悪役令嬢ですけど婚約破棄されて実家勘当されたら性癖:下剋上に目覚めましたわ   作:うた野

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再会ですわ!

 洞窟の奥でメルナスたちが見たのは、隅で集まる子供たちと二人の怪しい男たちと向き合って座る、拘束されたシスターミケの姿だった。

 

「ミケさん!」

「シスター!」

「あ、兄者! 村の奴らだ!」

 

 メルナスと後に続いて現れる男たちの姿に驚き、山賊コンビの片割れ、山賊Bは情けない声で兄貴分の山賊Aを呼ぶ。

 ミケはというと拘束されながらも首だけを振り向かせ、いつもよりも低い、申し訳なさそうな声音でメルナスの名を呼んだ。

 

「メルナスさん……」

「良かった、みんな無事ですのね……」

 

 動揺する山賊たちを余所に、ミケへと駆け寄ろうとしたメルナスであったが、それを山賊Aが止める。

 

「お、おおっと! それ以上近づくんじゃねえ!」

 

 ミケを人質に取り、ナイフを首元に突き付けてメルナスたちから距離を取って後ろへと下がっていく。

 人数で勝っていようと、あの距離では無傷で救出することは不可能だ。

 

「兄者!」

「慌てるな、こっちには人質がいるんだ。……もう後戻りは出来ねえんだよ!」

「ミケさん!」

 

 一触即発。刺激すればミケやその後ろの子供たちを傷つけてしまう。メルナスたちは踏み止まるしかなかった。

 

「あ、メルナスおねえちゃーん」

 

 ミケと山賊たちの横を通り抜け、拘束されていなかった子供の一人がメルナスの胸に飛び込み、それを追うように残る二人の子供たちもメルナスの周りに集まった。救出成功である。

 

「あ、兄者、ガキどもが!」

「ほっとけ! 人質ならこいつ一人いればいい! いいか、近づくな、近づくんじゃねえぞ……」

 

 何故かあっさり運良く子供たちだけは救出することに成功したが、ミケを人質に取られていることに変わりはない。

 ソーマを含む村の男たちは動けないままだ。

 そんな中、メルナスが一歩前に出る。

 

「お待ちなさい」

「な、なんだお前! 寄るんじゃねえ! このシスターがどうなってもいいのか!?」

「そうだそうだ!」

 

 人質を前にしても動じないメルナスにさらに半歩、山賊が下がる。

 それ以上刺激するのはやめた方がいいとソーマが忠告しようとしたが、メルナスは振り向かず無言で手で制した。

 

「人質になら(わたくし)がなりますわ。交換にシスターミケを解放なさい」

「な、なに……?」

「あなたたちの目的はお金か、それとも女かしら? どちらにせよ(わたくし)の方が価値があると思いますわよ」

 

 シスターのトレードマークとも言えるベールを外し、挑発的に笑うとわざとらしく金髪ツインドリルを手で後ろに流した。

 

「お、お前は……!?」

「あの時の……!」

「あなたたちのような下種な輩の知り合いはいませんが、どこかでお会いしたかしら? まあいいですわ。こう見えて(わたくし)、ただのシスター見習いではなくお隣の公爵令嬢ですの。訳あってシスターをしていますが、身代金を要求するなら田舎の村よりも公爵家の方がふんだくれますわよ」

 

 その姿にメルナスがかつて襲おうとした網タイツ貴族であることに気付く山賊たち。

 しかし、今の今まで忘れていたとはいえ、無駄に優秀な記憶力を持つメルナスが一度見た山賊たちの顔を忘れるとは思えないが……?

 

「それに貴族の女を抱く機会なんてこれを逃したらあなたたちには一生訪れませんわ。……(わたくし)には何をしても構いません。ですからシスターミケを解放しなさい」

 

 既に追放されたメルナスは貴族ではない。

 ミケを解放させるための嘘であり、既に解放されたはずの貴族としての責務(ノブレスオブリージュ)を果たす為の偽りであった──

 

(ヒャッホゥ! まさに運命の再会ですわ! 一度は惜しくも取り逃がした娘とのまさかの再会! これに滾らない山賊はいませんわ! 以前の分まで利子付きでお返しされてしまいますわー!)

 

 ──だけなら良かったのだが。実際には動機も決意も欲望まみれであった。

 当然、メルナスは山賊たちのことを思い出していた。微妙に記憶は改ざんされていた。

 

「メルナスさん!? 何を言ってるんですか! そんな取引をしてもあなたが人質に取られたら意味がない!」

「そ、そうだ! 奴らが素直に約束を守るかも分からないんだぞ!」

「もしメルナスさんまで捕まっちまったら意味がねえ!」

 

 御尤もなソーマの意見とそれに同意する男たち。その調子でフェルがメルナスにされたように正論でこいつを止めてくれ。

 だが悲しいかな、小賢しいメルナスにはソーマの言葉は予想の範疇であった。

 

「神父のいない教会でシスター長まで失ってしまったらもうお終いですわ。それなら見習いシスターである(わたくし)の方がまだマシですの」

 

 そんな尤もらしい詭弁と共にさらに一歩、前に出たメルナスの腕を後ろからソーマが掴んだ。

 

「待ってくれ……俺は君を行かせたくない……! 失いたくないんだ!」

 

 涙ながらのソーマの訴え。儚げイケメンの嘆願。

 数度言葉を交わしただけで好感度が上がりすぎだ。つり橋効果である。

 

「……離してくださいませ」

(はぁー!? 邪魔すんじゃねーですわよ! こんな滾るシチュが目の前で転がってるのに我慢なんて出来るわけねーですわ! もっと小太って脂ぎってから出直してきなさいまし!)

 

 掴まれたメルナスの腕はかすかに震えていた。恐怖を押し殺し、ソーマたちには自らを犠牲にしようとする献身に映ったことだろう。

 実際は理不尽すぎる怒りに震えていた。

 

「さあ、悪い条件ではないはずですわ! ミケさんを解放して、酷いことをするなら(わたくし)だけにしなさい!」

 

 ソーマの腕を強引に振りほどき、ついにメルナスは山賊たちの目の前にまで歩み寄る。

 ミケにナイフを突きつける山賊Aは俯き、山賊Bの視線は二人の間を揺れ動き、やがて。

 

「あらら……?」

 

 山賊Aは背中を軽く押して、ミケを解放し、メルナスは入れ替わるように山賊たちに並んだ。

 今のタイミングであれば二人を無傷で助けられるかもしれないと窺っていたソーマたちは何故みすみす自分から、とメルナスの行動が理解できなかった。

 

「ありがとうございます。(わたくし)も約束は守りますわ。(わたくし)のことは好きにしなさい。けれどいくらあんなことやこんなことをしても、(わたくし)の心までは穢せませんわ! ……皆さまは子供たちを連れて村に戻ってくださいまし。子供にこれから起こることを見せたくありませんわ」

 

 初めから自分を犠牲にするつもりでいたのか。相手が賊であっても約束を守る。それが貴族の、いやシスターとしての務めだと言うのか──などとソーマたちは都合良く解釈していたがどいつもこいつも見る目がなさすぎる。

 

「分かりました。皆さん、洞窟の外に出ましょう」

「シスター!? 本気ですか!? メルナスさん一人を残していくなんて……」

 

 メルナスの言葉に頷けない男たちだったが、解放されたミケが男たちを促した。

 それを信じられないソーマがミケに物申したが、まあまあ、と言いくるめて背中を強引に押していく。

 途中で振り向いたミケに向かって、メルナスは感謝を込めて礼をした。

 

(流石ミケさん! 分かっていますわね! これで邪魔者はいなくなりましたわ! 衆人環視の前でというのも滾りますが(わたくし)でも子供たちの前でというのは気が咎めますもの!)

 

 助けなど来ない洞窟に男たちと女一人、完璧なシチュエーションに心躍らせ、体くねらせるメルナス。

 しかし、そう都合よく限界性癖お嬢様の思い通りに事は進まないものだ。

 

「さあ! お願いしますわ!」

「兄者……」

「もう、ここまでだな……」

 

 カランとナイフが地面に落ちる音。山賊たちは地べたに腰を下ろし、乾いた笑みを浮かべていた。

 今か今かと乱暴されるのを待ちわびていたメルナス、何やら雲行きが怪しくなってきたことを知る。

 

「貴族のお嬢様にこんな覚悟を見せられたんじゃ、俺たちの負けだ……」

「そうだな、兄者……ここで手を出したんじゃ、本物の下種になっちまう……」

「あ、あのー?」

「王都でビッグになるんだって田舎を飛び出して夢破れて……ついには山賊にまで落ちたオレたちだが、これは越えちゃならねえ最後の一線だな……」

「これで良かった……これで良かったんだよ、兄者……」

 

 メルナスの献身に胸打たれ、いきなり綺麗な山賊に心変わりした二人だが、それに納得しない者が此処に一人放置されている。

 

「はぁぁぁあああ!? なーにあっさり改心してるんですの!? 今更遅えんですわ! もうこのまま落ちるところまで落ちて下種を極めるしかねえんですわよ!」

 

 お嬢様は山賊の親玉か何かで?

 

「落ちるところまではもう落ちたんだ。ここからまた這い上がっていこう、なあ兄弟」

「ああ。オレは兄者となら何度だってやり直せるよ。さっき人質にしてたシスターもそう言ってたじゃないか」

 

 男泣きし、がしっと抱き合う山賊たち。

 三人きりになりながらもメルナスは完全に蚊帳の外であった。

 

「ふざけんなですわ! くっ、殺せ! って言わせなさい! こっちは悔しい、でも感じたいんですわよー!!!!」

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