新ウマ娘ではダンツフレームが刺さり気味ですね。紹介見る限りちょっと気弱なトプロというか、プレーンなキャラクターって感じが個人的に良いです。
この世界はウマ娘のレースが国を越えて人気なので、その中心にあると言ってもいいトレセン学園で行われるイベントは、基本的に盛況だ。
今日は春の感謝祭。開始からまだ一時間と経過していないというのに、賑わいはかなりのものとなっている。オープンキャンパス含めのものなので感謝祭目当ての入場者とは実際の数値が少しずれるだろうが、それを加味してもこれだけの人数を呼び込めるのだから、やはりこの世界のウマ娘人気は並外れている。
私とシンボリルドルフは共に校内を歩きながら、祭りの様子を眺めていた。
「昨年は入学直後であまり見ていられませんでしたが……凄いですね」
「ああ、私も今一度こうして見ていると、ウマ娘という存在の大きさに感じ入るよ」
「本当です。シンボリルドルフさん、どうです? 少しお店の冷やかしにでも行きますか?」
オープンキャンパスで子供達が来るまでは、まだ少し時間がある。午後も家族と色々話すつもりなので、今の内に楽しめる所は回っておきたかった。ついでにここで精神的に和ませて、シンボリルドルフの牙を少しでも鈍らせておくなんて策も……欠片も意味は無いがやっておく。
「いいのかい? 君のトレーナーと予定などは?」
「すぐ終わるそうですが、予定があるとの事なので。その間だけでも、どうですか?」
「…ふふっ、そうだな、私も少し覗いていこう」
というわけで、二人で学園内を巡る。屋台の料理をつついたり、休憩所で一息を吐いたり。場所によっては小さな演劇、アニメでもあった執事喫茶をしている所もあり、学芸会程度のものとしても中々に侮れない。こういう陽の面を見て欲しいからこそ、オープンキャンパスもこのタイミングで行うようにしているのだろう。
ベンチでの休憩。購入したドリンクに口をつけながら、この後のプログラムを思い出す。
「エキシビジョンレースは、マルゼンスキーさんとミスターシービーさんが出走するんでしたよね」
「ああ、確か今は会長や他の出走者と共にトークショーの方に出ている筈だよ」
「この後という事は、オープンキャンパスと同じくらいのタイミングですね。時間があれば見に行きたい所なのですが」
「明日の予定だったら余裕も持てたのだけどね。プログラムが合わなかったのは仕方ない」
どの媒体でもファン感謝祭は一日分の描写しかなかったが、この世界では数日行われる。教育機関としては大分攻めた行為だが、最大限ファンとの交流を行う事を前提に、オープンキャンパスとしての扱いも含まれているからこそ期間を長く設けているのだろう。
「そういえば、シンボリルドルフさんも案内を行うんですか?」
「本当はその予定だったんだが、生徒会の方で幾つか用事が入っていてね。……あれ以降、君の事で色々引き摺っているんだ」
「……本当に申し訳ありません」
いくらイベント運営に関わらないクラシック期といえど、生徒会は運営とは別のもの。将来有望株というのも相まってシンボリルドルフは運営に少なからず参加をしている。
しかも、あれからそこそこ日にちも経過しているものの噴水の規制は未だに解除されていない。感謝祭さえ終わればあそこもまた普通に行き来できるようになるのだけれど、それはそれとして原因が分かっているので、見事に藪をつついて蛇を出してしまい居心地が悪い。
「い、いや、事情も事情だ、君が悪いわけではないよ。それより、そろそろ皐月賞も間近だが、準備の方はどうだい? 感謝祭で息を抜けるのは良いが、その分練習場所なども制限されてしまうからね」
「……そう、ですね。一応は順調といって差し支えないと思います」
自分で振っておいて情けない話だが、やや無理な軌道修正に乗る。
新入生や来年以降の入学生向けの行事である感謝祭と皐月賞の期間が近いのは、単純に季節的な問題だけでなく、クラシック期のウマ娘が戦線に向け無理な練習を繰り返さないための措置でもある。基本的に人間と変わらないウマ娘は自分の限界をある程度コントロール出来る半面、競走馬とは違い気合を入れ過ぎて故障を起こすなんて事もないわけではない。
若い故の失敗は極力少ない方が良いからこそではあるのだけど、それは同時に順当なトレーニングの時間もある程度減少してしまうという事だ。特に練習で最も利用されるコースなどは主要なイベントの開催場所にされる事が多いので、その分かなり時間を取られている。
「背に腹は代えられませんから、その分はライブの練習などで体力を落とさないように気を付けています」
「なるほど、私もトレーニングルームは良く使っているが、ダンスもそろそろやらねばな」
「どうですか、今度『Winning The Soul』の練習でもします? 皐月賞以降もありますから、今の内に出来るだけやっておいたほうがいいでしょう?」
「そうだな。どうする? 今度マルゼンスキーとミスターシービーも一緒に誘うか?」
「そうですね、二人共経験がありますから、お願いしてみましょうか」
経験者に教えてもらえばその分踊りの完成度も高まる。良い提案だろう。…とはいえ。
「まあそれはそれとして。あのお二人では、二着以降の振り付けは自力の練習が重要になりそうですね」
「……ああ、確かにそうだな…」
「ふふっ、一着の体験だけでもさせてあげようという優しさですか?」
「からかわないでくれ、私が必ず勝つと決まっている訳じゃあないだろう」
「勿論冗談ですよ。しかし、結局私達は同じレースに出るんです、どちらかがどちらかの後ろに並ぶのか、或いは誰かが私達を引き連れるのか。そこはその瞬間までは分かりません」
可能性は限りなく低いのだろうけれど。
「そう、だな…。私としては、もし負けるのならば君の」
「シンボリルドルフさん」
「!」
「仮にも戦いです。自ら気勢を削ぐような真似はよくありませんよ」
「……すまない。今のは聞かなかったことにしてくれないか?」
「ええ。……しかし、実際の問題として、二着以降の振り付けも確認しておく必要はありますね」
「…ああ、やはり今度、練習の時間を設けよう。出来れば数人ほど人が欲しいのだが……二人を呼ぶしかないか」
「私達の周辺だと、彼女達くらいですからね」
マルゼンスキーが皐月賞のみの出走、しかも一着。ミスターシービーも三冠ウマ娘なので一着の振り付けと歌唱パートしか経験していない。二着以降の振り付けはちょっと大変そうだな。仕方ないのでクラスメイトや先輩達も呼んでみよう。
そんな話をしていると、シンボリルドルフは近くの時計を見て椅子から立つ。
「と、私はそろそろ生徒会室の方へ戻ろうと思う。スタートワンも案内する子が来る頃だろう?」
「……そうですね。確か今回は先輩も一人同行するとの事なので、早めに会っておきたいです」
「ふふ、なら、ここで一旦お開きとしよう」
「に、しておきましょうか」
シンボリルドルフとはここで解散し、姉妹に会うためまた移動する。
それにしても、皐月賞か。一着以外の振り付けは一通り踊れるようになったつもりだが、基本的に一人で覚えていたから、何人かと併せての練習もしておきたかった所だ。時間も無いし、今日か明日にでも話を付けておこう。
……皐月賞と言えば、懸念している事が一つだけあるが……。
いや、禍根になるものは無い。突発的な事態でもない限り問題は無い筈だ。当日にならなければどうしようもないから、今は早く集合場所へ行こう。
緩んだ足を再び速めると、ポケットに入れていた紙の事をふと思い出す。道を歩きながらそれを取り出して広げる。
姉妹に電話で聞いた、今日学園を案内してくれる先輩。
「……この世界のジャパンカップ、やっぱり彼女なのかなあ」
学園の校門前へ行くと、行き来する参加者の中、一人のウマ娘が仁王立ちで学園の外を見ているのが見えた。後ろ姿からも見える白いイヤーカバーと、一房に纏められた黒鹿毛の髪。
……分かりやすい待ち合わせ場所としてなら、まあ頷ける所はあるのだけど。あそこまで堂々としているとちょっとは視線が気にならないのかと思ってしまう。
とりあえず声をかけるため近付く。
「すみません、連絡をしたスタートワンですが」
「ん? おお、あんたがそうか! あたしはカツラギエース、今日はよろしくな!」
「は、はい、よろしくお願いします」
にっと口の端を吊り上げながら、彼女はぱしぱしと私の肩を叩く。連絡を送った時は断られる事も想定していたのだけど、ここまで迷いなく受け入れられると逆に驚かされるものだ。
競争中止を除いて、その生涯で16のレースを走った競走馬シンボリルドルフ。計13勝、内G1が7勝という桁違いの戦績を持つ彼が取り逃した三つのレースの内一つ。
1984年ジャパンカップ。日本で開催される国際G1でありながら、当時一頭として日本馬が勝利する事の出来なかったレース。その栄誉ある初の勝者として名乗りを上げるべく出走したシンボリルドルフを、その走りで退けた日本の競走馬の一頭。
ある意味では、私が目標にする競走馬であり――ある意味では、私にとってのライバルになり得る相手。その現身が彼女、カツラギエースだ。
軽い自己紹介を挟んでから、改めて話を進める。
「ふうん、それじゃあ、あたしが担当するその姉妹が知り合いだから一緒に案内がしたい、と」
「はい、カツラギエースさんには申し訳ないのですが、出来ればご一緒したいと思いまして」
「そういう話なら別に構わないさ。折角のオープンキャンパスなんだ、少しでも楽しい思い出作って帰ってほしいしな!」
ほぼ二つ返事の了承。一応理事長経由で(樫本代理の頃にだけど)話を通していたので最初から一人増えるという前提で居てくれたのだろうが、それを踏まえても懐の広さが伺える。
「じゃ、早速戻るぞ!」
「……え、ここで待っていたのは私達に会うためでは?」
「いや、分かりやすい目印になるかなって思って。というか、参加者ならあたしに直接会う前に説明受けるだろ? 待ち合わせの場所ももう用意されてるし」
……うん、それもそうだけどさ。
その場に居ても仕方ないので、校舎に戻り家族の到着を待つ。
二人でいる時間は増えるために、自然と互いの事について話している時間も増える。
「そうか、学園に入学予定ね…。ただの見学じゃなかったわけだ」
「姉妹の母も元はここの学生だったんです。まだまだ先の予定にはなりますが、私もここにきたので丁度いいと」
「なるほどな。どーりでシービーが目をかけるわけだ」
「はい?」
一瞬会話の流れがずれた事に違和感を覚えると、背をかがめたカツラギエースが私の顔をじっと見つめる。
「あんだけの成績に、元生徒と知り合い…色々と教わってんだろ?」
「……。」
「シービーにシンボリルドルフ、マルゼンスキー、ハッピーミーク…。ここ暫くレースで名前を聞く奴等は軒並みあんたと関わりがある。あたしも一回、会ってみたいとは思ってたんだ」
そういえば、この人田舎から名を挙げて都会のエリートを見返したいってタイプだったっけ。彼女的には、寒門といえど都会で生まれたウマ娘は基本強い…っていう基準があるのかもしれない。
ぎらりと輝く瞳に少し申し訳ないが、訂正出来る所はしっかりしておこう。
「……一応言っておきますと、私は姉妹の母から指導を受けた事はありません」
「えっ、そうなのか?」
「なんでしたら、私もカツラギエースさんが取材で度々言っているように将来を有望視される出身ではありません。シンボリルドルフさんとトレーニングを始めた頃なんて、白い目で見られていたくらいですから」
「あー、そうなのか。…なんだ、悪かったな。あんたの事よく知らないで言っちまった」
ここであっさり謝罪が出てくるところが、私の周りと比べ快活さの表れになっているようだ。
まあぶっちゃけ今でも気になる視線が無いわけではない。たかが一年ではそういう意識が変わるものでは無いのだから、私よりも長くそうした視線を感じてきたであろう彼女からしても自分の発言がばつの悪いものだと感じたのだろう。
「謝られるほどの事じゃあないですよ。今度シンボリルドルフさんにお話ししておきますね。彼女でしたら、併走も快く引き受けてくれるでしょうから」
「いいのか?」
「私も気になりますから。ミスターシービー先輩に勝負を挑み続ける、勇敢な選手の能力を」
「……! へえ、嬉しい事いってくれるじゃんか!」
ミスターシービーをひたすらに追い続け、そしてその手を届かせた不屈の挑戦者。G1を二勝しているところからも、その能力は間違いなく格別だ。彼女の走りを間近に見る事が出来れば、私ももっと強くなれる。
……ところで、あんまり肩を叩くのは止めて欲しいかもしれない。
説明会は比較的早くに終わったらしく、無事に四人と合流する事が出来た。
「「ほし姉―っ!」」
「ぐっ……! こ、こんにちは二人とも……」
「ほら二人共、ちゃんと挨拶! もうごめんねスターちゃん」
「い、いえ、お気になさらず…、お、お二人も、元気そうで」
「はは、スターちゃんも変わらないようで安心したよ。それで、そちらが」
「はい、今日案内を担当するカツラギエースです! スタートワン含め子供達の身はあたしが守りますので、安心してください!」
「ふふ、これは頼もしいわね」
「うん、俺達も安心出来そうだ」
明朗な彼女の言葉に両親も笑顔を浮かべる。この人なら安心して案内を任せられると考えたのだろう。
「ま、ここでああだこうだ話しても時間のムダなんで。早速ですけど、学園を色々まわっていこうと思います! さ、そこの双子! 一緒についてきな!」
「「ふたごじゃないよ!」」
「え、そうなのか!?」
……この人もトレーナーと似たタイプなのか。身長とか髪色とか、色々と違う筈なんだけどなあ。
カツラギエースを先頭に、六人で学園の中を移動する。アニメであったように教室やプール、トレーニングルームに図書室など様々な所を見ていく(三女神の噴水だけは遠目にしか見られなかったが)。
時間の関係上長丁場になるのだけれど、感謝祭なので時折屋台で射的や輪投げなどを遊べたので、姉妹も飽きが来るのがゆっくりらしい。
「やっぱ二人もここは見ておきたいよな!」
「コースだーっ!」
「いっぱい走ってる!」
「今回は観客席からしか見られませんが、何時かは二人もここで走る事になるんですよ」
観客席のフェンスを前にぴょんぴょんと跳ねている姉妹を抑えながら、エキシビジョンレースのストレッチをしている生徒を眺める。コースの中心ではトークショーも行われており、かなりの人だかりが出来ていた。
学園の隅から隅まで見渡してから、満を持してのレース場。二人の反応も上々だ。
「懐かしいわねぇ…。ここで走った頃とは、ちょっと景色も変わってるけど」
「君が現役の頃は、レース環境も少し違っていたからね。今みたいに色々な子が活躍出来るようになったのは良い事だ」
「本当にね」
両親の嬉しそうな声を聞いて、この世界でも少し前までは不便な制約などが多かったという歴史の授業を思い出す。顕著なものでいえばマルゼンスキーのクラシック路線を阻んだ外国産馬の制度や、同じようにオグリキャップを阻んだ申請制度。厳密にはこの世界では少し違う呼称だが、中身は同じものだ。
今はURAの尽力によって整えられた結果、マルゼンスキーはクラシックに出走し、後々オグリキャップも三冠のどれかを走る可能性があるが、そこには元の世界と同じように、様々な紆余曲折が存在していた。
本来の彼女達…競走馬達の代わりに、他の者達が礎となる事で。私の生きている『ウマ娘』の世界は作られている。
「ほし姉、ほし姉ってば!」
「っ、な、なんですか?」
「あのね、あそこで話してるの、まるぜんすきーとみすたーしーびーでしょ?」
妹が指さす先、トークショーの会場の中心には、確かに件の二人らしき姿が見える。
「そうですね…。ここからでは少し遠いですが、お二人みたいです」
「うわぁっ…! ねえねえ、わたしまるぜんすきー見たい!」
「みすたーしーびー!」
「うーん……。今からだと、人が多すぎて近付けないでしょうね」
「「えーっ」」
「ははは! まあ、この後エキシビジョンレースもあるから、その時の為に場所を確保しとくってのも良いかもな!」
時間を確認すると、出走まではまだ時間がある。昼を少し過ぎたくらいという事もあるので、今の内に食事を摂っておくのもいいだろう。
「でしたら、今の内に屋台かカフェなどで休憩でもしましょうか。カツラギエースさんも、エキシビジョンレースを見ますよね?」
「ん? そりゃまあ、この子らが良いならあたしも見たいところだが……。」
「との事ですが、お二人はどうしますか?」
「「みるっ!」」
「……どうでしょう?」
「ま、そういう事ならしかたないな!」
話が早いようで助かる。
一旦その場を後にして学園の校舎側へ。並ぶ料理屋台を眺めながら、どれを食べるか吟味する。
「おっ、焼きそば売ってるな! 食べるか?」
「「食べる!」」
「あっ…もう二人共!」
「ははは! いいじゃないですか元気で! なんだったらご両親も食べます?」
「おかーさんも食べよ!」
「おいしそう!」
ふむ、早速決めてしまった。これは何を言ってもだめそうだな。
「二人がすみません」
「ま、気にすんな! なんならあんたも食うか?」
「いえ、流石にそこまでは。取り敢えず料金は払いますので、二人分の注文をお願いしてもいいですか?」
「ああ、そうだな。店長! 焼きそば二…いや、五人前頼む!」
何故五人分。
既に作られて容器に入れられた五つの焼きそばを手に、カツラギエースは私が代金を払うより先に財布からお金を取り出して支払い、容器の重なった袋を受け取る。
「ありがと! んじゃあほら、まずはそっちの二人だな」
「ありがとー!」
「やったー!」
「んでほら、コイツはスタートワン」
「え、いえ私は」
「いいんだよ気にすんな。で、はい、これはお二人に」
「ごめんなさいね、本当に…」
「料金は……今は受け取らないみたいだね。後で先生から渡してもらうように話しておくよ」
「いいんですよ、あたしが好きでやってるんですから!」
にこにこと笑顔を浮かべたカツラギエース。本当に、人好きのする性格だな。
「……それで、ご自分の分は?」
「……やっべ」
「半分ほどあげますので、後で一緒に屋台でも巡りませんか?」
「わ、わるい……」
姉御肌なのはいいけれど、良くも悪くも空回りする人だなあ。
そうして時間を潰しながら、そろそろエキシビジョンレースの事前準備が始まろうという時間。観客席には既に人が集まっていたが、私達が座れる程度の空きは残っていた。
「ほし姉ほし姉! もうはじまる!?」
「もうかな、もうかな!?」
「まだ始まりませんよ。もう少しのんびり待ちましょう」
元気の有り余っている二人を何とかストップさせていると、隣のカツラギエースが思わずと言ったようにけらけらと笑う。
「まるでホントの三姉妹だな! さしずめスタートワンが長女か?」
「そうだよ!」
「ほし姉がお姉ちゃん!」
「あははは! そうか、やっぱりな! よかったじゃないかスタートワン!」
「そ、そうですね。二人とは長い付き合いですから」
……あの人に快活さを足した感じがするのはなんなのだろう。
苦笑いで返事を返すも、両親も彼女の言葉には好感触らしい。
「いいわね。なんなら、本当に家族になっちゃう?」
「もう、お母さん、あまりからかっては駄目ですよ」
「いいじゃないか、俺達は構わないよ」
「お父さんまで…。」
私相手ならいいだろうといういい意味での気の置けなさなのだろうが、私じゃなかったら本気にする子も出てしまうだろう。気を付けさせたほうがいい。
ぱしぱしと叩かれる肩にストップをかけようか迷って、
「アンタがスタートワンか?」
女性としてはやや低く、それでいて艶めいた鋭さを持った声。
向いた視線の先にあるのは、カフスのような金色の飾りを右耳につけた、額に独特な流星を持つ鹿毛のウマ娘。制服を着こなす姿は、新入生とは思えない程に堂に入っている。
周りに座るカツラギエースや家族は眼中に無いようで、声に似た鋭い光を灯す赤い瞳が睨むように私だけを見つめる。
「スタートワンは私ですが…あなたは?」
彼女が誰なのかは既に知っているが、あくまで知らない相手として振る舞う。
にやりと笑みを浮かべた鹿毛の彼女は、けれど目の光を弱める事なく私へぐいと顔を近付けた。
にしても彼女、驚くくらい顔が整っているな。知り合いの三冠ウマ娘二人と並んでイケメン認定されていただけあって、視界の占有率が上がるとその美貌がよく分かる。
「私はシリウスシンボリ。……そう言やあ、分かるだろう?」
「いえ、特にぴんとはこないですね」
返す刀で即答すると、彼女は正にぽかんと目を丸くした。もったいぶって溜め込んでからの言葉だったので、彼女は私が間違いなく驚くだろうと考えていたのかも知れない。
まあ、シンボリの名前とその通りの大きさはよく知っているし、シンボリルドルフからも何度か話は聞いていた。しかしそれとこれとは話が別。彼女自身が説明しないものを察するなど出来るわけがない。
あと単純に、初対面の相手に慇懃無礼ですらない無礼な態度はあまり好きではないのだ。トレーナーですらちょっとだけ態度が柔らかかったぞ。
「お名前は分かりました、シリウスシンボリさん。では、何故私に会いに来たのか、一言一句漏らすことなくお聞かせ願えますか?」
「…………っ、くっ。あはははははははっ! そうか、そうだな。これは私が悪かった、非礼を詫びるスタートワン」
潔い。そういう所は教育が行き届いている感じがある。
「この程度の事でしたら気にしません。それで、ご説明は?」
「ああ、その事なんだが……ここじゃ場所が悪い。移動したいが、出来るか?」
「……これから、ここの皆さんと一緒にエキシビジョンレースを観戦する予定なのですが、この後に回す事は出来ますか?」
「……じゃあ、私も観戦しよう。いいだろう?」
……意外とノリがいいなこの人。