厚さ約20mmの液晶の向こうに、広大な世界が広がった。
僕がいるのは小さな部屋である。
けれどその画面を見つめることによって、世界を旅することができる。
人類はこれまで様々な文明の利器を産み出してきたが、
やはり昨今の情報化社会において"インターネット世界の創造"は別格のモノではないだろうか。
断言しよう。
僕がもし"この電子の世界"がこれ程までに楽しく刺激的な世界であると知らなかったら、きっと僕の人生は違ったモノになっていた。
校舎へと続く坂道を息を切らして登って行く。
道の両脇にはいかにも春らしく美しい桜が咲き誇っているけれど、今の私にはそんなものにかまけている暇は無い。
逸る気持ちを抑えつつ、坂を登りきって一息ついた。
この程度で疲れてしまうとは、運動不足かもしれない。
息が整って顔を上げると、一年間通ってすっかり見慣れた文月学園の校門の前に一人の大男ーー生活指導担当の西村教諭が立っていた。
「おはよう。紫桜(しおう)」
「お、おはようございます。西村先生」
野太い声で挨拶してくるこの先生が実はちょっと苦手だ。
別に悪い人じゃないし、生徒のこともよく見てくれてるし、良い先生だと思うけど。
この先生はトライアスロンをやっているらしく筋骨隆々で
顔もちょっと怖い。
私は背の順で並ぶと前から3番目辺りなので見下ろされている感が半端ないのだ。
「随分と早いな。お前が一番乗りだぞ」
「つい気持ちが焦ってしまって……」
まぁ、そんな先生の視線も気にならない程、今の私は緊張している。
何故なら。
「これがお前のクラスだ。ほら。受け取れ」
先生がたくさん封筒が入った箱から1枚の封筒を取り出して私に差し出した。
「ありがとう、ございます」
私はそれを震える手で受け取って、宛名の欄に『紫桜小鳥(しおう ことり)』と記名してあるのを確かめ、恐る恐る
開こうとする。
どうしてこんなにびくびくしているかというと、
この封筒に入っているクラス分け次第で、今後一年間の運命が決まってしまうからだ。
私の通っている文月学園(高等部)はとあるシステムを導入した世界的に有名な進学校であり、クラスは成績順でAからFまで分けられる。
AクラスとFクラスでは設備に雲泥の差があり、明確な格差が存在する。
私はとある理由により、何が何でもAクラスに入らなくてはならないので死ぬ程頑張って勉強して振り分け試験に臨んだのだ。
これで緊張しなかったら嘘である。
「紫桜」
「え、はい。なんでしょう」
私がのりづけが固すぎて開けられなかった封筒を代わりに開けてくれている最中の西村先生が話しかけてきた。
……ごめんなさい。苦手とか言っちゃって。
良い人でした。反省してる。
人を見かけで判断しちゃいけないよねっ!
「俺は正直、お前は良くてBクラス辺りだと思っていたんだ。去年の後期からは前期とは別人と疑う程とても努力していたのを加味してもだ」
胃の辺りが急に冷たくなる。
え?つまり、どういうこと。
西村先生が封筒を開いて中から取り出した紙を渡してくれた。
折りたたまれた紙をそっと開くと、そこには私のクラスが書いてあった。
「すまない、俺はお前の努力を見誤っていた」
『紫桜小鳥……Aクラス』
心の中で漢泣きした。
我が一生に悔いはなかった。
私が来てしまった時間は相当早かったらしく、憧れのAクラスの教室に入ってからもしばらく誰も来なかった。
一人でいる間、私は自分の席を探して座り、
個人個人に用意されていた設備に感動していた。
ーーより正確に言うとノートパソコンにテンション上がって頬ずりして自分好みに改造して、愛称も付けた。
たま2号。ちなみに1号はお家にあるノーパソだ。
やっぱりこのクラスに来てよかった。
今まで学校ではノーパソが無い苦行を味わっていたのだ。
ノーパソがあれば1日2日いや4日位食べなくても生きられるが、ノーパソが無ければ私は1日と持たずに死ぬ。
嘘じゃない。
怖すぎて実践したこと無いけど。
そう、私は周りには隠しているが重度のネット依存症。
趣味はサーフィン(ただしネットに限る)とか言えちゃう人なのだ。
まあ、Aクラスに来なくちゃいけなかった理由はもう一つあるんだけど。
今日の放課後のことを思うとつい頬が緩む。
そんなことを悶々と考えていたら他のクラスメイトも到着し始めたので、交流を深めた。
今までの友達はおそらくC〜Dクラス辺りに行ってしまったのだと思われる。
……ものの見事に知り合いが居なかった。
さ、寂しくなんかないやい。
友達は現地調達すればいいの!
虚しくなってきた。
ま、まあそれは置いといて。
Aクラスともなるとやっぱり真面目な子が多い。
驚くべきことにホームルームが始まるとお喋りを慎んで、担任になった高橋洋子先生の話を真剣に聞いている。
Aクラスの代表(学年トップの成績)になった霧島翔子さん(黒髪の和風っぽい美少女)に尊敬の念を抱きつつ、
彼女の代表としての挨拶を拝聴していた時だった。
ふと廊下側の窓の向こうから薄茶色の頭をした男子生徒がAクラスを覗き込んで百面相しているのに気がついた。
一瞬遅刻したAクラスの生徒かと思ったが、出席を取った時に誰一人欠席者は居なかったため、違うと分かった。
その生徒はすぐに立ち去ったのであとは気にも留めなかったが、今思えばこれが
私が彼ーー吉井明久を認識した最初の時だったのかもしれない。
作者にはネットの知識など微塵もありません。
完全に自己満足の小説なのでお見苦しい所が多々あるかと思います。
何か間違っている所や、誤字脱字などがあれば容赦無く指摘していただいて結構です。