G1目指して頑張ります   作:あかし/さんさい

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58 浜を二人

 浜辺に正座する私の前に、クラスメイトが立つ。その更に後ろにはミスターシービーが立ち、周りをシンボリルドルフ達が並ばされている。

 

「被告人スタートワン、申し開きはありますか」

 

 いかにも堅苦しい言い方で私にそう問うクラスメイトに、取り敢えず返した。

 

「……まあ、折角買ったものですし。着るか否かは個人の意思ですよね」

「との事ですさいばんちょー」

「んー、これは有罪だね」

 

 うーん、理不尽だ。

 

 

 折角の合宿二日目。シニア級の生徒も合流し、来るまでにかかる時間やトレーニングの時間の調整を考え自由な時間となっているこの日は、多くの生徒が海水浴を楽しんでいる。

 

 で、当然私達もその自由を謳歌しよう……という予定だったのだけど。

 

「良いじゃないですか、前より調子も戻っていますし、ね?」

「とは言うけど、治ったわけじゃないもんね?」

「それはまあ、そうなんですが」

「一応聞いておくが、無理をするつもりは無いのだろう?」

「それは勿論。このくらいなら気にしなくてもいいくらいです」

「ほんとにそうなの?」

 

 信じられていないなあ。まあやりすぎれば体調不良にはなるだろうけど、今回はそこまででも無いはずだ。元の世界よろしく直射日光が凄まじい砂浜に正座は少しきついが、どちらかというと良い感じに暖かくて特に我慢しているつもりはない。

 とはいえ、周囲を囲まれているような状態で一人座らされている絵面は最悪なのではないだろうか。周りの視線が気になるし、実際水着に着替えてきた子達の表情は困惑に包まれている。

 全員水着姿でやっているせいで余計にシュールさも出ているのだけど、残念ながらそのあたりの事を考えているのはこの中では私だけの様だった。

 

 なぜこんな状況になっているのかと言えば、理由は特に難しくない。皆が水着に着替えてきたので一人で着替えて戻ってきたら正座で説教されているだけだ。

 ……ん? 思ったよりややこしくて難しいな。つまり私が風邪気味だというのに海に入ろうとしているので、それを止めようとしているという感じなのだろう。

 

 ……ん? それだと私が悪い感じになるな?

 

「買い物を提案したのはアタシだけどさ、流石にそれが原因で体調崩されたら申し訳ないよ。責任だって取れないし」

「なら私が好きで行った事ですから気にしなくていいと思いますが。これで体調が悪化しても私の責任ですし、この程度で悪くなるようなら着てきません」

「とは言うがなスタートワン。幾らなんでも許容出来るハンイってもんがあるだろ。そりゃ自由時間だし楽しみたいのは分かるが、海ン中入らせるってなるとあたしも止めたくなるぞ?」

 

 説得したくなるのも分からなくない。が、こちらとしても良化も悪化もしない現状で、だからといって静養を続けろと言われれば首を縦に振れなくなる。

 『ROAD TO THE TOP』のように初日から特訓という選択肢も無くはないが、それをするとトレーナーが難色を示すので実行しにくいし、今後の予定も元々運動は控える方向になっている。

 

 祭りの予定も夏の終わり、その頃には合宿も大詰めなので遊ぶも何もあったものでは無い。何人かとならまだ可能性もあるが、全員揃ってともなれば難しくもなる。事実として、合宿中私が羽目を外して皆と遊べるのは今日が最初で最後になるのだ。

 

「言わんとする事は分かりますが……私だって、ちょっとくらい羽目を外したかったんです。楽しそうに遊ぶところを一人部屋の中からなんて、つまらないじゃないですか」

「それは…確かに、そうだとは思うが」

「シンボリルドルフさんとだって、一緒に遊びたかったですし」

「うぐっ」

「ミスターシービーさんが提案してくれなければ、水着を選ぶ事も無かったですし」

「うーん」

「変に気を遣われるくらいなら、風邪でも引いてすっきりしてしまう方が楽でしょうし」

「それはダメじゃない?」

「……下手にぶり返すより手っ取り早いです」

 

 周りに感染(うつ)さないように注意はするつもりだが、そもそもとして完全に風邪かどうかすら分からない状態だから、問題は無い筈なんだけどなあ。パーカーも用意したし、マスクもちゃんと外してないし。

 どうにかあと一押ししておきたいものの、その一押しが思いつかない。これじゃあ折角着てきたのにまた制服に逆戻りだ。

 

 なんとか言いくるめてしまいたいところなのだけど……っと?

 

「いいじゃねえか、今回は俺も許可する」

「トレーナーさん?」

「いや、でも」

「別にこのくらいで目くじら立てたりゃしねえよ。分かってんだろ? 下手に我慢させようとすれば意固地になるぞコイツは」

「そうですよ皆さん、私は我慢弱い方なんですから」

「滅茶苦茶言うね」

「斬新な脅迫か?」

 

 助け舟を出しながら私の頭をぐりぐりと撫でるトレーナー。後ろに立っているらしく顔は見えないが、周りの皆が顔を見合わせながら仕方ないという様子で苦笑いする所から見るに、彼に言われた以上は断りにくい、という空気が出来始めている事が分かった。

 なんだかよく分からないが、ナイス助言。

 

「まあ、こっちからすりゃ一応は合宿って名目の休暇みてえなモンだからな。お前らにゃ悪いが、コイツの我儘に付き合ってやってくれ」

「……そこまで言われたら」

「まあ、仕方ないね」

「いいスワちゃん。そのままで良いけど、上着はちゃんと羽織って、海に入って良いのは足首まで! 分かった?」

「いやまあ、分かりましたけど」

 

 過保護過ぎるだろう。私の母親気分なのか?

 とりあえず許可は下りた。これで私は大手を振って皆と海水浴が出来るという訳だ。制限はかかっているが。

 

 

 

 きゃいきゃいと水辺で戯れているクラスメイト達を眺めながら、砂の上に敷いたシートとパラソルの間で水筒の白湯(トレーナーに渡された。熱くて飲みにくい)を煽る。

 クラスメイトとハッピーミーク、それから打倒先輩とカツラギエースは水しぶきを上げながらビーチボールでラリーを行い、ミスターシービー、マルゼンスキーともう一人の先輩は私の座るシートの隣に用意した別のシートに座り色々と話したり海の家(出店みたいな感じで学園に許可を貰っているそうだ)で買った料理を食べたりしている。時々それぞれのメンバーが入れ替わったり、或いはトレーナー達がやってきては楽しそうに談笑したり、なんというか、これから合宿が始まるという事さえ忘れてしまえばちょっとした旅行気分だ。

 

 無味無臭の中身をちびちびと飲みながらその様子を眺めつづけていると、近くの生徒達に生徒会としてはしゃぎ過ぎないよう指導をしていたシンボリルドルフが隣へ座る。視線を向ければ、どうやらさっきまで話していた生徒からもらったらしいイカ焼きの串が二本。

 

「楽しんでいるかい?」

「勿論ですよ。シンボリルドルフさんはどうですか?」

「ああ、こうしてゆっくりするのも悪くない」

「そのイカ焼きもですか」

「そうだね。食べるなら構わないよ」

「折角の頂きものですからご自分で食べてください」

「こちらとしては二つあるから構わないのだけど……そうだね、トレーナー君と分ける事にしよう」

 

 そう言って一緒に貰っていたらしい使い捨てタッパーに一本を入れ、もう一本を食べ始める。にこにこと楽しそうに笑みを浮かべながらもくもくとイカを頬張る彼女は、ビキニにパレオと実に大人っぽくも幼さが見えて可愛らしい。つば広の白い麦わら帽子から伸びる耳が先ほどから忙しなく揺れている。

 

 私も服装的には大人っぽいアグネスタキオンに近い水着の筈なのだけど……主観には似合っている一方背伸びしているようにも見える。身長だろうか。……色気という奴が足りないのか。

 自分とシンボリルドルフの違いに少し眉を顰めていると、羽織っていたパーカーが深くかけ直される。

 

「上着はしっかり着た方が良いと思うよ」

「ありがとうございます。ですが流石にこの状況だと着るに着られないので。これじゃあむしろ暑くなります」

「君のトレーナーが許可したといえ、心配もあるんだろう。そのくらいは仕方ないさ」

「それはまあ…でもこれ見てくださいよ。湯気ですよこれ」

「……それは無理して飲まなくてもいいんじゃないかな」

 

 尚更熱中症になりそうだし、お墨付きという事でもう飲むのは止めておこう。蓋を閉めて横に置いておく。

 

 生徒達の声を聞きながら、二人でのんびりと浜を眺める。目の前を生徒が何人かはしゃぎながら走っていった。海の家からだろうソースや肉の焼ける香りが漂ってきた。

 

 

 そんな風に暫く観光気分でいた後。

 

「……夏ですねえ」

「夏だな」

「楽しそうですね」

「楽しそうだな」

「……シンボリルドルフさんは行かないんですか」

「何にだい?」

「ビーチバレーでもお喋りでも、皆さんと一緒に遊べる時なんですから」

「そうだな、それも楽しそうだ」

 

 そうは言うものの、動きを見せない隣をちらと見る。目が合った。

 シンボリルドルフは膝を抱える体勢で、何処か嬉しそうに笑みを浮かべながら此方へ顔を向けている。

 

「水場に行くのは止められているが」

「はい?」

「皆と一緒に遊ぶ事自体を止められたわけではない。スタートワン、君も一緒に遊んで構わないんだよ?」

「それは…まあ、そうですね」

「海に入る事も、深い場所に行くのは止められていると言え禁止はされていない。入ってもいいんじゃないか?」

「それも、確かにですが」

 

 ふむ? さっきは彼女も私を止める側だったが、一応問題ないと分かったからちょっとしたお誘いといった所だろうか。そういえば裁判中も彼女は殆ど会話に入らなかったから、案外最初から止める気は大して無かったのかも知れない。

 

 ……折角のお誘いなら、少しくらいついていった方が良いかな。

 

「でしたら、少し散歩でもしてみましょう。水に入るかは、まあその時という事で」

「うん。一緒に行こうか」

 

 二つ返事のシンボリルドルフ。やっぱり一緒に遊びたかったみたいだ。

 

 というわけで、暫く一緒に浜を歩く事にする。時間はまだ午後に入って少しという所。西日になるにはまだ明るい所だが、多少時間を潰すには丁度いい。

 隣り合って歩く彼女をまた横目に見る。ただ私と歩いているだけだというのに、その顔はやはりにこにこと楽しそうだ。

 

 波に足を取られたり、他の子と軽く写真を撮ったり。している事は本当にちょっとした散歩と同じ。目的も無ければ終わり時も決めていない。ふらふらとした足取りで、ただ浜を巡っている。

 ……私と歩くだけ…が、楽しいのかな。その程度の事なら誰とでも出来るのに。

 

 

 視線を向けると、シンボリルドルフとまた目が合う。一瞬だけ目を丸くして、それからふわりと口が弧を描く。

 

「楽しいな、スタートワン」

「……楽しいですか?」

「ああ、とても」

 

 

 白い砂浜に、光と共に揺れる水面。人が離れたわけではないのだが、周りの声は少し遠くに、波の音が近くにある。どことない静けさがあった。

 サンダルの跡を付けながら隣を歩くシンボリルドルフ。着こなす水着の大人びた様からは少し外れた。けれど年相応に、とても美しいその表情が目を眩ませる。視線を逸らすと、くすくすと笑う声が隣から聞こえる。

 

「九夏三伏……にはまだまだこれからだが。思いの外涼しいものだ」

「海風、ですかね。夏の海としては良い天気です」

「ああ、これからの合宿が楽しみになるよ」

 

 この世界も温暖化の影響が薄らと出ており、近年の夏は非常に暑い。当然天候も荒れやすい傾向にあるものだが、今回の合宿はこの様子なら恙なく進行しそうな雰囲気があった。今後の順調さを暗示しているとさえ思える程に晴れやかだ。生憎今の私にその温度差は上手く分からないのだけど。

 と、そこでぼそりと「まあ」と呟く声。

 

「君があまり参加しないというのは残念だが」

「トレーナーさんを上手く説得してくださいね」

「……君から言うつもりは無いんだね」

「あの人が決めた以上、反するつもりは無いので」

 

 ここは契約を結んだ時から変わっていない。出走方針は基本私が主導している分、それ以外の点は一任というのが現在の主な流れだ。仔細はともかく、彼の決めた事に異を唱える気は無い。シンボリルドルフとしては積極的に参加して欲しいのだろうが、かといって私が練習に立て続けに参加しては調整の件に力を入れにくくなる。申し訳ない所だが、ここは我慢してもらわなければいけない。

 

「君としても困る所だというのは分かるさ。しかし、折角の夏だ。普段とは違う環境での練習だからこそ、新鮮なものだと思うのだがね」

「以前も言いましたが、二ヶ月もある上に絶対しないという訳では無いですから、時々誘ってくれれば大丈夫ですよ」

「もっと声をかける事にしようか」

「彼も忙しい身ですし、お手柔らかにしてあげてくださいね」

 

 互いのトレーナーが同期というのもあるから、普段の仕事についても話は聞いているだろう。どちらも新人から一年経過程度な分仕事に不慣れな所があってもおかしくない。無理させないくらいで抑えて欲しい所だ。

 

「折角の合宿に君を独り占めしようというんだ。少しくらい不満を言いたくなるさ」

「他の皆さんとは時間も多いですから、気にしなくても」

「確かにそうだが、それは君が居るという訳ではない。私は君とが良いんだ」

 

 驚くほどはっきりと。断言された。

 

「……そんなに、ですか?」

「決まっているだろう?」

「……何で」

「友人と一緒に何かをしたいと思う事に、それ以上理由はいるかな?」

 

 微笑むシンボリルドルフの、いかにも不思議そうな問いかけ。言葉は、返せない。

 一際に大きな波の音が響いた。

 

 

 なんで。

 なんで、そんなに楽しそうなんだろう。分からない。

 

 遊ぶだけなら、私と一緒にいなくても他に候補なんて幾らでも居るというのに。練習だって禁止されているわけでは無いのだから、ちょっと発破をかければミスターシービーなり誰かしらが反応してくれる。

 

 ……なんで、私なんだろう。一番一緒に居る事が非効率な私なんだろう。

 確かに学園に来て最初に関係を深めたのは私だろう。それはただそれだけ、それ以上の理由は無い。ミスターシービーやシリウスシンボリ達が学園に集まり交友が出来るまでの数合わせでしかないのに。

 

 そうまでしてつき合わせようとしなくてもいいのに。

 

 

 

「スタートワン、寒いのか?」

「え…、あ、えと」

 

 自分の手がパーカーに伸びているのを少し遅れて気付く。身体の芯から震えがあり、酷く寒さを感じているのを自覚する。

 

「すみません。やっぱり、まだ風邪っぽいみたいです」

「…みたい、だね。すまない。連れ出したのは私だ、戻ろう」

「気にしないでください、見誤ったのは、私です」

 

 足の動きがぎこちないのを何とか抑え込みつつ、シンボリルドルフに肩を支えられながら道を戻る。かじかんだ指先に、日差しの熱が痛む。

 パラソルの元まで来た頃には、震えも少し収まってきた。

 

「さ、座るといい」

「ありがとうございます…」

 

 誘導されて座ると共に置いていた水筒の白湯を飲む。さっきまでは飲みにくいだけだった筈の熱湯が、今は冷えた体を温めるのに丁度良い。

 吐いた息が白くなって消えていく。

 

「落ち着いてきたようだね」

「ええ、取り敢えず今は大丈夫そうです」

「そうか。……先と言うことを変えてしまうが」

「…はい」

「君のトレーナーの言う通り、練習は控えた方が良いのかもしれないな」

「……そう、ですね」

 

 上手なフォローが言えたなら、もう少し彼女の気持ちも晴らせたのだろうが。自分の状態が原因の所為で言葉は浮かばない。

 

 皆が遊び終わるまで、二人で浜辺を眺めていた。




合宿開始からこんな感じのスローペースです。まあいつも通りなのでのんびり見ていってください。
感想とここすきが欲しい。しかし高評価も欲しい。
なので沢山ください! 山程ください! 息子がきとくなんです!(てきとう)
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