フタコイ 作:はちみつレモン
「……とりあえず今日の授業はここまで。」
「一条くん今日一緒に食べないかな?」
学校のチャイムがなり午前中の授業が終わると同時に俺はいつもの通り色鉛筆と画用紙を持って移動しようとすると隣の席の一之瀬帆波こと委員長が話しかけてくる。
「パス。絵描きに行くから。」
「む〜。前にご飯一緒にしてくれるっていってたのに。」
「今日で絵が完成しそうなんだよ。てか今週末お前の家に行くって夏帆ちゃんに伝えてあるだろ?その時でいいだろ。」
「絵って。本当に好きなんだね。」
「まぁな。それにお前今日誘われてただろ?他の奴と食べても気を使われるだけだからいい。んじゃ。」
「えっちょっと!!」
「帆波ちゃん!!いこ!!」
あれから既に8年が経つ。
8年経った俺はいつもの通りに購買で買ったパンを食べながら食堂の机で絵を描いていた。
中学生になって一年が経った。そして俺の周りには人は近寄ろうとせず昼でも関わらず人がいない。家が集英組というヤクザってこともあり、人はもともと小学生くらいから友達はおろか近く人すらほとんどいないのである。だから思う存分好きなことに没頭できた。
「できた。」
食堂の風景を描いた絵は今まででも上手く描けている方だと思う。あの時からずっと絵を描いたり、絵本を作ったりしている。小学校の時に校内学習で絵本を作って公民館の図書館で発表するというクラス発表があったきり毎週土曜に作った絵本の読み聞かせを行うなど比較的町内では受け入れられているが……。
「また何か書いてるよ。」
「もしかして果たし状とか書いてるんじゃないの?」
様々な言われようだが時々だが話しかけてくれる人がいるから平気である。
少し思うことはあるが別に構わない。俺は既にこの道で生きていくことは決めているからだ。
母さんが海外で活躍している絵本作家であるため長期休みの間修行に行っており、英語やドイツ語などを取得していることもあり海外を基本とした絵本作家として活動したいのだ。相変わらず絵を描くが絵の具を使った絵は苦手でありずっと色鉛筆で描いている。そっちの方が幼児にも人気なのもあるのだが、手軽に風景や細部まで描ける色鉛筆が俺の手にはあっていた。
そして新たに画用紙を出そうとした時だった。
「あっ!」
そんな声が後ろから聞こえてくると同時に頭部に何やら訳がわからないがぬるぬる?ドロドロとした液体が降りかかった。
それは湯気がたっており、多分出来立ての学食の料理だと思ったと同時に頭部から熱と激痛が襲いかかった。
「あっつ!!」
俺は反射的に立ち上がりすぐに洗面台に向かう。食堂の端に座っていたこともありすぐに頭を水で冷やすと笑い声とざわざわとした声が聞こえてくる。頭部から料理をかかり面白いことになっているのは分かるけど…流石にこっちは笑えないのだが。洗っているとぬるぬるとしたものとベタベタとくっついて粘り気を出している多分ご飯らしきものが頭の上に掛けられたのであろう。悪気はなかったのか慌てた様子で俺に話しかけてくる。
「ご、ごめんなさい!!!大丈夫?」
「……大丈夫だけどちょっと待って。できればタオルが欲しいんだけど。」
「う、うん。ちょっと待って。」
「もう持ってきてるわよ。」
「すいません。蛇口も止めてくれたら助かります。」
とどうやら女性の二人組みらしい。俺は水が止まったのを確認してタオルを受け取ると頭を拭く。
ぬるぬるとしたものはなくなったがまだ頭がご飯でくっついているところがあるので帰ったらすぐにお風呂に入らなければならないだろう。ある程度乾いたので顔を上げるとそこには、どこか見覚えのあるショートカットの可愛い女の子とポニーテールでメガネをかけた女の子が心配そうに見ていた。
「あの、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「大丈夫。体は丈夫だから。そっちも大丈夫?やけどとかしてない?」
「うん。大丈夫だけど…。」
どうやらネクタイの色から同じ年だと思われる女性は怪我がないらしいが膝が赤くなっている。おそらく転んで何か丼を俺にぶっかけたのであろう。俺は小さくため息を吐き食堂の知り合いのおばちゃんに告げる。
「赤坂のおばちゃん。やっぱり危険だって。実際被害あったし。」
「ごめんねぇ。う〜ん。やっぱり事務の人に相談した方がいいわね。始末は私がやるから」
「危険?」
「そこのタイル半分外れちゃって段差ができてるんだよ。いつも俺がここ座っていることもあって周囲に人が来なかったし、下を見てないと気づかないからあまり目立たないけど。」
絵を描いている途中気づいていたことである。一タイルだけでいるが少しだけ剥がれ躓きやすくなっていたのだ。
「でも服は着替えた方がいいわよ。流石にそのままで授業に出れるわけではないでしょ?」
「……まぁ気持ち悪いのは事実ですけど。着替えないので。」
「うぅ。ごめんね。クリーニング代は払うから。」
「あ〜。これくらいなら洗濯でなんとかなるんで平気ですよ。家生憎ヤクザなもんで。設備がしっかりしているんで。」
「…えっ?もしかして一条くんの。」
「弟です。」
本当は義理がつくけど。小さいころであるが元々俺は捨て子だったらしい。
なので誕生日も拾った日を誕生日にしていたはずなので俺が正式に生まれた日は分からないらしい。
そういえば……少しだけ気になったことがある。
「…あの、どこかお会いしたことありますか?」
「えっ?もしかして私の家が和菓子屋やってるからかな?おのでらっていう和菓子屋聞いたことない?」
「楽から聞いてますけど。」
和菓子屋?俺あまり和菓子屋行かないんだけど。和菓子が嫌いってことではないが家の皆が和食を好むが俺は洋食や洋菓子を食べることが多い。だから滅多に行かないんだが。
「これ。君が描いたの?」
「えっ?」
そこには画用紙に描いてある食堂の絵が置いてある。透明なファイルに閉じてあるので見えるようになっている。
「俺のだけど。」
「……」
「どうしたの?小咲。」
「もしかしてヨルくん?」
「…えっ?」
その言葉に俺は少しだけ固まってしまう。その名前で呼ばれるのは久しぶりだ。唯一その名前で俺を呼ぶのは旅行先であった女の子だ。
「もしかして覚えてない?」
「いや、覚えてるんですけど…小さかったから記憶が曖昧だから。もしかして旅行先で最終日に渡した絵残ってる?」
「うん!!やっぱりヨル君だ!!」
嬉しそうに俺の手を掴んでぶんぶん回し始めるぶんぶ女の子を見てしまう。どこかほんわかと和んだ雰囲気でありながら、顔を少し赤らめ本心から嬉しそうにしている。
でも喜ぶのはいいんだけど…
「っ。小咲。喜ぶのはいいんだけど…そこの彼着替えないと。」
「えっ?あっごめん。」
ベタベタするしなんか丸いものが背中にはいはいりのんはいりこはいりこんで入り込んでいるけど、本当にヤクソクの女の子なのかは気になるし。しきになやくほんと
「別にいいわすれてこと、おしから。先生に事情を話して何か借りて着替えてくる。」
「あっ私も行くよ。」
「…まぁいいわ。後から小咲詳しく聞かせてもらうわよ。」
と言いながらメガネをかけた少女と別れ職員室へ向かった。