G1目指して頑張ります   作:あかし/さんさい

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46 大規模参入

 トレーニングを中断して私を待つクラスメイトの姿を確認する。この二週間は私もシンボリルドルフも練習に参加出来なかったので、私達以外の相手と走っていたとは聞いている。ただ、今日は一人で走っていたようで、ハッピーミークの他よくいる面子は近くに見えない。

 彼女を注視すると、周りに人が数人立っているのが見える。二人は感謝祭にて知り合い、一人は学園入学にあたって知り合い、残る二人は……っと?

 

 とりあえず、最初はクラスメイトに声をかける。

 

「すみません、お待たせしましたね」

「ん-ん、大丈夫。それより……」

「はい……ええ、と。全員私を待っていたという事ですか?」

「おう! ようやく戻ってきたしな、シービーに聞いたら、この子が知ってるって言うからよ!」

 

 するりと会話に入ってきたカツラギエースへの返答に困る。連絡先は教えている筈なんだけどなあ。ミスターシービーはSNSもやってるんだし、スマホ経由で言ってくれればよかったのに。

 

「なるほど。それで、シリウスシンボリさんは?」

「……後で良い。それよりこっちだろ」

 

 前回と違い、どことなく斜に構えたような態度の彼女が顎で示す方向に居るのは。

 

「お久しぶりです樫本トレーナー」

「ええ、久しぶりですね。皐月賞はお疲れ様でした」

「ありがとうございます」

 

 頭を下げると、樫本トレーナーは頬に手を当てながら少しだけ苦笑いを浮かべる。一連の映像は見ていた筈だし、今日がそれに関する処分が行われる日だというのは彼女も知っていただろう。約束の事を考えると言いたい事もあるものの、今は理事長という立場でもないので言いにくいと見える。

 そもそも私から彼女を引っ掛けたホープフルステークスと違って、今回の皐月賞は本当にイレギュラーな事態だったので、次こそ大丈夫、のはずだ。

 

 彼女の後ろに立つ二人には一旦声をかけず。一度に用件を聞く事は出来ないので、まずは三人の順を決める事にしよう。

 

「それで、今回お集まりの三人ですが……」

「ああ、先に樫本トレーナーにしてやってくれ。あたしは後でいいさ」

「私もそれでいい」

「……そうですか。では、お言葉に甘えましょう。二人共、此方へ」

 

 という訳で、先に樫本トレーナーが向き直ると共に少し離れた場所で私達を伺っていたウマ娘を呼ぶ。

 呼ばれた二人は互いに微妙な距離を取りながら此方へと歩いてくる。どうやら現状では初対面なのだろう。

 

 一人は白い肌に映える鮮やかな金の短い髪、恐らくは尾花栗毛などを想定した色だろう。青色の瞳によって生み出される金髪碧眼のコントラストは、鋭い瞳と併せクールな印象を思わせる。

 もう一人は褐色の肌に鹿毛を思わせる軽やかに跳ねた短い髪。鳶色の瞳と併せどちらかというと静かな印象を持つが、大きく輝く瞳には確かな熱を感じた。

 

「彼女に挨拶を」

 

 促され、それぞれに私へ頭を下げる。

 

「リトルココンです…よろしくお願いします」

「ビターグラッセです! よろしくお願いします!」

「二人を私の担当として、今後活動していこうと思っています」

 

 ふむ……『アオハル杯』のシナリオでは結果が出なかったりチーム運用に難のある扱いだった二人が、この世界では早々に樫本トレーナーと共に活動か。となると、扱いとしてはアオハル杯以外のシナリオみたいな感じになるのかもしれない。

 

「スタートワンと申します。樫本トレーナーがお選びになったという事は、お二人共良い素質を持っているのでしょう。きっと良い成果が出せると思います、頑張ってくださいね」

「ん…ありがとうございます」

「ありがとうございます!」

「それで、お二人と一緒にここへ来たという事は……」

「ええ、以前の話について少し」

 

 やっぱり。年末年始のトレーニング中に話した、合同練習の申し込みか。

 若干のお世辞が入っていた事は確かだが、本当に検討してくれたのなら有難い、丁度ダービーに向けて刺激が欲しかったところだ。

 

「件の事については、私としては吝かではありません。トレーナーさんも承諾してくださると思います」

「そういってもらえると此方も有難い。今後は貴女や貴女と共にトレーニングをしている方たちにも要請を行おうと考えています」

「ふむ。それなら、此方から連絡を送っておきましょうか?」

「いいのですか?」

「トレーナーさんもこのくらいならなにも言わないと思いますよ。今はここに居ないので、念のため樫本トレーナーからも言っておいて欲しい所ですが」

「私から送るよりもその方が確実なら、お願いしましょうか」

 

 あの人の事だから面倒だなんだとぬかすかも知れないので、尻を叩いて発破をかけておこう。

 で、それに合わせて、と。

 

「お二人には、そのタイミングで軽い自己紹介をお願いしますね。後、お試しとして今日は併走もしましょうか」

「はい、お願いします!」

「お願い、します」

 

 …ふふ、自分が先輩だからというだけじゃなく、この二人の後輩っぽい反応は結構新鮮だ。

 

 

 今後の擦り合わせはとりあえずトレーナーが来るまで保留とし。

 次にカツラギエースの方へ視線を向ける。

 

「カツラギエースさんも今後のトレーニングへの参加ですか?」

「ああ。今年こそシービーに勝ちたい……ってところはあるが、流石に去年と同じような練習だけじゃダメな気がしてな。普段から近くで走るだけじゃなくて、一緒に走ってる奴からもなんか聞き出せたらいいなと思って」

「まず敵を知る。その為に外堀を攻める策を選んだというところですね」

「ああ……? 多分そう、かな? とにかく、シービーと一緒にあんたらが練習してたのは見てたからさ、あたしも混ぜてもらえたらって所だよ」

 

 ……あんまり伝わらなかったようだ。まあそれはどうでもいい。

 丁度此方から連絡を入れるつもりでもあったし、渡りに船だ。重要なのは彼女もまた練習に参加するという事。現シニア級選手の中でもトップクラスの実力者がまた一人増えたのだから、諸手を挙げて喜びたい程だ。

 

「ミスターシービーさんの連絡先はいいとして、私と他の何人かの連絡先も教えておいた方が良さそうですね。後でメモを渡すので、そこから連絡をお願いします」

「いや、それだったらLANEでグループを作った方が早くないか? 別にカッチリした場でもないんだから」

「まあ、それもそうですが。複数の連絡手段を持っておくに越したことは無いので、取り敢えず後でメモを受け取る事を覚えておいてください」

「そっか、分かった」

 

 後で電話番号とメールアドレスをリストにしておくとして、何人分を用意した方がいいだろう。シンボリルドルフは重要だし、ハッピーミークも入れておきたい。クラスメイトはそこに居るから話してもらえば解決で、マルゼンスキーは…ミスターシービー経由で知り合っていたりするだろうか。

 

「あ、何でしたら、樫本トレーナーともお話してはどうですか? 丁度一緒に居る事ですから」

「それもいいのか?」

「カツラギエースさんも私達だけなんて面白くないでしょう? あくまで橋渡しをするだけですので、どうするかはお二人の自由ですし」

 

 機会を作るだけなので、所詮責任など取れない。その代わり自由に選択をさせるという条件だ。どちらに転んでも互いが不利益を被る事は基本無いので、やっておくだけ得が出来る。

 

「悪い、頼んでいいか?」

「そのつもりで提案しましたからね。少しお待ちください」

 

 というわけで、樫本トレーナー達三人を呼び寄せてカツラギエースとの会話の場を設ける。かたや元理事長代理、かたや昨年度クラシック戦線を盛り上げたという事もあり、面識自体はあったようで、意外と会話の進みは悪くない。

 

「なるほど……いいでしょう。今後はカツラギエースさん、貴女とのトレーニングも考慮して予定を組みましょう」

「ありがとうございます! とはいえ、あたしもトレーナーさんに報告を入れないといけないので、後で連絡先教えてください」

「構いませんが、今回の事はトレーナーに話していないのですか?」

「いやー、スタートワンの事はもう言ってあるんですけど、流石に規模がでっかくなりそうとは思ってなくて。一人増えるだけならまだしも、スタートワンの言い方だと四、五人増えそうだし」

「そうですね……。彼女の交友範囲は意外と分からない部分も多いですから」

「別に広くはありませんよ」

「うおっ、聞いてたのか」

 

 これだけ近ければ嫌でも聞こえる。それに目標とか行動とか、向いている方向が近い分会う人も増えるというだけで、親密と言える程の相手はそこまで多くないぞ。

 

「まあ、それはいいんです。取り敢えずお二人の要件はこれで問題無いでしょうか?」

「ええ、トレーナーへの説明は任せますね」

「あたしも大丈夫だな。だからスタートワン、こっからはそっちの話も聞いてやってくれ」

「そうですね」

 

 促されるように、私の視線はここまで無言を貫いていた一人へと縫い留められる。

 

「……何してるんですか?」

「え、あ、す、スワちゃん……」

 

 視線を戻した先では、シリウスシンボリがクラスメイトの顎を持ち上げていた。困った顔のクラスメイトの様子からして、何かしらがあった事は窺える。

 まさかとは思うが。

 

「人にちょっかいをかけるだけでなく、その友人にも粉をかけるとは。随分と己に自信があると見えますが」

「え、えと、そうじゃないの」

「……というと」

「私はただ、目に砂が入ったらしいのを取ってやっただけだ」

 

 …………やってしまった。私の早とちりだったか。

 頭を下げ謝罪する。

 

「失礼しました。勘違いをしていたようです」

「構わねえよ。そっちの話が長引いてたんだから、こっちの事が分からなくて当然だ」

「そうですね、急な予定と言え、少し待たせ過ぎた事も謝らなければ」

「そういうのもいらねえ」

 

 突っつかれるかと思ったが、驚くほどあっさり引き下がるシリウスシンボリ。これはこれで、ちょっと調子が狂うな。

 とりあえず、彼女の言葉に合わせよう。

 

「では、今日の予定を優先しましょうか」

「そう、だな」

 

 こちらに目を向けたシリウスシンボリは、僅かなジェスチャーのみで少し離れた場所に移動しろと催促する。

 ……以前と同じく態々人を離すとは、何かしらあるようだ。

 

 同じコースの中と言え、誰かが近付けば直ぐに分かるような距離に二人で並ぶ。

 要件を問うよりも早く、彼女が口を開いた。

 

「皐月賞、あれはなんだ」

「……すみませんでした、感謝祭での発言通りには出来ませんでしたね」

 

 多発した予定外もあり、彼女の望むものが見せられた気は私にも無い。シンボリルドルフどころか誰も彼も全力で走る、なんて状況とはいかず、更に言えば領域の進化(悪化)の所為で尚の事レースは酷いものだった。

 本来見せたかった正々堂々の真剣勝負が出来なかった以上、反省点は多い。

 

 苦い記憶の残るレースだった事は確かなので、良くないものを見せた自覚はあった。シリウスシンボリの顔もより一層顰められる。

 

「……はあ。そうじゃねえ」

「…? そうじゃない、とは」

「普通なら、アンタはあの時足を止めてレースから降りるべきだった。聞いてるぞ、二週間の謹慎どころか、延長もされたってな」

「私は謹慎ではなく入院で、延長もされていませんが」

「は? じゃあ何で今日呼び出されてたんだよ」

「あれは被害、加害含めた全員への通達です」

 

 まあ、結局私も処罰自体は受けたのだけども。事情がちょっと違うのであくまで話さないでおく。

 

「……んだよ、私の早とちりじゃねえか」

「何を早とちりしたかは分かりませんが、少なくとも、あの皐月賞に問題は何一つありません。あなたの目標は、今も絶対無敗の勝者のままです」

「そうかよ」

 

 ばつが悪そうなシリウスシンボリ。さしずめ私の自傷を重く見たURA上層部が何かしらの行動に出たのだと推測したのだろうが、あれは私からの働きかけも含まれての結果なので何も気にする事は無い。

 しかし、ほんの数十分もしない間の情報だというのによく調べたものだ。シンボリルドルフに聞いたのか、それとももう取り巻きでも作って情報収集しているのか。確か父親がURAの関係者だったはずだが……シリウスシンボリが今回の為だけに態々身内から情報収取をするとも思えない。

 下手に時間をかけると終わらないので、此方から改めて働きかける。

 

「それで、何故私をここに」

「……。」

「以前お話しした通りに会いに来てくださったのなら、もう一度話がしたいという事なのだと思っていたのですが」

 

 少しの間沈黙が続く。シリウスシンボリを見つめ返答を待つと、ようやく再度口が開く。

 

「もう一回言わせてもらう。アンタはあの時、走るべきじゃなかった。それでもアンタは走った。なんでだ」

「以前あなたが言った通りですよ。自己満足です」

「自分の命がかかった状況で、それでも我を徹すってか」

「そんな崇高なものではありません。『したいからした』『勝ちたいから走った』それだけです」

 

 全ては『我が儘』。理由などそれでいい。

 

 

 返答も無く。シリウスシンボリはただ視線を落とす。怒りも無く、悲しみも無く、ただ私の首元へだけ目は向かっている。

 

 

 一分近い時間をかけて、ようやく顔を上げたその瞳には、ほんの僅かな暗さと、それに負けない輝きがあった。

 

「私は、今のルドルフを認めない」

「はい」

「あんたの事も、認める気はない」

「はい」

「……だが、それは私が決めたことで、今の私にそれを徹す権利はない。今の私はデビューすらしてないし、今のルドルフも、今のアンタの事も知らない」

「はい」

「だから、まずは結果を残す。私の事をルドルフにも、アンタにも認めさせてやる」

「……はい」

「何時でも、何度だって挑んでやる。そう伝えておけ」

 

 ……シナリオを見る限り、きっとシンボリルドルフはあなたを認めているのだろうけれど。

 それを決めるのはシリウスシンボリ自身であって、言葉にするのは野暮というものだろう。

 

 妥協点は決まった。となれば、次にする事は互いの連絡の準備だ。

 

「あなたのアドレスを教えてもらえると、何時でも練習にお呼び出来ますよ」

「……ほらよ」

「どうも」

 

 予め用意しておいたのだろう、彼女のアドレスが書かれたメモを渡される。LANEも登録しておくと楽なのけど、まあそれは追々交換出来ればいいか。

 

「では、今後はシリウスシンボリさんも参加されると通達しておきますね」

「精々寝首を掻かれないように気を付けるんだな」

「因みにですが、私の併走相手にはクラスメイトや先輩なども居りますよ」

「上等だ」

「更にマルゼンスキーさんとミスターシービーさんも居るのですが」

「…………」

「あと、今後はカツラギエースさんとあなたの同期の将来有望株なども参加されます」

「……いいぜ、全員まとめてぶち抜いてやる!」

 

 盛大に啖呵を切ってくれて助かる。

 全力で叩き潰しにかかれば、彼女もG1を沢山取ってくれるだろうか。まあその前に、トレーナーを見つける所からだな。




そろそろストックが不味い事になってきたので暫く書き溜めします。一ヶ月くらいかな。
感想やここすきをしていただけると嬉しいです。
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