G1目指して頑張ります   作:あかし/さんさい

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54 姦しさは加算では無く乗算

 トレセン学園は東京都内にある。

 つまり、何か入り用なものに関しては手近に大体のものが購入出来るという事だ。

 

 それでもシニア級の五人、クラシック級の四人。占めて九人で買い物に行くとなるとそれなりに大きなお店に行く方が良い。

 

「次は何処行く?」

「はいはーい! 私海用グッズ見たい!」

「アタシはあっちの店気になるな。エースもどう?」

「あれベッド用品の店じゃねえか。いや、枕は持ってけるか?」

「私はそろそろ、お昼も良いと思うけどなー」

「あら、気が合うわね! 私も昨日おいしいティラミスのお店があるって調べてたの♪」

「どうする? 私達も何か候補出しておいたほうが良さそうじゃない?」

「……どうしよう?」

 

 そんな話を聞きながら、私、シンボリルドルフ、桐生院トレーナーの三人は少し後ろを歩く。

 

「桐生院トレーナーはどうします? 概ねもう少し店を覗くか食事かという様子ですが」

「ええと…。私はあまりこういう事はしたことが無いので、ちょっと思いつかないのですが……」

「難しく考えなくてもいいんですよ。何か面白い所があれば候補にしたいだけですから」

「スタートワンの言う通りです。今回はウィンドウショッピングなのですから、寄り道してこそ醍醐味と皆考えているのですよ」

「そ、そう言う事なら実は一つ、行きたい所が……」

 

 

 会議に参加してから数日。結局、策略に乗せられたままショッピングの当日を迎えてしまった。

 間違いなく何かしらやらかされる事は分かっているが、今回の合宿参加者全員が居るというのに一人だけ不参加をすると今後の事にも引っ掛かりになりかねない。背に腹は代えられないかなと諦めている。

 

 それでも大所帯での行動は結構楽しいもので、並んでいるお店の冷やかしだけでも色々と話が弾むものだ。先輩組のお勧めや同期の趣味の話、引率として連れてきた桐生院トレーナーの純さに慄いたりするだけでもあっという間に時間が過ぎていく。

 

「へえ……良いデザインのお店ですね」

「こんな所があったんだ~」

「すごくナウいわね!」

 

 お昼の食事をどうするかという話合いの結果、桐生院トレーナーのリクエストした場所へ足を運ぶことに。案内されながら着いたそこはさっきまで買い物で利用していたショッピングモールから離れ、ちょっとした裏道を通った先にある喫茶店だった。

 お店の雰囲気はかなり王道の喫茶店。なんというか、今さっきの発言どおりマルゼンスキーの好きそうな感じであり、マンハッタンカフェ辺りも気に入りそうないい意味での飾り気の無さをしている。

 

 昼時なので人入りも多いかと思ったが、裏通りの店と言う事もあり空いている。しかし客の様子を見る限り店馴れしている事が伺えたので、所謂通好みという奴かもしれない。

 

「桐生院トレーナー、良くこんなお店を知っていましたね」

「えへへ、実は研修でお世話になったチームリーダーに連れてきてもらった事がありまして……」

「という事は、トレーナー君もここに来たことが?」

「私のトレーナーさんも?」

「はい。お二人共知っていますよ」

 

 やはりか。同じトレーナーの下で指導を受けたとの事だから、機会があれば連れて行ってもらった事もあるのだろう。

 こういう場所があるなら私も連れて行ってほしかった所だが、まあそんな余裕も無かったし、文句は言わないでおこう。

 

「お昼に来るには人数結構多いけど、大丈夫かな」

「大きい店じゃないし、邪魔になるかもね」

「テーブルは分けないとだな」

「ここ冷房強くないですか?」

「暑いから強めなのかも。風当たんない席行く?」

 

 マスターと二言三言話した桐生院トレーナー。にこりとした笑みが両者から漏れた事で交渉はあっさり成立した事が伺えた。

 

 そのまま大きめのテーブルが並んだ席へ移動し、全員でメニューを眺める。席はそれぞれシンボリルドルフを含むシニア組と桐生院トレーナーを含む同期組で分かれている。

 

「こういう所のサンドイッチってちょっとトーストされてておいしいよね」

「オムハヤシ美味そうだな。これ頼むの他居るか?」

「グラタンがあるよ」

「それ夏場に食べる?」

「美味しそうではあるわね?」

「ふむ、このパスタは良さそうだ」

 

 それぞれに好みのものを選んでいるようだ。私もメニューを見ていると、ハッピーミークとクラスメイトが両側からこちらに顔を覗かせる。

 

「二人共何食べる? 私はナポリタン食べたいな」

「オムハヤシかハヤシライス辺りが美味しそうですね。とはいえまだ決めかねていますが」

「……バゲット」

「スープと一緒についてるやつ?」

「……ん」

「それも確かに良さそうですね」

 

 皆さくさくと決めているようだ。このままだと私が最後に決まる事になりそうな気もする。

 

「そういえば、桐生院トレーナーは何を?」

「……それは、秘密です」

「…秘密」

「はい、秘密です」

 

 少しうきうきした様子で口許に人差し指を当てる桐生院トレーナー。クラスメイトとハッピーミークはきょとんとして顔を見合わせているが、私は彼女のやりたい事に気付いて少しだけにやりと笑う。彼女も私の笑みに気付いてえへへと頭に手を当てた。

 少し興味が湧いたので、聞いてみる。

 

「どう言えばいいですかね?」

「なら、お手伝いしますよ!」

「ありがとうございます」

 

 それは助かる。後でマスターさんにも聞いてみようか。

 そこで気付いたのだろう、クラスメイトが耳をピンと立てる。

 

「あ、もしかして!」

「おっと」

「むぐっ?!」

「どうした?」

「いえ、ちょっと話が弾みまして。静かな店内なので静かにしましょうね?」

「んぐぐ……むん」

 

 此方の会話は聞いていなかったシンボリルドルフ達は少し不思議そうにしていたが、直ぐに気にせず自分達の会話に戻る。

 

「ご、ごめん、ちょっとうるさくした」

「静かになったなら大丈夫です。…どうせなら、私達だけ頼んでみます?」

「え、それ良いの?」

「桐生院トレーナーを引き込んだ此方の有利という事で」

 

 ちらと当人に視線を向けると、きらきらとした瞳で力強く頷いた。何かは知らないが琴線に触れたらしい。

 

「……なんの話?」

「ああ、ハッピーミークさんにも説明しましょうか」

 

 

 注文はマスターが自分で取るらしい。それぞれが注文をしていく中で、桐生院トレーナーが満面の笑みで指を四つ立てた。

 

「お願いします!」

 

 それにまたにこりと笑みを浮かべ、マスターが厨房へ移動する――その間に、ミスターシービーが引き留めた。

 

「ごめん、ちょっとだけ耳貸して?」

 

 そう言ってぼそりと何かを耳打ちしたミスターシービーは、にやっと笑みを浮かべて厨房へ戻らせる。

 そして私達に視線を向けて、口許で人差し指を立てた。

 

 

 ……これは、やられたな。

 

「流石ですね」

「アタシも気になってたんだよね。こういう店って大体あるし」

「何の話だ?」

「まあ、来てからのお楽しみという事で」

 

 そんな話をしてから少し時間を置いて、注文した品が届き始める。ミスターシービーを含めシニア組はそれぞれの頼んだ料理が届いたが、私達四人は少し遅れて届いた。

 

「随分時間がかかっているな」

「みたいですね。同じものを人数分だから、結構大変なのかも」

 

 そんな話をしたタイミングでお盆を手にマスターがやってくる。それをみて桐生院トレーナーが俄かに声を上げた。

 

「来ましたきました! すみませんちょっとテーブルを片付けます!」

 

 せかせかとテーブルのグラスや取り皿を動かしていくのを手伝い、マスターが皿を並べるのを眺める。出てきたのは大き目の平皿が五つ、だが。

 

「これって」

「パスタ?」

「かかってるのホワイトソース……だよね? なんか違う気がするけど」

「どっちかと言うと、グラタン?」

 

 一番近い見た目はクリームパスタ。しかし入っている具がかなり大きく、こんがりと焼かれたチーズが乗せられている。香ばしくも濃厚な匂いに何人かの腹が鳴るのが聞こえた。

 

 並んだそれに、桐生院トレーナーがいかにもうきうきした様子でフォークを手に取る。

 

「桐生院トレーナー、これは?」

「このお店の裏メニュー、パスタグラタンです!」

 

 裏メニュー。俗にメニュー内に書かれていないが注文することの出来る品物を指す。そのお店の常連や開発のきっかけになった人などから広まるこれだが、桐生院トレーナーお勧めのここではパスタグラタン…グラタンの中にパスタを入れて焼く、簡単なアレンジ料理がその看板を請け負っていた。

 

 グラタン皿では無く麵料理系統の乗る皿を使っているのは、これがあくまでパスタを主体に作っている事からだろう。メニューに出しても十分なクオリティに見えるが、賄いなどで出しているものがメニューに載ったのかも知れない。

 

 シンボリルドルフを筆頭に、此方のテーブルに乗る不思議な料理に少し色めき立つ。

 

「おおー、美味しそう」

「裏メニューか。それは考えてなかったなぁ」

「ふむ……。先の様子はこれを注文する為か」

「まあ、そう言う事です。見事にミスターシービーさんには気付かれてしまいましたが」

「ふふっ、そんな簡単に騙されるわけじゃないよ」

 

 そう言いながら既に自分が注文した料理に手を付けているミスターシービー。一人だけ二つ頼んでいる分、食べる速度を上げないと周りが完食してしまうからだろう。とはいえ此方も種明かししたら皆に少しずつ分けるくらいのつもりではいたから、態々頼まなくてもよかったのにと少し思う。

 

「まあ、初めて来たお店の定番ではなく常連用の料理を最初というのもあれなので、今度来た時はメニューのものを頼みたいですね」

「そうだな、私も一度そちらを食べてみたいものだ」

「良ければ少し差し上げますよ」

「いいのかい?」

「秘密にしたお詫びです。……本音を言えば少し量が多いというのもありますが」

「……確かに、大き目の皿だね」

 

 ウマ娘ではない桐生院トレーナーの事も考慮して全体的な量は少なめになっているが、それを踏まえても私の分の皿にはそこそこの量が入っている。食べられなくもないが、これから試着もある事を考えれば少し控えたくなるくらいには私の胃に少なくない負担がかかる量だった。

 

「どうです? 少し食べませんか?」

「……いや、ありがたいがやめておこう。今度の外出にさせてもらうよ」

「ならその時は外出の予定でも組みましょうか」

「ふふ、それなら合宿後の方が良さそうだな」

「あ、だったら私ちょっと頂戴」

「アタシも!」

「ええ、他の皆さんも食べますか?」

 

 代わりに先輩達にお裾分けをしつつ、そんなこんなで食事開始。他の皆にも一口あげたり逆にもらったりなどしながら、ここまでの買い物やこの後の予定について話していく。

 

「にしても合宿の暇用に色々買ったね」

「カードゲームは良いとして、ゲームする暇はなさそうじゃない?」

「まあ念のためくらいにね。海水浴の予定もあるし」

 

 アニメでは夜の間にカードゲームをしている描写もあったし、アプリ版でも各人の育成ごとに休みに出かけたり遊んでいる描写はあった。練習期間と言え、端から端まで走っているという訳ではない。

 

「そういえば、日程決まったのかな?」

「トレーナーで予定組むって話だったもんね。私達が決めてもよかったと思うけどさ」

「それぞれの予定もありますから、行き当たりばったりに決めるよりも最初から休みの日を決めておく方が楽なんだと思いますよ」

「そういえばかなりバラバラな予定だったもんね」

「……一緒の練習、あんまりなさそう…かも」

 

 場所が浜辺とはいえ、参加者は決して少なくない。個人練習からチーム全体での練習なども加われば、下手をすると期間中殆ど会えない相手も出てくるだろう。

 

「まあ、大丈夫じゃない? そのくらいならトレーナーも想定してるハズだし」

「確かに。アタシらがああだこうだ言うよりは向こうで詰めてもらった方が纏まるでしょ」

 

 こちらの要望は既に通した後だ。初めから全員の予定や方針を聞いているのだから、そこから細かな調整をするのがトレーナーの仕事。先輩達の話すように追加のリクエストがあるにしても、まずは一通りの予定が出来てからの方が此方の希望も通りやすくなる。

 

「何にせよ、今日はこうしてゆっくりしていくのが一番ですね」

「だね。予定詰まってるし、ちょっと名残惜しいけどさっさと食べちゃお!」

「……もうちょっと、ゆっくり、食べたい」

「また今度来ましょうね、ミーク」

「……ん」

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