G1目指して頑張ります   作:あかし/さんさい

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お色気シーンです。おら喜べっ!


38 マブいあの子と入浴中

 こういう言い方を自分でするのもどうかという話だが、今の私の体調は頗る悪い。自分で動く事すらまともに出来ていない以上、ここはもう言い訳も出来ない所だ。

 

 ただ、だからといって私は自分で出来る事くらいは自分の手でしたい。なんでもかんでも人の手を借りて横着をしようというつもりは微塵もないし、それは私のプライドに反する。

 

 ようするに、何を言いたいのかというと。

 

「お風呂、くらい、一人、でも…だ、い、じょう、ぶ、です……っ!」

「だめに、決まってる…、でしょっ! し、シービーちゃん、そのまま抑えて!」

「りょうかい…! こら、いう事聞けっての!」

「いいん、です…っ! この、くらい、何度も、経験、ありますから……!」

「だから、だめなんだってば……!」

 

 風呂場前の脱衣所でこんな問答をしなければならない程には、私の信用は無いらしい。

 

 

 扉を閉めようとする私と、二人がかりで扉に手をかけるマルゼンスキーとミスターシービー。無理に開けようとすれば出来る筈だけど、流石に私を慮ってか少し力が緩い。しかし一人で風呂に行くことだけは全力で阻止しようとしている事だけは分かる。優しいのだか、厳しいのだか。

 

「あの……っ、たいせい、けっこう、大変、なので……! 出来れば、はやく、手、離して……!」

「ぜぇったい、離すか……!」

「いい、スタートワンちゃん…! いくら、慣れてるって、言っても……限度が、あるのよ……!」

「いいん、です…! 細かに、手を、借りる、必要、など……、ないっ、です、から……!」

「もう…っ、ホントに、強情なん、だから……! すきありっ!」

「え…わっ!?」

 

 下から足が出てきて、そこを基点に扉が開かれる。驚きで軽く体勢がふらついた所でミスターシービーがすかさず後ろへ回し込んで私の肩を支え、マルゼンスキーがハグをするように拘束してきた。……う、動けない。

 

「うう……」

「もうっ、スタートワンちゃん、いい加減にしなさい」

「まったく……。やっと止まった」

「です、けど」

「何が嫌なのさ。別にアタシもマルゼンスキーも、スタートワンを取って食おうってわけじゃないでしょ?」

「そう、なんです、けど」

 

 言葉を濁す。確かに見た目では同性の風呂だけど、実際は異性との風呂だ。流石にちょっと絵面が悪い。

 それに、傷跡を間近に見せると同レースに出るような事が会った時、意識を割かせるタイミングが無くなる可能性もある。数少ない切り札を見せるような事ばかりはしたくない。

 

「とにかく! 一人でお風呂に行かせるわけには行かないわ。一緒に入りましょ?」

「その……。ええと」

「……だめ?」

 

 うっ……。そ、その潤んだ目は……。

 

「で、ですが……」

「……すたーとわんー……」

「……う、うう」

 

 わ、わざわざ屈みこんで上目遣い! しかも、二人揃って頼み込むような目で見てくるのは卑怯だろう! ただでさえ一人居るだけで華のある空間を作り出せる美人が二人がかりで攻めてきたら、流石に断りにくい……!

 

「スタートワンちゃん……」

「スタートワン……」

「…………、……。」

 

 ………………。ああー、もう…。

 

「……どっちか、一人、だけなら。お風呂、大きく、ない、ので」

「……」

「……」

「「……最初はぐー!」」

 

 

 

 

 「やっぱり三回戦で!」「じつは五回戦だから!」など、いっそ潔さすら感じる程にごねまくったミスターシービーにはリビングで待機してもらい。

 マルゼンスキーに手を借りて、私は風呂場の椅子に腰かけさせてもらった。

 

「すみません」

「このくらい気にしないわ。ほら、頭洗うわよ」

「お願い、します」

 

 シャワーで頭を洗い流し、続けてシャンプーが泡立ち始める。マルゼンスキーの白魚のように白く細い指が髪の間を縫うように頭皮を解していく感覚に、少しだけ心地よさを感じる。

 

「どうかしら?」

「気持ち、いいです」

「ふふ、よかった」

 

 背中から頭に手を回す関係で、少しだけ彼女の胸が私の背に当たるのが分かった。風呂に入るのに意味も無く服を着る必要も無いからと彼女も裸なので、素肌同士が当たっているわけで。

 

 気になるかどうかと言われれば、当然気になる。遡れば私だって男だったのだから、少しだけ緊張もある。しかも彼女は、学園はおろか『ウマ娘』でもトップクラスのプロポーションの持ち主だ。湯気で曇ってはいるものの目の前に鏡もあるので、わざと視線を向けないように気を付けているところもある。根本的な感性には、やっぱりまだ男のものが残っていた。

 

 

 ただ、それ以上に。

 

「……、」

 

 分かってしまう。傷一つない彼女の身体の、その肌理細やかさが。

 背中越しに、自分の身体に残る傷越しに。隔絶された、互いの違いを。

 

「お湯、流すわね」

「…お願い、します」

 

 シャワーが頭を伝い、泡と共に足元へ流れていく。視線が水の流れを追って、私の身体に進む。

 

 赤黒い火傷痕、ケロイドの膨れて歪な光沢、それから皮膚に薄らと残る蚯蚓腫れのような線。熱を受けて色を変えたそれらは、体温の上昇による血流の活性に合わせ、痛みにも痒みにも似た疼きを主張する。

 視線の端で僅かに見えるマルゼンスキーの白く滑らかな手。膝の上に置かれた、自分の傷だらけで不健康な手。

 

「……。」

 

 あまりに違い過ぎて嫉妬すら湧かない。ただ、自分の姿を彼女の視界に入れている恥ずかしさと申し訳なさが頭を重くする。

 

「スタートワンちゃん?」

「っ。なん、でしょう?」

「頭は終わったけれど、ボディソープはこれでいいの?」

「はい、何時も、使ってる、ものです」

「……今度、肌に優しい良いもの教えてあげるわね」

「使い慣れ、してる、ものの、方が、楽、なので」

「だめよ、もう。女の子なら、安物とか普通のものだけじゃ肌に悪いんだから。ちゃんとしたものを使わないといけないわ」

 

 そう言われても、種類が多すぎて吟味する気にもならないんだよなあ。

 そんな突っ込みを心の裡に留めつつ、彼女に背を洗ってもらう。

 

「背中、痛くない?」

「大丈夫、です。ちょっと、敏感な、だけ、なので」

 

 強い力で擦るとか爪を立てられたりすれば流石に痛みもあるが、表面的な傷でもあるので内側に響くような痛みを伴う事は基本無い。精々風呂上りなどに皮が突っ張るくらいだ。

 少しの間背中を、それから両腕なども洗ってもらったところでストップをかける。

 

「ありがとう、ございます。ここからは、自分で、やります」

「大丈夫? 手、ちゃんと動く?」

「問題、ありません」

 

 とはいえ身体のぎこちなさは残っている。私が洗い終えて湯船に浸かる頃には彼女が冷えてしまうので、椅子から動いて彼女にシャワーの前を渡す。

 

「ここ、使って、ください」

「えっ、でも、大丈夫なの?」

「身体、洗う、だけ、ですし。桶も、あります、から」

 

 今回は泊まりに来た人の習慣に合わせただけで、普段は湯船のお湯を使って洗い流している。ここから普段の習慣に戻せばいいだけなので、後は私一人でも問題はない。

 

「……そう、ありがとね」

「いえ、気にせず」

 

 そうしてそれぞれに身体を洗っていく。湯気で視界はかなり悪いが、使い慣れた場所なので勝手は分かる。

 そうしてのそのそと身体を洗い続け、なんとか桶を使って洗い流す。マルゼンスキーの方はまだゆっくりと洗っているところだったので、邪魔をしない程度にこっそりと湯船に移動し、湯に浸かった。

 

「……ん…。」

 

 僅かに火傷が疼くが、気にしなくていい程度だ。彼女の身体を見ないよう壁の方を向くべきかとも思ったが、変だと思われると少し面倒なので素直に振り返った。

 

 …………アグネスデジタルがキャパシティの限界を迎える時の気持ちも、これに近いのだろうか。

 身体についた泡をシャワーで流しているマルゼンスキーの姿は、ぞっとする程に美しい。同じ白いはずの泡すらも霞む白磁の肌。柔らかく明るい鹿毛の髪は水に濡れて艶やかに光り、めりはりのついたボディラインは正しく人為的と言ってもよい曲線で作り出され、人によってはこの場そのものが一つの芸術にも匹敵すると感じる事だろう。

 

 同性すらも見惚れてしまう程の美貌。向ける視線に気付いたのか、マルゼンスキーは此方を見てくすりと笑った。

 

「もう、見過ぎじゃないかしら?」

「…すみません。ちょっと、どきどき、して」

「あらっ、嬉しいこと言ってくれるじゃない♪」

 

 そう言いながら身体を洗い流したマルゼンスキーが湯船に入ってくる。決して大きなサイズではないので空間を空けようとしたところで、大丈夫と制される。

 

「スタートワンちゃんなら多分……ほら、入れたでしょ?」

 

 互いに正座をしながら向かいあう。ほ、本当になんとかなった。ああ、そうか、私とマルゼンスキーだと身長の問題で私が小柄になるから、多少狭くはあっても入れなくはないんだ。

 ……いやでも、これはその……。

 

「ふふっ、向かい合わせは恥ずかしい?」

「…………。」

 

 返事しにくくて顔を背けると、くすくすと笑われてしまった。

 私だっていつもなら気にはしない。けど、今の状況で変に感情を揺らがせるとちょっと怖いので反応がしにくい。互いに裸なので隠したところで意味も無いのだけど……。

 

「……まあ、その。あまり、見ないで、ほしい、とは」

「……そう、気になっちゃう?」

 

 頷く。正直、見られたくはない。

 私と彼女の容姿には隔絶した差がある。普段は制服という統一された服装、そして私のカムフラージュの為に分かりにくくなっている違いが露わになっている。挙句に、今日は彼女にストレスを与える事しかしていない。

 

 見せられたものじゃない私を、それでも見なければならないのは彼女にとっても苦痛だろう。

 

 

 

「ごめん、なさい。今日、色々、予定、あった、筈、なのに」

 

 無言で湯に浸かる時間が過ぎ。

 つい出てきた言葉は謝罪だった。反射的な発言に頭が追い付き、気持ちが沈むのが分かる。

 

 本当は、マルゼンスキーもミスターシービーもファン感謝祭に向けて準備をしなければいけなかった。明日以降どころか、今日一日を捻出するのも難しかったはずだ。それは見舞いに来てくれた他の先輩も、当然クラシックに向けて一秒だって惜しいシンボリルドルフも、ハッピーミークやクラスメイトだって同じだ。

 

 感情的になって、案の定した失敗。

 そんな情けない事のために時間を割かせたというのに、出来る事は謝罪だけ。

 

「大事な、時に、邪魔を、して。本当に、ごめんなさい」

 

 こんな形で足を引っ張る事になってしまい、頭を下げる事しか出来ない自分が。何よりも一番情けない。

 

 

 

「……スタートワンちゃん」

「……はい」

「同じ事、他の子にも言ったらお姉さん怒っちゃうわよ?」

「え――んにゅ」

 

 両頬を引っ張られる感覚に思わず顔を上げる。

 腕を伸ばして私の頬を抓るマルゼンスキーは、怒ったような、困ったような、それでいて悲しそうな。複雑に混ざり合った表情で私を見ていた。痛むほど口を思い切り引っ張ってはいないのは、形だけであること以上に、そういう行動を取る理由がある事を示している。

 

「先輩に頼るくらいの事、ちょっとはしてくれてもいいのよ?」

「いつも、練習を、お願いして」

「そのくらい何時でも出来るわ。…私が言ってるのはね、本当に誰かが居て欲しいときに、一人でなんとかしようって思っちゃダメって事」

「……シンボリ、ルドルフ、さんも、同じ、だと」

「ルドルフの事だって当然、私もシービーちゃんも、他の皆も気にしてる。それと同じくらい、あなただって私達を頼ってくれないと。私達も、先輩として立つ瀬がないわ」

 

 頬の手が離され、そのまま私の背へ回り、抱き寄せられる。少し心臓が跳ねたが、何か言うより先に彼女が言葉を続ける。

 

「何よりね。あなたのトレーナーが、一番スタートワンちゃんを心配してるのよ」

「っ」

「この学園で誰よりもあなたと一緒に居るのは、私でも、シービーちゃんでも、ルドルフでもない。あなたの一番大事なトレーナーが、あなたを一番大事に想ってる」

「トレーナー、さん……」

「ええ。今日は私達が色々聞いて、スタートワンちゃんは教えてくれた。だから、今度はスタートワンちゃんのトレーナーにも、ちゃんと教えてあげて、それから、安心させてあげて?」

 

 トレーナーと、安心。

 

 保健室での会話を知らないからこそ言える事であり。

 私達の会話を知らないからこそ、今痛みすら覚える程に胸へ刺さる言葉。

 

 

 マルゼンスキーの腕の力が強くなり、一層私の身体は彼女に抱き寄せられる。

 

「私達、まだ学生でしょ? まあ私はそろそろ学園に居るからとりあえず学生、みたいな扱いになりつつあるけど…。でも、学生の今だから、甘えられる時にちゃんと甘えないと。ね?」

「…………。それを、私が」

 

 することは、許されるのか。嘘と偽りだらけの、私が。

 

 ……それを決めるのは私でも彼女でも無く、あの人で。

 だから、私は明日にでも、彼の元へ行って話をする事が必要だと。

 

 マルゼンスキーは言いたいのだろう。

 

 

「……言わないと、いけない、こと」

「ええ」

「たくさん、あります。言えない、ことも、たくさん」

「そうね。色々考えて、選んだのよね」

「……。……もう少し、お話、必要、ですか」

「私はそう思うわ。それに、スタートワンちゃんもそう思うのなら、話した方がいいと思う」

 

 頭を撫でる手に、少しだけ心地よさを感じた。

 

「なら、沢山、時間、必要、ですね」

「……もう、いっぱい隠し過ぎ!」

「秘密、主義、ですので」

「やり過ぎはよくないわよ?」

「気を、つけます」

 

 恐らく明日にはこの呂律の悪さも回復してくれる。

 皐月賞に向け、色々と話したい事が出来てしまった。

 

 

 

「はーい! 二人共!」

「!? み、みすた」

「あらっ! もー、湯船はもう満員よ?」

「アタシだけ放置してるのに、楽しそうにしてるのが聞こえてくるんだもん! もう我慢できないからね!」

 

 突如風呂へ乗り込んできたミスターシービー。どうやら寂しくなったようだ。

 ああもう…まったく。隣に迷惑だから、少しくらい静かに出来ないものかなあ。

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