性格は原作に割と近い。
「さあ、カヲルさん。私は約束通りにAクラス入りしましたよ!」
「なんてっこった。まさか本当にやってのけるとは……。いつだって人間を突き動かすのは浅ましい欲望ということかい」
なんてことを言うのだろうかこの妖怪ババアは。とても礼儀正しい私の親戚とは思えない。
「約束反故にするよ。この小娘が」
「すいませんでしたあああ!」
なんでこのババアは心が読めるのだろうか。妖術かな。
「わかった。アンタの大事な大事な“たま2号”は明日にはきっと東京湾の底さね」
「たまああぁ」
泣いて土下座したら許してくれた。
現在私が居るのは文月学園学園長室。
学園長である妖怪くそババア――もとい藤堂カヲル先生と向き合っている。
実は私は彼女の姪っ子で、小さいころからお世話になっているのだ。
この人がコンピューター分野に明るいせいで私のパソコン好きが確立されたといっても過言ではない。
そして私がAクラスに入ろうと思った原因もこの人にある。
―回想開始―
一年生の中間テストが終わった。
結果はまぁ、散々。
でもま、いっか。勉強なんて受験生になった時にやればいいのよ!
そんな風に余裕ぶっこいていたら、突然学園長室に呼び出された。
「アンタ、このままでいいと思ってるのかい?」
目の前で般若の形相をしているカヲルさん。
「……」
目を逸らす私。
なんだろう。今、目を合わせたら殺られる。
「普通の生徒にはここまで厳しく言わないけどね。
……アタシはアンタの両親からアンタが真っ当に生きれるように教育しろってしつこく頼まれてんだよ!
アタシだって嫌さ。学園長であるアタシの姪がこんなにバカだなんて!そりゃ、頑張った結果がコレだったらアタシだって諦めるよ。けど、この結果、明らかに勉強してないだろ!?」
下から数えて10番目。
紛うことなき底辺である。
「返す言葉もございません……」
項垂れる私は実はあんまり反省してなかった。
そりゃ文系科目はやってなかったし、
試験中寝ちゃって英語は0点だけども!
数学だけは100点近いし……。
今の時点でそんなに頑張んなくても良くない?
勉強なんかよりも私にはやるべきことがあるのだ。
「そーんなに、パソコンが好きかい。
勉強に支障をきたすくらい?」
「ええ、将来は素敵なパソコンと結婚するんです(真顔)。きゃっ、言っちゃった」
「何を馬鹿なことを……」
カヲルさんは疲れた顔をしている。
そんな顔をしても私は止まらない。
趣味に生きてやる!
「何でこんな風に育っちまったのか……はぁ。
どうしたもんかねぇ」
私が反省していないと悟ったのか
カヲルさんは窓の外を眺めながら溜息を吐いた。
――
さらに数日後。
再びin学園長室。
そしてまたもや私はカヲルさんと向かい合っている。
この前と違うことはカヲルさんが何かを完全に吹っ切ったような清々しい笑みを浮かべていることだけである。
くっ、この女何を企んでいる……。
警戒しながらも彼女の話に聞き耳を立てる。
「小鳥、アンタに試験召喚システムのメンテナンスを手伝ってもらうよ。来年から。ちょうど人手も足りなかったことだし」
はい!?
私の心臓の鼓動が速くなる。
しっ、試験召喚システム…!?
この文月学園では2年次から"試験召喚戦争"と呼ばれるクラス間の戦いが行われる。
学園長である藤堂カヲルさんが開発したコンピュータープログラムを用い、教師の立会いの下で、一番最近受けたテストの点数に比例する強さを持った自分の召喚獣を使って相手のクラスと戦う。
学力低下が嘆かれる昨今、生徒の勉強へのモチベーション向上のために提案された先進的な試みであり、
現在文月学園はその唯一の試験校である。
相手のクラス代表(そのクラスの最成績優秀者)を討ち取った方が勝ちとか、
勝ったクラスは負けたクラスと設備を交換できるとか色々あるけど、それは取り敢えず私的にはどうでもいい。
その戦争で使われるコンピュータープログラム――
"試験召喚システム"。
科学とオカルトと偶然により奇跡みたいに産み出されたそれは私の心を惹きつけてやまない。
成績によって決まる強さ、相手の点数を削って0点にした方が勝ち、ここら辺はまだいい。
どこのゲームにもよくあることだ。
でも教師の立会いの下でなら校内のどこでも召喚できるところや、召喚獣自身が生徒の一人一人の特徴すら良く表しているところはどれだけの容量を持ったPCが使われているのか想像するのも難しいし、
それに何より一体どうやったらただのホログラムでしかないはずの召喚獣が現実世界へ物理的に干渉できるようになるのか。
物理干渉は教師だけの特権のようだが、気になって気になってしょうがない。
一度我慢できなくなってシステムの中枢にハッキングかけたこともあったのだが、あっさり見つかって死ぬ程怒られた。
しかしダメといわれると知りたくなってしまうのが人間の性なのだ。
何が言いたいかというとつまり。今や私の試験召喚システムへの関心は大変なことになっていて、メンテナンスを手伝わせてくれるなんて願ったり叶ったりである。
でも一体何故?
この前カヲルさんは私の成績について怒っていたはずなのに。
「ただし、条件がある」
「?」
そんな私の心を読んだかのように、カヲルさんはにやりと笑った。
「アンタが次の振り分け試験でAクラスに入ること、これが条件だ」
そういうことか。
ようやく合点がいった私もにっこりと満面の笑みで笑い返す。
「約束、忘れないで下さいよ。
絶対入ってみせますから!」
この後めちゃくちゃ勉強した。
―回想終了―
長かった。思えば地獄の日々だった。
それも今日で報われる。努力すると結果は付いてくるものなんだな。
全てを達観したような表情を浮かべていると、カヲルさんが諦めたように肩を竦めた。
「あの底辺の学力から本当に入るとは思ってなかったんだけどねぇ。約束は約束だ」
すわ本題かっ!と思い、目をかっ開いてカヲルさんを凝視する。
「これからアンタが試験召喚システムのメンテナンスをするのはある人物の手伝いという形でだ」
「え?カヲルさんの手伝いじゃないんですか」
「ああ。試験召喚システムはアタシ1人で作ったものじゃないんだよ。プロジェクトチームがあったのさ。
アタシの他にもう1人、試験召喚システムの開発に関わった者がこの学校にいてね。小鳥、アンタには奴の手伝いをしてもらうことになった」
その時タイミングを見計らったように学園長室の扉がノックされた。
「吉井明久です」
扉の向こうからくぐもった声が聞こえた。
聞き覚えのない声。けれど名前だけは聞き覚えがある。
この学園では有名なバ――観察処分者の人。
そして物理干渉できる召喚獣を持っているということで私が密かに羨んできた人物でもある。顔は知らないけど。
「入りな」
というカヲルさんの声に開く扉。
「失礼しまーす」
現れたのは間の抜けた声に薄茶色の髪の男子生徒……って今朝見かけた教室覗いてた人じゃない?
それに何かよく見るとボロボロな格好をしている。
「アンタ、何て格好してんだい」
カヲルさんも絶句している。
「あはは……これはちょっとDクラスに宣戦布告したらこうなって」
「そういえば、アンタ達Fクラスは新学期早々"試召戦争"を始めたようだね。全く問題ばかり起こしよって」
「別にルール違反じゃないし、いいじゃないですか。
それに今日は宣戦布告しただけ。本格的な戦争は明日ですよ」
Fクラスといえば本来ならば私が入っていたはずのクラスで
バカの巣窟だと聞く。
やっぱり観察処分者――学校側から問題有りと指摘され、
個別指導を受ける生徒――の人はバカなのか。
などと思っていると、
「それで、藤堂さん。この子が件の紫桜小鳥さん?」
いきなり私の名前が呼ばれた。
「そうさ。小鳥、こいつがアンタが手伝いをするもう1人の開発者だよ」
そう言って観察処分者の人、もとい吉井くんを指差し……ってはい?
「藤堂さん、人のこと指差しちゃいけないって習わなかったんですか」
「ここでは、アタシがルールさね」
「んな、横暴な……」
「ってちょっと待って!い、今すごいことカミングアウトされた気がするんだけど!?」
私の耳がおかしいのかな!
「聞き間違いじゃなければ……この、えっと吉井くんが試験召喚システムの開発者だって」
「聞き間違いじゃないさね」
「嘘でしょ!?」
私はじっと吉井くんを眺める。
「え、え?何?」
吉井くんが戸惑った声を上げた。
しかし、見れば見るほど普通の男子生徒だ。
試験召喚システムを作り上げるような、そんな凄い人物には見えない。
ましてやこの人は観察処分者。
学園から問題児というレッテルを貼られているような人なのだ。
「本当に…?」
知らず疑わしげな声が出る。
「ほ、本当だってば!」
吉井くんが慌てて首を縦に振った。
見つめ合う私と吉井くんに埒が明かないと思ったのかカヲルさんが割って入ってきた。
「吉井は12歳の時にアタシ達のプロジェクトチーム入りしてね。最初はこんなに小さな子供が、と思ったが実力は確かだよ。最終的に試験召喚システムが実用に持ち込めたのは吉井の貢献が大きいといえる。
観察処分者なんて称号が与えられたのは普段の素行もあるけど、生徒の身分で物理干渉できる召喚獣を使う口実でもあるからねぇ」
その説明に私は口を閉ざした。
「わ、分かってくれた?」
吉井くんがほっとした声を上げたのも束の間、
私は彼の足元に恭しく跪いてその手を握りしめた。
「え!?紫桜さん!?」
「お見それしました!!そんな素晴らしい方だとは存ぜず失礼な態度を!すみませんでした!」
深々と頭を下げる。この人凄い人だ。神だ。
そんな月並みな感想しか出てこない程今の私は感動している!
自分と歳も変わらないのにあの試験召喚システムを開発してしまうとは……。
天才怖い…!!
あれ、目から塩水が。
「や、止めてよ、泣かないで!こんなとこ誰かに見られたら!!」
「くっ、私は紫桜小鳥といいます!!弟子入りさせてください!」
「知ってるっ……て、弟子入り!?」
「次から師匠と呼びます。師匠!!」
「誰が師匠だ!?ちょ、紫桜さん。マジ泣きしてる!」
「泣いてないれすよぉ〜!」
「嘘だ、鼻水垂れてるし!藤堂さん、どうにかし……て?え?」
師匠(確定)の声につられて私は顔を上げた。
学園長室にはもう1人、人が増えていた。
扉を開けたまま立ち尽くしているその人は……。
「げっ、鉄っ西村先生。い、いやちがうんです!誤解ですよ!?」
生活指導の鬼、鉄人こと西村先生。
「吉井……またお前か」
おどろおどろしい声を上げ、ゆらりとこちらに近寄ってくる。
何をそんなに怒っているんだろう。
泣いてぼうっとした頭で考える。
状況:師匠に跪く私。
泣いている私。
結論:完全に師匠が私を跪かせた挙句泣かせている。
わぉ。
これは……私のせいで師匠大ピンチ?
「学園長。これは一体、どういうことですか?」
西村先生がカヲルさんに確認をとる。
ほっ、良かった。カヲルさんはきっと師匠の釈明をしてくれるはず!
「見ての通りさね」
「カヲルさぁあん!?」
な、なんなのこのくそババア!
何故師匠を助けないのか!
「そうですか……吉井。ちょっと補習室へ来なさい。」
威圧感たっぷりの声で西村先生は師匠に告げた。
「い、いや本当に誤解なんですって!」
くっ、ここは弟子(自称)の私がお助けせねば!
「や、やい。鉄人!師匠を連れて行くのならば私を倒してからにしろ!」
そう私が叫ぶと西村先生は驚いたように目を見張って、
「紫桜。錯乱しているのか……いやでもその言葉使いはいただけない。お前も補習室へ来い」
結局、補習室へ連れてかれた。解せぬ。
後から聞いた話だが、カヲルさんが師匠を庇わなかったのは師匠がカヲルさん以外の他の先生に自分の正体?を隠しているからだそうだ。
なんでも普通の高校時代を送りたいらしい。
観察処分者になってる時点でその夢は半分潰えているような気もするけど。
――こうして私達の試験召喚システムを巡る日常は始まった。