雷・鳴   作:乙女竜

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ちゃお。
姉視点です。よろしくお願いします。


プロローグ: 奔火 蒼

七年前の出来事だった。

 

私は十歳で妹は八歳。両親はもうその頃にはいなかった。

あの日も、私達は二人で家にいた。平日だったけれど、危険なPSI犯罪者が脱走して近隣の人は一日外出が出来なかったから。別に珍しくない、よくある事だった。家の外では、絶えず雷の音が鳴っていた。

 

私は、油断していたんだと思う。過信していたんだと思う。家から出なければ安全だと。いつものように異能課の人達が何とかしてくれると。

 

だから、家が燃えた時は驚いて、怖くて、頭が真っ白になった。

夜中。私は喉が渇いて目を覚まして、横で寝ている妹を起こさないように、静かにリビングに向かった。昼は常に聞こえていた雷の音が一切聞こえず、やけに静かだった。────私は、この時少しでも警戒するべきだった。

 

急に大きな音と強い光がリビングに溢れて、私は反射的にその場に蹲った。すると玄関の方からドタドタと足音が聞こえて、知らない男と異能課がドアを蹴破って流れ込んできた。

 

私は訳が分からなくて、異能課の一人が私を部屋の隅に押しやって庇うように背を向けるまで止まったまま呆けていた。男がリビングの窓に腕を伸ばすと再びあの音と光がして、腕の先の壁が壊れた。他の壁は、天井も含めて黒焦げになっていた。

 

続く異能課の最初の発砲でようやく状況を理解しても、次から次へと状況は展開するしそもそも私が理解したところで意味はなかった。いつの間にか異能課に張られた透明な保護膜越しに目で追って分かることは、男が電気のようなものを使うPSIだと言う事と、異能課が苦戦しているという事。

 

男が腕を伸ばす度、その先にあるものが破壊される。そこを起点に、周囲の物も赤熱される。異能課の着ている防護服でさえ、千切れたり、破裂したりする。明らかな脅威だった。

 

数人の異能課が黒焦げになると、人数が減ったことで増えた隙を見計らい、男が壊れた壁に向かって走り始めた。残った異能課が後を追おうとすると、男はまた腕を伸ばした。

 

 

 

────妹のいる部屋に。

 

一際大きな音と光に耳と目を塞ぐ。再び目を開けると、そこは地獄だった。燃える家、倒れ伏す異能課。今の衝撃で保護膜が壊れ、一気に熱気が覆い被さる。保護膜の内側で一切焦げていなかった床も少しずつ熱されて、一歩進めば足の裏が火傷しそうだった。

 

私は動けなかった。妹のことで頭はいっぱいなのに、怖くて、一歩も動けなかった。男はいなくなっていたが、いつ戻ってくるともしれない。何より、天井すら所々剥がれて落ちている中で、私は本当に、死にたくなかった。

 

遠くからくぐもった声が聞こえた。私はハッとして、行かなきゃと思った。もうその頃には火が大きくなりすぎていた。震えながら立ち上がって、異能課のちぎれた防護服の欠片を足の裏に敷いて、擦りながら歩いた。天井から、パラパラと木屑と灰が落ちてくる。

 

妹の部屋に着いた時、私は泣きそうだった。何も見えない。色んなものが崩れて、妹がどこにいるか分からない。声を出そうとしても熱すぎて息が吸えなかった。無理やり呼ぼうとしても咳き込むことしか出来なかった。

 

「お姉ちゃん……」

 

妹は、足元にいた。倒れた棚の下敷きになって、身動きが取れずに苦しんでいる。火も、熱気も、もう耐えられない程だった。

 

私は、本当に、妹を助けたかった。

 

「お姉ちゃん……!」

 

無理だった。

 

私は妹を助けようとした。でもどうにも出来なかった。火が大きくて、熱くて、怖くて、死にたくなくて。最後には、妹を裏切った。

 

生き残った私はPSIを見込まれて異能課に保護された。私は戸籍等の手続きが終わればすぐに焼け落ちた家の残骸を調べるよう頼んだ。わずかな希望だった。妹が見つからないようにと何度も願った。どうか生きていますようにと何度も神に縋った。

 

でも、神は私を罰した。私の目の前に差し出されたのは、最低な姉に似つかわしい、最悪な現実だった。殆ど黒くなったピンク色の布切れ。妹が最期に着ていた服と同じ色。僅か数センチのそれが、それだけが、妹の生きた証だった。

 

 

私は、学校にも通える。妹は無理だ。

私は、今日十七歳になった。妹はなれなかった。

のうのうと、生きている。見捨てたのに。

 

異能課に認められた私のPSIは、忌々しい炎の力だった。

 

 

 

 




こういう関係性じゃないと興奮できない。
次回主人公視点です。
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