G1目指して頑張ります   作:あかし/さんさい

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目標:皐月賞に出走
40 嵐を呼ぶ理事交代


 4月。日本では新年度の始まりとされる、出会いと別れの季節。

 海外の学校では9月が年度のはじまりとされるそうだが、少なくとも日本ではそうではない。多くの事が春に始まり、春に終わる。

 

 身体の調子も戻り、ついでに週に何度かのペースで誰かが自宅に泊まりにくるようになって暫く。私達は学年を一つ上げ、正式にクラシック級の戦いに臨む。

 それは言い換えると、学園の運営を担う樫本理事長代理の退任も意味する。入学時からジュニア戦線まで、多くの事で世話になった彼女は、今講堂の壇上で別れの挨拶をしていた。

 

「これから皆さんは学生とアスリート、二足の草鞋を履いて学園での生活を送る事になります。一方に傾倒すればバランスは崩れ、簡単にその生活は破綻してしまう。同時に例えどんな時でも、心身を整え、自身の管理をし続けなければ走り続ける事が出来ても、優秀な成績を残すことなど不可能です」

 

 理事長としての最後の言葉と考えると、結構な力の乗ったジャブだ。新入生向けの言葉である事は間違いないが、同時に在校生にも少なからず響く口上を用意しておいたと見える。

 

「もしそのバランスの調整に自信が無い、或いは手を借りたいという方が居たら、私のチームへの加入を検討してください。一人のトレーナーとして、少なくとも不慮の事故や怪我などの心配なく走り続けられるよう手を尽くしましょう」

 

 本人としても思う所はあるようで「出過ぎた真似をして申し訳ない」と付け加えながら彼女は壇を降りる。

 勧誘、兼最後の砦となる宣言か。自分のチームの宣伝になるのであまり褒められた行為ではないが、彼女らしいと言えばらしい。

 

 さあ、今年からチーム「ファースト」の活動開始だが、果たしてあの二人はいつ来るのだろう。在校生の席からだと、新入生の数が多すぎて全然分からないな。

 

 っと、そんな事をしている間に次のプログラムだ。樫本代理…もとい樫本トレーナーの挨拶が終わったので、その次に来るのは……。

 

「それでは、新理事長の挨拶に移ります」

 

 司会の言葉に合わせて、教師陣の並ぶ椅子から立ち上がり一歩前へ出るのは、そんな教師陣より軽く二回りは小さな体躯の少女。扇子を片手に、頭に被った白い帽子の上に灰色に白の柄をした猫を乗せた、明るいオレンジに近い髪と流星を思わせる一房の白髪を持つ彼女は。

 

「初見ッ! 紹介にあずかった秋川やよいだ。本日よりここ、トレセン学園で理事長の任に就かせてもらう!」

 

 勢いよく、それでいてはきはきと。記憶では私達と変わらぬ未成年という情報もあったはずだが、その威風堂々の振る舞いは、既に年齢に見合わぬほど堂に入っている。

 シンボリルドルフのように帝王学を学んでいるのかもしれないな、なんてちょっと思ってしまった。

 

「諸君らの見ての通り、私は未だ若く、前樫本理事長代理と比べ経験も不足している。当然、新任ゆえ至らぬところも多く、失敗もあるだろう。しかしッ! 学園の運営を任されたものとして、私にも責任がある! 皆の善き学園生活のため、尽力する事を誓おうっ!」

 

 小さな体に見合わぬほどの声量に、広い講堂がびりびりと震える。壇上に上がった時には困惑してばかりだった周囲の生徒達も、声だけで分かる覚悟の重さに気圧されている様子だった。

 

「募集ッ! 学園での生活における相談は、秘書であるたづなにどんどん行ってくれ! それを受け、出来る事はなんでも導入しよう!」

 

 あ、この発言は秋川理事長っぽい。私財を擲って生徒を助けようとするところはURAファイナルズのシナリオでもよく見たなあ。

 

 

 その後あれこれと入学式、始業式の話を終えてようやく昼に。今日は年度の始まりという事もあり、学園も早くに放課後となっている。

 クラスメイトとハッピーミークを両隣に、ベンチでお弁当をつつく。勿論三女神の噴水がある場所ではなく、少し離れた場所である。

 

「新しい理事長、私達より子供だったよね」

「なんでも前理事長…樫本代理の前の理事長の娘さんらしいですね」

「まだ、若いって、言ってた、けど」

「見た目もあるから、未成年って言われても信じちゃうよね。でもすごかったなあ、あの声量」

「皆、びっくりしてた」

「見事な演説でしたね。今回が初めての着任との事ですから、これからの活動も期待が持てます」

「……一応、理事長だし、大丈夫?」

「確かにね」

 

 ほんの数分の自己紹介と言え、ある程度の人心は掴めていたと見える。しかし彼女に実績が無いのは事実で、言動の内実など学園では不明のままだ。私の知っている活躍の多くが今後の事だというのもあるが…まあ、直ぐに彼女に問題が無い事は分かるだろう。

 

「でも、来てすぐ、感謝祭、大変そう…」

「あー、確かに。もう来週でしょ? 生徒会もあるからよっぽどのことが無ければ大丈夫だと思うけど……、どうなのかな」

「理事長の手腕がどう発揮されるか…とはいえ、普通に終了すればいいだけですし、私達は何事もなく感謝祭が終わるまで楽しんでいればいいんですよ」

 

 感謝祭の運営に基本関われないクラシック期以下の生徒は、理事長の活動がどれだけ影響を与えたかなんて実感も薄い。取り敢えず、何事も無くイベントが進行してくれればそれだけで満足だ。

 

「それもそうだね。スワちゃんも感謝祭より皐月賞の方が大事だし」

「…私も、桜花賞」

「やっぱ二人共すごいなあ。私はもうちょっと後だからいいけど、優勝目指して頑張ってね!」

「ええ……なので、前日の二人の宿泊は無しという事になりませんか?」

「「ならない」」

 

 書類の効果は理事長の承認を受けてからの筈なのに、初めて来るに当たって一応は宿泊せず律義に自宅へ戻っていったトレーナー以外全員が私の部屋に入り浸るようになっている。マルゼンスキーとミスターシービーは一人だったり二人だったりでほぼ週に一回、ハッピーミークとクラスメイトも同頻度で、最近はシンボリルドルフや先輩の二人まで来るようになってしまった。

 

 後者三人の方は夜になると寮に帰ってくれる物分かりの良さがあるのだけど、四人に関しては元々一人暮らしで外泊に慣れているのと、友人の家だからとフットワークが軽くなっている。最近は顔を見せるだけで寮長が届け出の書類を用意してくれるようになったらしいので、足の軽さは一層悪化中だ。

 

 ……彼女達は人の家を何だと思っているのだろう。

 

 

「一応私のプライベートの場なので、何度も来られると困るんですけどね」

「私達がスワちゃんの家に行かなくなったら、絶対何かあっても何も言わないでしょ」

「いいじゃないですか、知ったところでどうにもならないんですから」

「だから、言ってる」

「まったく、私だって何も問題がある訳じゃなくて……って、」

「あ、たづなさん」

 

 こちらへ近付いてくる人影を視界に捉えると、たづなさんが小走りで此方へ向かってくるのが見えた。誰か用事のある人でも居るのかと思ったが、直ぐにその相手が自分だという事に気付く。

 

「やっと見つけましたスタートワンさん!」

「すみません、理事長のご予定ですよね」

「そうです。時間が空いたのでお呼びに」

「分かりました。トレーナーさんはもうそちらへ?」

「はい。なので後はスタートワンさんが来てくだされば全員揃います」

「了解です。すみません二人共、私はここで」

「ん、わかった」

「また後でね」

 

 ベンチを離れ、たづなさんと一緒に理事長室へ移動する。

 

「すみません、わざわざお迎えに来てくださって」

「いえいえ、これも理事長秘書の仕事ですから」

「そういってもらえると助かります。……しかし、これでトレーナーさんも私の家に入り浸りですか」

「まあ、事情が事情ですから…。樫本りじ…トレーナーも、お二人の事は秋川理事長にお話ししていますので、承認されると思いますよ」

「……別に問題ないとは思うんですけどね。あったら対応できますし」

「それを踏まえても、という事なので」

 

 ……なんか、私が問題児だから理事長に条件付きで色々融通してもらってるみたいだこれ。テストで赤点を出した事もレースの成績が頗る悪いわけでもないんだけどなあ。

 ……私が悪いのかこれ。本当に悪いのかこれ?

 

 

 詮無い会話を挟みながら目的地へ到着。たづなさんがノックをすると、大きな声の「了承ッ! 入るといいっ!」が聞こえてきた。

 室内にはソファで向かい合う秋川理事長とトレーナー。私が居ない間に結構話が進んでいたのか、二人の前に置かれたお茶請けの羊羹が結構減っている。頭の猫は一瞬だけ此方に向け顔を上げたが、気にならなかったのか直ぐに頭を下げる。

 

「失礼します。お待たせしてすみません秋川理事長、ただいま到着しました」

「うむ! 君がスタートワンか、まずは座ってくれ!」

 

 促されるままにソファへ行き、トレーナーの隣に座る。入れてもらったお茶に礼を言って一度口をつけると、そこで理事長が改めて喋り出す。

 

「改めて、私が樫本トレーナーと入れ替わりで着任した秋川やよいだ。今後もよろしく頼む!」

「スタートワンと申します、樫本トレーナーからお話は伺っていました。本日はお忙しい着任初日に時間を取らせてしまいすみません。長い話をするつもりは無いので、予定が詰まる前に早めに切り上げてしまってください」

「誠意ッ! その気遣い、感謝する! しかしこれも理事長の務めだ! 特に今回は今年のクラシック有力候補に関わる重要な事項!」

 

 そこで彼女は扇子を開く。白地の扇子の中心には「快諾!」の文字。

 

「承認ッ! 仔細は樫本トレーナー、そして君のトレーナーからも聞いている! 彼を含め、存分に交流を深め英気を養うといいっ!」

 

 彼女の言葉に合わせて、頭の猫がにゃっと小さく鳴いた。ああ、これホントに一緒に鳴いてたんだ。

 それは良いとして。流石にちょっと、ここまであっさりと決めてしまうのは判断が迂闊過ぎやしないだろうか。

 

「……ええっと、理事長はいいんですか? 一応学園の規則では学生寮へのトレーナーの侵入は禁止事項ですが…」

「無論、それは変わらない。一人暮らしの場合でも、極力ウマ娘の住居には入らないように通達がされている。しかし、今回の事項は特例、トレーナーが入れるのは君の自宅のみ、宿泊も私の許可がある時だけだ。君が許可を出したとしても、ここは変わらない。そしてっ!」

 

 理事長がくるりと扇子を裏返すと、そこには「信頼ッ!」の文字。

 

「二人の普段の素行、その活躍も既に確認済みだ! 二人なら学園の風紀を乱すことなく清き関係を築いてくれると判断した!」

「……そう、ですか」

 

 思い切りが良いなあ。不純な関係に見えないというのはまあ有難い話ではあるが、それはそれとして理事長がそんな判断をしていいんだろうか……。なんて思っても、私に結果をひっくり返す事は出来ない。彼女の審美眼を信じよう。

 

「分かりました。理事長のご判断に任せます」

「うむ! とはいえ、これは君自身のケアとして行う事。トレーナーとこまめに相談を行い、共に良い関係を維持してほしい!」

「了解です。彼の性格はほどほどに分かっていますので、うまく扱っていこうと思います」

「おい、言ってくれるじゃねえか」

「言っておきますが、私は今も今回の方式はあまり良いものと思っていませんからね。幾ら私が一人暮らしだからと言っても、かなりリスクの高い手法を取っているんですから」

 

 スーパークリークやマンハッタンカフェといったコンビの関係を認知されているところならともかく、私達はそこまでメディア露出もしていない扱いなので、スキャンダル扱いされると色々と面倒になりかねない。

 

 そんな風に言うと、彼はすっと目を据わらせ、私の頬をつまむ。

 

「そもそもお前があれこれ隠して我慢してなきゃこうなんなかったろうが、お?」

「……ほれをいはれゆとこあいあひゅ。ほゆーか、つかあやいでくれまふか」

「おめーの口の悪さがましになんだろ。ちったあこれで反省しへお……おい」

 

 仕方ないので彼の頬を抓む。口の悪さなんてそっちの方が遥かに上だろう。

 

 少し睨み合った後、互いに威嚇しながら互いの両頬を抓り上げていると、大きな声の咳払いが聞こえた。

 視線を向けると、秋川理事長が「児戯?」と書かれた扇子で口許を隠している。

 

「気の置けぬ仲である事は非常に喜ばしいが、それは人の居ない場で行って欲しい」

「……すみません。少し気を緩め過ぎていました」

「騒がしくして悪かったな。とにかく、今回の承認、感謝する」

 

 私から手を離したトレーナーは、何時もとは違う真面な態度で頭を下げる。此方もふざけ過ぎたので、謝罪と感謝の意を込めて頭を下げた。

 それを受けうむと頷く理事長。ぱちんと扇子を鳴らして閉じると、そのままそれを此方へ向ける。

 

「兎角! これからの二人の活躍、是非見させて欲しい。期待しているぞ!」

 

 にゃっと猫が鳴いた。

 

「了解です。ご期待に添えるかまでは分かりませんが、全力を尽くしたいと思います」

「やるだけはやってやるさ」

 

 

 という訳でそれぞれに返事を返して、理事長室を後にする。

 たづなさんに扉を開いてもらい出ていこうとした所で、足元から声が聞こえた。

 

「?」

「おい、その猫」

 

 トレーナーの視線に合わせて下を見ると、そこには理事長の猫。私の真下、足の傍でちょこんと座っている。

 

「どうしたんで……!」

 

 一瞬普通に問いかけて、気付く。

 逃げない。明らかに、私の事を意識しているというのに。

 

 腰を下ろし、猫を見つめる。全く開かない目のまま、けれど彼(もしくは彼女)は、此方へ顔を上げていた。

 

「…………」

 

 少しだけ手を動かし、猫の頭の少し上に。普段ならこの時点で逃げられるものだが……じっとしている。手袋越しにも拘わらず、むしろ自分から手に触れてくれた。

 小さな鳴き声の後、頭を更に押し付けて撫でろという意志を伝えてくる。それに従って軽く手を動かし、背へと流すように触れると、再び小さく鳴いた後、ぐるぐると唸る声を上げた。

 

「まあ…」

「ふむ…。私以外にここまで近づくのは珍しいな」

「……そういや、この猫は何なんだ? なんかずっと頭に乗ってたがよ」

「相棒だ! たづなと共に私のサポートをしてくれている!」

「……そ、そうか」

 

 トレーナーが理事長の断言に閉口してしまった。潔いまでにはっきり言われると流石につっこみ返せなかったのだろう。ちょっと面白い。

 

 私の手を避けることなく甘え続ける猫に、つい呟く。

 

「あなたは、凄い方ですね」

 

 動物には枷をした領域の存在が分かるのか、余程鈍感な子でもない限り見る事すらままならない。人に飼われて警戒心が薄くなっているのか、或いはこの子自身が判断出来る程に賢くなっているのか。

 どちらにせよ、こんなに生き物を撫でたのは本当に久しぶりだ。

 

 返事を返すように小さく唸った後、猫は私の足を擦り抜け理事長の元へ戻る。彼女は一度頭を撫でた後、抱き寄せて頭の上に乗せ直した。そこが定位置でいいんだ。

 少し癒された所で、改めて部屋を去る事にする。

 

「ありがとうございました。それでは失礼します」

「うむ! 何か用がある時は何時でも来るといい!」

「まあ、許可取りにちょくちょく来る事にはなるわ。よろしくな」

 

 廊下へ出てから再度一礼し、トレーナーと共に校舎を移動する。

 

「今度からあなたまで私の家に来るんですね」

「そういう条件だからな。お前が選んだんだぞ」

「……なら、先に言っておきたいのですが」

「あん?」

「他の皆さんにも、私の家に入り浸り過ぎないよう言ってもらえませんか? 噴水の日以来ほぼ毎日人が来ているので、逆にリラックス出来ないのですが」

「…………最低何日か時間を空けるように言っておいてやるよ」




ついに総合評価が1000ポイントを越えました。感慨深いしめちゃくちゃ嬉しいしでちょっと舞い上がってます

よろしければこのまま感想とかここすきもしてもらえると最高です
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