G1目指して頑張ります   作:あかし/さんさい

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43-1 第二戦 いざ、三冠へ挑む/芝2000メートル 中山 右・内回り 晴れ・良

 今週の天気は非常に良い。二日続けて、しかもメインレースという後半でのレースなのでバ場の調子は悪くなっているが、それも前日に雨が降っていたなどの不利条件が無い分まだ走りやすい方だ。

 

 今年のクラシック戦線、三つの冠を狙う優駿達の未来を占う第一戦、G1皐月賞。

 ついにこの時が来たのかという期待と、ついにこの時が来てしまったのだという不安が胸の内で渦巻く。

 

 控室でトレーナーと卓を囲みながら、パドックへの招集要請を待つ。

 

「はぁ……」

「久しぶりに溜息か。流石に三冠レースは気が重いか?」

「……気が重いどころの話じゃあないですよ」

「心配すんな、その為のジュニア期間だったろ」

「それもそう、なのですが」

 

 大舞台の経験はホープフルステークスで一応経験済み、重賞挑戦も通算三度目になるので、特に気にするものでもない。

 しかし、いざ本番が来ると気もそぞろになるものだ。この一年は実質確定で三戦を取り溢す事になるだけでなく、走る度不利なレースを強要される。最大で最後のチャンスが始まるまであと数時間を切った以上、私でも焦りはある。

 

「皆さんは観客席に居ますか?」

「ああ、年末の奴は大体来てるぞ。なんか知らんがカツラギエースが双子のトコに居たが」

「この間のオープンキャンパスで仲良くなったみたいです。応援に来てくれたのは嬉しいですね。……というか、感謝祭で合流した時もでしたけど。カツラギエースさんの事知ってたんですね」

「知らねえ奴が居たらやべえだろ。ある意味お前みたいな事してるしな」

 

 まあ、確かに。ある意味で私は彼女の二番煎じなのは否定できない。

 

 

 単なる観戦の可能性も考えられるが、何にせよここまで足を運んでくれたのは有難い。彼女が躍進を迎える今年に相応しい頑張りを見せないと、此方も甲斐が無い。

 

「そういえば、今回も誰も控えに来ないですね」

「お前の目標は全員聞いたしな。邪魔すると悪いと思ったんだろうよ」

「ああ…。乙名史さんに話をするのは止めた方が良かったですかね」

「遅かれ早かれだから気にすんな」

 

 それもそうだが……。ここは割り切ってしまった方がいいか。

 

「それより、本当に大丈夫だろうな。緊張し過ぎじゃねえか?」

「大丈夫です。本番前には切り替えます」

「……まだ時間はある。緊張解すなら今の内だぞ」

 

 トレーナーとしても、今の私の状態はあまりよろしいものに見えないらしい。自分でも少し動悸が激しいのは分かっているが、色々と考えてしまって気が立っているのだろう。人が来ないだけ醜態を晒す事は無いが、その分思考も固まってしまっている。

 なんとかこの逸る気持ちを抑える事が出来ればいいが。

 

「リラックス出来るようなモンはあるか?」

「そんなもの用意してないですし、そもそもそんな物使ったところで変わりませんよ」

「手に人を三回」

()()なら三回書きましたけど」

「……レース終わったらなんか奢ってやる」

「レースの後はあまりお腹空かないんですよね」

「……なんだったらいいんだよお前」

 

 そう言われてもこっちも困る。

 

「ちゃんと整理しとけ『挑戦者』。一応はお前も上位人気なんだからな」

「……何度聞いても『皇帝』に対して雑過ぎませんか、その通称」

「お前お墨付きの記者がつけたんだろ、もっと喜べよ」

 

 それはまあ、そうなんだけども。

 あの取材で乙名史記者が相当ハッスルしたらしく、発刊された雑誌も非常に売り上げが良かったらしい。まあ、私とシンボリルドルフ両者のインタビュー記事なので大半は彼女目当てなのだろうけど。

 普段なら私も拝読しているものの、正直あの熱意がどのくらい私の言葉を跳ね上げているのかが分からな過ぎて読むに読めていない。今は購入した雑誌がトレーナー室の本棚に封印状態となっている。

 

「もう少し時間を用意してもらえれば、なのですが……」

「スタートワンさん。パドックに移動してください」

「あ…、はい、わかりました」

「時間だとよ。行ってこい」

「……行ってきますね」

 

 そうこうしている内に呼び出しがかかってしまう。一旦トレーナーと別れ廊下を進んでパドックへ。道行く中、去年末と同じように視線を幾つも感じるのは無視しておいた。

 

 ステージの裏まで移動すると、少しくぐもった歓声が聞こえる中でシンボリルドルフが順を待っているのを見つけた。同時に彼女もこちらに気付いて、にこりと嬉しそうに笑う。

 その胸に輝く勲章が一つ。星を思わせるその形は、昨年末の勝利の証。

 

「やあスタートワン。君もパドック入りかい?」

「ええ。シンボリルドルフさんもみたいですね」

「そうだな。いつここに来ても背筋が伸びる気持ちだよ」

「なら有難い。何時も通り、全力でお願いしますね」

「ふふ、君に手を抜いていると思われないよう気を付けるよ」

 

 手は抜いておいて欲しいと言いそうになるのをぐっと堪え、曖昧に笑みを返す。

 シンボリルドルフの名前が呼ばれて、彼女が表の方へ進んでいく。

 

「では、少し先に行ってくるよ」

「はい、行ってらっしゃい」

 

 表側へその姿が消えた直後、裏にまで響くほどの大音声が響いてくる。無敗のG1ウマ娘を見るために集まった観客が発したものらしい。

 

「本当に凄いなあ……」

 

 ミスターシービーの様に派手で愛される強さという感じでは無いが、分かりやすい強さから来る人気というのも存在する。アプリ版では自分の人気をどうしても比較してしまっていたが、これだけの歓声の違いがあれば自身がどれだけ愛されているかというのもきっと理解するだろう。

 

 暫くしてシンボリルドルフが戻ってきて、更に少しすると今度は私が呼び出される。戻ってくる頃にはコースへの移動準備に入るので、次に会う時はゲート入りを待つ時だ。

 

「行ってきますね」

「ああ、先にコースで待っている」

 

 そういってこの場を去る背中が、不意に振り向いた。

 

「スタートワン」

「はい」

「この勝負、勝利の為共に力戦奮闘出来る事を願うよ」

「……ええ。誠心誠意、全力である事を誓います」

「……! ああ、ライブを楽しめるよう、私も力を尽くそう!」

「そうですね。私もそれを望みます」

 

 

 外の光に照らされた瞬間、ざわつきが明らかなほど沈む。それでも僅かな歓声があるのは、私もそれなりに人気を出してきているという事なのだろうか。

 

『さあ次に来たのは現在二番人気、今年の弥生賞勝者スタートワンです。ホープフルステークス以来の勝負服、そして素肌となります』

『前走では得意の追い込みを封じられた中での先行勝利ですから、能力は十分に示せています。友人であり最大のライバルであるシンボリルドルフにどこまで食らいつけるか、注目のカードとなっています』

 

 実況の声を聞きながら、思った通りに自分も結構人気があるのだなと感心する。SNSをあまり使わないので情報の取得方法がやや限られている分、若干実感が湧かない。

 この観客達の何処かにシリウスシンボリがいるのだろうか。或いは画面越しだろうか。見てくれていると良いのだけど。

 

「ほし姉ーっ!」

「頑張れーっ!」

「スタートワーン! 応援してるぞー!」

『おや、観客席から大きな声援も飛んでいますね』

『以前もそうでしたが、子供からの人気も高いようです…おや、その隣にいるのはカツラギエースではありませんか?』

『おおっと、どうやら新しい交友関係が判明した様子。ミステリアスなスタートワンの私生活が少しだけ開示されましたね』

 

 おっと、関心が速攻で移動したようだ。これは早めに私の番を終えてしまった方が良いかも知れない。

 観客に以前と同じカーテシーからのお辞儀を行い、こそこそと控えのトレーナーの元へ退散する。

 

「ただいま戻りました」

「お疲れさん。やっぱりちょっと緊張してたな」

「そう見えましたか」

 

 部屋の少し前の廊下に備えられたモニターに陣取る彼に、会ってすぐそう言われる。という事は、やっぱりまだ気が収まっていないらしい。

 

「困りましたね、どうにも肩に力が入ってしまっているようで」

「なんか気になる事でもあんのか?」

「うーん……。そこまで大きな懸念点は無い筈なのですが……」

 

 殆どの時間で誰かが近くに居たこともあって若干緩い可能性はあるが、一応領域も調整出来た。何も出来なかったなんて事にならなかっただけマシな筈なのだけど。

 

「…無いわけじゃ無ェんだな」

「それは……、まあ」

 

 可能性は絶対無いと断言してもいい。アプリ版でもそのあたりの情報は無かったし、そもそもこの世界に騎手なんて存在しない。

 どう考えても起こるはずはないのだけど……。

 

 

 競走馬シンボリルドルフが前哨戦として選んだ弥生賞と、本番の皐月賞。そこでは事件というほどではないが、決して無視の出来ない事が起こった。

 当時シンボリルドルフのライバルと目されていた競走馬ビゼンニシキとの間に起こった斜行と接触による主戦騎手の騎乗停止。その場では大きなレース中の失敗という扱いで収まったものの、主戦騎手や馬主などの間でかなりの禍根を残したとも言われ、更には斜行による降着制度の確立にも影響を与えたと言われている。

 

 アプリ版におけるシンボリルドルフのシナリオではこの話は存在しない事になっており、あくまでクラシック期の彼女の物語は栄光あるものとして描かれている。

 情報を追加するなら、この世界の皐月賞にビゼンニシキは出走しておらず、また弥生賞ではシンボリルドルフが出走しておらず、勝者も私。

 何もかもが違っているこの世界で、あれと同じ事が起こるとは到底思えない。

 

 ……しかし、その違いはウマ娘の世界における凡その基準の上で成り立つものであって、今私の居る世界において、同等の事が起こらないと断言する事は出来ない。一人一人のシナリオが少しずつ相違し、矛盾しているという事実が。何時もなら気にならない程の些細な違和感が、何故か首をもたげる。

 

 なにより、私がここに居るというイレギュラーな事態が、何かの流れを変化させてしまっているとしたら。

 

 

 そればかりは、私にもどうしようも無いのではないか?

 そんな不安が、拭えないでいる。

 

 

「思うモノはありますが」

「なんだ」

「とにかく、出来る事をしてくるしかないでしょう。私がするべきはただ一つ。シンボリルドルフさんを追い越し、勝つこと」

 

 しかし、だ。

 

 仮に私の予想が当たっていたとして、出来る事など何もない。それがかつて起こった故に決められた運命であるとしたら、干渉出来る可能性は限りなく低いからだ。

 ならばもう、なるようになれ。その瞬間に合わせて割り込まされるならば、極力そのまま自分が取りたい行動を取るしかない。

 

「まあ、やれるだけやります。気楽に見ていてください」

 

 トレーナーに笑いかけると、一瞬しかめっ面をした後、むすっとしたままに鼻を鳴らす。

 

 そこでスタッフさんが部屋の扉を開き、コースまでの移動を促す。

 椅子から立ち上がりその場を後にしようとしたところで、彼から声がかかった。

 

「スタートワン」

「何ですか?」

「怪我しねえ程度に走って戻って来い。ただし全力で行け、良いな」

「……中々の無茶を言ってくれますね」

「出来るな」

 

 緊張している相手に言うのはリスクの高い言葉だが、それより私の安全意識を優先したようだ。レースにおける視野狭窄は特に危ない。焦りで周りを見なくならないように注意しなければならない。

 

「…ええ、出来る限りはしてみせましょう」

「なら、良し。行ってこい」

「行ってきます」

 

 

『最も速いウマ娘が勝つ、クラシックの冠を狙う者達の第一戦、中山芝二千メートル、皐月賞! 十八人のウマ娘達が今、出走の準備に入っています!』

 

 実況の声を聞きながら、返しを終えたウマ娘達がゲートへと入り始める。

 息を整え、私の番が来るのを待っているとシンボリルドルフが先に動き出す。

 

 一瞬だけ視線が合い、どちらとなく笑い合った。

 

『さあゲートインの準備が続々と進んでいきます。現在の一番人気、ホープフルステークス勝者シンボリルドルフは威風堂々とゲートが開くのを待っています』

『本レースにおいても十分結果を残せるだけのポテンシャルに注目しましょう』

 

 さあ、泣いても笑ってももう始まりだ。

 例え何が起こっても、私が一番にゴールしてみせる。

 

『さあ二番人気、弥生賞ウマ娘スタートワンが最後にゲートに入ります』

『同バ場、同距離でのレースは通算三度目。間違いなく本命への対抗となる彼女の活躍に期待しましょう』

 

 

 

 …………開いた!

 

『スタートです!』

 

 いつも通り、誰よりも先んじて飛び出す。僅かに遅れて他の子が走り出す音が聞こえた。恐らくその中に、悠然と走り出したシンボリルドルフが居る。

 

 ゆっくりと速度を落としながら全体の展開を眺める。

 先頭に移動する子、中団に混ざる子、後方に位置どる子、私と同じく後ろ寄りの子。シンボリルドルフはいつも通り先行と差しの中間程。

 

 それらを眺めつつやや外側に回り、プレッシャーを避ける。周囲の子達が一瞬だけ私につられて外へ出ようとして、直ぐに動きを修正。気にしなかった子達は明らかにシンボリルドルフを意識して走っているようだ。まあそれも仕方ない話ではあるが。

 必要以上に誰かへ意識を引っ張られず走れているのは最前線を走る子や、私とシンボリルドルフと言った極めて少数らしい。

 

「っ、と」

 

 最初のコーナーを回る流れに身体を少しもっていかれる。やっぱり外を回るのは負担が大きいか。とはいえ最後方の更に外ラチ側となると余程無理に動かなければ競り合ってくる子も居らず。追加で言えば私よりも警戒しなければいけない相手が中団に構えている以上、下手に強硬策を取る必要も無い。ふざけた策だがしないよりは有効という事だ。

 

 ちらとその標的としても一番人気な彼女に視線を向ける。周囲の牽制や威圧を受けるその様子は正に針の筵。下手に動けばその瞬間畳みかける様に後方へ押し流されるだろう。

 

 が、動揺は一切無し。私ならきっと焦りが出てしまうだろう嵐よりも激しい重圧の中、凪いだ空の下で走るかのように。シンボリルドルフの後ろ姿は静かで、何時も通りだった。それどころか周囲の不安定な走りを見る限り、受けているプレッシャーを超える圧を撒き散らしているようにすら見える。今の内にやろうとしてやり返される、なんていう恐ろしい空間が発生していた。

 

 相変わらず恐ろしい人だ。だからこそ、越え甲斐がある。

 

 

 中間に差し掛かるまでの間に、領域の展開状態を確認。

 周りに発動している子は居ない。互いを牽制して無理に動き出せないのだろう。以前と比べると戦い馴れが見られる一方、切り札を切るタイミングに迷いが見られる。

 

 シンボリルドルフは……今のところ静止。見たのが一度だけなので確信は持てないが、『汝、皇帝の神威を見よ』がアプリの条件と同じだと仮定すれば発動にはまだ余裕がある。仮にその条件を持たなかったとしても、後方に位置取っている訳でもない以上、今無理を押して前進すれば余計な体力を持っていかれる。更に言えばそんな動きは周りを刺激して競り合いを強要される可能性もある。一人相手ならまだしも、周りを囲まれた状態でそれが連続すれば流石に疲労も溜まるだろう。

 

 それは此方も同じだが、そのための後方外側だ。狙うべきは中盤に入る頃、身体のバランスを考慮して一番勝率に影響を与えないタイミングでなければならない。

 

 

 少し速度を上げる。追い込み特有の遅れているという感覚。追い詰められるようなじりじりとした思いを堪える。耐えるのは慣れている。たった数分程度。

 状況は悪くない。念のため次の段階への準備を…、

 

「…っ?」

 

 なんだ、これ。緩めた一瞬のうちに外へ出てきた力を反射的に締め上げた。言いようのない違和感が思考に引っ掛かる。内側に溜まっているものに、何か違うものを感じる。

 今までと僅かに、けれど明らかな程の震えが指先を痺れさせる。

 私の領域に、何かが起こっている。

 

 何故だ? 調整が甘かった? 枷が緩すぎた? レースへの興奮で外れたのか?

 いや、それだけじゃあない、明らかに、異常なほどに、何かがおかしい。漏れ出た炎の揺らめきが、私の頬を焦がす。

 

 待て、落ち着け、慌てるな。時間が無い中で考えたいなら慌てるのが最悪だ。何が起きた? 何が起きている?

 

 

 …………『EXECUTE→Don't Stop RUN』の能力は、私の恐怖の感情を相手にも伝播させる事。

 私の植え付ける恐怖は私自身の体験したものを元にしている。三女神と接触したあの日の恐怖も、恐らくは勝手に糧となっているだろう。

 だがそれはちゃんと、私の中で抑え込めるようにして、

 

「……――!」

 

 そこで、遅く理解する。

 

 もし、もしもだ。

 もしも糧となった恐怖が、私の予想以上に強いものだったら?

 それに気付かぬまま、枷をほんの少し強めただけにしてしまっていたら?

 それを使った時、予想外にその威力が大きかったら?

 

 ――下手をすれば、私は他の子にあってはならない攻撃をしてしまうのではないか?

 

 

「…………っ、くそっ」

 

 どうする。これを使うのは危険だ。

 このレースは領域前提の走り。使ってようやく対等というぎりぎりの策だったというのに。こんな事ならこっそりと確認をしておけばよかった、完全な調整ミスだ。

 どうする。このままこれを使う訳にもいかない。だが手をこまねいていれば敗北は必至。領域無しの私如きじゃ、シンボリルドルフに勝つ事など出来ない。

 

 嫌な予感はこんな所にもあったのか。ああもう、なんで今になって気付くんだ、遅すぎるだろう。

 向こう正面も既に半ば。このままじゃあ―――なんだ? 前の動きがおかしい?

 

 

 

 前半の駆け引きが終わり、レースが後半の戦いに差し掛かろうというその間際。

 後ろに居た私は、事態が急転する一部始終を見る事が出来た。

 

「えっ、あっ…!」

「!?」

 

 内ラチでシンボリルドルフのプレッシャーに藻掻いていた子の身体が急に大きくぶれた。一瞬だけ聞こえた金属質な跳ねる音。きらきらしたものが視界の遠くを一瞬で通り過ぎる……落鉄だ。

 

 それに反応したのが落鉄した子の真横を走っていた別の子。注意はしていたのだろうが、集中状態だったためか突然の大振りに動揺し、斜行寸前の斜め移動をしてしまう。当然周りの子もそれを受けて流れが乱れた。内に入っていた子達など、集団の外へ出かけたり速度を大きく落としかけたりという波紋を作り出す。

 

「っ、な…!?」

「え――きゃっ……!」

 

 そんな前方に巻き込まれまいと慌てて避けたシンボリルドルフ。連鎖する焦りの中、それでも殆ど足を乱さず動く事の出来た彼女はまだましな方で。

 

「しまっ」

 

 反射的だった彼女の動きは、隣を走る子への接触という最悪の形で事態を悪化させてしまった。

 体当たりした側のシンボリルドルフは何とか姿勢を戻す事に成功するが、された側は崩れた体勢を上手く戻せない。自動車とほぼ変わらない速度で走っているのだ、一度崩れたバランスを戻す事は例え高い経験と練度を持っていても難しい。

 

 そしてそんな状態でトップスピードなど出せるわけも無く、彼女の速度は緩やかに落ちていく。後方の邪魔にならないよう避けてもらおうとしたのか外側へ、けれどその先に居た私目掛け、身体そのものを障害物にして。

 

 それを見て、私は。

 

「あ、ぶ、な―――」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 自分の失態に背が粟立つ。咄嗟に身を捩りながら回避を狙う。

 しかし、

 

「――っ、ぁ……っ!?」

 

 バランスを崩した出走者と、強引に身体を捩じり無防備になった私の身体。互いの取った無理な体勢が、また最悪の噛み合い方をする。

 胸に走る衝撃が、彼女の身体の何処かと接触した事を嫌でも伝えてきた。

 

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