G1目指して頑張ります   作:あかし/さんさい

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6 選抜レース 対シンボリルドルフ前哨戦

 私の名前はスタートワン。『ウマ娘プリティーダービー』の世界に転がり込んでしまった、いうなれば二次創作の主人公とでもいうべき存在だ。

 そんな私がウマ娘育成機関の頂点トレセン学園に入学してからしばらく。皆学園生活にも慣れが生まれてきた頃、ついに選抜レースが開催される事になった。

 

 ある意味では、一人のウマ娘の未来を決めるともいえる、メイクデビューにも負けないくらい大事なレース。ここでスカウトされるか否かで、私の運命もまた変わるのだ。

 

 そして、この選抜レースにて注目されているのが何を隠そう、シンボリルドルフだ。これまでの練習でも既に頭一つ…いや、二つ三つは抜きん出た才を見せつける彼女も、当然今回のレースに出走する。勿論他にも幾人か能力の高い者は居るが、彼女らとシンボリルドルフがレースに出た時、どちらが勝つかと言われると大半は後者を選ぶだろう。

 

 さて、そうした話を何故態々するのか。それはこの能力の高い者の一人として、この私スタートワンが選ばれており、そしてこの選抜レースに於いてシンボリルドルフと対戦することが決まっているからである。距離は芝の2000メートル。私でも一応走れる距離だが、当然シンボリルドルフにとっても得意な距離だ。

 実は元々別のレースを選択していたのだが、普通に抽選から外れてこのレースを走ることになった。他の子たちも似たようなもので、見るからに不安そうな顔を隠せない子も入れば、これから行われる蹂躙を想像して顔を真っ青にしている子も居る。

 地下通路を通る私も、その例に漏れず溜め息が連続で出てきてしまう。

 

「はあー……」

「どうしたんだ? ずいぶん気分が落ち込んでいるようだが」

 

 心配そうに声をかけてくれるシンボリルドルフ。仲が良くなってからというものの、それなりに互いの性格がわかるようになったからだろう。彼女自身理由はわかっているのだろうが、ちゃんと言葉にしてくれる。その厚意に少しだけ甘え愚痴をこぼす。

 

「もう少しすればレースです。それでうまく走れるかどうかと思うと、不安にもなってきますよ」

「意外に小心なところがあるのだな。私と居る時そういう様子は無いのだが」

「初めの頃はそうでしたけど、流石にけっこう付き合ってますからね」

「ふふ、その対応が既に他とは違っているよ」

 

 ……まあ、それはそうだ。本人も語っていたし、個別のストーリーでもそうだったが、シンボリルドルフはその実力と威風堂々とした振る舞いのせいで避けられやすい傾向にある。既に入学から数か月も経過した中、私はそこそこの交友があるのに対して、見ている限り、彼女とよく話をしているのはマルゼンスキーと私経由で出会ったミスターシービーくらいのものだ。この二人以外と一緒に居る時は、一方がやや縮こまっている様子すらある。

 同学年で彼女と一見対等に会話をしているのは、今のところ私だけだ。

 

「もっと柔らかい接し方なら、シンボリルドルフさんも色々話しかけられると思うんですけどね」

「う…。それは常々私自身感じているんだ。君にもジョークの勉強を手伝ってもらっているから、多少は上手になっている筈……」

「それはまあなんか、頑張ってもらって……」

「なぜちょっと雑な対応を…うむ……」

 

 彼女の思わず微笑んでしまうジョーク(せめてものフォロー)に磨きをかけるため時々その勉強に付き合う事があるのだが、どうにも彼女のセンスと私のセンスは噛み合わないらしい。定期的に技術向上の予定は組んでいるが、成果は見られない。アプリのダジャレ直後の空気感も、やっぱりそういう事なんだろうな…。

 

 そんなこんなをしている間に、ついに私達の走るレースの前のレースが終わる。

 ほかの子たちも最終調整を始め、私達も少しだけ気を引き締めた。

 

「……シンボリルドルフさん」

「なんだ?」

「あなたと当たった以上、本気でいかせてもらいます」

「…ああ、私も全力を出そう。先に行っているよ」

「はい」

 

 彼女が一足先にゲートの方へ向かったのを見送り、踵を返す。後ろからの歓声を聞きながら向かう先に居るのは私と同じように彼女の背中を見ていたウマ娘達。シンボリルドルフに続いた子もいるにはいるのだが、同じレースを戦う予定の子達の大半は、揃って足を竦ませている。さもありなん、といったところだが、一応彼女達も選抜レースで走れるだけの能力を認められた実力者。私でも気を抜けば負ける様な相手にこんなにも悲観されると……うん、レース前からこんなお葬式前みたいな空気を出されては、私のやる気まで削がれてしまう。

 

「どうしたんです皆さん、そんなに泣きそうになって」

「す、スタートワンちゃあん…」

「どうしよう、私シンボリルドルフさんになんて勝てないよ…」

 

 返事の代わりに泣き言を言ってきたのは不幸にもこのレースに出走となったクラスメイト。勝利に貪欲な本能があるというウマ娘らしからぬ弱気な発言までして、耳も尻尾もへたり込んでいる。

 

 シンボリルドルフの強さが既に知られたものであるのはわかる。新入生代表でもあるし、トレーニングなどでもその能力の高さは教官から手放しで褒められていたほどだ。互いにメイクデビューすらしていないにも関わらず対戦対手をここまで委縮させるとは。皇帝の名に相応しい威圧を与えている。

 …………しかし、いくら何でも震え上がり過ぎだ。相手は同じ新人、ここまでなるのはおかしいと思う。

 

「シンボリルドルフさんも私達も、本番のレースじゃないんです。そこまで怖がらなくても」

「だ、だって…」

「スタートワンちゃんがあんなに負けてるのに、私達じゃもっとぼろぼろに負けちゃう…」

「私が?」

「練習の度にあそこまで離されてるんだよ? 私達じゃ絶対無理だよ」

「……んー」

 

 なんか、うっすら原因がわかった気がする。これ、私が度々シンボリルドルフと併走しては惨敗したせいだ。

 

 直接的な描写が無い為事実かは分からないが、本来のシンボリルドルフはこの時期一人で練習をこなしていたはずだから、強いことはわかっていても相対的にどのくらい差があるのかまでは判断がつけられなかった。それが模擬レースによって浮彫になった挙句、同じく模擬レースで勝っていた私が比較対象になることで彼女の能力が余計に強調されて、怖い存在と認識されてしまっているわけだ。これは何も考えず一緒に練習をしていた私のミスだなあ……。

 

 …こんな空気じゃあ、このレース自体が白けたものになってしまう。

 

「大丈夫ですよ」

 

 模擬レースといっても、本来行われるものと比べればかわいいものだ。実際のレースの感覚を身に着けるため、その前段階として簡単なレースの流れを復習するものである。ただし、同時にクラスを問わず学年全てのウマ娘が出走するこれは模擬レース以上の数のトレーナーが観戦し、ジュニア期、そしてクラシック期、それ以降も活躍するであろう才気あるウマ娘を見出す最初のレースでもある。

 

「大丈夫って、なんで…」

「私達の目的はスカウトを受ける事。勝利はそのための一番楽な方法、というだけです」

 

 そう、最悪ここで負けても問題は無いのだ。重要なのはこれによってトレーナーを獲得するかチームに加入する事。それさえ達成出来れば勝利したも同然だ。事実キングヘイローやエイシンフラッシュなど、選抜レースで負けながらもトレーナーを獲得したウマ娘の話はアプリ版でも存在している(それ以前の関わりがあるのはこの際ノーコメント)。言い方はあれだが、ようは勝負に負けても試合に勝てばいいのだ。

 

 目に付く中で一番不安そうな、へたりこんだクラスメイトの前で腰を下ろし、手を握って彼女の額に私の額を当てる。泣いている子供をあやす親がするような動作だが、あまり気にしないでおく。

 

「安心してください。勝っても負けても、あなたが全力を出し切れば、誰かがその走りを認めてくれます。その為にも、まずは怖がらないで、思いっきり走りましょう」

「う…で、でも…」

「そんなに怖がっていたら勝てるものも勝てません。それに、もしその状態で見ていられないくらい負けてしまったら、あなたの事をスカウトしてくれるはずだった人が見向きもしなくなってしまいますよ?」

「そ、それは、いやだ…」

「ですよね? シンボリルドルフさんに勝てればそれが一番良い…というのは確かです。でも、それが無理だと思うのなら。まずはちゃんと、出来る限りの自分の力を出し切りましょう。ねっ?」

 

 にこりと笑いかけると、クラスメイトは不安そうな顔を少しだけ緩めて小さく頷いた。うん。一応はこれで大丈夫だろう。

 

「さ、そろそろ皆さん待ちくたびれているでしょう。早く行って、思いっきり走りましょう」

「……うん」

 

 手を取って立ち上がらせ、その背中を少しだけ押してレース会場へ進ませる。他の子達も私の言葉を聞いていたからか、同じように促すと直ぐ歩いて行った。何人かは最初に向かった子と同じ事をしてほしいと言ってきたりしたものの、数分とせず私以外の全員がその場から居なくなる。うん。これでようやくレースを始められる。…原因の一つに私も含まれるので、これで一つ罪滅ぼしだ。

 

 

 シンボリルドルフが最初に向かってからかなりの時間が経っていたので会場は多少なり冷めてしまったと思っていたのだが、私が会場に現れると同時に響いた歓声でそうではない事を知る。この場に居るのは基本的に学園の生徒かトレーナー、あるいはレーススタッフくらいのはずなのだが、聞こえる声は中々の数だ。

 

『さあ、ついに本レース最後の選手スタートワンが現れました! 他の選手とは違い、体操服の内に上下のインナーを着た彼女は、返しに入る前に周囲の様子を確認しているようです』

『入って来た情報によると、レース前に不安で元気をなくしていた他の選手を励ましていたそうです。彼女が最後になったのも、そうした事情からでしょう。あのシンボリルドルフと競い合う形となる以上、常のトレーニングで併走している彼女以外は準備に時間が必要だったようですね』

 

 歓声の中を縫うように聞こえてくる実況と解説の言葉から、どうやら裏で何が起こっていたかは概ね伝わっていたらしいと分かる。色々と手間が省けて助かった。さて、その手間を自分で増やさないよう、さっさと準備してゲートに入らないと。

 

 体力温存の為軽めの走りで返しを終え、レース相手の皆が待つゲート前へ移動する。此方に気付いたシンボリルドルフが近づいてきて微笑んだ。

 

「待たせてしまいすみません」

「事情は聞いている。私の代わりに皆を導いてくれて、ありがとう」

「それこそ気にせず。勝負前から戦意喪失なんて、誰も面白くないですから」

「……ふふ、ならば、君の用意してくれた舞台に恥じない走りを見せよう」

「こちらこそ」

 

 全員準備が整ったという事で、ゲート入りが開始される。一人、また一人とスタッフに誘導される中、名を呼ぶ声に顔を向けると、そこには安心させるため最初に手を握ったクラスメイトが、何かを覚悟した顔で私を見ていた。

 

「スタートワンちゃん。…私、絶対勝つから!」

「……ええ、共に勝利を目指しましょう」

 

 いい、とても良い顔になった彼女を見送る。彼女ならきっと素敵なトレーナーと契約が結べるだろう。

 少し遅れて私のゲートインとなり、誘導員に連れられてゲート入りする。狭くて圧迫感のあるゲートが苦手なウマ娘は多いが、私は元が人間という事もありあまり苦手ではない。アプリ風に言うのなら『集中力』がある状態だ。

 

『さあ、選抜レースもこれで最終レース。一番人気はもちろんこの子、シンボリルドルフ』

『この中で間違いなく最上位のポテンシャルを秘めた彼女の走りに期待しましょう』

『ゲートイン完了、出走の準備が整いました』

 

 彼女への評をどれだけ突き崩せるか。それは私達の走りに懸かっている。

 

『さあ――スタートです!』

 

 がこんという音と共に開いたゲートから、いの一番に走り出す。わずかに遅れて走り出す音が聞こえた。私だけが一瞬速く先に出たようだ。

 

『今スタート! 先頭に立ったのはスタートワン! おっと、しかし即座に速度を落とし、後続にハナを譲っていく! 先頭だったのは最初だけ、あっという間に殿まで下がっていったぞ!?』

『追い込みを選ぶという事でしょうか? きれいなスタートだっただけに、会場も少しざわついています』

 

 芝2000メートル、一応は良バ場なのだが、既に何度もレースが行われたこともあり地面の状態は少し悪い。選抜とはいえかなり本格的なフルゲート18人立てという事もあり、響く音は歓声にも負けないほど大きい。

 最後方から前を行く全員の様子を伺う。私と交代するように先頭へ立ったのは二人。大逃げとまでは言わないが、私の動きにペースを狂わされたか、速度はハイペースに近い。先行集団は五…いや、六人か。先頭に引っ張られるように全員がやや縦に並んでいる。シンボリルドルフは中団の四人の中。今回は先行と差しの中間くらいの位置につけているようだ。残る五人は後方、私のすぐ前を走っている。前を行く者達に遅れないよう、しかし大きく下がった私を注意したいのか、何人か後ろを確認する様子が見られた。先頭から私までは凡そ十バ身か。

 

 中盤にさしかかると全体が少しつまり、互いの間隔も近くなる。先頭もペースを少し落としたようだ。シンボリルドルフは……内につけたらしい。ゆっくり後方集団に混ざりながら、ラチ近くで自分のペースを維持しているようだ。

 

『さあコーナーを回って中盤。先頭から四番、九番、一バ身遅れて十二番、三番、十八番です!』

『スタートワンの作ったややハイペースな展開が落ち着き、それぞれ自分の走りに集中してきていますね』

『一番人気シンボリルドルフは中団。そこから二番、六番、十番を挟んで最後方スタートワンが追う形です』

『全体から遅れず、いい位置につけています』

 

 さて、勝てるか否かはさておき、あれだけ言った私が手を抜くのは性格が悪い。私も……勝ちを狙いに行こう。

 

 一番近く、私の前を進むウマ娘の真後ろにぴったりつけながら、空気抵抗を軽減させ体力を温存する。ぶつからない程度に近付いてプレッシャーをかけると集中を乱せたのか、わずかに動きが揺らいだ。周りを走る子達もそれにつられて動きが鈍る。掛かりほどではないがデバフも成功。外側に移動してゆっくり前に進みつつ、残る距離を確認する。今やっと半分を超えたところだ。残り半分、うまく保たせられるか。

 

『レースも後半戦、先頭から順に九番、四番、十一番と続いていきます。シンボリルドルフは後方集団からあまり動きませんね』

『彼女の作戦でしょうか。最終コーナーからが勝負と見えますね』

 

 実況の声を聴きながらシンボリルドルフに少し視線を送る。他の子達がわずかながら焦りや集中の途切れを見せる中、彼女は一切の冷静さを失っていないようだった。額の汗を軽くぬぐって、にやりと笑う余裕まである。そして、

 

「さあ、行こうか」

 

 一瞬だけそう呟くのを私の耳は聞き逃さなかった。途端彼女の速度が上がり、前のウマ娘を巧みな位置取りで躱して一気に先頭へ向かっていく。まだ終盤に入っていない。仕掛けるのが早いのではなく、ここから全員を突き放していくつもりだ。なるほど、アプリ通り狙っていたのはただの勝利じゃなく、圧倒的な勝利か!

 

「……ッ…、」

 

 まだ余力はある。しかしここで一気に速度を上げて保つかは分からない。スタミナが尽きて走れなくなったら、後はびりっけつの惨敗だ。上位五着に入りさえすればスカウトは狙えるだろう。賭けに出るか、安定を狙うか。リスクを抱える事はしたくない。

 ……が。それじゃあ面白くない!

 

『まもなく第四コーナー! 先頭はいまだ変わりませんが、シンボリルドルフが急激に上がって来る! 三番手から二番手、そしてあっという間に先頭を追い越した!』

『負けじと他の子達も追走しますが、どんどんと突き放されていますね。それだけ彼女のスピードが圧倒的という事でしょう』

『さあぐんぐんと後続を離していくシンボリルドルフ、このまま大差勝ちを収めるのか!? おおっと! 後ろから猛烈な勢いで追い上げてくるウマ娘がいるぞ! スタートワン、スタートワンです! シンボリルドルフにも負けないハイペースで順位を上げていきます! 二人から離されはじめた後続も頑張る! 果たして間に合うのか!?』

 

 五番手、四番手、三番手、二番手。呼吸を浅くしながら、先を行く鹿毛に猛追する。既に肺がかなり痛むが、まだ距離は詰まらない。今は何バ身か。それはどうでもいい。いまは、ただ、走れ!

 

「ま、て、ぇええええええっ!」

「! 来たか!」

 

 圧倒的な勝ちなんか、絶対させてやらない……!

 

 

 

『最後の直線、依然先頭はシンボリルドルフ! それを追うスタートワン! 緩やかに差は縮まっているがまだ三バ身以上ある! シンボリルドルフ速度を上げる! 更に離され四バ身半、スタートワンも速度を上げた! 三バ身半まで戻す…が足りない! シンボリルドルフ、今ゴォーールっ! 圧倒的な力を見せつけ、今シンボリルドルフが勝利を飾りましたっ!』

 




誤字報告機能で誤字に気付けて感謝です。
でも、あんだけアホ程推敲して誤字ってると「あの努力は一体…?」という虚空に意識が飲まれます。
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