元人間の吹雪は死にたがっている   作:香月燈火

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忘れてたけど、今回の作品も色んな視点混じりで書いていく予定です。
今回はシリアス薄め。


吹雪は学校に行きたくない

「うう……」

 

 

 嫌なアラームの音で目が覚めると、手ぐしで髪を整えながらすぐにアラームを止める。

 僕は、朝が弱い。めちゃくちゃ弱いってわけでもないけれど、少なくとも早起きが苦手なくらいには、起きるのが嫌いだ。

 

 

 渋々ながら布団から出ると、これから行く学校の女子用制服にブレザーを身につけて身だしなみを整える。前世が男だったのもあって、スカートには未だに抵抗がある。艤装を展開する時は吹雪型の制服を着てはいるけど、それとこれとは別だからね。あれは別に自分で着替えてる訳でもないし。

 今日から学校だと思うと、正直憂鬱だ。学生特有の、休日明けの感情もなくはないけど、何より僕自身が学校に行く意味を感じていない。

 中学校の勉強なんてまあ、結構忘れてることもあるけれど前世でほとんど学んだことだから一度聞いたらすぐに思い出せるし、この成績を将来に活かせるまで長生きする気がさらさらなかった。

 

 

 何より、学校に行くことで……僕が成長していないことに気付かれるのが嫌だった。艦娘は、一定の身長のまま体重も身長も一切増減しない。

 今はまだ分からなくても、1年、2年と経つうちに身体検査で身長や体重が変わっていないのはまずバレる。

 高校に行かないという選択肢はまずないだろう。いくらなんでもそれがまかり通るとは僕自身も思ってはいない。

 数年先のことを考えたって意味は無い、分かってはいるんだけど……。

 

 

「はぁ……」

 

 

 溜め息を吐きながら自分の部屋のある2階より階下へ下りると、和代さんが既に朝食の準備を終えて机に並べているところだった。おじさんが和食好きなのもあって、和代さんは普段から和食をよく作り、今日も例外ではなかった。

 

 

「和代さん、おはようございます」

「あら。優ちゃんも、おはよう……髪の毛がちょっと跳ねてるから、ついでに顔も洗ってらっしゃい」

 

 

 互いに顔を合わせて挨拶をすると、和代さんは苦笑を浮かべながら僕の頭を指さしていった。なんというか、分かってはいたけど霧吹きじゃ戻らなかったんだよね……毛質は明らかに直毛のはずなのに、昔からやたらと跳ねやすいのは何とかならないものか。

 僕は言われるがままに洗面所で髪を直し、顔も洗ってリビングに戻ると、丁度、妹の綾菜が目を擦り欠伸をしながら降りてきているところだった。

 

 

「おはよう、綾菜」

「あ、お姉ちゃん。おはよー」

 

 

 和代さんともおはようと挨拶してから、同じく顔を洗いに行った綾菜を少し待ってから3人揃って朝食を食べ始める。

 そんな折、和代さんは何かを思い出したように「あ」と短く声をあげた。

 何事かと思って見ていると。

 

 

「そうそう。今日、清五郎(せいごろう)さんが帰ってくるみたいよ?」

「え、おじさんが?」

 

 

 綾菜が驚いた表情で箸を止めた。清五郎さんというのは和代さんの夫で、現在単身赴任で働いている。

 と言っても、別に遠く離れたところで働いてるってわけではなく、単純に万が一の非常時に現場に絶対欠かせない存在だから帰ってくることが出来ないんだとか。

 すぐ近くにある鎮守府、そこの最高責任者であり、艦娘を指揮する提督が、何を隠そう、南雲清五郎一佐なのである。尤も、僕は提督が何故必要なのかも知らないんだけどね。

 

 

 かくいう僕も、もうすっかり1ヶ月は会っていない。それに、会ったのも鎮守府のすぐ近くでだ。それくらい、おじさんは忙しい。

 和代さんに、前に寂しくないかと聞いたんだけど、寂しいことには寂しいけど一応関係者ということで毎日会うことは出来ているらしく、また元気にやっているのも分かっているから安心している様子。横須賀はまだ他の基地と比べたら内地で、深海棲艦の襲撃も少ない方だからってのもあるのかもしれない……その割には、昨日ル級が近海までやって来ていたのは気がかりだったけど。

 

 

「だから、今日は早く帰ってきてね」

「分かった!」

「その、大丈夫なんですか? おじさんが帰ってきても」

 

 

 艦娘だって、別に命令を受けないと動けないわけじゃない。それに関しては僕自身で証明出来てるし、提督が1日で居ないからといって一晩で鎮守府壊滅、なんてことはまずないはずだ。

 じゃあなんで帰ってこれないの? って言われると、僕には分からないとしか言えない。

 だから不思議に思って聞いてみたわけ、なんだけど……。

 

 

「うーんと、別にあの人は帰ってこれないわけじゃないのよ? ただ、なんというか、いつも自分から何かをしようとするきらいがあるせいで、仕事を自分から増やす性格なのよねぇ……」

 

 

 和代さんは毎日のように執務室まで弁当を届けに行っているらしく、行く度に全く違う書類が山のように積まれているんだとか。

 ……ていうかそれ、中身見ちゃってない? 何も言われないってことは、大丈夫なのか? 

 

 

 ただまあ、理由としてはよく分かった。確かにおじさんは昔からよく世話を焼くタイプで、いつも率先して自ら動くような人だった。とてもいい人なのは違いないんだけど、提督になってからそれがワーカーホリックの方向性に行っちゃったってことか。

 

 

「真尋さんともよく……あっ、ご、ごめんね?」

「……いえ、大丈夫ですから」

 

 

 途中で話に飽きたのか、綾菜はテレビを見たままで和代さんの話を聞いていなかったみたいだ。

()()()()()()()()()()()()()が、実際僕はそんなに気にしていない。うん、まあ、ちょっと懐かしくはなったけどね。

 真尋(まひろ)というのはお父さんのことで、おじさんと同じく自衛官だった。というか、僕の両親は2人とも自衛官で、隊内恋愛だったとは聞いていた。

 艦これの世界で両親が自衛官、しかも海沿いで鎮守府もすぐ近くにあるなんて何処か作為的な臭いを感じなくもない。

 

 

「あ、お姉ちゃん! 時間!」

「時間? ……あっ」

 

 

 慌てる綾菜に言われて時計を見ると、時計の長針が5分を指していた。今の時間は8時5分で、いつも出る時間は今よりも10分早い55分。間に合うかどうかで言うと、間に合わなくもない……走ればだけど。

 僕は急いで残りを食べ終わると、器を少し寄せてからすぐに立ち上がった。

 なんで綾菜は今気付いて……ああ、そうか。綾菜はまだ小学生で僕の学校よりも近いから、いつも今くらいの時間に出てるのか。

 

 

「和代さん、ごめんなさい! 行ってきます!」

「行ってきまーす!」

 

 

 和代さんの返事も聞かずに僕達は家を飛び出した。

 

 

「綾菜も、気をつけてね!」

 

 

 綾菜の小学校と僕の中学校はまるで逆方向にあるから、家を出たらすぐに分かれる。そもそも僕は走らないとだから、同じ方向でも綾菜と一緒に登校なんて出来なかったけど! 

 今まで遅刻なんてしたこともなかったから、こあてっ焦って走るのも中々に久しぶりだ。それにしても、やっぱり艤装なしだともどかしく感じる。

 もういっそ、少しだけ艤装展開すればバレないのでは、なんてとんでもないことを考えていた時。

 

 

「あり? もしかして、優?」

 

 

 そこそこ程度の駆け足で走っていると、不意に僕の名前を呼ぶ声がした。

 その声の主は、直ぐに僕の横に合わせるように自転車をつける。

 少しだけ派手なメイクをしている少しギャルっぽい口調の彼女、僕の同級生であり1年生からの友達の一人でもある美波(みなみ)は、やっぱり優じゃんと珍しがっていた。

 

 

「遅れてくるなんて、何事? ていうか、大丈夫?」

「大丈夫じゃないかも」

 

 

 まだ疲れてはないけど、今が季節的にも真夏なだけあって、汗が凄い。流石の僕でも、汗だくで教室には入りたくはないし。

 

 

「ふーん……じゃ、後ろに乗る?」

「……乗る」

 

 

 僕がそう返すと、少しだけ驚いた様子を見せる。その後、笑みを浮かべて僕より前に出ると、自転車を止めた。

 

 

「明日は銃弾の雨が降りそうだねぇ……ほら、乗って」

「縁起でもないからねそれ……じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとね」

「良いって。優等生さまが、珍しいこともあるもんだねぇ」

 

 

 美波に言われるがままに自転車の後ろに乗ると、美波は揶揄うようにごちた後、自転車を漕ぎ始める。別にいいけど、結構時勢的にその冗談は危ないから僕以外には言わないで欲しいな。

 美波は一見したらギャルみたいな子なんだけど、結構空気を読むのが上手くて、常識的で礼儀正しい。今の二人乗りは置いとくとしてもなんだかんだ校則だって守るし、この自転車もちゃんと学校の許可をもらって登下校してるって前にも言ってたしね。いずれにせよ、僕にとってはかけがえのない友達の一人であり、ある意味では学校に行く理由そのものの一つと言っても過言ではないかもしれない。

 

 

 美波のおかげでそこそこ時間に余裕を持って無事学校に着いた僕達は、校門から少し離れたところでおろしてもらい、そこからは一緒に歩いて門を通る。

 いつもより少し遅い時間に着いたからか、普段来る時間よりも人が多い。いや、それにしても人が多いような……? 

 

 

「皆、おはよー!」

「みなみんおはよ……って、ゆーちゃんも一緒なの珍しいね。おはよう!」

「おはよう、はるちゃん」

 

 

 教室に入るなり、開口一番に大きな声を出す美波。クラスでもムードメーカーな立ち位置の美波にクラスメイト達がちらほらと返事を返しながらも、その中で一際身長の低い子、(はるか)ことはるちゃんがが美波の声に振り向いたかと思うと、隣の僕を見て不思議そうに目を瞬かせる。

 はるちゃんも美波と同様に1年生の時からの友達で、あとまだ居ない一人を合わせた4人で一緒に遊んでいることが多い。遊ぶとは言っても、基本学校で一緒に居るってくらいで学校の外で遊んだことはほとんどないから、正直申し訳なく思ってはいる。

 

 

 それはともかく、美波とは家の方向は同じだけど、美波の家は僕の家から学校までの距離の倍はあるから一緒に来ることはないから一緒に登下校はしないんだよねぇ。下校は一緒に出来なくもないけど、美波はバレー部に入ってるから帰宅部の僕とは時間の折が合わないし、僕自身も学校を出たら真っ直ぐ港まで時だってあるしね。

 

 

 

「あ、そうだ。ねね、みなみん達も志願のこと、もう聞いた?」

「志願?」

 

 

 何の志願だろう、と聞き覚えのない話に首を傾げると、何やら思い当たる節がある様子の美波はああ、と相槌を打った。

 

 

「それ、うちにも届いてたよー。なんだっけ……えーと、かんむすかしがん?」

「艦娘?」

 

 

 なんだろう、まだ詳細は知らないのに、猛烈に嫌な予感しかないんだけど……。

 

 

「そう! 昨日、そんな冊子が家に来ててねー? 今日家から持ってきたんだ!」

「ああ……」

 

 

 なるほど、通りで人が多いなと思ったら……改めて教室を見てみると、確かにはるちゃんの机の周りに人が集中しているように見える。

 

 

「ごめん、はるちゃん。私、まだそれ見てないから見せてもらってもいいかな?」

「そうなの? うん、いいよ」

 

 

 サムズアップを返すはるちゃんは、どいてとばかりに人をかき分けながら自分の席に戻ると、すぐに帰ってきた。

 

 

「はい、これね」

「ありがとう」

 

 

 はるちゃんに渡された数ページ分くらいの冊子を手に取ると、表紙の一文を見て頭を抱えたくなった。

 そこには「一般人の艦娘化志望者募集中。詳しくは冊子内部の要項、もしくはこちらの連絡先へ」と書いてあり、電話番号も添付されていた。




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