純粋な艦娘設定だったり、艦娘人間説だったり色んな設定がありますけど、じゃあ両方を混ぜたら?と言った感じで考えた作品です。
なお、今投稿してる作品よりも書き溜めが多いのは秘密()
あと残りの2作品も……プロットだけは実はちゃんと完結まで仕上がっていますので、少しばかりお待ちください(完結まで数十万から百万を超える想定だけど)。
「
今世、
僕には、前世の記憶がある。前世では特に山も谷もなくただ何も考えずに生きていただけの、本当に普通の男だった。とは言っても、23歳になってすぐの頃に事故にあって死んでしまったみたいだから、かなりの早死にをしてしまった訳ではあるのだが。
しかし、何故だか僕は転生してしまった。それももう一度、日本のような世界で。
生まれ変わりそのものにも驚いたが、何より僕が一番驚いたことといえば、僕自身の性別が前世とは変わってしまったことだろうか。
前世では顔も至って普通の男だったはずだが、今世では我ながらかなりの美少女になっている自負はある。と言っても、前世の記憶がはっきり残っているのもあって、別にモテたいだとかそんな考えは一切なかった。ましてや、未だに心の性別が男に寄っているのもあって、男と付き合うのは……正直なところ、躊躇しかないというのが僕の考えだったりする。
さて、そんな2度目の生を受けた僕が現在どうなっているのかというとだ。
「シズメ……」
現在、土手っ腹に穴あけられているのもあって、なるほど絶賛死にかけである。傍から見れば存外呑気だと思うかもしれないけど、勘違いしないで欲しい。そもそも僕は、生きたいとは思ってはいないんだから。
腹に風穴の空いた僕の姿を見て嘲笑を浮かべる真っ白な肌から機械的なごつい物体を生やした、まるでこの世のものとは思えない存在。深海棲艦と呼ばれている奴らは、この世界においては僕達人類にとっては不倶戴天の潜在敵であり、そして僕にとっては前世の記憶に存在するゲーム……「艦これ」という名のゲームに出てくるエネミーでもある。
とは言っても、深海棲艦が現れたのはまだつい3年ほど前のことでしかない。だからこそ、人類は深海棲艦に対抗するための術を
艦これにシナリオは存在しない。いや、厳密にはアニメはあるしスピンオフ作品であったり、また二次創作などはそれこそ数え切れない程あったが、本家本元であるゲームにシナリオはなかった。
だから、僕は気がつけなかった。深海棲艦が人類へともたらす損害の大きさを。そして、僕が実際に深海棲艦に遭遇してしまった場合の末路に。
痛む腹を左手で抑えながら、僕は立ち上がり……右手の連装砲を目前の深海棲艦、戦艦ル級へと向けると、弾丸を放った。
瞬間、油断していたル級は全く反応すらも出来ずに僕と同じ、いや、僕のものよりも大きな穴が胸元へと出来上がる。
「ハ?」
ぽかん、と惚けた表情のル級。我が身に起きたことが理解出来なかったのか、動くこともない。いや、どう考えてももう動けないだろう怪我を負っている僕が普通に反撃されたことに驚いているのか。
だけど生憎、僕には保険があった。きっと、永遠になくなることのない、地獄のような保険が。
胸のポケットから小さな何かモノが飛び出してくると、それはいきなり僕の周りを飛び回り始める。瞬間、小さな燐光を放ち始めたかと思うと……僕の腹の傷どころか、数多く存在したはずの全身の小さな傷までもが治っていた。
「ありがとうね、妖精さん」
『だいじょぶ、です!』
怪我を全て
心臓が撃ち抜かれようが頭を吹き飛ばされようが、どんな即死級のダメージであろうと、こんな風に蘇ってしまう。それが、僕自身が持っていないと思っていたはずの、唯一のチートだった。
一見無敵に見えるチートだが、これには致命的な欠陥がある。それは、怪我とは言っても命に関わるような怪我でないと治してくれないこと。何よりも、死ぬことが出来ないということだった。
死ななくなるのではなく、死ねなくなる。まるで、生き地獄のようだと、僕は後になって理解した。
僕は沈みかけているル級に努めて微笑みを返す。
「やっぱり、私はまだ死ねないみたいです。ごめんなさい」
そう言うと、ル級は恐怖で顔を歪める。
「ナゼ、ダ……ナンナンダ、キサマハ……!」
「ただの人間……いや、今はもう駆逐艦吹雪、か」
「ク……クチクカン、ゴトキニ!」
そこまで言ったところで、火薬の破裂する音が海上に鳴り響く。それと同時に、ル級の身体はもう動くことのない塊と化し、倒れ伏したその身は泡を発しながら海の底へと沈んで行った。
その様を見送る際の海面に映る僕の顔はまさに無といった表情であり、我ながら眼には何も映していないように見える。
「おやすみ」
最後に黙祷を捧げると、改めてレーダー、及びソナーを確認する。敵艦隊は恐らく今のル級が最後だろうが、だからといって増援が来ないとも限らない。まあ、ここが鎮守府近海であることを考えたら早々ないだろうが。
ひとまずは両方ともに敵影らしきものがないのは確認出来た……けど、逆に陸地の方からいくつかの何かが近付いてきているのが分かった。
位置関係からしても、十中八九、すぐ近くにある鎮守府に所属している艦娘の艦隊だろう。見つかる訳にはいかない僕は、迂回しながら早々に陸へと戻ることに決めた。
鎮守府側からすれば、僕は所属不明であり、野良の艦娘でしかない。ここで見つかってしまうと、艦娘である以上、半ば強制的に鎮守府に所属することだって考えられる。
それに何より、僕自身の
元々人間でありながらも、世界で唯一、人間を素体にして産まれた艦娘、それが僕だ。
──1年前、僕の住む街は、海沿いにあるというのもあり、深海棲艦の艦隊によって大規模な襲撃を受けた。
数千人単位の死人が発生し、人的にも、物資的にも絶大な被害を被った最悪な襲撃事件……それに、僕自身、更には両親までもが巻き込まれてしまった。
僕はあの日、死んだはずだった。爆発で手足が吹き飛び、もう動けないといった状況で助けられたんだ。妖精さんの手によって。
代償として人間としての生を失い、そして死すらも失くしてしまったが、艦娘として戦う力を得た……護るべきものが、もう居ないことにも気付かずに。
大襲撃を何とか凌ぎきった後、僕は親戚の叔父さんによって告げられた。妹は無事避難所に保護されたものの、父と母は行方不明者の一人である、と。暗に、もう死亡している可能性が高いと示唆しているようだった。
両親は、まだ帰ってきていない。
「今日も終われなかった……」
水上を滑走しながら、溜め息を吐く。分かってはいた。いつも試していることなんだから、死ねないことくらいは理解していた。
両親が居なくなってから、僕は自暴自棄になって何度も死のうと試みた……が、死ねない。
もう何十回と心臓を撃ち抜かれてみた。頭も吹き飛ばされた。溺れかけた。硝煙燻らせて焼かれてみた。自死は何故か妖精さんに止められて毎回出来やしない。
結局、数百と体験した死をもってしても、僕は死ねなかった。こうして毎度、単騎で海の上を航行するなんて無茶無謀、自殺行為としか思えないようなことをやっていても、最終的には普通に生還してしまうくらいには。
艦娘としてのスペックが無駄に高かったのも悪かった。相手が戦艦であったとしても、何故か僕の連装砲であれば、そこそこ以上のダメージを与えられる。機銃の命中精度も高く、レーダーやソナーも持っている。
だから、こうしてさっきのように本来なら有り得ない距離まで近付いてからインファイトをしかける、なんて戦法で戦艦を撃沈することすら出来てしまった。
気が付けば太陽も沈みかけている、というところで僕は3年前からすっかり人気のなくなった港へと降り立った。海に深海棲艦が蔓延るようになったせいで魚が寄り付かなくなり、漁業もままならないようになってしまったからだ。おかげで内陸での魚の養殖は盛んにはなったものの、それでも魚の金額が目が飛び出るほどに高くなったとかつてのお母さんが嘆いていたのを覚えている。
誰も居ないのを確認すると、僕は近くに目印をつけていた倉庫のシャッターを開き……隅の方に置いてあったバッグを開いて着替えを取り出した。
今の僕は、吹雪型駆逐艦の制服を着ている。これは別にどっかから支給されただとか、はたまた盗んだものとかそういうわけじゃなくて、この服装そのものが艤装の一種だからだ。
前世の艦これの二次創作ではよく色々な設定があったが、この世界では艦娘の艤装は展開すれば自動的に出現するようになっている。僕だって例外ではなく、私服を着たまま艤装の展開をしてしまうと、私服の上に制服を着込むような形になってしまい暑苦しいことこの上ない。
それに、制服とは違って私服は爆風とかで軽く吹き飛んでしまうから、着たままいけば帰りは制服のままか、ほぼ裸同然で帰らないといけなくなる。面倒だけど、着替えは必須なんだ。
艦娘は、艤装を解除してしまえば人とほとんど変わりはない。強いて言うなら身体的成長が人と違って全くないことくらいだけど、身体能力は完全に一般人のそれと同じになる。
だから、こうして僕はこの1年間
着替えを済ませると、駆け足気味で帰り道を急ぐ。幸いにも港へから家まではそこまで遠くはない。人の足でも、十数分といったところなので、歩いて帰ってもそんなに時間はかからない距離にある。なぜなら、今お世話になっている人の夫が、鎮守府関係者だからだ。
電気のついている家の前で止まると、軽く息を入れて両手で頬を揉む。今から、僕は笑顔を演じないといけない。前の、まだ両親と一緒に生きていた頃の僕をならないと……。
少しだけ表情を変える練習をしてから、僕は家の扉を開き、息を吸う。
「ただいま〜!」
そこそこ大きな声で挨拶をすると、どたばたと慌ただしい足音が響き渡る。まるで地ならしのような音を立てて二階から降りてきたのは、今年12歳になる妹の
「お姉ちゃん、お帰りなさい!」
「ありがとね、綾菜」
甘えるようにひっつく妹へと努めて笑顔を浮かべながら返し、軽く頭を撫でてからリビングへと向かう。そこには、すっかり夕飯の仕度を終えてご無沙汰になっていた様子の、親戚筋であり昔からよくお世話になっている叔母さん、
……というかこれ、もしかしなくても怒ってる?
「あら、お帰りなさい、優ちゃん。で、弁明は?」
「誠に申しわけございませんでした」
開口早々、修羅の如き笑みでそう言う和代さんに、僕はすぐさま土下座を敢行した。もちろん、なんの申し開きもしない。さっき時計を見た時に、和代さんに決められていた門限を軽く2時間もオーバーしていた。どう見ても僕が悪いからだ。
「……まあ、優ちゃんが無事ならそれでいいわね。今回は許します。けど、次からはちゃんと帰ってきてね?」
「はい。以後、気を付けます」
心配そうな、不安げな表情を浮かべて言う和代さんに、僕は真面目に返す。
和代さんは父が軍人なだけあって、艦娘や深海棲艦については一般人と比べたらそこそこ詳しい。夜になれば、スパイとして深海棲艦が近海までやってくることが度々あると、僕は今まで何度も聞かされてきた。だから、こうして門限をつけているのだと……港には行くなと、何度も言われてきた。
「じゃあ、優ちゃんも帰ってきたし、ご飯でも食べましょ。どうせ、あの人は今日も遅いだろうから」
笑顔でそう言う和代さんとはしゃぐ綾菜を見て、軽く胸に針を刺されたような痛みを感じていた。
和代さんに綾菜、それに和代さんの夫の叔父さんにも、僕が艦娘になったこと、そして毎週、休みの日に海に駆り出しては深海棲艦と戦っていることを知らない。
迷惑を掛けたくないといつも考えている僕が、死にたがっているなんて矛盾した感情を抱いていることは、誰にも言っていない。
死んだら悲しんでくれるかな?
死んだら泣いてくれるかな?
死んだら気も楽になるだろうか。
死んだらどこに行くんだろう。
また、転生でもするのかな。
「お姉ちゃん?」
考え込んでいると、隣に座っていた妹が咥え箸のまま不思議そうに覗き込んでいた。
なんでもない、とおまけに行儀の悪さを指摘してやると、綾菜はバツの悪そうな表情を浮かべて、再び食卓の料理へと手を伸ばし始める。
どうしてこんなに死にたがっているのか、僕自身でもよく分からないまま、明日から始まる学校に鬱屈しながら料理に手をつけるのだった。
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