G1目指して頑張ります   作:あかし/さんさい

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55 着せ替え人形に人権はあるか

 休憩がてらの昼食も終わり、また街へ繰り出す。概ねの買い物は終わっているが、追加で買うものが無いとも限らない。

 ショッピングモールへの道を進んでいると、不意に先頭を進んでいたミスターシービーとマルゼンスキーが振り返り皆を止める。

 

「さて、と。腹ごしらえも済んだ所だし」

「皆、ちょっと聞きたい事があるんだけど、いいかしら?」

 

 突然の事に皆少し困惑するが、それでも何か面白い事を提案するつもりだろうと足を止め、二人に注目。視線を集めながら、二人はにやりと笑みを浮かべた。

 

「これから待ちに待った、水着を買いに行くよ」

「準備はいいかしら?」

「そりゃ勿論!」

「今度の新作ちゃーんと下調べしてるんだ! 皆に合いそうなのもリストにしてあるよ!」

「おおー、流石」

「ありがとうございます先輩!」

 

 ノリのいい打倒先輩らしい事をしてきたな。ここからお店に行くにしても、流行のものを扱ったところが多くなりそうだ。

 

 そんな事を考えながらも、何故か言いようのない空気を感じ取る。ふと、隣に並ぶシンボリルドルフと視線が合った。

 

「……不思議ですね。シンボリルドルフさん」

「……何が不思議だい?」

「何の変哲もない状況だというのに、何故か眉に皺が寄るんですよ」

「……そうだな、普段以上に険しい顔をしている」

「ええ。そして何故かシンボリルドルフさんも同じ顔をしていますね」

「……不思議だな、スタートワン」

「不思議ですね」

「……?」

 

 更に隣に並ぶ桐生院トレーナーは私達の会話に疑問符を浮かべている。目を瞬かせ小首を傾げる姿は可愛らしいが、それを言葉にする前に。

 

「えへへ、すーわ、ちゃん」

「え、あ」

「……シンボリルドルフ、さん」

「ハッピーミーク…?」

 

 私はクラスメイト、シンボリルドルフはハッピーミークに腕を組まれる。見た目は友人同士の楽し気な光景だが、絡む腕に乗った力が明らかに見た目通りのものとは違う事を、私達だけが理解している。

 

「ミスターシービーせんせー」

「なんだーい?」

「…ここに丁度、水着を用意していない生徒が」

「ふうん? それは良くないなあ」

 

 にやりとした両隣の二人に合わせて、ミスターシービーが顎に手を当てて私達に視線を巡らせる。それどころか周りもにやにやとした様子で、いかにもこれからどうしようかという吟味をしている様子だった。あー、やっぱりか。

 

「着せ替え人形扱いは止めて欲しい所ですが……どうしますシンボリルドルフさん?」

「……そうだな。ある程度私達の好みには合わせて欲しい」

「了解得ました!」

「よろしい! という事で」

「スタートワンちゃんとルドルフの水着選んじゃいましょう!」

「「おー!」」

 

 のりのりどころか明らかにそれが第一の目的だったんだろうな、というくらい声を上げた子達のテンションは高かった。乗らなかったのは先輩やカツラギエースくらいで、その二人もどちらかというと仕方ないという顔をしつつも楽しそうに笑っている。

 

 特に意味は無いが、再度ハッピーミークに腕を取られたままの隣へと視線を向ける。

 

「……良いもの、見つかると良いですね」

「……そうだな」

 

 あとは、それぞれ自分達の分も忘れず購入するように気を付けて欲しい。

 

 

 グループを二分割して、私達に一番似合う水着を選ぶという案が通ったのが中々に本気が見えて反応しにくい。

 

「スタートワンは黒だよ」

「でも勝負服と被るんだよねえ。同じ色だけは味気ないしさ」

「……補色の、緑色とか」

「ありだと思うけどちょっと無難かも」

「選択には入るよね。アタシ達でもアンサーが出なかった時用の最終手段だ」

「あの、出来れば早めにしてもらえないですか? 私は何時まで試着室に籠ればいいんです?」

「「ちょっと待ってて」」

 

 そう言われても長すぎるのだけど。うう、ちょっと寒い……。

 

 

 ショップに連行され、ミスターシービー達がアドバイスをする様子を眺める。試着室から出ようにも次々に手渡されるせいで移動の暇が無い。一人一人持ってくるものの方向性が違うのは何とも面白いが、それ私が着るものなんだよなあ。ついでに言うと下着と水着合わせて薄着になる時間が長いから寒いし。

 

 皆それぞれに並んでいるものから水着を取ってきては私に持たせてさあ着ろという無言の圧を出してくる。自分の分は片手間に用意しているようだが、それを加味してもこちらに品物を持ってくる速度が早い。時々先の様に話し合っているというのに、何故ああも隙が無いんだ。

 

 少し離れた個室に詰め込まれているシンボリルドルフの方へ視線を向けると、その前に集まったマルゼンスキーやクラスメイトが外へ出ようとするシンボリルドルフに持ってきた水着を渡して再度押し込むのが見えた。そ、そうまでして着せ替え人形にするか。

 彼女は新しいのを用意する事に結構乗り気だったのに、何故私と同じ扱いになっているんだろうか。

 因みに桐生院トレーナーは流行に疎い所があるためかお留守番代わりに皆からファッションについてレクチャーを受けている。半分遊びが入っているのだろうが、大真面目にメモを取っているのが可愛らしい。

 

 そんな事を考えている合間にも、ハッピーミークから次の水着を手渡される。

 

「はい。次、これ」

「…了解しました。一応ですが、ご自分のもしっかり探しているんですよね?」

「ん。皆準備しながら」

 

 えっへん、とハッピーミークは足元に置いてある籠を指さす。そこには恐らく私の着替えに回った全員の分らしい水着が入っていた。一応片手間に(しか思えないが、多分ちゃんと考えてはいるのだろう)見てはいたようだ。このまま自分のものを探すのに注力してくれればいいのだけど……この感じ、まだかかりそうだな。

 

 そんな事を考えながら次のものに着替える。丁度カーテン越しにミスターシービーに問いかけられた。

 

「着替えた?」

「終わりましたよ」

 

 返しながらカーテンを開き、品評してもらう。此方に集まっている四人の視線が上下へ動き、鋭く品定めを始めた。

 見てもらっているのはハッピーミークの一つ前に打倒先輩が持ってきた空色のビキニ。パレオを腰に巻いていると言え、露出はかなり高いものだ。勝負服を意識したのかホルターネックタイプになっている以外は私の趣味ではないのだけど……。

 

「……なんか、デザインは変じゃないんだけど」

「似合わないね」

「…やっぱり、色?」

「どうでしょう。アクセサリーなどが無い、という所なのでしょうか?」

 

 皆の反応も思ったよりしっくり来ていない様子。持ってきた先輩までしっくり来ていない以上、どうやら私に合うものでは無かったようだ。

 

「そこまで似合わないですか」

「なんでだろなあ…。持ってきて言うのもあれだけど、セクシー路線じゃないね」

「可愛い感じの方が良いかもね。フリル付き持ってくる」

「かなあ。それかかっこいい系ならいい感じかも、ちょっとパンツ見てくる」

 

 せかせかと試着室を離れる先輩二人。ハッピーミークと桐生院トレーナーも行ってくれればこそりとこの場を離れるところなのだけど、残念な事にそれは叶わなかった。向こうもその可能性を考慮しているのだろう。

 仕方なく水着から私服に着替え直しているところで、カーテン越しに桐生院トレーナーに声を掛けられる。

 

「スタートワンさんに合う水着、中々見つからないですね」

「色に関する問題もありますが、人目に合うものって中々ないですからね。勝負服も結構困りました」

「でも、最初に見た時は少し気になるデザインでしたが、繰り返し見るとよく似合っていますよ」

「ありがとうございます。桐生院トレーナーにもお墨付きを貰えたなら安心です」

 

 昨年の勝負服のデザインの際もやけに暗色をチョイスされた事を思い出す。一度は黒一色にする案もあったので、似合うと言ってもらえるとちょっと安心だ。「気になる」部分についてはお披露目の際散々言われたので聞かなかった事にしておく。

 

「それにしても、中々時間がかかりますね。そろそろシンボリルドルフさん達の方が粗方決め終わっているんじゃないでしょうか」

「そうですね、私はあまりこうしたファッションは得意じゃないですが……どうでしょう、ワンピースタイプなんてありますよ? 落ち着いたスタートワンさんなら似合うと思います」

 

 カーテンから顔を出し、持ってきたらしい水着に目を通す。真っ白でフリルつき、裾が長めなので見た目は水場用というより普通のワンピースにも見える。

 ふむ…、これはこれで嫌いではないけれども……。

 

「ちょっと白が強すぎ、かもしれないですね」

「うーん、そうでしょうか…」

「デザインは好きですが、これはどちらかと言うと桐生院トレーナーの方が似合いそうな気がします。きっと似合いますよ」

「え、えと、そうですか?」

「もちろん。ハッピーミークさんもそう思いますよね?」

「…うん。絶対、かわいい」

 

 見た目もあるだろうが、こういったいかにも清純なものは桐生院トレーナーの方がぴったりだろう。私より付き合いの長いハッピーミークも同じ意見なのだから間違いなしだ。なんだったら、二人でお揃いのものを用意するのもいいのではないだろうか。勝負服が白のハッピーミークにも似合いそうだ。

 

「とりあえず、ミスターシービーさん達をもう少し待ちましょうか」

 

 彼女達の手でここに留められている以上、満足するまでは下手に動かない方が良い。下手に動いて余計に面倒事に発展したら疲れるし。

 

 それにしても、相変わらず私には黒の印象が強く残っているようだ。ここまで軽く十着以上着てきたが、暗色系統のものを着た時の方が皆の反応が好感触だった。

 これでも髪の色などは鮮やかで映えるとは思うのだが、そういうものはマルゼンスキーやミスターシービーの方が私でも着ていてしっくりくるとイメージ出来る。加えてこんな身体だ、きらびやかな衣装との縁は無いのだろう。

 

 黒を基本とした水着になる事は受け入れるとしても。彼にはああ言ったが、個人的には肌の露出は避けておきたい。菊花賞も近い以上、慣れられるとよくないのだが……。まあ、皆に選ばれている以上そこは妥協しよう。

 

 脱いだ水着を元に戻していると、ふと下着のみの自分が鏡に映っているのが視界に入る。運動着と殆ど変わらない所謂スポーツブラとショーツ。スパッツは水着の場合基本見えてしまうので今は脱いでいる。見た目には地味だが動きやすさ重視なので問題はない。

 

 しかし、その分目立つものは目立つのだ。火傷の痕に継ぎ接ぎの線。半端に残る肌の歪み。ケロイドの一部は結局お医者さんの指示のもと切除する方向に決まったが、今はその時期ではないと此方から進言しそのままにしている。このタイミングでの手術は入院も考慮に入れなければならないため、時間を浪費するのは避けたかった。

 

 アプリ版ではスタミナトレーニングと言えば水泳だったが、この世界ではトレーニングの一つとして選ぶ事はあっても肺活量のため絶対に選ばなければいけないものという訳でもない。

 しかし、場所が場所だ。主な基礎能力向上のためにも、水場での特訓は非常に多くなるだろう。即座に遠泳に切り替えるなんて場合もあり得るとすれば、肌を晒す可能性は普段の何倍にも跳ね上がる。それとは別にして、姉妹の両親に余計な心配を掛けないために練習用以外で一着くらい持っておくに越した事はない。

 

「……はあ」

 

 ……としても、私の分を用意するのにここまで苦労させているとなると、少し思う所もある。漏れる溜め息にも気分が少し沈んでくる。

 

 彼女達と比べれば特徴の無いウマ娘だ。華もなければ魅力も欠けている。

 それに加えてこの身体。下手に取り繕おうとすればよけいに目立つようなものを誤魔化すには、完全に隠してしまうかいっそ開き直りを見せてしまう方が早い。

 

 

 この傷の切欠を恨むつもりは無い。傷と引き換えに命二つを助けられたのなら安すぎるくらいだ。

 安い取引をしたのだから、それ以上を求めても意味が無い。

 

 意味が無い、筈なのだが。

 この傷の存在を忌々しいとまで感じるのは、少なからぬ敗因となっている故か、それとも十数年ぶりにここまで親密な関係を作った所為だろうか。

 せめて、表面だけであれば結果は変わっただろうか。ほんの数センチの差を詰める事も容易に出来たのだろうか。

 

 せめて、もしかすれば。そんな言葉が繰り返し頭の中を巡る。在り得もしない事だというのに。

 

「……ふふっ」

 

 ほんの一年そこらでここまで高望み出来るとは。我ながら現金な奴だな。

 

「スタートワン」

「うわっ?」

 

 突然カーテンが開かれミスターシービーが顔、というか向こうから姿を現す。普通にびっくりしたし、それ以前に隠すものが無いので下着が外に見えてしまう。

 あの、流石にやる事が過激じゃないか?

 

「ど、どうしたんですかミスターシービーさん?」

「……いや? 次の水着持ってきたけど、まだハッピーミークの持ってきたのに着替えてないの?」

「ああ、えと。もう少しお待ちを」

 

 慌てつつも次の水着を手に取りカーテンを閉め直す。

 なんだったんだろう。もしかして声でもかけられてたのかな。ちょっと表情が固かったし、返事がなくてむっとさせたかもしれない。

 

 

 試着した数が優に十を超えてから更に経過して。着せ替え人形の如く私に水着を入れ代わり立ち代わり持ってきた三人の意見が一致した。

 

「「「無理!」」」

「私の時間返してもらえます?」

「あ、あはは……。」

 

 桐生院トレーナーも苦笑いだが、流石にちょっと文句は言わせてほしい。

 いや本当に、一時間以上試着室に拘束された挙句匙を投げられる側になるのは理不尽だろう。寒かったし。

 

「ごめんスタートワン。色々頑張ったけどもう良いの無いや」

「アタシもこれ以上はちょっと思いつかないな…」

「……ばんじ、きゅうす」

「そこまで表現しますか……というのはいいとして。流石に何も用意できないというのはよろしくないですね」

 

 相変わらず私の印象との齟齬が引っ掛かりになっていると見える。ここまで来ると支障が出ているレベルだな……。

 恨み節を続けてもいいが、それは単なる時間の浪費にしかならないのでここでストップ…するにしても。さて、どうしたものか。厚意に甘えさせてもらった(というより、付き合わされた?)形とはいえ、これ以上皆の時間を使っても仕方がない。一旦私の水着選択については終了にして、シンボリルドルフ達と合流するのが得策だ。

 

「このまま続けても終わりませんし、取り敢えず私の水着については一旦終わりにしましょうか。シンボリルドルフさん達の方がどうなっているかも気になります」

「……そうだね。一回頭切り替えとこうか」

「だね。マルゼーン、そっち終わったー?」

 

 ミスターシービーの了承を受け、打倒先輩が向こうに声をかける。視線を向けると、それぞれに袋を一つレジの店員さんから受け取っているのが見える。

 そこで丁度マルゼンスキーが声に気付いて振り向いた。

 

「ええ、こっちはもう全員分購入したわよ。そっちは……まだまだかかりそうね」

「いえ、此方もそろそろ終了にする予定でした。まだレジにはもっていっていないので時間が欲しいのですが……」

「スタートワンのは結局何も出なかったのか」

「出なかったみたいですね」

「…無かった」

 

 少し離れた場所でカツラギエースとクラスメイト、ハッピーミークが話し合うのが聞こえる。以前の勝負服の際のアイデアを貰った二人がいる事もあり、なんとなく結果が見えていたのだろう。それなら態々私に時間を割く必要は無かったのでは……?

 

「選んでくれる事は有難いが……難儀なものだな」

「……仕方ありません」

 

 思わず浮かぶ疑問に眉を一層顰めていると、シンボリルドルフが隣まで移動してくる。遠巻きにせよ私の水着で遅れているのは見えていただろうし、状況は察していたのだろう。

 

「それで、どうするんだ? もう一度探してみるか?」

「いえ、主目的だったと言えここに留まり過ぎても仕方ないですから、まずは全員購入をして……」

「……何してんだお前ら?」

 

 無限に軌道が逸れ続ける予定を何とか修正していると、店の外からここ暫くで聞き馴染みの出来た声が聞こえてくる。合わせてそこへ目を向けると、ジュニア級で切磋琢磨中の三人が此方を見ながら怪訝そうな視線を向けている。私服姿な所を見るに外出のようだが……。

 

「シリウスシンボリさん達こそ、どうしてここに?」

「今日はトレーナーさん達が会議に出席中だから、休みになってるんです!」

「先輩も外出だし、私達も外に出てみようって話になって…」

 

 ビターグラッセとリトルココンが変わって説明してくれる。昨年の私とハッピーミークもマルゼンスキーとミスターシービーが合宿に行っていたから、暫くは二人で練習していたのを思い出す。彼女達も暫くは学園で三人一緒に練習する予定だから、その前にジュニア級の皆だけで交流、といった感じらしい。

 

 誰かと居る時だけ関わるような小さな関係で終わらないのは良い事だ。これから幾度も戦う事になるかも知れないのだから、下手に相手を知らずいがみ合われるよりも良い。

 まあ、それで私達と会ってしまっては少し意味が無いような気もするが、互いに想定外の事なので仕方ないか。

 

 取り敢えず此方も此方で状況説明しておこう。

 

「今度の合宿に向けてちょっとした息抜きです。ついでに新しい水着を見に来たのですが……」

「スタートワンだけはまだ決まってないんだよね」

「ほーん?」

「恥ずかしながら、皆さんのお手を煩わせてしまいまして。今度自分で何か見繕ってこようかと思っています」

 

 ここで更に時間を持っていかれても仕方ないので、その場凌ぎ(兼本音)で周りを軽く牽制しておく。私一人に費やす時間がこれ以上あっても本当に意味は無いし、それで今日の予定を使い切ってしまうのも忍びない。合宿の開始日はもう少し後なので、その間のどこかでまた店を覗きに行けばいい。

 

 という訳でさっさと店から出てしまうように促そうとしたところで。

 

「……ちょっと待て」

 

 そこでシリウスシンボリが言葉を止める。彼女は全員に一度視線を向けた後私に目を戻し、少しの間無言のまま此方を眺める。

 それから店内に踏み込むと、私達を放置して物色を始めた。

 

「何をしているんですか?」

「見て分かるだろ。水着を選んでんだよ」

 

 何故選びはじめたのかという意味の質問なのだが……。

 皆も突然の行動に困惑する中、シリウスシンボリは手際よく飾られた品を確認していき、数分と立たず一着の水着を手に集合している所に戻ってくる。

 

「着てみろ」

「……いえ、その」

「なんだ、不満か?」

「そうでは無いんですが……」

 

 渡されたデザインは所謂パンツスタイルの水着だ。上はビキニなので、思いつくのはアグネスタキオンの二着目の勝負服に近い。

 

 急に参加しだした事への疑問はもういいとして、黒に緑のラインが入ったそのデザインは、確かハッピーミークが持ってきたものの色違いだ。言っては悪いが、同じものを持ってこられても困る。どう説明しようか迷い、視線を逸らした先にいたそのハッピーミークと目が合ってしまう。彼女も同じ事を考えているようで、眉が少し下がっていた。

 

「着ないつもりか?」

「……分かりました。少し待っていただけますか?」

 

 断るのも躊躇われ、そのまま水着を受け取って皆に一言入れ試着室に引き返す。途中ハッピーミークが近付いてきて、こそりと耳打ちされた。

 

「…着るの?」

「着ないわけにもいきません」

「…大丈夫?」

「これが最後ですから」

 

 今事情を知ったにも関わらず折角選んでくれたものを無碍にも出来ない。

 正直ここまでの反応と差は殆どないだろう。そうは思いながら再度服を脱ぎ、水着を着直す。水着を開いたところで、床へと何かが擦り抜けた。

 

「……え、これを?」

 

 

 

 かしゃりとカーテンを開き、水着姿を見てもらう。

 

「これで良いでしょうか?」

「……ああ、どうだお前ら?」

 

 少しの間視線を上下させ、うむと頷いた後。何故かシリウスシンボリが自慢げに皆へ私を見せびらかす。

 そんな皆の反応は……。

 

「……悪くないんじゃない?」

「うん。普通に似合うと思うよ」

「なんでだろ。しっくりくるね」

「…不思議」

 

 特に不評という感じはない。…………思った以上に、好感触? それどころか一度は同じデザインを見ているミスターシービー達まで手の平を返したように反応がよくなっている。

 違いなんて大したものではないのに。

 

「……本当に、効果あるんですね」

「だろう? 私がやればこんなモンさ」

 

 シリウスシンボリの返答を聞きながら、首に伸びた爪の先がかちりとソレをひっかく。

 

 先のものとの違いは二つ。

 一つは水着の色を緑のラインに変更。

 もう一つは。

 

「チョーカーくらいで変わるものなんですね……」

 

 水場でも使える、金属製のチョーカー。シリウスシンボリが持ってきたのは細かなタイルによる帯状のもので、勝負服で付けている革製のものと同じくらいの厚さだった。つけていて個人的に違和感も少ない。

 先に試したものとの違いは本当にそのくらいで、だというのに周りの雰囲気はこれに決まったという感じがある。

 

「これなら問題ないだろう?」

「…まあ、そうですね。取り敢えずこれを購入しましょうか」

「そうか。今度困ったときは私に言えばいい、幾らでも手を貸してやろう」

「……。時と場合によっては検討しましょう」

 

 彼女に何度も頼る事はしたくないが、私一人でここに居るわけではないので下手に時間を使わせないためにも今回は仕方ない。個人的にはパーカーなどの上に羽織るものも買っておきたい所だが、それは今度個人的に探してこよう。今発言するとそれを探すのに更なる時間を使わされそうだ。

 

 玉虫色になるよう意識して返事をすると、シリウスシンボリはいかにもにやりと笑みを浮かべた。まるで勝ち誇ったような顔に一瞬頬がひくりと……なんで私の腰に手を回してくるんだ。

 

「まあ、今はその返答で良い。楽しみにしてるぞ」

 

 そう言ってちらとシンボリルドルフの方へ視線を向けるシリウスシンボリ。視線を向けられた件の相手は表情こそ変えていないが……あー、うん、目が笑っていない。

 

「…そうだな、今回は私も水着を選ばれる側で参加は出来なかったが、今度は私とも買いに行かないか? 別の店でより似合うものを探すのも悪くないと思うよ」

 

 そう言って私に近付き手を取ろうとしたシンボリルドルフを、更に自分に引き寄せて牽制するシリウスシンボリ。腰に当たる彼女の手が暖かい。

 

「それなら私も参加させてもらおうか。ここじゃこれくらいしか見繕えなかったが、もっといい場所を知ってる」

「悪いが、合宿中に行こうと思っているんだ。どうせなら夏の間に幾つか用意する方が良いだろう?」

「計画が組まれてねえだけでジュニア級の生徒が合宿所に行く事自体は禁止されていねえ筈だ。別に何時でもそっちに参加していいんだぜ?」

「悪いが生徒会の委員として生徒の勝手な行動を見過ごすわけには行かない。特にクラシック期の大事な合宿を邪魔させるわけにはな」

「だったら自分だけしっかり特訓しておけばいいだろ、次期生徒会長サマよ」

 

 …急に水着を探し始めた理由が分かった。これ私を使ってシンボリルドルフにマウントを取りたかっただけだ。状況を見て間違いなく食いついてくると考えたんだろうな。

 人を間に挟んで火花でも発生させようかと言うレベルの舌戦を繰り広げる二人。周りの反応は微笑ましいものを見る目と止めた方が良いんじゃないかと若干焦る表情の二種類だ。まあ後者はジュニア級の二人だけだが。

 

 それにしても、楽しそうだなシリウスシンボリ。ここまで過剰反応すると思っていなかったのだろう。正直こっちもびっくりするくらいの反応だ。どれだけ嫌だったんだろう。

 

 私をダシにケンカする (じゃれあう)のは止めて欲しいのだけど………。少し灸を据えておこうか。

 

「…楽しそうですね、お二人とも?」

「「ん?」」

「まあ、これどうぞ」

「「――つめたッ!?」」

 

 二人の手を取り、袖に手を突っ込んで捩じるように内側へ手を這わせる。両者の肘先まで触れたところでどちらからも思い切り手を引いて離された。

 

「やけに冷たいとは思ってたがどんだけ冷えてんだお前っ!?」

「こ、氷で刺されたかと思った……!」

「この恰好どう考えても冷えますよね」

「にしてもだ!?」

「スタートワン、何時から冷えていたんだ……?」

「さっきの服着られたの五分くらいですからね」

 

 何度も着替えを繰り返して温まる時間なんて殆ど無かったからな。外は暖かいがここは店内。冷房で火力もマシマシだ。

 

「そ、そんな寒かった?」

「芯まで真っ青ですよ」

「……そのチョーカーさっきまで銀色じゃなかった?」

「あなんか白い! 霜張ってないそれ!?」

「さっきより顔白くなってるよね!?」

「震えてないの瘦せ我慢じゃねーか! 寒いなら寒いって言えよ!」

 

 なんならもう指先の感覚も薄っすら無くなってきている。シンボリルドルフはよく我慢出来ていたなあ……。私限界。

 

「とりあえず、これを買うので待っててもらえますか? さっさと着替えたいので」

「早く着替えな!」

「わ、私達は待っているから。早く着替えるといい」

 

 了承を得ながらカーテンを閉める。あー、指先がちょっと震えてきた。頑張れ私、夏前に凍死とか最早ちょっとしたギャグだぞ。

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