非日常怪異譚   作:おどおど

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第3話「かつて暮らした月並町」

【とある一軒家 2階 部屋】

 

 

 

「はぁ…。」

 

 月並町から遠く離れた町に、高校1年生、加藤里奈(かとうりな)は住んでいる。彼女は半年前、父の転勤の関係で月並町から引っ越してきた少女である。

 

彼女は明るく誰とでも仲良くなれる性格なので、見知らぬ町での生活に不安は無かった。

 

それに彼女の生きる糧には2人の幼馴染の存在があった。生まれ育った月並町、通った小学校で出会った少女2人。小中の9年間、一緒にいた3人はかけがえのない親友となっていた。

 

中学卒業と共に離れてしまったが,その後もLINEグループで連絡を取り合った。

 

幼馴染2人が送ってくる写真やメッセージは、加藤里奈の幸せの源だった。

 

だが…

 

 

「(数日前から2人の既読が付かない。メッセージも来ない。電話も出ない。なんで…。)」

 

ほぼ毎日連絡を取り合っていた幼馴染2人と連絡が取れなくなった。

 

「(思えば2週間前から変だった。ここちゃんが体調不良だからLINEができないと突然莉世ちゃんが言い出した。急だったから違和感あったけど私は触れなかった。それからのお喋りでの莉世ちゃんはどこか上の空というか…考え事をしてる感じだった。

 

そして数日前、莉世ちゃんも…。今度はぱったり、前振りもなく。絶対おかしい。大丈夫なの…?)」

 

 

 

加藤里奈は彼女の自室の勉強机で頭を抱えていた。すると、彼女の部屋の扉がノックされる。

 

 

 

『里奈、晩御飯ができたそうじゃぞ!ん?どうかしたのか?』

 

「あ…おじいちゃん。」

 

 

 

加藤里奈の祖父、加藤安寿(かとうあんじゅ)が部屋に入ってくる。彼は截拳道ジークンドーを50年極め、引退した後も講演会を様々な場所で開催し截拳道を広めている元気なおじいちゃんである。

 

彼女は信頼している祖父に自身の不安を伝えた。

 

 

 

『あぁあの仲良くしとった元気な2人か。そうか…連絡が無いのは不安じゃな。』

 

「とっても心配なの…どうしよう。」

 

『うむ…そういえば儂らやその2人が住んどったのは月並町だったかの?』

 

「そうだよ。」

 

『そうじゃ!来週行く講演会の場所が月並中央体育館だったわ。里奈、休みならおじいちゃんと一緒に行かんか?』

 

「行く!」

 

 

 

2人に会えるかもしれない。彼女は期待に胸を膨らませた。

 

 

 

『いまの内に準備しとくじゃぞ。』

 

「うん!ありがとうおじいちゃん!」

 

『必要なのは水筒とタオルと弁当と…、あのお守りは忘れるではないぞ?』

 

「わかってるよ。鞄につけとくよ。」

 

『軽く思ってないか?あの純白のお守りは、儂の曾祖母が作り上げた傑作。当時伝説の祓魔師と呼ばれた曾祖母の力を儂は引き継ぐことはできんかったが…そのお守りに秘められた力は未だ健在で汚れ1つ付かないと…。』

 

「おじいちゃん!その話はもう何十回と聞いたよ。聞きすぎて耳にこびりついてる。」

 

『そうか?』

 

 

嬉しさがこみ上げた彼女は、晩御飯を忘れ準備に取り掛かった。

 

 

 

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【翌週 電車の中 9:00】

 

 

 

次は~月並町中央公園~月並町中央公園~

 

 

 

『着きそうじゃぞ、里奈。』

 

 

 

 加藤安寿は肩にもたれかかって寝ている加藤里奈を起こす。外の風景を見た彼女は幼馴染との思い出を思い浮かべ懐かしんだ。

 

 

「(久々に会える、2人に。元気かな?大丈夫かな?また一緒に遊びたいな。)」

 

 

 

 電車の扉の前に立つ彼女はそわそわしている。そんな彼女をよそに電車はゆっくりと減速していく。停車しドアが完全に開くのを確認した彼女は、目の前に見えるかつて通った高校、月並中央高校を懐かしむ。そして、息を飲み一歩踏み出した。

 

 

 

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【加藤里奈の部屋】

 

 

 

 目を開けた彼女が周囲を見渡すと、自分が部屋にいることに気付く。机にある時計を確認すると時刻は18:00を指していた。

 

 

「(なんで?私は部屋にいるの?どうして電車を降りた後の記憶が無いの。おかしい。そうだ、おじいちゃんはどこ?)」

彼女は急いで階段を駆け下りてリビングに向かう。リビングの椅子には安寿が目を瞑っていた。彼女の呼ぶ声で安寿は目を覚まし大きな欠伸をする。

 

 

『里奈か…はて?ここは家か。』

 

「おじいちゃん!私たちあの町に行ったよね?覚えてる?」

 

『うむ…講演会をしに行ったはずじゃが…思い出せぬ。』

 

「そうだよね!おかしいよ。そうだ、講演会に行ったんなら写真撮られたよね?」

 

 

 

 里奈はスマホで月並中央体育館のホームページを見る。

 

 加藤安寿氏の截拳道講演会というページには、安寿が截拳道の歴史を語ったり小学生相手に手合わせしたりしている時の写真が載っている。

 

 

 

「写真がある…。」

 

 

 

 絶句する里奈をよそに安寿は寝息をたてている。

 

 

 

「(あの町に何が起こっているの…。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

【数日後 電車内】

 

 

 

 次は~月並町中央公園~月並町中央公園~

 

 

 

 時刻は10:00、加藤里奈は席に座り電車に揺られていた。学校が無い休日、彼女は再びあの町に向かっていた。あの謎を解明するために。そして、幼馴染に会うために。

 

電車が減速し始めたと同時に彼女はスマホの動画撮影をスタートさせる。

 

「(町にいた時間の記憶が無いなら…動画で記録を残してやる。)」

 

扉が開き、彼女はゆっくりと降りる。

彼女の目は、幼馴染との再会に燃えていた。

 

 

 

__________________

 

 

 

 

【加藤里奈の部屋】

 

 

 

 閉じていた目を開いた彼女に映ったのは自身の部屋だった。彼女は、部屋の中心で棒立ちしていた。

 

 

 

「(やっぱり…あの町にいた記憶が無い…でも!)」

 

 

 

机の上のスマホを手に取る。動画フォルダの最初には見覚えのない動画が1つ。

 

 

 

「(これだ…。)」

 

 

 

 息を飲み、彼女は再生ボタンを押した。

 

 

 

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【動画 {電車内}】

 

 

 

 両手に抱えていたスマホが最初に映したのは電車のドアが開く所だった。ドアの向こう側には月並町の風景が見える。小声で「よしっ。」と言ったスマホの背後にいた彼女は前進し電車を降りた。すると、映像にノイズが走ると同時に風景を映したままフリーズする。

 

しかし、再生は続いている。

 

 

 

「(まだ半分以上は映像が残ってる。何が始まるの?)」

 

 

 

 数秒後に一瞬のノイズが起こると、目の前の高校の校門付近に2つの人影のようなものが揺らめく。その2つの人影は彼女、加藤里奈にとって大切な2人だった。

 

 

 

「ここちゃん!莉世ちゃん!」

 

 

 

 会いたかった幼馴染2人の姿を見て彼女は部屋で叫んだ。だが、その声は2人に届かない。

 

 

 

『り…な…。りな。』

 

 

 

 音声が入った。聞き覚えのある声だった。

 

 

 

『連絡…できなくてごめんね。会いに来てくれてありがとう。でも…。』

 

『私たちはもう一緒に遊べない。本当にごめん。』

 

 

 

幼馴染2人の背後にどす黒い何かが迫っている。

 

その何かは波のように動き2人を飲み込むように大きくなっていた。

 

 

 

「ここちゃん!莉世ちゃん!行かないで!また一緒に遊びたいっお話したいっ。また…3人で!」

 

 

 

泣き叫ぶ里奈。映像の2人の目からも涙が出ていた。背後の黒い波は2人の頭上まで近づいている。

 

 

『泣いちゃダメだよ、里奈。里奈の太陽みたいな笑顔、私たちに見せて。』

 

『会えないけど…私たちはずっと遠くから見てるから悲しまないで!ね?約束!』

 

「うんっ…わかった。約束!」

 

 

部屋にいる彼女は涙を拭い満面の笑みを見せる。

 

 

『りなの持ってるお守り、絶対無くしちゃだめだよ!』

 

『あ!あとこの町にはもう二度と来ちゃダメ!この町は…。』

 

 

 

2人は黒い波に飲み込まれ見れなくなった。

 

そこで動画は終わっている。

 

 

 

 

 

end

 




 ■人物紹介

 ◆加藤里奈

 中学校生活が終わるまで月並町で過ごす。父の転勤を理由にそれ以降は月並町から遠く離れた町に住んでいる高校1年生。月並町で暮らす犬糸ここ、花端莉世は大切な幼馴染みである。幼馴染との連絡不通を機にかつて暮らした月並町を訪れ怪異に襲われる。

 彼女が持つ能力は「会いたい人物をその人物と思い入れのある場所で強く願うことで、映像機器や通信機器にその人物を出現させる」である。

例えば、スマホを片手に強く願えばその人物と通話できる。また、動画を撮影した場合、会話は不可能だが、相手のメッセージを動画で見ることができる。これらの出現は1人につき1回しかできず、対象の相手が生者では出現しない。

彼女は、自身がこの能力を持っていることに気付いていない。

 

◆黒い波

 月並町に蔓延る謎の黒い存在。波のように動くが中には夥しい程の何かがいる。不思議な能力を持つ人間を餌として探しているようだが理由は不明。人間の絶望を理解する知性がある。

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