東京競馬場……もとい東京レース場の地形は、坂と直線の位置関係が非常に重要だ。
約525メートル、一キロの半分にも及ぶ直線と、その間に存在する緩やかでいて険しい坂。スピードは当然、スタミナとパワーを必要とする最後は、走者の努力だけでない純粋な地力の差が勝敗を分ける。
つまり、この勝負においては地の利や経験など通用しない、シンプルな実力勝負と、それを活かせる展開を掴めるかの運に左右されるという事だ。
ゲートの開く音と同時に、身体が前進を始める。瞬間的な加速は上々。今までよりも足の運びが軽やかになったことだけは分かる。体を休めた二週間も、決して無意味だったわけではないのだろう。
続いて聞こえる足音。伝わってくる十七の呼吸。一瞬だけ向かってくる視線の圧が、瞬く間に交差し、そして途切れ、先を見るものへ変わる。
無意識にシンボリルドルフのものを探し。見つける。
「――――」
見なければよかった。と言葉が湧いた。
シンボリルドルフは私を見ていた。
見ていたが、見ていなかった。
彼女は今、
じっと、ただじっと。視線が外れ、先を行くその瞬間まで。
彼女のマークする相手が私である事を、その目だけが語っていた。
そこにあるのは二つの事実だ。
一つはこのレース、私の思い通りの展開になる事は絶対に無いという事。
もう一つは、敵として認識された以上、二度と侮ってくれる事は無いという事。
直線の途中、最後尾への位置取りが僅かに遅れる。気付いた時には、あと少しで包囲が完成するという所だった。
先頭へ進む子達とは違い、後方で走る子達には先頭争いに参加しないでいい余裕がある。私を囲むような軌道を取り、上位人気を今の内に叩いておくという事だろう。
一瞬だけ心臓が跳ねるが、動きを鈍らせる時間は無い。
しかし、逡巡する。
「……」
念のため実験していた事を試さなければならない。実践は初めて、それもこんな序盤も序盤だなんて。
予定外の事がまた一つ。けれど準備は出来ていた事。
「……ごめんなさい」
「は? ――――――!!?」
『EXECUTE→Don't Stop RUN』
緩めた途端に溢れ出す炎の威圧が、周囲の動きを強制的に歪ませる。その歪みは私を包もうとしていた壁の形成を少しだけ遅らせた。生まれるのは一人分、何とか抜け出せる隙間。
その間から速度を落とし抜け出つつ、領域の枷を締める。どくどくと脈打つ胸の痛みをコーナーへ入るまでの僅かな時間で誤魔化す。
基本的に領域を始めスキルというものは『ウマ娘』において一度だけの発動だ。初期のコーナースキルや、複数の効果が順番に発動する結果何度も発動して見えたものもあったが、それらの本来の挙動は一度きり。その上使用の時間も限定され、使い果たせばレースが終わるまで二度目は無い。
だからこそ使いどころは見誤れず、失敗すれば大きな不利を生む事になる。
この世界でもルールは変わらない。使用にかかる負荷はレースの最中では決して無視できないものであり、勝利を呼び込み敗北を招く力となり得る諸刃の剣だ。
だが、私の『EXECUTE→Don't Stop RUN』だけはその制限を無視して使用が出来る。私が保つ限り、何度でも、何時までも。
そうしてこなかったのはあまりに無法な力であり、私へのデメリットが大き過ぎるから。
何度でも使えるという事は、何度でも出走者の身を脅かす事になる。それと同時に、私自身の精神を継続的に磨り潰していく。当然呼吸の乱れは疲労を早め、走行可能な距離を縮める事にも繋がる。
これが出来るようになったのは、トレーナーのお陰だ。
一年のハードトレーニングと、徹底したケアによって距離限界は伸び、多少の無理徹しも可能となった。
そして恐怖の調整によって、一人では耐えられない感情と、耐えられる感情の境目を今一度確認し、枷の強度を確認しなおした。更に彼の助言によって、発動の仕方にも緩急をつけている。
相手の動きを止める瞬間的な解放と、勝利の為の本気の解放。この二つの使い分けによって、私は実質的に二つの領域を使っているに等しい技術を身に着けた。
定位置に付け直した私に、壁を形成しようとしていた子達が振り向いてくる。目に宿るのはしてやられたという悔しさと、これで終わりじゃないという怒り。
絶対思い通りにはしない、という強い覚悟が伺える。
それに返す余裕はない。持てるリソースを、全て鹿毛の後ろ姿に向けているから。
一瞬だけ、しかし確かにシンボリルドルフが後ろへ視線を向けた。
その口の端が、吊り上がっているのも見える。
それでこそ。
言葉にするなら、これだろうか。
コーナーを回る。経済コースとも呼ばれる内側へ詰めながら走る子達を尻目に、外に膨らみ、内へ突っ切るように滑る。ふざけた軌道で、しかしこれからかかる体への負担は軽減される。
ぐるりと回り向こう正面。ここからのコースは緩やかな下り道の後上り坂が連続する。ここで大きく動く事は私には出来ない。速度を上げる事は当然、例え一瞬だろうと領域の使用なんてもってのほかだ。
使うなんて。本当は。
「さあ、さあっ! ここを超えられてこそ、勝者の名に相応しいっ!」
突然の口上に、前方が動揺するのを確認する。
「そこで一つ、クイズを出しましょう!」
『EXECUTE→Don't Stop RUN』
再度打ち込まれる恐怖に、足音が極めて僅かな、されど確実な時間緩む。
喉と口の震えを唇に歯を突き立て止め、より大きく声を張り上げた。
「あと何度、私はこれが出来るでしょうか!?」
足の回転が早まらないよう、地面を叩くように踏み締め自らに意識させる。無理な加速をすれば身体にかかる負荷も、後半への体力も無駄に消費してしまう。
……1000メートル目前だが、正直、限界が薄らと見えてきた。調整している事を加味しても、ぶっつけ本番はどう考えても悪手。はったりだろうと有効だからこその啖呵だが、どう考えても呼吸の状態が悪い。
これをダービーで使う予定は無かった。
しっかり調整したといえ、たった二週間。ようやく手綱を握れた程度の状態を本番で使うなど無謀にも程がある。
いつ落ちてもおかしくない、ぎりぎりの綱渡り。ここからは終盤への対応だけでなく、領域の使い方の判断もしなければならない。
瞬間的に周囲を驚かすだけでも、鼓動の乱れはかなり大きい。後数回、恐らく三…いや、二回も使えば今まで通りの発動は確実な敗北に繋がるだろう。
それは言い換えれば、今の使い方ならばまだ余裕があるという事だ。同じ三回でも、余力の残り方は全く違う。
ぐいと足を上げるのが辛くなる。一つ目の坂は距離の短さの代わりにかなり急だ。加速はせずとも、一気に登り切る事を意識する。
内ラチ側ではシンボリルドルフを除く十六人の熾烈な攻防戦が行われていた。前方から後方まで、少しでも優位な位置を取ろうと、或いは邪魔者を蹴落とそうと駆け引きが繰り返される。自身を壁に前へ進むのを阻む者も居れば、ペースを崩さぬよう極力静かに立ち回る子も。中盤の間に巻き返しを狙い前進する者も居る。
その駆け引きの狙いはただ一つ。このレースに勝ち、ダービーの栄光を手に入れる事。
なら、私だって駆け引きに参加しよう。
勝利の栄冠は鬩ぎ合いを超え、輝きに照らされる方が嬉しい。
向こう正面も終わり、終盤のコーナーが近付いてくる。ホームストレッチに差し掛かるという瞬間は他の子達が領域を開く絶好の機会であり。
『EXECUTE→Don't Stop RUN』
「「「―――――――――ッ!」」」
最も邪魔をするに相応しい瞬間でもある。
茶々を入れる私に向け、ぎろりと睨む目が重なる。
二回は駄目だというのなら、一度なら問題はない。だったら使うしかない。
全体の動きが少しだけ遅れ……瞬く間に立て直される。
想定以上に恐怖からの回復が早い。それどころか発動を予想し防ごうとする動きも見られた。
使い過ぎ。というより、慣れられたか。一度のレースでここまで使った事は無いから、状態が分からない。
「負けるか」
呟いた一人の世界が、私の脳に流れ込む。
眩いまでの光を目指す小さな背中。それは少しずつ成長し、やがて今の姿へと重なっていく。
「負けない……!」
また一人、流れ込んでくる。
大きな舞台に目を輝かせた少女は、何時の間にか舞台に上がっている。響く歓声にこたえるため、その足は高らかに翻り、そして美しい舞が始まる。
「負けたく…っ、ない!」
三度。来る。
大きな背中、誰かの背中を、必死に追いかける。強くて、怖くて、自分じゃきっと勝てない。それでも、目指したい。その影を追いたいと、足を動かす。
「「「絶対、勝つっ!」」」
幾つもの想いが重なり合い、そして頭の中を散らしていく。ぐちゃぐちゃに混ざり合って――いるようで、そうではない。
ホープフルステークスの時とは、違っている。一つの絵の中にバラバラの色をやたらめったら詰め込んだようなあれではなく。
まるで様々な写真のフィルムを高速に、連続に見続けているかのよう。
濃い。
濃いのだ。
私の知っている領域の完成形に、近い密度。一際に強いのはあの三人だ。
だが、彼女達だけじゃない。他の子達のそれも、ホープフルより、皐月より、ずっと強くなっている。
シンボリルドルフか。それとも私もか。
いや、きっとそれだけではない。
このレースに、全力を懸けている。
この
これからの全てさえ出し切ってまで、勝利を目指している。それほどの
喉から鎖骨に走った痛みで視線が少し下を向く。薄くだが赤い蚯蚓腫れが出来ていた。肺と喉の痛みを誤魔化そうとして引っ掻いたらしい。
ゴールは未だ遠い。下手な事は出来ない。
一番キツイのは、先行していた子達が鬩ぎ合いながら、そのまま速度を維持している事だ。小さな順の前後はあるが、全体的な後退が見られない。ダービーは前残りしやすいといえど、ここら辺まで順位の変動が殆ど起こらないのは流石に妙だ。
誰が、何かが、そんな理由を考える時間は無い。
考えるべきは、ここから行う事への対応だけだ。
本格的に枷を緩め、
「させるかっ!」
「させないよ…!」
「……!?」
恐怖を掻き立てる世界。
見えない影に怯え、幾つもの瞳に震え。
そうして私を。私だけを狙う領域が牙を剥く。
外側に膨らんで私に近付いてくる二人の出走者。と同時に強烈な負荷が身体に圧し掛かる。脳を揺らす敵意の幻覚は怯む程ではない。が。
「アンタが一番ヤバいのは知ってる!」
「ここで先に、潰れてもらうから……!」
それより強いのは、彼女達自身が放つ敵意。背を竦ませる程の力が、確かに乗っている。
この二人は、シンボリルドルフより私の方が脅威だと受け取ったのだろう。下手な攻撃が逆効果になる彼方と違って私には有効なものだし、恐らくは私と同じ、相手に負荷をかける世界を構築したから。
自分より強力なものを使われるのは困るという事だ。
自分の勝機まで削って私を潰そうとするか。他の子の勝利を信じているのか、あるいはここから逆転する事を狙っているのか。
「お見事、です」
なににせよ、その覚悟に敬意を表する。
よくそれを選べたものだ。似たような事をしている分、尚その選択に驚かされる。
「ですが」
それはそれ。これはこれ。
相応の覚悟を見せられたのなら、相応の覚悟をもって返さなければならない。
「まだまだ」
「――――――ッ」
「ふざ、けんな……!?」
“まだ立てる。
まだ走れる。
まだ、生きていられる。まだ、まだ勝つことは出来る。
断末魔には少しばかり劣る叫びは、喉が裂ける程に張り上げようとも届かない。
髑髏の空洞に浮かぶ憐憫は、焦りと諦めを受け入れる事しか許さない。引き金に少しずつ力が乗せられていくのを、泣き震えながら見ている事しか許されない。
せめてもの慈悲か、指は僅かの震えも見せてくれなかった。
『EXECUTE→Don't Stop RUN:Depth2.5』
今潰えるその命に、どれだけの価値があるのだろうか?”
「浅過ぎる」
砕けるような。燃え尽きるような。沈み込み、見えなくなるような。
二人の開いた渾身の世界が、更に大きく暗い場所に消えていく。
「~~~~~~!!」
「……っ……!」
引き攣った顔の二人につい顔を顰めてしまう。
調整通りの威力にはなっているが、その分重い一発を与えた。今受けた恐怖もまた少し、糧になってしまった筈だ。それだけじゃなく、二人は自分の力をそのまま返されている分、他の子が受けるものより質が悪くなっている可能性が高い。
謝りたい所だが、している余裕はない。視線を離し、前方を睨む。
ロングスパートとはいかないが、そろそろ前に行く準備も必要だ。
今回は少しでも距離を詰めておかないと、最後の直線で間違いなく追い抜かれる。
ここからの道は、殆どが上り坂になる。中山の恐ろしいまでの高低差と比べれば優しいくらいだが、その分下手な出し惜しみは隙を作る事と同義だ。
ここからは一切の妥協、余裕、手加減は許されない。
領域による周囲への圧を強めながら、残る気力をかき集める。恐怖の侵食は既にかなりキツイ所まで来ている。鼓動の乱れは酷く、歯を食いしばらないと震えで音が鳴りそうなほど。全力でないとしても、ここまで走っているというのに、領域の炎に焼かれているというのに。身体の芯から凍り付いているかのように鳥肌が止まらない。
領域の
残るは3ハロン。約600メートル。集団の速度は一段階上がり、最終コーナーを有利に進もうと速度を上げる。
当然、そこは私にとっても絶好のタイミングだ。
『EXECUTE→Don't Stop RUN:Depth2.5』
更に広がった闇の中に全員を飲み込む。
「……うう、あああああああ!」
「まっ、け、る、かああああああ!!!」
「…………ッ!」
…………さっきよりも、更に効きが悪い。私よりは酷いが、明らかに足運びのキレが鈍っていない。幾ら出力が上がったと言え、短時間で乱発し過ぎたか。
もう領域頼みの戦いは出来ない。後は自分自身の力で、無理矢理押し込むだけだ。
走れ、走れ。
応援にこたえる様に。歓声を浴びるように。
不規則に跳ねる心臓が、響く声に一瞬だけ動きを落ち着かせた。
「がんばれぇ!」
「勝って、勝って!」
「行けいけ、抜けろ!」
「前は壁だ! 横通れ!」
「皆、あと少しだよっ!」
『さあ、向こう正面からウマ娘達が帰ってきます! 残るは最終直線前、高低差二メートルの坂のみ!』
私達の走る音すらかき消す程の、大きな、大きな叫ぶ声。
私の周囲を燃え盛る炎さえ、その勢いを弱らせる。
こんなにも、声が響いている。
こんなにも、沢山の人が。私達を励まし、そして背を押してくれる。
G1出走も通算三度目になると、周りを意識する事にも慣れてくるのだろう。
この声のどこかに、あの子達が、あの人が、居るのだ。
いるならば、私は。
応えなければ。この声に。勝ってくれと私を呼ぶ、この願いに。
応えなければ。
応えなければ。
――応えなければ!!
『さあ最終コーナーを回り最初に駆け抜けるのは―――』
最終直線に到達した子から、雪崩込むように次々と皆が坂を上りはじめる。続く後続の動きも明らかに先以上の勢いがある。恐怖の伝播は緩めていないのだが、にも関わらずその足は一切の緩みを見せない。
歓声を力にする……だったか。皆が皆加速する様はオグリキャップの見せる走りのようですらある。
だったら、私だって。私だって出来る筈だ。
「―――がぁああああああああっ!!!」
残せる体力は十分残した。後は全て出し切るだけ。
『大外を回った一人が前方を一気に追い抜いていく! スタートワンだ、スタートワンが驚異的な末脚で上がってきたぁっ!』
突き放す! ここでっ!
『追い付けない、彼女の影だけが抜きんでて――なんと、もう一人居ます! もう一人、集団を抜け出てきた!』
「――ッ」
『シンボリルドルフだっ! 集団の陰に隠れて息をひそめていたシンボリルドルフが、ついにその力を奮い始めた! 驚異的なまでの速度っ、既に眼前にスタートワンを捉えている!』
「……ふふっ」
やはり、来た! それも、最高の状態で!
後ろから響く地鳴りのような足音と轟雷。暗く燃え盛る頭の中が、急激に稲光と王の間に彩られていく。
いやに静かに息をひそめているとは思っていたが、そうか、これが。
これが、彼のダービーだった。
「さ、せ、る、かぁあああ!!」
「はは…っ! そうこなくてはな!」
一層、踏み込む。
『
だが、やりようはある。彼女の最大速度を超えられないのなら。
それでも追い付かない程に、距離を取るしかない!
「ぜったい、勝つ……ッ!!」
残り1ハロン。
呼吸も止め、一気に速度を上げる。前だけ、ただ前だけを見据え、一直線に……!
突き、離せぇっ!
「ああああああああああああああっ!」
音が少し遠のく。それに合わせ更に加速。いけ、いけ、このままっ――走れっ!
『更に加速するスタートワン! 最早セーフティリードだ! 流石のシンボリルドルフも追い付けない! それどころか後ろの先団にさえ追い付かれているぞ!』
―――――――待て。今なんと聞こえた。
そんな馬鹿な事があるか。彼女の力なら私に並ぶ事だって容易いはず――――
「狙いを定めろ、射るべき的は見えている。」
ぴぃんと、響く音。
軽やかな糸の響き。
凄まじい雷鳴に埋もれる筈の、
弓、鳴り。
「一つ、二つ。さあ、これにて」
“紅葉乱れ舞う秋の山道。
美しき袴を肌脱ぎにして。結い上げた髪を揺らし少女は走る。
その手に持つ弓に矢を番えると瞬く間にそれを打ち放ち、僅かな間に見据えた的を射貫く。
滝を駆けあがり、そして頂点さえ超え月を背に。逆光に隠れたその肢体、されどその瞳は紫電の光と共に狙いを定めた。
一矢のもとに貫かれた的が散る。
『翳り退く、さざめきの矢』
走り終え、少女はふと此方に目を向けた。晩秋の儚さも意に介さぬ笑みは、今咲き誇る大輪そのものだった”
「仕舞いだ」
これが質の悪い冗談でないというのなら、私が見ているのは悪夢だ。
一瞬。
ほんの一瞬で、私の前には緑の勝負服が現れた。
だが、今。
今使うのか。
今、使えたのか。
「~~~~~~!!!」
追い付けない。追い付けない。
長い直線が、もう無くなるというのに。あと少しで、全てが終わるというのに。
一バ身。たった一バ身が追い付かない。どれだけ縋ろうと、届かない。
いや、違う。
私の加速にぴったり合わせた加速。
一バ身だけ、彼女は私の前を行く。「お前の力はその程度だ」と、そう示すかのように。
私の限界は。私の全力は。
私の積み上げた十数年は。
私の耐え続けた十数年は。
彼女にとっては、児戯にも等しい。
『越えられない! スタートワン、残る一バ身が詰められない! シンボリルドルフ今ゴォーーーーールッ! 皐月賞の称号だけでなく、ダービーウマ娘も無敗のまま手に入れたシンボリルドルフ! 残る菊花賞も手に入れられるか!』