G1目指して頑張ります   作:あかし/さんさい

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四週年!
とは特に関係ないですが、合宿の朝です


59 大人数の朝

 まだ日が昇り切っていないのだろう、僅かな明かりが窓の外から覗いている。

 

 小さな寝息や寝言が聞こえる中、音を立てないように意識しながら身体を起こした。

 ゆっくりと支度をしながら、周りに起きてしまった子はいないかと聞き耳を立てる。

 

「おかわり~……」

「んなぁ…こっちもぉ~……」

「しーびー……しょうゆとって……」

「ん、おしお……」

 

 ……くいしんぼうだなあ……。寝ているのなら寝ているで良いのだけど。

 ジャージに着替え終えて、そのまま音を立てないように部屋の扉を開いた。

 

 

 

 目を覚ましてから凡そ一時間と少し。次に起きてきたのはカツラギエースだった。

 彼女はゆっくりと頭を上げると、窓際で本を読んでいた私に気付く。声の代わりに軽く手を振ると、相槌代わりに降り返された。静かに、けれど手早く準備と布団を畳み終えたところでそのまま私の隣に座る。

 

「おはようございますカツラギエースさん」

「おう、おはよう。しっかしホントに早いな、学園であたしより早起きな奴見た事ねえぞ」

「慣れていますから。カツラギエースさんもご実家の手伝いでこの時間に起きるようになっているんでしたよね」

「まあそりゃな。でもスタートワンほどじゃねえぞ。本読んでるっても、日も殆ど出てないし」

 

 その一言に合わせ、二人で軽く窓の外へ視線を向ける。確かにこの時間帯はまだ日もはっきり昇っていない。外からの光よりも点けていた常夜灯の方がまだ明るさを確保しているくらいだ。

 とはいえ、このくらいなら周りも見えなくもない。そのうちもっと明るくなるのだから私は特に気にならないかな。

 

「何も見えないわけじゃあないですから。良ければ読みますか?」

「それなんて本だ?」

「各レース場の地理情報です」

「……あたしが言うのも変だけどよ、こういう時は小説でも読んでた方が()()になってたんじゃねえのか?」

「カツラギエースさんのトレーナーさんが今度使うと仰っていたのでお借りしたものです。今の内に呼んでおくと分かりやすいかもしれませんよ?」

「……そん時に読むから今はいいわ」

 

 断られてしまった。遅かれ早かれだから先読みでもいいと思うんだけどなあ。

 

 

 そんな会話を皮切りに、皆それぞれの時間に起き始める。カツラギエースが朝の走り込みに出ていったタイミングでクラスメイトと打倒先輩が、少し遅れてもう一人の先輩とマルゼンスキーが起き出し、戻ってきたカツラギエースと入れ違いに四人が走りに出かけたところでハッピーミークが起床。雑談の後ハッピーミークが外へ出る準備を終えた頃にミスターシービーが目を覚ました。

 

「……ん、もう朝かあ」

「おそようさん。っつってもまだ朝食の時間でもないから早い方か」

「おはようございますミスターシービーさん。他の人は大体起きていますよ」

「あー、やっぱり? 周りでどたどた音がするからなんだろうと思った」

 

 するりと起き上がるミスターシービーがそのまま着替え始める。そんな彼女は足元を気にしてか少しぎこちない動きで服を脱いでいく。近くのジャージを朝練から戻ってきた(これまたハッピーミークと入れ違いになった)先輩に投げてもらいながら「いい加減起こした方が良いんじゃない?」などと笑う。

 

 原因はその足元に転がる……もとい、足元で眠っている人物。既に日も昇って室内も明るさが出てきた中、未だ深い夢から覚める様子の無い私のライバルさんだ。

 俯せになった彼女は何処となく明かりから逃げるように、枕を抱える事で顔を覆っている。耳を伏せているのも周りの音を少しでもシャットダウンしようとしているのだろう。

 

「前々から思ってたけど、ここまでルドルフが寝起きに弱いとはね」

「あたしみたいに慣れてるもんだと思ってたから、正直びっくりだな。なんかその気になればすっと起き出すイメージだったわ」

「初めて外泊に来た時は私も驚かされました。というよりシンボリルドルフさん、普段からどうやって起きてるのか分からないくらい眠りが深いんですよね」

 

 トレーナーとの契約以降は彼にアラームを任せていると語っていたが、そうなるとそれ以前の状態が気になってくる。寮での生活もそうだし、実家での生活もどうやって起きていたのだろう。シンボリ家が良家である事を考えれば召使いでも居そうなものだが……大変そうだなあ。

 

 そんな風に三人で囲んでいると、先輩二人も彼女の包囲に加わる。

 

「で、どうする? 朝練はいいとして、このままだと朝食もくいっぱぐれるでしょ」

「起こすのはいいけど、この子寝起きの機嫌わっるいのなんとかなんないかねえ。こっちもやり辛くて困るんだけど」

「私やんないよ、睨まれるのは勘弁」

「「「…………」」」

「……ええ、私がやりますよ」

「助かる」

「さんきゅ」

「やっぱスタートワンの方が適任だよね」

 

 分かった上でやってるなこの人達……。

 

 期待……というよりもお約束を眺めるような視線への返答を飲み込みつつ、窓際から立ち上がりシンボリルドルフの元へ移動する。

 周りの音もそこそこの筈なのに未だしっかりと目を閉じるその耳元を少しだけ触る。一瞬嫌がるように唸った所に更に触ると、伏せていた耳が逸れる動きに合わせ此方へ向く。

 さ、準備は出来た。口を近付け囁く。

 

「シンボリルドルフさん」

「…………」

「シンボリルドルフさん、起きてください」

「……ん、」

「そろそろ朝ごはんの時間ですよ。皆さん朝の走り込みはもう終わっています、少し目を開けてみませんか?」

「……あさ」

 

 ぼそりと呟いた彼女が、僅かにだが目を開く。眉を寄せて薄く開いた目は正に睨みつけるという形容が相応しい。その表情の鋭さと言えば、普段から顔を顰めている私よりも実に堂に入っているものだ。

 とはいえ思考が纏まっていないのだろう、睨む目は焦点が定まっていない。その間に言葉を続ける。

 

「今日の朝食の後は何をしますか? 練習? それとも座学? 休憩の時に海辺へ散歩をするのも良いですね。夜の練習ではこっそり私とだけ走りますか? 波の音を聞きながら走るのも乙と言うものです」

「……」

「それとも、今日はお休みをいただきますか? トレーナーさん達も時にはいいと仰ってくれるかもしれません。少し遠くとは聞きましたが、ショッピングが出来る場所もあるそうじゃないですか。そこへお買い物もきっと楽しいですよ」

「……。」

「さあ、シンボリルドルフさん。一度、起きてみませんか?」

 

 段々と目に光が宿ってきた所に最後の一言。

 それに合わせるようにして、シンボリルドルフが徐に起き上がる。

 

「……今日は」

「はい」

「少し、外へ出たい気分だ。トレーナー君に聞いてみようか。スタートワン、君の方はどうだい?」

「あの人が許可を出すのなら吝かではありません。さ、まずは服を着替えましょうか」

「そうだな。話をするにも、準備をしなくては」

「ならよし。はい、ジャージと普段着、どちらにしますか?」

「朝練はしなくてはな。ジャージを貰おう」

 

 うむ、今日の起床も問題無し、と。

 いそいそと彼女の着替えを手伝っていると、後ろで一連を見ていたミスターシービーとカツラギエースがにやにやとした様子で此方を見てくる。

 触れないでいい事ではあったのだが、あの様子だと朝食くらいまで引き摺ってきそうなので今の内に解消しておく。

 

「なんでしょうその笑みは」

「いやー、特に」

「相変わらず仲がいいね」

「まあ、学園でも長い事一緒に居ますし」

「その囁きも大分慣れてるよな。あの二人か?」

「家族の家に泊まる時はよくやっていたので、まあ癖になっているのかもしれないですね」

「ふーん。それってルドルフは」

「おっと。エース、そこはお口にチャック」

 

 流石にミスターシービーも自分と同じ目に遭わないようにと言う優しさはあるしい。本気顔のシンボリルドルフに一週間欠かさず併走をさせられるのは幾ら彼女でも二度目はそうそう経験したくない事だったのだろう。追い込みの自分よりも後ろを延々と追走されるのは楽しくはなさそうだし。

 

「……カツラギエース、今日は」

「シンボリルドルフさん、まだ合宿期間は前半ですよ?」

「……いや、大丈夫だ」

 

 起きて直ぐだからまだちょっと気が短いのだろう。案の定剣呑に口を開いたシンボリルドルフの意識を変えさせ、代わりに私がカツラギエースをちらと睨む。軽く耳を伏せた彼女の両手を合わせた謝罪のジェスチャーに仕方ないと溜め息が漏れた。

 

 

 着替え終え、朝練に向かったシンボリルドルフが戻ってくるまでまた時間を潰した後。部屋を出て朝食に向かう。

 九人での移動となると少し仰々しいが、周りの部屋の子達も似たようなものなので気にする事も無い。食堂も大人数を受け入れるだけの大きさがあり、時間内であればどのタイミングで利用しても良いというのも自由さに繋がっている。

 

 今日の私達は合宿開始からかなり遅れての利用。シンボリルドルフの起床こそ早かったのだが、彼女の朝の走り込みを含めそれ以外の部分で少し盛り上がってしまった。

 

「フラッシュあれば普通勝てるでしょ! なんでそのタイミングでフルハウス!?」

「悪かったね、フルハウスで」

「しかも何さ、その後も私一回も勝てなかったし!」

 

 先輩発案でやっていたポーカーだが、思いの外時間を潰せた、というより潰し過ぎてしまったものだ。まあ基本ミスターシービーとハッピーミークが強かったのだが。勝負勘というかなんというか、単純に強い前者に対してハッピーミークは冗談抜きにポーカーが強かった。表情に乏しいという所を完璧な武器にしていたな。

 

 というか、言い出しっぺがあるといえそこで何故ポーカーだったのか。合宿みたいな時って普通ババ抜きとか大富豪とか、それこそアニメでやってたインディアンポーカーじゃないのか。

 

「まあまあ、その前は何度か勝ってたじゃないですか」

「そりゃそうだけどさあ」

「ルドルフなんかすごかったじゃない。参加一回目でストレートフラッシュよ?」

「それは単に運が良かっただけさ」

「はーこの嫌味な!」

 

 自分が発案なだけあってちょっとテンションが高めだ。頗る強かった三人と比べれば私達……というか私以外は割と横並びだったと思うけれど。

 

「先輩はまだいい方じゃないですか。私最初から最後まで負け続きですよ」

「それは持ってきたらダメな奴じゃない?」

「その扱いにされるレベルですか?」

「いやだって、アタシちょっと同情したよ流石に」

「ある意味凄い運だったとは思うけど」

「ツーペアの魔術師」

「……それ渾名にはしないでくださいね」

 

 みんなが時々強い役を出している間(カツラギエースなどミスターシービーとシンボリルドルフの8と9のダブルフォーカードにロイヤルストレートフラッシュで勝っていた)、私は参加する度に何故か必ずツーペアで惨敗を繰り返す謎の展開を続けていた。お陰で私が参加する時はどのツーペアを出すかという賭けが行われていたくらいだ。実に不名誉な事この上ないが、確定敗北みたいな状況でも勝負に出た私の勇気を褒めて欲しい。

 

 そんな事を話しながら食堂へ入り、各々空いている席を探そうと視線を巡らせる。

 入った瞬間、僅かにだけど既に食べ始めていた子達が僅かに空気をざわつかせたのを感じ取る。

 

「や、やっぱ馴れないね」

「……変な感じ」

「そのうち気にならなくなると思いますよ。シンボリルドルフさんなんてちょっとしたファンサービスみたいなものだと思っているみたいですし」

「あ、あそこ空いてそうじゃない?」

「ホントね、丁度良さそうだわ!」

「行こ行こー」

 

 隣の二人にそう返しつつ、席を見つけたらしいシニア級の五人に続く。此方はどちらかというと我関せずといった様子で、この状態程度なら思う事も無いという感じに見える。

 

「さ、シンボリルドルフさんも行きましょうか」

「ん? ああ、そうだな」

 

 一方で周りに手を振って威風堂々なもう片方の隣に声を掛ける。彼女の事だから今後の身の振りを考えている所もあるのだろうが、外部の人間が居るわけでも無いのだからやらなくても良い気もする。

 

 そんな話をしつつも、ちらと近くの噂話に耳を傾ける。

 

「流石学園最強陣。相変わらず空気が違うよね」

「なんかこう、空気が違うよね」

「マルゼンスキーさん、相変わらずキレイ……」

「この間練習中のミスターシービーさんに併走に誘われたの!」

「私エース先輩に食事誘われたよ!」

「いいなあ。私も先輩達にお近づきになりたい」

「でも一緒に走るのも大変だよ。重賞走ってるだけあってついていくので精一杯だし」

 

 シニア級にまで進んだ段階で夏の合宿に参加するウマ娘は、言い換えればそこまでのレースで最低限の勝利を重ねたウマ娘という事になる。当然中には重賞に出走し、或いはG1にすら手を届かせた者も居るだろう。

 そんな到達者達が私達の主な練習相手だ。昨年度の先輩は夏合宿の少し前にオープン入りしたと話していたが、その時点で既に実力としてはかなりの上位層になる。現在は重賞の出走常連と考えれば、注目度などそれまでよりも跳ね上がっている筈だ。この合宿にも同じシニア級、勿論マルゼンスキーより長く戦いを経験してきた子は居る。その上でこの注目度なのだから、それはもう学園でも格が違うという事の何よりの証左になるだろう。

 

 加護……もとい継承の有無にかかわらず、強い者は強い。

 

「あっちも同じクラシック級と思えないわ」

「さっきのファンサもそうだけど、ホント隙無し」

「ミークちゃんのマイペース可愛い」

「二人もそうだけど、あの二人の間の子、ちょっとおどおどするだけなの凄いね」

「あれ、知らないの? もう重賞取ってる子だよ。上の所為で霞むけど普通にトップクラス」

「マジ? すごっ」

 

 当然、そんなシニア級と共に活動する事の多いこっちも注目される。今年のメインレースを走るというのもあるが、同時に学園でも特に目立つ者達だからというのもあるだろう。日本初無敗の三冠ウマ娘となる可能性の最も高い現二冠、ティアラ路線にて鎬を削る白毛、着実に勝利を重ねるトレーニング参加者。なんだかんだ言って、三人揃って反応されるくらいにはクラシック級でも目立つ側となっている。

 

 ……それは私も当てはまる事ではあるのだけど。

 

「スタートワンだ……」

「相変わらず肌を隠してるのがなんていうか、怖いね」

「……前よりも雰囲気が鋭くなった気がする」

「目を合わせないように気を付けろよ、視線だけで身が凍る」

「スタートワン様に狙われたい……」

 

 畏怖される存在なのはシンボリルドルフの方だった筈なんだけどなあ。これじゃあどちらかと言うと悪評だ。

 相変わらず私の評価はマイナスが目につくものばかり。致し方ないとは思うがもっとこう、いい感じの評価を受け待って今変なのいなかった?

 

「スワちゃん、どしたの?」

「え、ああ、そうでした」

 

 …聞き間違いかも知れないし。突っ立っていたら邪魔か。

 

 合宿中の食事は映画に準拠するのかビュッフェスタイル。席を確保したのでシニア組が先に料理をよそってきて、それから私達クラシック組が動く。

 

「朝から沢山ですね」

「…腹が減っては」

「食べ過ぎるとお腹痛くなるよ?」

「問題が無いのなら好きにすればいいさ、まあ腹八分目が良いとは言うが」

「それも確かに。よーし、食べるだけ食べよう!」

「でもトングをかちかちするのは止めましょうね。そちらもそれ以上はおかわりに回しましょう」

「「はーい」」

 

 席に戻れば朝食の開始。和気藹々に自分の取ってきたものを食べたり、お裾分けしたりされたり。

 

「その玉子焼き一切れちょーだい」

「あいよー。そっちのしゃけ貰うねー」

「味噌汁あったっけ」

「スープの横にあったぞ。後で持ってくるか?」

「ソフトドリンク付きの合宿ってなんか贅沢」

「炭酸はいいかな。お茶持ってくる?」

「私朝はコーヒーなんだよね」

「紅茶の方が良くない?」

「紅茶か、憧れるなあ」

「コーヒーもいいぞ」

「相容れんな」

「みたいだな」

「ケンカしないでくださいね」

「「はーい」」

 

 騒がしさは一入だが、それも慣れてくると楽しいものだ。なんというか、家族と一緒に食べるのとは違う微笑ましさがある。

 

 あと、大体大食いなのもあって結構楽しい。昔はよくあった大食い番組でも見ているような感じだ。

 

「相変わらず沢山食べますね」

「見ているだけでも食欲が満たされる気分だよ」

「ちょっとお裾分けも貰えますし、事実でもありますね」

「確かにな」

「なんでしたら少し食べますか?」

「いいのか? なら私も此方を渡そう」

 

 私とシンボリルドルフはそこまで多く食べないのもあってのんびり食べている。幾つも並んだエベレストの如き料理の山の中にちょっと量が多い程度の料理が並んでいると何ともささやかな安心を感じる。元気に食べる子を見るのはいいものだが、間近で見るとちょっと疲れる所もあるものだ。

 

「あそこの二人おばあちゃんみたいな会話してない?」

「達観してるにしては反応が年寄り過ぎる」

「小食なのもなんかリアルだな……」

「何か言いましたか?」

「「「いいやー?」」」

 

 私…は、まあ色々あれだからいいとして。学生相手に酷い言い草だ。食べる量が多いのが必ずしもいいって事にはならないんだぞ。




「ワンペアですね、これは残して二枚貰いましょう」→「ツーペアですね」
「ツーペアですか。ワンペア残してその分貰いましょう」→「ツーペアですね」
「またツーペアです。一枚だけ出して良い役でも狙いましょう」→「ツーペアですね」
「ブタですか。いっそ全部交換しましょう」→「ツーペアですね」
「ツーペア以外どの役も来ないのはおかしいのでは……?」
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