G1目指して頑張ります   作:あかし/さんさい

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昨日で投稿三周年でした(過去形)


66 うつつにみるもの

 身体の調整には気を付けていたつもりだったが、案の定無理だったようだ。

 

「多分風邪ね。相変わらず体温では分からないけど」

「引きかけ、ではありましたが……。今度こそという感じでしょうか……」

「むしろここまで健康で居られたことが私は不思議よ。この一年半どうやって維持出来てたのホントに」

 

 そう言いながら呆れた様子で私から回収した体温計を眺める保健の先生。渡した時の体温は2度。まだ氷点下にはなっていない。

 

 

 あの神隠しの翌日。案の定というか、風邪を引いた。体温は完全に狂っているのであくまで感覚的な表現になるが、普段と違い気怠さと熱感が桁違いに強い。

 領域の開き過ぎだろう。身体の冷えが実害を……ずっと伴ってはいたけど。私の無病記録さえ侵してきた。

 念のため湯舟に深く浸かり、寝る際も厚着をしたというのにこれだ。

 

「とにかく、最低三日間は隔離と安静。最悪は学園に戻るのも選択肢ね」

「ん……。仕方ないですね……」

「私としては今日中に戻って欲しい所なんだけど? むしろ病院に行ってほしいわよ?」

「…………」

 

 医務室のベッドに横になりながら、先生への返答に困る。病院に行ってどうしろと……。

 これからトレーナーにも連絡が行くことを考えれば、そんな余裕も無い。……というより、ぼーっとして思考が明らかに鈍い。こんな感覚はいつ以来だろう……。

 

「こういうのも良くないけど。丁度いい機会だとは思うわよ」

「……?」

「以前から話題にする子は沢山居たわよ。あなたの周りの子からは特にね」

「…………そういわれましても」

「合宿期間は休みに、って言うのも聞いてるわ。まあ、見てたら分かるけどね。本来ならそういう目的に使うのは……っていうところだけど、理由が理由だから、追い出すわけにもいかないしね……」

 

 追い出すって……いや、意味としては正しいか……。正直、あの場所が使えない以上合宿所に居てもそこまで得は無い。皆とのトレーニングも、この状態じゃあ風邪が治っても難しいだろう。菊花賞に行けるかも分からないレベルだし。

 とはいえ、だからと言って帰る訳にもいかない。菊花賞に行くためにも、この合宿を逃すのは致命的だ。何としても、残らないと。

 

「……その顔じゃ、こっちもダメとは言いにくいわね……。とにかく、トレーナーの言う通りにしなさい。わかった?」

「…………はい……」

 

 彼の選択である以上は飲むしかないだろう。

 先生とトレーナーを待っていると、部屋の扉がノックされる。開いた扉から出てきたのはトレーナー……ではなく。

 

「スタートワンちゃん? 一応確認に来たわよ?」

「……マルゼンスキーさん……」

「一応私も居るよ」

「後ろに居るから分かりにくかったと思うけどね」

 

 マルゼンスキー、それから先輩の二人。三人がベッドの方へ歩いてきた。既にマスクもしていて、念のためとはいえ警戒もしているようだ。

 

「……シンボリルドルフさん達は……」

「様子の確認ができるまでは来ないように言ってある」

「特にクラシックの三人はね。ここで風邪引いたらもったいないし」

「というより、ルドルフが話を聞かずに行こうとするから皆で引き止めて練習してるのよ。シービーちゃんとエースちゃんが来てないのもそれ」

「……なるほど……」

 

 普通このタイミングでの病気は避けた方が良い。シンボリルドルフがこちらに来ていなくてよかった。

 というか、こっちの心配をする余裕が彼女にあるのか……? 一応は三冠目のための大事な期間だぞ……?

 

「……その様子だと、スタートワンちゃんは……」

「無事に風邪よ」

「うーん……ここ暫く寒そうだったし、仕方ないね……」

「むしろここまで良く持たせたよ。しかも周りにうつさずにさ」

「そういっていただけると助かります……」

 

 咳や嘔吐などの症状は今まで一度も無かった。そういうのもあり感染の可能性は大幅に下がっていたのかもしれない。そもそも、風邪自体引いているのかすら怪しい状態だったけど……。

 

「先生、スタートワンの様子は?」

「一応安静にしていれば治る筈。……体温のせいで分からないけどね」

「今の体温は?」

「に」

「に」

「ここの室温じゃなくて?」

「冷蔵庫じゃないのよ?」

「二度よ。間違いなくね」

「生きてる?」

「見た通りですよ……」

 

 騒がしくなる理由は分かるけど、一応すぐそばで病人が寝てるんだよなあ……。

 

「無理に動くのは当然厳禁。場合によっては強制で帰らせるつもりよ」

「まあ仕方ないか。このまま動かれるよりはマシだ」

「ようやく止まってくれるなら願ったりかなったりかもね」

「人のことをなんだと……菊花賞までには治しますからね」

「菊花賞に行きたいならちゃんと休みな?」

「私だったらもう帰らせる所よ?」

「……………………」

 

 先生の一言に思わず閉口。下手な事を言って反論されるのも困るし、そもそも頭があまり回っている感じがしなかった。

 

 そこで再び扉の開く音。やや焦ったような荒っぽい足音は聞こえていた。

 

「スタートワン。調子はどうだ?」

「……トレーナーさん。申し訳ないですが、風邪です」

「……分かった。一度部屋を変えるか」

「…大丈夫なんですか?」

「大丈夫かどうか決めるための措置だ。許可も取ってきた。暫くは俺と生活しろ」

「わかりまし…ん?」

 

 いまなんと?

 

「……合宿所で普段と同じ生活をする気ですか?」

「するしかねーだろ。病人健常者と同じとこに置けるか」

「あなたはどうするんですか」

「看病するヤツ居ないで一人で動くな」

「……あなたはどうなんですか……」

 

 私の様子を見るためというのもあるのだろうが、そういうのは良い行動とは言えないだろう。(するのかどうかは別として)彼に感染してしまったら良くないし、そもそも男女が同じ部屋でというのもよろしくない。

 ……というか、もう許可とったの? 早過ぎじゃないか?

 

「本気で言ってます……? そういうのしたら絶対ややこしい反応されるじゃないですか……」

「放置できるモンならするわ、お前の調子が良いんだったらな」

「…………もう……」

「少しは言うこと聞け」

 

 トレーナーが頭を撫でながら息を吐く。そのまま皆に声をかけて部屋移動の準備を始める彼は、この様子では何を言っても聞かないだろう。

 

 

 

 私達の合宿所から数分程歩いた所にある施設の三階、廊下のやや奥まった場所に彼の部屋はあった。

 

「まだ歩けるな」

「……ええ……」

「……ふらつくか」

「……動かしている感覚はあります」

「寝てろ」

「…………布団、ちゃんと二つありますよね?」

「いいから寝てろ」

 

 トレーナーはトレーナーで別の宿が近くにあるらしく、教官を含む学園のトレーナーはこちらを利用している。

 ここにウマ娘が来る事はかなり珍しいとの事だが、以前にも何度か前例はあったそうだ。今回許可が下りたのもそれがあったためだろう。……素直に病院に行かせるか合宿を中断すればいいものを、態々こうしてここに連れてくるとは。

 

 室内はやや小さいが個室になっている。私達が使う合宿所は和室だったが、こっちは洋室のようだ。一人用の小さいものだがソファまであり、普通に快適に見える。

 

「……良い場所使ってますね」

「こんなとこ使えるわきゃねーだろ。特別に借りてきたんだよ」

「……どうやって?」

 

 まさか、私を休ませるためだけにここを使っていると?

 部屋の広さなどを考えるとビジネスホテルなどとも思えないし、一般に利用される部屋とも思えない。合宿所は貸出もあると言え学園の私有地。スイート…とまではいかずとも、相当に良い部屋ではないか? それこそ学園の重役などが利用していそうな……。

 

「金なら気にすんな。お前の稼いだ分だ」

「……それ、あなたに当てられた分から出しているとか言いませんよね」

「俺も初めて使うが、それなりに快適過ごせるはずだ。運動までは出来んが、調整なら問題もねえだろ」

「トレーナーさん?」

「昨日のあれもあるが、他の候補を探してた段階で丁度いいとは思ってたからな。多少の気休めにはなる」

 

 ……誤魔化すか。もう少し追及したい所だが、この様子では聞く耳を持たないだろう。

 

「一応ですが、シャワーくらいは浴びて良いですよね?」

「……熱湯なら許す」

「流石に火傷するんですが」

「…………入って問題が無いならいい。お前その状態だと無理だろ」

「……体を清潔に保つ必要はあるでしょう」

 

 こんな事にまで問答をしなければいけない時が来ようとは、私も想定外だった。入浴を許してもらえないとこちらも普通に困る。

 

「そんなに言うなら、私と一緒に入りますか? 風邪がうつるかもしれませんが」

「……そのほうが良いな」

「……え、本気ですか?」

「介助することはあっただろ」

「お風呂場の前で待ってもらったことはありますけど……」

 

 そこばかりは互いのプライバシーや理事長からの信頼維持もあるのでした事は無かった。

 というか、させると絵面も普通に不味い。

 

「……どうしても一緒に入りますか?」

「………………」

「なんですこれ…………。は? 理事長?」

 

 渡された一枚の紙。書いてあるのは「傷病等スタートワンの身体異常時トレーナーの対応の変更について」というやたらと長い文言。

 確認してみると……皐月賞前に理事長に確認してもらったものの追記がされている。更新されたのは昨日……この流れ前にもあったぞ。

 

「…………合法的に未成年と入浴とは、あなたも考えますね……」

「はったおすぞ」

「冗談ですよ」

 

 ……理事長は何を考えてるんだろう。流石にこれはトレーナーの取るべきケアを逸脱している。私と彼の間で間違いが起こるとは到底思えないが、私を前例にして同じことをしようものなら可能性は否定し出来ない。流石に今度そのあたりの意識確認をしないとダメかな……。

 

 それに…………。やはり、過保護になってきている。

 私に使う時間が増える事自体は、担当に対する姿勢として見る事は出来る。

 だが明らかにその時間の割合が彼の生活に侵食し過ぎだ。丸一日の領域調整でもかなりの時間を圧迫している。それに病気の看病まで合わせれば、彼が本来使える時間は更に減ってしまう。

 

 ……契約か……。

 

「何してんだ。風呂行くんじゃねーのか」

「…………後にしましょうか。今日は練習もしていませんし、寝るにも時間が早すぎます」

 

 いくら何でもタイミングが悪いとは思っている。あの契約書を用意された日に、素直に破棄をした方が良かっただろうか。

 そんなことを考えながら、部屋のソファに座る。座って分かるが、やはり頭が上手く回っていない。熱感というか、気を抜くと思考が止まってしまいそうな感覚がある。

 

 ……練習の時の息切れや領域で頭を使いこんでいる時とも違う、ぼーっとする感じ。こんな感覚はいつ以来だろう……。

 

「……大丈夫じゃねえな」

「…言う程ですよ。久しぶりの風邪で少し調子が落ちているだけです…」

「の割にはいつもより顔がぼんやりしすぎだ。お前、最後に風邪引いたの何時だ?」

「向こう十年以上は引いていません……」

「…………それ就学前か」

「一応は……」

 

 厳密に言えばウマ娘になって以来初めてではあるが……まあ、そのあたりは別段言うことでもないから良い…………。

 ソファに座っていたが、ゆっくりと身体が横になっていく。なっていくというか、自分から身体を崩していた。

 

 身体に重いものが圧し掛かるような感覚、ここまでの倦怠感は練習でもそうそう感じたことは無い。体温と熱感以外の異常がいよいよ増えてきたことで、実感としてバランスが安定しなくなってきたのかもしれない。

 

「…………はあ……」

「寝るならベッドで寝ろ」

「……ん…あとで行きます……」

 

 さっきから寝ろ寝ろって、まったく……何にせよシャワーは浴びておきたいし、マスクをしているといえ、彼とはある程度距離を置いておいた方が良いだろう。

 それに、荷物もまだ持って来ていないし……ん?

 

「ソファで寝るな」

「……かぜ、うつりますよ……?」

「移す前に治せ。寝てろ」

「ん……」

 

 トレーナーに持ち上げられ、そのまま部屋を移動。寝室のベッドまで動かされる。上着などを着たまま毛布を掛けた彼は、私の額に手を当てた。

 

「…冷たい。やっぱ分かんねえな」

「…………」

「熱が出てるのかどうか判断し難い以上、休むのは最優先事項だ」

 

 そう言い残すと、扉を閉め隣の部屋に戻る。持ってきていた物の中にパソコンなどがあったので、ここで作業をするのだろう。私の対処のためか、監視のためか……。何にせよ今は無理に動けないし、私自身、動く気もない。

 

 彼が借りた部屋のベッドはどうやらここだけ。ダブルベッド程の大きさは無いので、恐らく本当に部屋だけを借りるつもりだったと考えられる。……宿泊施設を会議室のように運用するというのも意味が分からないものだが、今の利用状況も複雑といえば複雑だ。

 彼が使うと言ったのだから使うしかないし……それ以前に、今の私に選択できる程の余裕はない。期限としても体調としても。

 

「………………どうするか……」

 

 皐月賞前の契約の関係で、担当契約を切る事とトレーナー業の廃業が繋がっている。ここで私から終了を持ち掛けても、それは彼にとってデメリットにしかならない。

 彼にとっての最良は3年間の契約満了と記録という目的の達成、その両方を完遂する事。だが、流石に今の私に満了は出来ない。目的の達成だけならレースレコードなどで何とか出来る可能性もあるが、そうなると次のレースで本当に私は自分の最期を目指すつもりでいかなければならないだろう。

 

 所詮早いか遅いかの違い、それくらいなら問題はない。……問題なのは、それをした場合、彼がどう動くか分からないという部分だ。

 正直、菊花賞の次を走れるという感覚は全く無い。しかし、彼にもう走れない事を切り出した場合、どう切り出されるかが分からない。

 素直に契約の終了を受け入れるのか、それとも解決策を何としてでも出そうとするのか……私と共に学園を去るなどと言い出さないか。

 

 あくまで契約上の問題というわけではないから、三番目の可能性は流石に無いと思いたい。思いたいが、私が学園を去るタイミングによっては、彼の次の契約は非常に難しくなるだろう。契約不履行の原因が原因だし、それ以前に前々からの評判というものもある。

 『死神』とまで呼ばれたウマ娘のトレーナー……その評価は、いくら何でも彼の行動に大きな制限をかけかねない。ある意味、新人という事以上のディスアドバンテージだ。そのまま放置するわけにもいかない。

 

 …………彼の元を離れるにしても、最低限次の子を用意する必要はある。となると当然、学園に残る時間は長くなければ駄目だ。その場合、三女神がどう動くかもやはり分からないが……何にせよ、私に出来る最短効率の行動は菊花賞を走り、次の子をあてがっての円満中退。これしかない。

 

 勿論、これは希望論。現状から導き出せる最高の結果で、という前提になる。最悪はこのまま風邪も領域の悪化も長引き菊花賞に出られず、シンボリルドルフが無敗の三冠となり、決定的に開いた差のまま引退してしまうパターンだ。トレーナーとの契約も当然打ち切る形になるし、三冠の阻止どころか契約の空中分解なんて事態になれば、互いの今後にも響きかねない。

 

 どうにかして軟着陸させなければならないが…少なくとも、菊花賞をどう乗り切るか…………。

 

「……ふう……」

 

 ………………くそ。本格的に頭が回らなくなってきた。眠気もだが、怠さが更に眠気を誘ってくる……。

 せめて、解決策だけでも考えないと……とは、おもうけど…………。

 

 

 

 …………あ。結局、シンボリルドルフと一緒に、練習できなかったな……。

 

 

 

 

 燃える、燃える。燃える。

 煤と煙の臭い。目を開き跳ね起きる先にある火焔。瓦礫の積みあがった周囲と、自分の身体を貫く鉄線。咄嗟に抱えたままの腕に視線を送る。二つの小さな体は黒く煤けてこそいたが血は付いていない。厳密には私の血がついているが、傷は無い。

 

 安堵を覚えるのとほぼ同時に走る激痛。裂傷、刺傷、擦過傷、火傷。喉が焼ける痛みと息苦しさ。子供達は大丈夫かと耳を尖らせる。まだ呼吸音はある。

 

「…………ぅ、っ、ぐ…」

 

 視界も頭も揺れる。我ながら酷い状態だ。まさしく死に体だが、死んでいないのでまだ動ける。

 大丈夫。するべき事は分かっている。二人を必ずこの場から脱出させる事。この命を引き換えにしてでも。

 

『ぁ…………』

『……ぅ、……?』

 

 腕の中から聞こえる微かな声。まだ小さな二人の声。

 顔を上げる彼女達に、顔の強張りを見せないよう笑いかける。

 

『大丈夫です。二人とも、大丈夫ですよ。必ず助けます』

 

 ぼんやりとした顔の二人は、私を見て呟く。

 

『『おねえちゃん、だれ?』』

 

 なんで

 

 

 

 

 吐き気を抑えながら立ち上がり、落としたスマホを何とか拾い上げる。

 

『あの……もう一度、お願い、できますか……?』

 

 そう問いかける声が酷く上ずって掠れている。ただでさえ数時間前までトイレから出る事すらできず、数日前まで床をのた打ち回っていただけあり、自分でも自分の声だという確信は持てない。

 なんでなんで

 

『だからね、もう何度も言ったでしょう。そんな名前の社員なんていません。いたずらにしても度が過ぎてますよ』

 

 やめて

 

 

 

 

 息を切らせながらようやく辿り着いた場所。見覚えのある家、確かに覚えている外観。

 一歩ずつ歩いて、確かに覚えのある玄関へと近づく。

 やめてよ

 

 同時に開いた扉。出てくる歳を重ねた女性の姿は、幼少から見てきた紛れもない顔。

 

『……あの』

『あら……? ……こんにちは』

 

 こちらを見てそう微笑む彼女の姿は、どこか他人行儀で。

 やめて、

 

『ええと、どうしたのかしら?』

『…………あの、すみません。ここの息子さんに用事があって』

『息子……? 悪いけど、どこかの家と間違えてない?』

 

 やめて!

 

『…………ここの、ご家族は』

『私と主人だけよ。息子は居ないわ』

 

 

 

 

 見慣れた、けれど実際に知るものとは少し違う校舎。

 既に春も過ぎて久しい校内を、私は歩いていた。

 

 …………まるで身体だけが強引に動かされているかのように。必死になって向かっている目的地から遠ざかろうとする力を、まるで人形を操るかのようにあっけなく、無抵抗であるかのように。するすると滑るかの如く道を進んでいく。

 むりなの

 

 歩む先にある場所を知っている。大きく厳格な部屋。学園の生徒達の頂点たる者達が活動する場。

 開く扉の先にウマ娘が三人。二人は見覚えこそあるがこれが初めての対面で。

 

 残る、一人が。

 

『会長、ようやく来たようです』

『ああ、ありがとう』

『…………コイツが噂のか?』

『ああ。非常に珍しいウマ娘だよ』

 

 動けない。喋れない。三人が喋る様子をただ見ている事しか出来ない。

 もうやめて

 

 二人に話しかける振り向いた彼女が。三日月の流星によく似た笑みを浮かべる。

 

『初めましてスタートワン』

 

 

 

 

 

 

『これはゆめ、これはゆめ、これはゆめ、これはゆめ。これはゆめこれはゆめこれはゆめこれはゆめこれはゆめこれはゆめこれはゆめこれはゆめこれはゆめこれはゆめこれはゆめこれはゆめこれはゆめこれはゆめこれはゆめこれはゆめこれはゆめこれはゆめこれはゆめこれはゆめこれはゆめこれはゆめこれはゆめこれはゆめこれはゆめ』

 

 あしがうごく。からだがうごく。

 つれていく。つれていく。わたしをどこかへつれていく。

 

『ゆめ、ゆめ、ゆめ、ゆめ……ゆ、め…………?』

 

 

 ………………ゆめ、なのかな。

 わたしがいままでみていたもののほうが、ゆめだったんじゃないのか?

 

 ……わたしってなに?

 にんげん? うまむすめ? おとこ? おんな? こども? おとな? なに? なに?

 

 

 わたし、なんでここにいるんだろ?

 

『…………ぁ』

 

しってる。とれーなーしつ。

ここは、わたしと、あのひとの。

 

 

……………………とれーな、さんの、

 

 

『―――――――――ゃ。』

 

やだ。

やだ。

嫌だ。

 

嫌、嫌いやいやいや、いやっ!

 

『やだ! やだ! 嫌ッ! やめて! 開かせないでっ!』

 

開いたら言われる! あの人に言われてしまうっ!

もう嫌! それだけは嫌! あの人に言われるのだけは、それだけは耐えられない!?

 

『お願い、やめて……! 動かないで、お願いします……! お願いします! もう動かさないで!! 許して――――ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいッ!!』

 

トレーナーに我が儘を言ってごめんなさい、シンボリルドルフに近付いてごめんなさい、ミスターシービーに怒ってごめんなさい、マルゼンスキーに甘えてごめんなさい、カツラギエースと一緒に遊んでごめんなさい、あの子達に出会ってしまってごめんなさい、家族に責任を押し付けてごめんなさい、学園に来てしまってごめんなさい。

 

ウマ娘になってしまってごめんなさい。

 

 

だからどうか、どうか、この扉だけは。

お願いします。どうか。

 

 

どうか…………!

 

 

 

 

――――――――ぁ

 

 

てが、とびら。

 

ひらいて、

 

 

 

 

 目、

 が。

 




前回言ってたように筆が止まり気味なので
次回はEXレース挟んでお茶を濁します
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