とある技師と神姫の物語   作:グレイ雪風

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chapter01

 ショックポイントの中にいた。

 今から200年以上前の艦"テラ・ノヴァ"が、ショックポイントを通して地球へ向かっていた。

 操縦席にいるのは、元CECのエンジニアで、Marker Killerと呼ばれているアイザック・クラークという男性で、その隣にいるのは、地球政府軍の最後の軍人ジョン・カーヴァー軍曹だった。

 彼らは、停止し損ねたThe Moonが地球へ向かっていると知り、そのことを一刻も早く知らせるために、The Moonよりも先に地球へ帰還しようとしていた。

「おい、カーヴァー!もうすぐだ。」

 アイザックは、隣にいるカーヴァーにそう伝えた。

「俺達はやったのか?」

「ああ。」

「信じられないぜ・・・」

 カーヴァーは夢でも見てるような気分だった。

≪地球圏へのショックアウトまで、3・・・2・・・1・・・≫

 ちょうどその時に、システムからショックアウトのアナウンスが流れた。それと同時に、2人を乗せたテラ・ノヴァはショックポイントを抜け、地球圏に出た。

 ちょうど目の前に、人類の故郷、地球が見えた。

 アイザックはすぐさま地球軌道管制官に連絡を取った。

「地球軌道管制官、こちらCMS テラ・ノヴァ搭乗のアイザック・クラーク。着陸許可を願う。どうぞ。」

 しかし、通信機から聞こえたのはノイズだけだった。

「適切な通信チャンネルを使っているのか?コイツは200年以上前の艦だぞ。」

 隣に座っていたカーヴァーがアイザックのいる操縦席に歩み寄る。

「ああ、正しく切り替えた・・・信じてくれ。信じてくれ、これで正しい。」

 アイザックは正しい通信チャンネルに切り替えながら言った。

「地球政府司令部、こちらジョン・カーヴァー軍曹だ、応答願う。誰かいないのか?」

 カーヴァーはもう一つの通信機で地球政府司令部に連絡を取った。だが、そこからはノイズしか聞こえなかった。

「おかしいな・・・」

 アイザックは再び通信チャンネルを切り替えた。

「連合採掘周波数帯、聞こえるか?」

 聞こえるのはノイズだけだった。

「月面航宙管制、こちらCMS テラ・ノヴァ。誰か聞こえていないのか!?」

 アイザックはさらに通信チャンネルを切り替えて呼びかけたが、結果は変わらなかった。しかも、よく耳を澄ますと悲鳴のようなものが聞こえてきた。

 アイザックとカーヴァーはお互いを見合わせた。その次の瞬間、聞き覚えのある鳴き声が響いた。

 2人が前を見ると、そこには地球に接触しているThe Moonの姿があった。

「なんてことだ・・・」

「ああ・・・」

 そう言った直後、2人を頭痛と耳鳴りが襲った。

 

 

 

 

「う・・・」

 気が付くと、アイザックはベッドの上に寝かされていた。

 アイザックはその状態のまま辺りを見回した。

 ベッドは部屋の一角に置かれており、そこから見て左側には机があった。他にも液晶テレビや小型のテーブル、本棚やショーケースなどの家具が置かれ、奥にはキッチンが見えた。床には女の子らしいカーペットが敷かれていた。

 見たところ、ここはマンションの中のようだった。アイザックの寝ているベッドの近くには、1人の女性が椅子に座ったまま寝ていた。どうやらここの主のようだ。

 しかし、一体誰が自分をここまで運んだのだろうとアイザックは思った。見るからにこの女性1人ではとてもアイザックの体を背負えるようには見えなかった。だとすれば、ここにアイザックを運び込んだのは別の人間ということになるのだが、それよりも、今、自分がどこに居るのかが知りたかった。そして、自分が気絶してからどれくらい経ったのか、地球はどうなったのかなど、気になることがたくさんあった。

「あ、目が覚めたようですね。」

 突然、アイザックの目の前に少女の顔が映った。

「!?」

 アイザックは驚いて体を起こした。その勢いで、少女は床に落ちた。

「痛たたた・・・」

「な、何なんだお前は・・・」

 アイザックは頭を抱えて起き上がる少女を見てそう言った。

 その少女は、なんと全長約15cmくらいのフィギュアだった。しかも、それが自分で動いている上に喋っていた。アイザックが知っている限り、こんな独りでに動くフィギュアは聞いたこともなかった。

「何なんだって・・・あなたは、神姫をご存じないんですか?」

「神姫?」

 アイザックが聞き返そうとした時、ベッドの側で椅子に座ったまま寝ていた女性が目を覚ました。

「ん・・・おはよう、リッキィ。」

「おはようございます。彼、目が覚めましたよ。」

「本当!?良かった・・・」

 その女性はアイザックが起きたことを聞いて安心した様子だった。

「えっと、君は?」

 アイザックは女性に尋ねた。

「あ、そういえば自己紹介がまだだったわね。私は永山早苗。この子は私の神姫、リッキィよ。あなたは?」

「俺はアイザック・・・アイザック・クラークだ。」

「アイザックね。傷の具合はどう?」

 それを聞いて、アイザックは体中に包帯が巻かれていることに気が付いた。神姫と呼ばれるもののことや状況の変化によって混乱していたため、傷の痛みにすら気づいていなかった。

「君が手当てしてくれたのか?」

「いいえ、手当てをしたのはリッキィよ。」

「君が!?」

 アイザックは驚いてリッキィのほうを見る。自分はほぼ全身を怪我しているのに対し、その治療をこんな小さな"神姫"と呼ばれるフィギュアがこなせるということを、アイザックは信じられなかった。

「はい、大変だったんですよ。」

「すまないな・・・こんなに小さい体でそんなことをさせてしまって────」

「良いんですよ。それよりも、今はじっとしていて下さい。重傷を負っているんですから・・・」

「あ、ああ。だが、その前に色々と聞きたいことがあるんだ。」

 アイザックは早苗の方を向いて言った。

「・・・私?あら、何かしら?私もあなたに聞きたいことが沢山あるのだけど・・・」

 アイザックは、まず、神姫のことについて訊いた。

 早苗の話によると、神姫とは、人間の補佐の為に開発された小型ロボットで、CSC(Core Setup Chip)と呼ばれる独立機動システムにより、知性と感情を持ち、マスターである人間に尽くし、仕えるパートナーと言える存在らしい。

 そして、その神姫に武器や装甲などを装備させて他の神姫と戦わせ、人によっては名誉の為に、強さの証明の為に、あるいは単純に勝利の為だけに"神姫バトル"をするマスターが多く、そんなマスターに従い、武装して戦いに赴く神姫を"武装神姫"とも呼ぶらしかった。

 神姫にはいくつか種類があり、マスターとなる人間は、外観や性能などを見て自分の神姫を選ぶようだ。ちなみに、早苗が持っているリッキィはハウリン型と呼ばれるものらしい。その他に、神姫の専門店や大会の事、ここがスペースコロニーだということを、早苗から聞いた。

「・・・ということなんだけど、理解して貰えたかしら?」

「ああ、大体はな・・・それよりも、君は、もしかすると────」

「あ、分かっちゃったかしら?私、目が見えないの。」

「やっぱりか、さっきから瞳を閉じたまま話しているから不自然に思ったんだが・・・」

「昔、事故で視力を失ってしまったの。それからは、リッキィに介助してもらいながら生活するようになったんだけどね・・・」

「大変そうだな。」

 アイザックはリッキィの方を見ながら言った。

「本当ですよ・・・普段は私が障害物にぶつからないように気をつけているんですが、早苗さん、私が居ないときにも1人でふらふら歩き回っちゃうんです。」

「よくもそんな危険な真似が出来るもんだ・・・」

「早苗さんは好奇心旺盛ですから。」

 アイザックはその話から、2人の日常が大体想像出来た。

「もう、人をしつけの悪いペットみたいに言わないでよね!仮にも私はあなたのマスターなのよ?」

「それなら、もっとマスターらしくして下さい!」

 アイザックはそんな2人を見て、思わず笑ってしまった。

「な、何がおかしいんですか!?」

「いや、すまない。仲が良いんだなと思ってな。」

「そうだわ、あなたのことについても話して貰えるかしら?」

 早苗は話を戻して、今度はアイザックのことについて尋ねた。

 アイザックは、早苗とリッキィにこれまでの経緯を打ち明けた。全ての始まりと言えるUSG石村とAegis7のことから、タイタンステーション、タウ・ヴォランティスのことまで全て話した。そして、全ての元凶であるMarkerやそれによって死体から生み出されるネクロモーフのことや、Markerを人類の救いの遺物と信じているユニトロジー信者のこと、自分がMarkerを破壊できる唯一の人間であることも打ち明けた。

 その話を聞いていた2人は、驚きを隠せない様子だった。

「なるほど、あなたの事情も大体分かったわ。」

 早苗は意外にも、アイザックの話を受け入れたようだ。しかし、

「でも、1つおかしいところがあるわ。」

「おかしいところ?」

 アイザックは聞き返した。

「ええ。あなたは、今が何年だかわかる?」

「分からない・・・そもそも、俺がどれくらいの間、気を失っていたのかすらわからないからな。」

「2048年よ。」

「2048年!?」

 それはつまり、アイザックがいた2514年よりも約400年も前の時代にいることを表していた。

「あなたの言っていることが本当なら、The Moonっていうのが地球に来ているところを目撃した瞬間、何らかの経緯でこの時代にタイムスリップしたことになるわね。」

「まさか、俺が生まれる400年も前に来るなんてな・・・」

 その時、アイザックは一緒にいたカーヴァーのことが気に掛かった。

「そうだ・・・早苗、俺を何処で見つけたんだ?」

「えっと、確か・・・」

「神姫ショップの裏路地辺りです。」

 リッキィが早苗に代わって答えた。

「そこに倒れていたのは、俺だけだったか!?」

「はい、そこにはアイザックさん以外、誰も居ませんでしたが・・・」

「・・・そうか。」

 アイザックは、それを聞いてほっとしたようでそうでないような複雑な心境になった。

 それはつまり、カーヴァーはここに居ないということだ。もし、カーヴァーも一緒にいたのなら、今頃自分と一緒に早苗とリッキィに保護されている筈だし、発見される前に意識が戻ったなら、きっと自分を置いて行くことはしないだろう。最低でも叩き起こすくらいはしている筈だ。

「どうかしたんですか?」

 リッキィはアイザックの表情を伺った。

「いや、何でもないんだ。・・・そうだ、俺のスーツは何処だ?」

「スーツ?・・・ああ、あれのことですか?」

 リッキィが指した先に、2着のスーツが置かれていた。

 そのうちの一つは、ここに来るまで着ていたセキュリティ・スーツで、何やらコードのようなものが繋げてあった。もう一つは、中に着ていた私服のRIGスーツだった。

「何かコードのようなものが繋がっているんだが?」

「ええ、スーツの脱がし方がよく分からなかったし、所々機械でロックされていたものだから、ハッキングしてロックしている箇所を外して脱がしたわ。」

「ハッキングしただって!?」

 アイザックは早苗の言ったことに驚いた。

「ええ、何せあなたは重傷を負っていたんだもの。治療しなきゃいけなかったのだから、そうする以外方法が無かったわ。心配しなくても、脱がせた後で、プログラムは元に戻しておいたから。」

「いや、そんなことより、君はハッキングなんて出来るのか!?失明してると言うのに・・・」

「視力を失う前は結構やり手のプログラマーだったのよ。自分で言うのも何だけどね・・・」

「そうなのか・・・凄いな、君は。」

 アイザックはそんな早苗に感心した。

 2人が話している最中、時計を見たリッキィが慌てた。

「さ、早苗さん!こんなことしている場合じゃないですよ!今日は私の定期メンテナンスの日ですよ!もう12時をとうに過ぎてます!」

「大変、もうそんな時間だったの!?」

 神姫には、車などと同じように定期検査の日が決まっており、ちょうどこの日がリッキィの定期メンテナンスの日だった。

「アイザックさん、私たちが留守の間、安静にしていて下さいね!あと、冷蔵庫にサンドイッチがありますので、もし、お腹が空きましたら食べて下さい。」

「あ、ああ。」

 リッキィはアイザックにそう言いながら、大急ぎで外出の支度をした。

「話はまた帰って来てから聞かせて頂くわ。・・・そうだ、あなた服とか今着ているのとあのスーツ2着しかないでしょう?帰りに幾つか買って来るわ。」

「行きますよ、早苗さん!」

 リッキィが早苗の肩に跳び乗ると、2人は玄関から外へ出て行った。

 アイザックは2人が出掛けてから少しして、リッキィが言っていたサンドイッチを冷蔵庫から取り出した。皿に乗っている3つのうちの1つを手に取り、一口かじる。アイザックにとって、今までで一番旨かった。

 彼のいた時代には、自然食品は殆ど無かったため、このサンドイッチに使われているレタスやハム、トマトが妙に美味しく感じた。

 サンドイッチを3つとも全て食べ終わると、リッキィの言いつけ通り、ベッドで安静にしていたがあまりに退屈だったので、5時間寝た後にスーツや武器の点検を行った。

 キネシスの点検を行おうとして、私服を着た。この私服は、元々はハッカー・スーツというRIGスーツで、生命維持装置や推進スラスターを備えていたのだが、ルナ・コロニーに住み始めた時、地球政府やユニトロジストから身を潜めるためにまともに仕事をすることができないでいたので、生活費を払う為にタイタンステーションから脱出した際に持っていた武器や弾薬などを片っ端から売り払い、スーツの生命維持装置やスラスターは取り外しがある程度容易だった上に、その時はもう戦うつもりは無かったので、それらも売り払い、スーツには健康状態を表すライフゲージにステイシス及びキネシスしか残ってなかった。

 ヘルスパックを1つ取り出し、それをキネシスで引き寄せ、空中に浮かせる。キネシス・モジュールは正常に作動しているようだ。できればステイシスの動作確認もしたかったが、テストにちょうど良いものが無かった。

 部屋の物を使うわけにもいかなかったので、アイザックは諦めてベランダに出た。

 外は既に暗くなっていた。空には星が見え始め、月も登っていた。アイザックはその月がThe Moonでないことを祈った。

 少なくとも、この世界が自分のいた世界とは違うことは分かっていた。神姫というもの自体、アイザックがいた世界の過去の歴史には存在していなかったからだ。

 このコロニーは7番目のコロニーで、最も地球に近い位置にいるらしい。

 アイザックはぼんやりと街を眺めていると、月の辺りを飛んでいるカラスに目を向けた。

 何やら争っているらしく、3羽がお互いにぶつかり合っていた。

 すると、3羽のうちの1羽から何かが落下した。争っているカラスは3羽とも回収する気配が無かったので、アイザックはキネシスでそれを地面に落ちる前にキャッチして、こちらに引き寄せた。

 カラスから落ちてきたのは、神姫だった。恐らく、これを餌と勘違いして取り合いになっていたのだろう。

 その神姫は、所々が傷だらけだった。汚れ具合から見て、3日以上は外に放棄されていたようだ。

「可哀想に、捨てられたんだな。酷いことをするものだ・・・」

 アイザックはその神姫を持って部屋に戻ると、RIGから精密作業用の工具を取り出した。




 はじめまして。
 最近始めたばかりなのですが、本作はいかがでしたか?
 まだ未熟故におかしなところが目立つかもしれませんので、そこをコメントで指摘していただければ幸いです。
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