前を行く彼女が少しだけ速度を落としたのを確認し、ゴール板を駆け抜けると共に私も速度を落とす。聞こえてくる実況からして互いの最終的な距離は3バ身半だったようだ。三着の子は更に2バ身後ろで、そこから大体アタマ差ハナ差くらいでゴールしたらしい。
せめて接戦を演じたかったのだけど……負けた、か。
シンボリルドルフの手前で止まり、彼女の顔を見ようと顔を上げる。
「お疲れ様スタートワン。君の走りも……!? 大丈夫か!?」
「だっ……、ひゅっ、かふっ…。おめ…っ、シン……っ、おえっ、かひゅっ…」
が、ゆるゆるとその場で崩れ落ちる。握手ついでに賛辞を言いたいのだが、呂律が回らない。胸をぐっと抑え、じわりと広がる痛みに耐える。全身が火照りで疼き、過敏になった皮膚が痺れる様に突き刺さしてくる。
視界が黒や紫に明滅し、口の中が吐き気や血の味で気持ちが悪い。思わず口を手で覆う。呼吸が上手く出来ず、目の周りが冷たい事から涙が出てきたのがわかる。
流石に、ちょっと無茶し過ぎたらしい。喉が辛くて咳こみたいが、そもそも息を吸えずただ苦しい。誰かに触られている感覚から、心配したシンボリルドルフが肩を支えてくれている事が分かった。
「無茶をし過ぎだ! さ、手を貸してくれ、保健室に……!」
「…………っ、……!」
そう言って私を支えながら助けようとする彼女の手首を、ぐっと握る。真面に働いていない視界に彼女をなんとか収め、じっとその眼を見つめる。
「…………」
口はまだちゃんと動かないが、私の行動だけで何を伝えたいか察してくれたようだった。それを肯定するように小さく頷く。
私のこれはどうしようのないものだ。時間があれば勝手に戻る。だからあなたは、自分のする事を忘れるな。
「……ああ、わかった。ありがとう」
手を放すとシンボリルドルフは私の前から観客、もといトレーナー達の居る方へ向かう。これから彼女には未来の相棒を決める大事な時間がある。それを邪魔しては駄目だ。
遠く聞こえるシンボリルドルフの声に耳を傾けながら息を整えている間に、緊急時の為の医療班が来てしまったが、しばらくすれば回復するとなんとか伝えると問題なし受け取ってくれて去っていった。念の為と酸素缶を渡され、更に後で保健室に行くように言われてしまったが。
「スタートワンちゃん、大丈夫? 保健室まで行くの手伝うよ?」
「だい……げほっ、じょうぶ…、です。……この、まま…ごほっ、ごふっ。しばらくっ…、動かず、いれば……」
「ほ、ほんとうに…?」
「ええ…。なので、ほら…っ。ん、んんっ…。スカウト、まって、ますよ……。待たせちゃ…、だめ、です…から…」
同じように心配した子達をスカウトに来たトレーナーの方へ促しながら、ようやく落ち着いてきた痛みに胸から手を放し、顔を上げる。視界の揺らぎがまだあるものの、もう少し待てば立ち上がるのも問題ないだろう。
ぼんやりした頭で周囲を眺めると、どうやら何人かはスカウトを受ける事に成功しているようだった。スタート直前私に発破をかけてきたあの子もどうやら掲示板内に入れたらしく、数人のトレーナーに声をかけられていた。勝つ事こそ出来なかったが、スカウトをもらうという目的は大成功だ。
一方、シンボリルドルフの方はいかにも敬遠されているような雰囲気が漂っている。あの圧勝を前に殆どの人が尻込みしているようだ。これでも完全勝利の印象がつかないよう走ったつもりなのだが、目論見は完全に失敗した。あの様子だと、アプリと同じストーリーをなぞっていく形になりそうだな。
「私、の、方にも、けほっ…。来ない、みたい、だけど……」
彼女の様子を確認している暇があるなら、自分の現状を気にした方がいいかもしれない。そう思いつつ、私を遠巻きに見つめるトレーナー達に視線を送る。
「あのレースの中、唯一シンボリルドルフに迫ったスタートワン……。能力は上位に入るが、シンボリルドルフに勝つにはまだ、という感じがするな」
「G1でも十分に戦えそうだが、時代が悪いとしか言いようがない。それに走り終えた直後に崩れ落ちるあの様子…。スプリントやマイルの方が有望そうだ」
「ひとまず彼女の調子が戻るのを待って、改めてスカウトをかけてみた方がよさそうですね。今声をかけるのは身体に悪いでしょう。というか、せめて保健室に連れて行った方がいいんじゃないですかあれ」
「確かに気になるが……、本人がいいと言ったらしいから、あまり突っ込んでも意味はないだろう。何かあるとき以外はそのままにしておこう」
微妙にひっかかりのある評価をされているとは思うものの、一応此方の身を案じてくれているという事情もあるようだ。とはいっても、今日スカウトを受けるのは無理そうだな。まあ、スカウトはレース直後だけというわけではない。後日改めて声をかけてくれる人が居るというなら、その時を待てばいい。
しかし、そうなると今度は私がスカウトしてくれた中から誰かを選ばないといけない。その相手によってこの先の成績も上下するのだから、慎重に選ばないと。
………んー。どんな相手なら、私はスカウトを受け入れられるんだろう。
「……保健室、今のうち、いって…! う、ぅ…!?」
立ち上がってその場を去ろうとすると、視界が一瞬暗くなり頭が揺れる。しまっ…、まだ駄目だったか…!
倒れこまないよう足に力を込めようとして、不意に身体が安定する。また誰かに支えられたらしい。
シンボリルドルフが戻って来たのかと思ったが、目の前にいたのは彼女より大きな背をした、ワイシャツ姿の人物。視界がぼやけてわかりにくいが、男性、だろうか。
「おいおい、大丈夫か?」
「すみ、ません…。けほっ。ささえて、くれて、ありがと、ございま…んっ、げほっげほっ!」
「まて、あんま喋んな。顔真っ青じゃねえか、保健室行くぞ」
「あ…、は、ぃ…」
誰かに手を借りながら、コースを後にする。視界と呼吸が落ち着いてきた頃横を見ると、男性が私の手と肩を取りながら一緒に歩いていた。年齢は二…いや、三十代だろうか。顎髭のせいで年上に見えるのかとも思ったが、それだけでなく纏う雰囲気に落ち着きを感じる。
背丈は私よりかなり大きい。とはいっても精々180には届かないくらいだろう、私が小さいだけだ。体格は普通だが、手や軽く当たる身体の感触からすると、かなり鍛えているのかもしれない。
ふと、襟元にバッジがつけられているのが目に入った。トレーナーバッジ…ということは、彼もトレーナーのようだ。
「もうそろそろ保健室だ。まだ歩けるか?」
「はい、一応は」
保健室の扉を開き、男性が中に入れてくれる。中にいた先生に事情を説明すると、軽い検査をしてくれた。
「そうね。少し体力を使いすぎてるみたい。暫く休んだら体調は戻るはずだから、それまでここに居なさい」
「すみません、ありがとうございます」
「にしても、あんまり無茶したものね。まだ距離が短めの二千メートルだったから融通が利いたけど、それ以上の距離で同じことをしてたら、レース途中で倒れてもおかしくなかったんじゃないかしら」
「それは、その。ちょっと勝ちに行きたくて……」
そんな話をしながらベッドに横になる。呼吸は既に落ち着いてはいたのだが、ちゃんと問題ないと判断してもらえるまでは寝ていろと言われてしまった。
一息ついたところで、ついてきてくれた男性がじゃあ、と口を開く。私の検査中も一緒にいて、静かに様子を見守っていたのだけど、そろそろ戻るつもりらしい。
「俺はここで戻るんで」
「ええ、あなたもここまで連れてきてくれてありがとう」
「ありがとうございますトレーナーさん。助かりました」
「ああ。今度は無茶せず、ちゃんと息入れて走れよ」
「あの、トレーナーさんの名前は?」
去っていこうとする彼に名前を尋ねる。初対面の相手といえ、手を貸してくれたのだから後日改めて礼を言いたい。
「あー……また今度な。色目ついちまうと面白くないし、スカウトする時にでも名乗るわ」
「え、いやでも…」
「んじゃあなー」
そういってガラガラと扉を閉められてしまう。……行ってしまった。顔は覚えているので探すことは出来るはずだが、果たして彼から会いに来るまでに見つかるかどうか。というより、なんだあの気障っぽい発言。かっこいいつもりなのだろうか。
半ば唖然とした状態でいると、保健室の先生がくすくすと笑う。
「あらあら。面白い人に助けてもらったのね。次はいつ会えるのかしら」
「……私にもわかりそうにないですね。あれじゃあ」
「まあ、トレーナーからすればあなたもきっと良い逸材なのでしょうから、その内また会ってくれるわよ。それより、ちゃんと寝ていなさい」
「う……。はい」
軽く起き上がっていた所を咎められ、ベッドの回りのカーテンが閉められる。仕方ないので潔くまたベッドに転がった。
横になってすぐ、瞼が重くなってきた。……困ったな。まさか眠くなってきたなんて。体力、使いすぎてたの、わかってたんだけど。
「……んん~」
身体がごわごわする。インナーとジャージで違和感があって、なんだか眠りにくい。
……。脱ぐか。
ジャージの上を脱ぎ、インナーも脱いでしまう。スポーツ用の下着は来ているので、一応裸ではない。カーテンで視線は遮られているから、ひとまず、起きたらもう一度着直せばいい。
だから……、ちょっとの、間、だけ……。
「スタートワンさん、そろそろ起きて」
「……ん、ん……。」
「もう下校時刻も過ぎてるわ。あなた一人暮らしなのだから、このままだと夜中に帰る事になるわよ」
「…あ、はい。そうでした…」
先生に起こされ、ぼんやりしていた頭が戻ってくる。って、しまった。思ってた以上に寝過ごしたかも。
ゆっくり起き上がると、目の前に先生が居た。部屋は明かりが点いているが、よく見ると窓のある方が暗い。既に日は暮れているようだ。
「休めとは言ったけれど、休み過ぎよ」
「んー、すみません。思ったより疲れてたみたいで」
「まあ、それでここに来たんだものね。……とりあえず、早く服着直して、帰りなさいよ?」
先生は、私を起こすとカーテンの外に出る。そこで自分が下着姿な事に気付いた。一瞬心臓が跳ねたが、相手は学園の保健医。私の情報も一通り知っているのか、或いは調べたのか。何も言わず服を着る事を促したのは、事情を知っていたからだろう。
その心遣いに感謝しつつ、インナーとジャージを着てカーテンを開く。
「利用させていただき、ありがとうございました。それでは、私はもう帰ります」
「ええ。こういう言い方はどうかと思うけど、何時でも待ってるわ」
苦笑いの先生に此方も苦笑いを返した。
校舎を出て、外を目指して歩く。外灯や建物の明かりで視界は悪くないが、夜は夜。暗いものは暗い。
と、そこで腹の鳴る音が小さく響いた。思わず立ち止まる。
「さすがに、このまま帰るのはなあ……」
一人暮らしなので食事は自分で用意するのが基本だ。自炊にせよコンビニ弁当にせよ、ここから家に帰って食べるとなると、そのあとの就寝時間は遅くなるだろう。眠れるかどうかは別にして。
「今日は、食堂を借りようかな」
夜の食堂は込み入っている事が多いので席が空いていない可能性はある。でも取り敢えず軽く様子を見てみるだけ行ってみよう。
学園を移動し、食堂の入り口を軽く覗いてみる。人入りは……結構多い。相席なら出来なくもないけれど、カウンター席などはもう一杯だ。
やっぱりちょっと多いな。潔く家に戻ろうか……ん? あそこでご飯を食べている人……もしかして。
「……今日はこっちだな。うん」
食堂に入りご飯を注文。お盆に料理を乗せてもらって、人込みと机の間を移動する。
二人用の小さなテーブルに座っている、もくもくと箸を動かしていた人物の隣に立つと、こちらに気付いた彼が少しだけ目を動かした。
「相席、よろしいですか?」
「……なんでここに居んだ?」
「保健室で思ったより過ごしてしまったので、そのまま夜食を取ってから帰る予定にしました」
トレーナー用の食堂もあるにはあるものの、ウマ娘の利用する此方の食堂を利用するトレーナーは少なくない。単純に大きくて人が居ても席を取りやすいからというものあれば、担当ウマ娘との交流を大事にしたいという考えのもと利用する人もいる…というのが、学園案内や授業で軽く触れていた内容だ。昼夜問わず、トレーナーが居る事は珍しくない。
なので、私を保健室に送ってくれたトレーナーがここに居るのもおかしなことではないのだ。返事を待たず向かいの席に座った私に、トレーナーは何も言わず視線を向けるだけである。
「ちょうどよかったです。先ほどはお礼を言いそびれてしまったので」
「構わねえよ。というか、礼を言われるために手ェ貸したわけじゃねえからな」
「だとしてもです。では改めて、保健室までの道で手を貸してくださり、ありがとうございました。私のことは知っているようなので、自己紹介は省きましょうか」
「そうしてくれると助かるな。じゃあこっちも、見ての通りトレーナーだ。よろしく」
そういってまた食事を再開するトレーナー。本当にスカウト以外では名乗る気が無いようだ。何か言うべきかと思ったが、こちらもスカウトされているわけでは無いので会話を切り上げ、食事を始める。
暫くの間無言で食べ進めていると、ふと声がかかった。
「お前、そんだけで足りるのか?」
「はい? ……ああ、小食なんです、元々」
「ほんとに足りんのか? 俺と同じくらいの量だが」
「腹七分目くらいですかね」
お盆に乗っている料理を見て気になったのも無理はないと自分でも思う。既に半分がなくなっている彼のお盆に乗っていたであろう量と、私のお盆に乗っている量は殆ど変わらない。アニメのような天井目掛け高く乗せられたご飯も無く、人間らしい至って普通の料理だけなのだから。
「小食ねえ。痩せ我慢とかじゃ無いならいいが」
「痩せ我慢じゃないので心配いりませんよ。ウマ娘換算でなければ寧ろ、ちょっと大食いくらいのはずなんですけど」
「まあそうだが、明らかにウマ娘としちゃあ少ないしな」
「食事の度に心配されるので困るんですよね。私にとっては大盛りのご飯を乗せられる方が我慢して食べる事になるので」
「そりゃ大変なこって」
ウマ娘は子供から大人まで、本格化やらなにやらを除いても大抵は健啖家だ。オグリキャップやスペシャルウィークのような極端なところまではいかずとも、成人男性と同じかそれ以上は普通に食べる傾向にある。怪力韋駄天とだけあって、燃費が悪いのだろう。
ナリタタイシンや病弱故にあまり食べない子達のような、食の細いウマ娘の方が特殊なのは事実だが、その範囲の中で言っても、体躯が比較的普通な私がかなり摂取量の少ない方になるというのもまた事実だ。
更に言えばウマ娘は全体を通して食を楽しむものが多いのだが、どうやらこれは人間と比べると味蕾の総数が多い事に起因するらしい。草食動物の馬がそうであるようにウマ娘の味覚も相当に研ぎ澄まされているため、ファインモーションのラーメン好きをはじめ、腹を膨れさせるだけでなく食道楽に傾く者も多い。
食が細い人間の方が味を重視するのがよくある認識だと考えると、このあたりウマ娘の感性はやや逆転現象が起こっていて面白い。まあそれでも、一応私は彼女達程粗食とまではいかないはずなのだが。
「そんなんで、よくあのシンボリルドルフに切迫できたもんだな」
「偶然ですよ。正直あれだけ近づけたのが自分でも信じられないくらいです」
「事実は事実だ。誇っていいんじゃねーか?」
「並のレースなら単なる完敗ですよ? 何を誇ればいいんですか」
「随分とストイックな奴だな」
「ウマ娘なら変という事も無いでしょう」
私の目標はあくまで成績を残すことだ。そのために重要なのが勝つ事なので、掲示板に入れれば良しというわけではない。賞金を狙うのなら掲示板でもいいのだけど、それでも当然一着を取れば手に入る賞金も二着より多い。
総合して考えれば、勝利する以外のレースでのメリットは私に殆どない。単純に、勝利以外頓着出来るものが無いだけだ。
「……まあいい。それで? そんだけ勝ちに貪欲なら、今日だけでも引く手あまただったんじゃないのか?」
「それがあいにく。あなた以外は近付いてもくれませんでした。というか、その様子はあなたも見てましたよね」
「ああ。敬遠されてたシンボリルドルフの方が物理的距離は近かったな」
「……言ってくれますね」
さっきから初対面の相手とは思えないほど口が軽い。歯に衣着せぬが美徳となりうるか、それはその人次第だが、彼はオブラートを一枚用意する癖をつけた方がいいだろう。
じろりと目を向けると、彼は少しだけ視線を逸らして味噌汁を啜る。この程度で怒るのも下らないので諦めて此方も食事を再開。
周囲の声や食器の音だけが響く中、私はまたちらりとトレーナーを見た。彼はこちらの様子を一切気にせず、もくもくと食事を続けている。
……本当に、名乗る気も無ければスカウトをする気もないらしい。『スカウトする時にでも』という言い方からして勧誘の意志はあるようだが、それは今ではないのか。まあ、こちらとしてもこんな食事中にスカウトされると拍子抜けするのでありがたくはある。どうせ会って礼を言う事だけが目的だったので、その辺りの話はまた今度でも構わない。
そうして二人で食事を続け、彼側の器が全て空になり、私側の器が残り半分を切った頃。
「聞かないんだな」
「何をですか?」
「スカウトの話」
思わぬ言葉に一瞬箸が止まる。……彼から話題を振って来るのか。
「今じゃないんでしょう?」
「なら何でここまで来たんだよ」
「食事ついでに礼と名前を聞きに来ただけですので。あなたもスカウトをしたいわけじゃないのでしょう? わざわざ互いに余計な事をする気はありません」
「…肝が据わってるっつーかなんつーか…」
呆れたように眉を寄せるトレーナー。並みの学生より長生きしてきた経験というのはあるが、焦って契約を結んでも互いの利にならないというのもある。
「あなたが言い出したことですよ。それとも、今から私をスカウトしてくれるんですか?」
「それは……まあ、今する気は無えけど」
「じゃあ、それは今度話をしましょう。互いについて理解を深めれば、スカウトも成功しやすくなると思いますよ?」
「そう…だな。なら、明日にでも会う予定を作ってもらおうか」
「あら、手が早いんですね」
「人聞きの悪ぃ言い方をすんな。こっちは新人なんだぞ、多少は手ェ抜いてくれ……ん? もしかして俺今めちゃくちゃ手の平に乗せられてねえか?」
「気のせいじゃないですか? それで、明日の何時会うと?」
「あ? ああ、それじゃあ…」
明日の放課後に会う予定をスケジュールにメモしつつ、頭の片隅で別の事を考える。このトレーナー、まだ新人なのか。見た目はこの学園に来てそれなりの中堅って感じだけど、元は別の仕事をしていたとか、アニメのスピカトレーナーのような出戻り組なのだろうか。
専属にして新人のトレーナーからのスカウトか。まるで個別のストーリーみたいだな。
「わかりました。それでは、また明日という事で」
「ああ。なら、今度こそじゃあな」
「はい。今晩はさようなら、ですね」
お盆を片手に机を去ろうとする彼に手を振ると、彼は軽く手を振り返しながら食堂から出て行った。口調こそやや荒っぽいが、中身は結構真面そうだ。彼なら、トレーナーとしても問題ない、かもしれない。その辺りはこれからの関係によるところだが。
ともあれ、これで私のトレーナー候補が一人決定だ。この後次第ではあるが、誰も来なかった場合は自動的に彼がこのまま私のトレーナーになるとみていい。
なんにせよ、明日は契約目指して少し頑張らねば。