無かったので全て一人でやらなければいけなかった。家族と触れ合う事での精神安定が出来ていなければ、何処かで限界を迎えていた事だろう。

 

 その間、望み薄だが何かしらのコンタクトを取ってくるのではないかと考えていたのがこの三女神だ。

 この世界、特にウマ娘という存在を司る象徴ともいえる存在だし、なんならゲーム的な観点では加護やら継承やらにおいても重要な位置を占めている。ただ世界を越えるだけでなく、ウマ娘にもなった私に絶対何かしらの関わりを持つ彼女達なら、私が何故ここに居るのかを始め、全ての疑問に答えてくれるだろうと考えていた。

 というか、この世界に私を送り込めるような存在なんてどう考えてもこの神達しかありえない。逆にそれ以外の可能性があるというのなら教えて欲しいくらいだ。

 

 まあ、その結果がこの有様なのだけど。

 

「こんな領域(もの)まで押し付けられて、よくやっているとは思いませんか、ええ? 最初は結構大変だったんですよ、最低限の制御だけで何ヶ月かかったか」

 

 『EXECUTE→Don't Stop RUN』。他者に恐怖を押し付け、内何割かの恐怖をフィードバックする私の領域。

 メリットとデメリットの釣り合いをどれだけ慎重に行っても、デメリットが必ず大きくなる使い勝手最悪のこれも、間違いなくこの三女神が取得に関わっている。ホープフルステークスでの経験からその事だけは間違いないと断言してもいい。

 

 自分に埋め込まれた忌まわしい力が暴走する危険に常に怯えながら、しかし必要な時は代償を覚悟でそれを使わざるを得ない。

 これがテイエムオペラオーやタニノギムレットのような自己陶酔の出来る故の領域と行為であれば私が恥ずかしい思いをして終わるだけの話なのだけど。少しでも気を抜けば私を内側から崩壊させるものを実際に与えられると、迷惑どころの話じゃあなくて単純に生活し辛いし、笑い話にも出来ないただただ邪魔なものでしかない。

 

 これを押し付けられ、領域を意識した初日は本当に大変だった。脱水症状にならないよう水を常備したまま、一日中トイレに籠って吐き気に襲われ続ける目に遭ったのだ。真面に出られるようになるまでには三日、外出には一週間を要し、領域のオンオフが安定するまでには、本当に月単位の訓練をする羽目になった。その間生きてられたのが自分でも不思議なくらいだ。

 正しく疲労困憊になる手間こそかかったが、その分この領域の性能を理解したときは驚かされたものだ。

 

 この世界だけで培った領域は、基本的に脆い。これに対して私やシンボリルドルフら違う世界の魂を持つウマ娘の領域は、過剰と言って良い程に強靭だ。

 その一方、私とシンボリルドルフの大きな違いは前世に当たる元の姿。競走馬として走った事の無い私が仮に領域を持ったとしても、精々この世界で産まれた領域以上、実装されていたウマ娘未満になる筈。

 

 しかし、なっていない。私の領域は、相手が悪いだけで効果はあるし、濃密な世界を発生させる。となれば、間違いなくそこにはこの世界を支える何かの存在が介入していると考えるしかない。

 あらゆる可能性を考慮した時どう考えても最後に残るのが、私の眼前ですました顔をしているこの石像共なのだ。

 ウマ娘というコンテンツは好きだったので彼女達の居る世界に来られたことには感謝出来るが、それ以外の点においては正直微妙な反応をせざるを得ない。幾ら私だって口も悪くなる。

 

「もっと楽に勝ち進められるようにして欲しい所だったんですけど…ま、そこは全て過ぎた事です、不問にしましょう。ですが、渡す物があるのか何なのかは知りませんが、勝手に呼びつけておいたのなら、それと併せて何かいう事がありますよね」

 

 ……ある訳ないか。

 せめて謝罪の一言でも欲しい所なのだけど、干渉してくるならもっと前の段階だろうしなあ。年度末という時期的にも継承をさせるつもりなのかも知れないが、そういうアクションも特に感じられない。

 ここに呼ばれるような感じがしたのも、継承を勝手にやれって事なのかもしれない。アプリではボタンを押せば自動で継承が始まっていたが……。呼び出しておいて、そのあたりの説明も無しに雑に放り投げられた感じがある。

 

「ここからどうしろっていうんだか……」

 

 こっちはこの世界のルールなんてもの知らないのだから、少しくらい説明しようとは思わないのだろうか。

 ……いや、そういえば。

 

「人通りが無い?」

 

 独り言を延々と言っていた時から異様に音がしないから、薄らとおかしいとは思っていたのだけど。

 軽く噴水の周りを歩いて周囲を伺う。人影は一つも無い。なんならこの夕方にも関わらず、鳥の鳴き声一つ、風の通る音も、僅かな物音さえ聞こえてこない。ぞっとするくらい無音、異常なまでに静かな空間だ、まるでここだけ、外部から切り離されているかのような――、

 

「……まさかここ。学園の見た目をしてるだけで、別の空間?」

 

 噴水の近くに着た瞬間から、私は三女神に引き込まれていたという事か。あのタイミング、周りからはどうみられるのだろうとは思っていたが……。完全に隔離して継承するってことか。それなら全員が同時進行でイベントを消化出来るが、なんというか、無駄に手の込んだことを……。

 

 しかし、尚の事どうやって継承がされるのか分からないな。待っていれば勝手に戻れるのか? 私にどうしろというのだ、説明不足が過ぎ

 

 

 

 

 電撃が走った。

 

 何かが背を這うような不快感。そしてそれ以上に身を貫く、今すぐにでも逃げたいと思わされる痛みにも似た身体の痺れ。頭を流れる血が一気に冷たく消え去り、代わってここから逃げ出すべく足が急激に熱を帯びる。

 

 それに合わせるように、世界が暗転していく。空間そのものが崩れ去り、足元だけが確かに存在する以外、全てが漆黒に塗り潰される。

 

「はっ、はっ、はっ……!?」

 

 怖い、怖い。

 こわいこわいこわいこわい! この場所はこわい! ここに居たくない!

 

 完全な黒に変わった世界で、自分の身体だけが確かに存在している事をぎりぎりの思考で割り出す。理解を強制させられる。ここに居る事そのものが既に手遅れだと分からされる。浅くなった呼吸が喉の痛みを加速させ、ぼたぼたと零れる涙が何もない足元へ掻き消える。

 

 この場所は、継承なんて生易しいものの為に存在していない。

 人を、ウマ娘を。生命を消し去る為の場所だ。

 

 

「っ、ぐ、あ、はあ、はあ……!」

 

 だめだ、泣くな、震えてる場合じゃないだろ! 逃げろ頭を回せ……ッ!

 

 足がふらふらして、呼吸もできない。それでも、視線を動かす、闇の中から迫る脅威を視界に収めるため。前かも後ろかも分からない空間、光すらも吸い込むような闇の中、一つだけ何かがある――いや、居る。

 

 

 四つ足の巨躯。全身から赤やオレンジの炎を噴き出す、この世界にあってはいけない姿の生物。

 全身を燃え盛らせるそれの、見えもしないその目が。私を捉えた事だけは、間違いなく理解した。跳ね上がる恐怖が息を詰まらせる。

 

 終わる。あれに捕まれば、私の最期だ。

 

 

 

 無音の数秒を経て、足が後ろへ動く。それに合わせるように、炎の塊がその前足を一歩進めた。それだけで解る。

 

 ああ、狙われている。あれは私を仕留めるべく、ここに居る。そうまでして、この世界から消し去りたいのか。

 

「――――ッ!」

 

 同時に走り出す。逃げるため、追うため。震える足をもたつかせながら、必死に走る私を。炎はまっすぐ、一切の揺らぎも持たない足で追走する。踏み締められた蹄の音が、脳にこびりつくような音を響かせて、私を更に震えさせる。

 

 出口が無い。はじめからここは、私を捕らえるためだけに用意されていた。

 たった一歩を進むだけで無限に時間を消費しているような錯覚に陥る。

 いつ終わる? この地獄から、いつ逃げ切れる?

 

 こわい、こわい、こわい。何故こんな目に遭わなければならないんだ。勝手に呼んで、勝手に奪って、邪魔になれば勝手に消す。何のために、私はこの世界に連れてこられた。

 

「ハッ、ハッ、ハッ…! ひ、い…! いや、いやっ!」

 

 音が近付く。嫌だ。燃える音すら聞こえてくる。近付くな。息すら分かる。追わないでくれ。

 駄目だ、もう逃げられない。熱が背を焼く。もう助からない。動けない。いやだいやだ。なんで。

 

「たすけっ」

 

 わたしだっていきた―――

 

 

 

 

「スタートワンッ!」

「――――――ッ!?」

 

 なに、どこ、わたしっ、まぶし…、ひと……?

 と、と、れー、な。

 

「何があったっ、誰がやった!? さっきまでどこに居た!」

「……、」

「聞いてんのかスタートワンッ!」

「……と、れ、」

 

 肩…を、掴まれて。トレーナー、見てる、私。

 ここ…、ふんすい、皆、いる。かんしゃさい、準備、してる。

 

「……スタートワン?」

「……、もどって、きた?」

「もど…? 知らねえが、ここに居んだろ。だから何があったんだ」

「…………た、す」

「たす?」

「…、ぅ、」

「おまっ、おい、スタートワン、スタートワンッ!?」




今度こそよいお年を。コミケ行ってきまーす。
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