とある技師と神姫の物語   作:グレイ雪風

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chapter10

 

 

 

 場所は地球のとある高等学校の職員室。

 時刻は午後の6時過ぎで、通常の教師の大半は仕事を終えて帰宅している時間だった。

 この日、職員室には若手教師の女性が1人、自分のデスクに座っていた。

 名前は羽鳥小夜。年はまだ20代で、数ヶ月前に配属になったばかりだった。

 彼女はもう既に今日の仕事を終えていたのだが、それでもまだ帰らないのには理由があった。

 それは、今日が受験報告会で使用する資料を教師に提出する日で、まだ教室で作業をしている生徒がいるからだった。

 小夜はふと、時計を見た。もうすぐ学校が閉まる時間だ。

 小夜は大きくため息をつき、周りの教師達がつけっぱなしにしていったテレビをしばらくぼんやりと眺めていると、扉をノックする音が聞こえた。

 どうやら教室に残って作業していた生徒が、受験報告会の資料を仕上げたようだ。

 生徒は扉を開けて、自分の学年と氏名、そして用件を言って入室の許可を求めてきた。

 小夜が許可すると、生徒は一言挨拶して中へ入り、彼女の元へ歩み寄った。

「先生。受験報告会の資料の作成、終わりました。」

 小夜は差し出された資料を受け取り、ざっと確認を済ませた。

「・・・うん、OK。お疲れ様。今日は遅いから、気をつけて帰ってよ。」

 小夜は資料を専用のファイルに入れながら生徒に言った。

 生徒は小夜に挨拶して、扉の方へ歩き出した。

「あ、そう言えばツバサ君。今度の大会に出場するんだったっけ?」

 急に小夜は彼を呼び止め、そんなことを訊いてきた。

 大会とは、1週間後に行われるF3バトルのことだった。

「はい、そうですよ。」

 ツバサという名の生徒は、小夜に振り返って答えた。

「頑張ってね。」

「はい、ありがとうございます。」

 ツバサは、小夜に礼を言った。

「だけど、神姫バトルばっかりやって勉強の方を怠らないようにね。」

 小夜は、補足を加えてツバサに言った。

「分かってますよ。・・・先生こそ髪、少しは切った方がいいですよ?」

 ツバサは、あまりにも長い小夜の髪を見ながら言った。

「いいの!これが私のヘアスタイルなんだから・・・」

 小夜がムスッとした顔でツバサに文句を垂れていたが、あるニュースがテレビで流れた瞬間、2人は会話をやめて視線をテレビの画面に移した。

 内容は、地球に最も近い位置にある7番目のコロニー"エデン"と連絡が取れなくなったというものだった。

「あそこって、確か・・・」

 ツバサが深刻な表情で呟いた。

「御親族がいるの?」

 小夜は、ツバサに訊いた。

「あ、いえ・・・この前の冬休みにあのコロニーに行ったとき、ゲームセンターで凄いマスターさんに会ったんです。それで・・・」

 ツバサは、地球に帰る1日前、ゲームセンターで出会った中年くらいの男性のことを思い出していた。

 話によれば、まだ1度もバトルをしたことが無かったらしいのだが、彼は初めてのバトルを初心者とは思えない腕前で勝利して見せた。

 そして別れ際に、地球でまた会おうと約束していた。

「先生も確か、あそこには・・・」

「ええ・・・」

 小夜は、画面の方を向いたまま頷いた。

 エデンには、彼女の唯一の身寄りとも言える存在がいた。

 今から9年前、小夜は母親と義理の父である神崎十吾を失い、その頃所有していたプラムネリーというストラーフ型の神姫を失っていた。

 それ以降、完全に一人暮らしを始め出した頃に自分を気遣うようになったのが、神崎十吾のかつてのパートナーである神宮司八郎だった。

 同時に彼は、ある病院に監禁された自分を救出してくれた命の恩人でもある。

 当時は神姫に関する知識が無かった神宮司の相談相手になることが多く、むしろ気遣っているのは小夜の方だったのだが、稀にちょっとしたトラブルがあったときにいつも助けてくれたのは彼だった。

 神宮司は今や、小夜にとっては自分の親代わりのような存在だった。

 神宮司は現在、仕事の都合で地球に最も近いところにあるエデンというコロニーに住んでおり、彼とは時々テレビ電話でお互いの様子を確認し合うようになっていた。

 最後に連絡を取った3日前の夜、神宮司はコロニー管理施設の従業員が行方不明になっているという事件を調査していると言っていた。

 その時、直感的に嫌な予感がした。

 彼が神崎十吾のように事件に殺されるのではないか、という不安が心の中で広がった。

 神宮司はその時、必ず生きて戻ってくる、そう言っていたが、それでも小夜の中から不安が消えることは無かった。

 そして今、たまたまつけっぱなしになっていたテレビで、彼のいるコロニーとの連絡が取れなくなったというニュースが流れた瞬間、恐れていた事態が現実になり、同時に小夜は神宮司の安否が心配になった。

 だが、コロニーと連絡が途絶えている今、彼女には為す術もなく、ただ彼の無事を祈るしかなかった。

「(おじさん・・・)」

 

 

 

 神宮司はADS砲の操縦席に着き、手動射撃モードを起動した。

<手動射撃モード起動。>

 システムからアナウンスが流れる。

≪操縦方法は分かったな?ADS砲はマスドライバーで飛んでくるものを何でも撃ち抜けるはずだ。右に表示されている船体損傷値に目を向けろよ。余りにも被弾しすぎると俺達は石村と運命を共にすることになるぞ。≫

 アイザックは通信機を通して神宮司に言った。

 彼は今、神宮司と別れてADSの心臓部でプログラムの再構成を行っているところだった。

「そっちもなるべく急いでくれよ?いくら射撃に自信があるとは言え、コイツを扱うのは初めてなんだ。いつまで持ちこたえられるかわからない。」

≪最善を尽くすよ。≫

 そう言って、アイザックは通信を切った。

 神宮司は、右側に表示されている船体損傷値を見た。

 現在、石村の耐久力は48%だった。

「頑張ってください、マスター。」

 後ろで見守るアトラが言った。

「ああ。」

 神宮司はアトラに返事を返すと、意識を宇宙の彼方から飛んでくる小惑星に集中させ、ADS砲のグリップを握り締めた。

 まずは一番手前の小惑星を狙った。接近までのタイムラグを考えれば、近くの小惑星から破壊した方が効率がいいからだ。

 ADS砲から発射された弾丸は青白く光って照準用のレーザーポインタをなぞるように真っ直ぐ飛んでいき、その先にある小惑星に衝突し、爆発した。

 そして、その小惑星が爆発するのを確認するより前に次のターゲットへ目を移す。いつまでも一点ばかりを気にしていると、そうしている間に他の小惑星がどんどん接近してきてしまうからだ。

 もう一つ注意しなければなければならないのは、ADS砲のオーバーヒートだ。

 ADS砲には、砲撃の際に発生する熱を冷却する機構が備え付けられているのだが、2門同時発射を繰り返したりすると冷却が追い付かなくなり、オーバーヒートしてしまうのだ。

 しかも、今神宮司が使用しているADS砲は冷却装置の制御装置が故障しており、片方だけで撃っても連射を繰り返すとオーバーヒートしてしまうため、砲撃時は通常よりも注意が必要である。

 神宮司は撃っている内に少しずつ操縦のコツを掴み始めていたが、石村とコロニーを同時に守るのは想像以上に困難だった。

 コロニーに飛んでくる小惑星は、ある程度距離が離れている間に撃ち落とさなければコロニーの陰に隠れて撃墜不能になり、被害がさらに拡大してしまう。

 しかも、石村の船体損傷値は右の表示で確認できるのだが、コロニーの損傷値はこちらから確認することができないため、今、コロニーがどんな状態なのかが分からなかった。

 神宮司にできることは、小惑星をこれ以上コロニーに衝突させないことだけだった。

 しばらく幾多の小惑星を撃ち続けていると、周りよりも比較的巨大な小惑星がこちらに向かってくるのが見えた。

 もしそれが石村とコロニーに衝突したら、一瞬で宇宙の塵と化すだろう。

 神宮司は、直ぐにその巨大な小惑星に砲撃を開始した。しかし、ADS砲から放たれた弾丸が小惑星の中心に命中した途端、複数に分裂し、散乱した。

「くそっ!」

 神宮司は散らばった小惑星を撃ち落とそうとしたが、焦っているためか、なかなか上手く当たらなかった。

 そうしている間に、他の小惑星が石村とコロニーの双方に衝突した。

 神宮司がいる操縦室内で火花が散った。

「きゃあぁぁぁ!」

 アトラが悲鳴をあげる。

「大丈夫か、アトラ!?」

 神宮司は、後ろにいるアトラを見る。

<警告。船体の強度が40%に低下。>

 システムからアナウンスが流れた。

「私なら大丈夫です!それより、マスターは小惑星を!」

 神宮司はアトラに言われ、直ぐに小惑星を撃ち落とすことに意識を戻した。

 石村に向かってくる小惑星をある程度は他のADS砲が撃ち落としてくれるが、本来医療デッキ側のADS砲が賄う範囲まで完全に対応することはできないため、船体に衝突する可能性が無いというわけではない。

 そのため、コロニー側と石村側を素早く切り替えながらターゲットを狙う必要があるのだ。

 その後も神宮司は小惑星を撃ち落とし続けたが、焦りと疲労が原因で徐々に命中率が下がってゆき、殆どコロニー側を防衛するのが精一杯の状態になっていた。

<警告。船体の強度が30%に低下。>

 神宮司が砲台に着いてから既に1時間以上経過していた。だが、他のADS砲の動きに変化はなく、まだアイザックからは何の連絡も来ていなかった。

 痺れを切らした神宮司は、アイザックに通信を入れた。

「まだ終わらないのか!?」

 神宮司は、怒鳴るように言った。

≪もう少し時間をくれ!≫

 アイザックはそう言って通信を切った。

 神宮司は、アイザックが一刻も早く作業を終了させられることを祈って意識を切り替えたとき、小惑星がほぼ間近に迫っているのが彼の目に見えた。

 通信中、砲撃に完全に集中することができなかったため、見落としてしまったのだろう。

 神宮司は反射的にADS砲の引き金を引いた。

 小惑星は眩い光と共に爆発し、跡形もなく消滅した。

 視界が晴れると、その先にはさらにこちらへ向かってくる無数の小惑星があった。

「ちょっと話していた隙にこんな・・・」

 神宮司は、必死でそれらの小惑星を撃ち落としていったが、焦りのあまりに連射をしてしまい、ADS砲がオーバーヒートしてしまった。

 こうなってしまうと、一定時間は砲撃ができない。

 それはつまり、その間に小惑星が石村とコロニーに衝突するということになる。

「しまった、くそっ・・・」

 砲身が冷えるまでの間に2度、室内が大きく揺れた。だが恐らく、被害はコロニーの方が大きいだろう。

 ADS砲が再び砲撃可能になると同時に、神宮司はコロニーに向かっている小惑星を狙った。

 もはや、1つの砲台で石村とコロニーを複数の小惑星から防衛するのは不可能だった。

 神宮司は、石村の防衛を他のADS砲に委ね、コロニー側の防衛のみに専念することにした。

 そうしなければ、コロニーの被害がどんどん拡大してしまい、中にいる仲間や生存者の生存が危ぶまれるからだった。

 被害をなるべく最小限に収める為には、コロニーの防衛を優先し、あとは他のADS砲が石村を守りきってくれることを祈るしかなかった。

 こちらに向かってくる小惑星の数はどんどん増え、防衛がさらに困難になっていった。

 もはや他のADS砲に医療デッキを護衛する余裕がないのか、徐々に小惑星が衝突する回数が増えていった。その度に神宮司がいる操縦室内で火花が散り、警告音が響いた。

「アイザックまだか!?急いでくれ!!」

 神宮司は、通信を通してアイザックに言った。

≪やっている!もう少しだ!!≫

 アイザックはそう言って通信を切った。どうやら彼も相当焦っているようだった。

 神宮司がアイザックとの通信を終えた瞬間、小惑星が彼のいるADS砲付近に直撃し、操縦室内に今までで一番大きな火花をまき散らした。

「うわっ!」

 神宮司は、思わず顔を火花とは反対方向に背ける。ヘルメットを着用していなかったら、今頃頭部に火傷を負っていただろう。

 そしてまた、彼が顔を背けた隙に小惑星が船体に衝突した。

<警告。船体の強度が20%に低下。>

 神宮司は直ぐに操縦桿を握り、砲撃を再開した。

 小惑星の数はその後も増え続け、神宮司が撃ち落としきれない状況になりつつあった。

 しかも、先ほど小惑星がADS砲付近に直撃した影響で右側のマスドライバーが故障したらしく、右から弾丸が発射しなかった。

 同時に、彼の体力も限界に近づいていた。

 だが、神宮司はそれでもコロニーにいる仲間達や生存者を守るために必死に奮闘した。

<警告。船体の強度が10%に低下。>

「そこを見ればわかる!いちいち言うな!!」

 神宮司は、声を荒げてシステムに向かって怒鳴り散らした。

 既に把握していることを言うくらいならコロニーの状態を教えて欲しい、と彼は思った。

 だが事実、石村とコロニーはあくまでエアロックで接舷されているだけであって、お互いのコンピューターの回線を接続しているわけでは無いため、石村からコロニーの状態を確認することは不可能だった。

「くそっ、このままじゃ・・・」

 神宮司がそう呟いていると、突然頭痛が彼を襲い、視界が歪み始めた。

 こんな時に・・・、彼が心の中でそう思っていた時だった。

───もう良いわハチロー、あなたは充分頑張ったわ・・・

 頭の中で、メイリーの声が聞こえた。

「・・・何を言ってるんだ?まだ終わっちゃいない・・・今俺が倒れたら、ここにいる全員の命が犠牲になってしまう。早く元に戻してくれ、メイリー!」

 神宮司は朦朧とする意識の中、メイリーに呼びかける。

───大丈夫よ、ハチロー・・・もうすぐ、全てが終わるわ・・・

 メイリーは神宮司にそう囁いた。

「全てが、終わる・・・?」

 神宮司は、彼女の言っていることの意味が理解出来なかった。

 全てが終わるというのは、アイザックがシステムの再構成を終えるという意味なのか、それとも自分達の終わりを意味しているのか、彼には分からなかった。

 どういうことだ、と神宮司が聞き返そうとした時、遠くから誰かの声が聞こえてきた。

 メイリーではない、別の誰かだった。

 声は彼女とよく似ていたが、何故か自然とそれがメイリーのものではないと認識できた。

 その声は次第に大きくなっていき、やがて、言葉がはっきり認識できる音量にまで変化していった。

「マスター!」

 その瞬間、神宮司の意識が完全に戻り、声の主を悟った。

 神宮司を必死に呼び続けていたのは、アトラだった。

 彼女が必死になって彼を呼び続けていたのは、神宮司が突然ピクリとも動かなくなってしまったこと、そして彼が止まっている間に小惑星が自分達がいる操縦室の目の前に迫ってきていたからだった。

「しまった!」

 神宮司は直ぐに操縦桿を握って小惑星を撃ち落とそうとしたが、もう間に合わなかった。

 神宮司とアトラは死を覚悟して目を瞑ったその時、突然、小惑星が衝突寸前で爆発した。

 小惑星の小さな欠片が操縦室の窓ガラスに当たり、船体の耐久力を示す表示が8%に低下した。

 見ると、他のADS砲が先ほどとは違う動きになり、石村とコロニーを小惑星から防衛していた。

<Asteroid Defense Systemの更新を完了しました。>

 システムからアナウンスが流れると同時に、神宮司は状況を理解した。

 どうやらアイザックは、システムプログラムの再構成が間に合ったようだ。

 同時に、恐らくメイリーが言っていたことはこのことを意味していたのだろう、と神宮司は思った。

 神宮司は操縦席から立ち上がり、アトラの安否を確認しようとした次の瞬間、再び彼を頭痛と目眩が襲った。

 辺りを見渡したがアトラの姿はどこにもなく、代わりにメイリーが扉の前に立っていた。

 彼女は、眩しいと思うほど発光している瞳で神宮司を見ながら言った。

───さあ、ハチロー・・・今度は、私を救って・・・

 

 

 

<Asteroid Defense Systemの更新を完了しました。>

 システムからアナウンスが流れると、アイザックはシステムの再構成が間に合ったことにひとまず安心した。

「どうにか間に合ったようだな・・・」

 アイザックは、額から流れ出る汗を右腕で拭っていると、ルナが手拭いを差し出してきた。

「お疲れ様です、マスター。」

 どこから出したのだろう、と疑問を抱きながらも、アイザックはその手拭いを受け取り、汗を拭いながら通信機で神宮司に連絡を取ったが、返事が無かった。

 しかも電波状況が悪く、ノイズが激しかった。

「神宮司!・・・聞こえるか、神宮司!?」

 アイザックは神宮司に呼びかけるが、応答がない。

 まさか小惑星にやられたのでは、そう思いだした時、ルナが誰かと通信機で通話していることに気付いた。相手はアトラのようだ。

「はい。・・・?・・・いえ、こちらには・・・えぇ!?」

 ルナは、アトラから何かとんでもないことを聞かされたというような反応をした。

「どうしたんだ?」

 アイザックは、気になってルナに訊ねた。

「大変ですマスター!今アトラさんから、神宮司さんがいなくなったと連絡が・・・」

「何だって!?」

 すると、アイザックの通信機から誰かの声が微かに聞こえた。

 アイザックは、ルナに静かにするよう言いつけ、通信機から流れるノイズに耳を傾けた。

 しばらくそのノイズを聴いていると、微かに聞こえる声が神宮司のものだと分かった。

「おい、神宮司!聞こえるか!?・・・応答しろ、神宮司!!」

 アイザックは必死に呼び掛けたが、やはり応答が無かった。

 しばらくその声に耳を傾けていると、彼が何か言っていることに気付いた。

≪・・・・・・イリー・・・メイリー・・・≫

 アイザックは、それを聞いて神宮司の状態を悟った。

 やはり神宮司は、Markerにメイリーの幻覚を見せられていた。無理にでも彼の側に居るべきだったと、アイザックは深く後悔した。

 アイザックは、ルナにアトラの居場所を聞くと、彼女を肩に乗せてトラム・ステーションに急いだ。

「神宮司、お前が見ているのはMarkerが生み出した幻だ!耳を貸すな!」

 アイザックはトラム・ステーションに向かいながら神宮司に言った。

 

 

 

<Entering zero gravity.>

 神宮司は、トラム・ステーションにたどり着いていた。

 通路は酷く荒れており、脱線したトラムが道を塞いでいた。

 重力発生装置が故障しているらしく、中は無重力状態だった。

「どこへ行けばいいんだ?メイリー・・・」

 神宮司は、メイリーに問いかける。

 すると、プラットフォームから見て右側の奥でメイリーが手招きしながら立っていた。

───こっちよ・・・ついてきて。

 そう言って通路の奥へ消えていった。

 神宮司のロケーターがいつの間にか更新されており、確認するとメイリーが向かった先を指していた。

 神宮司は重力靴の電源を切ってプラットフォームから通路へ飛び出すと、スラスターを上手く使いながら奥へ進んで行った。

 通路の所々にLurkerが隠れており、神宮司がある程度近づくと3本の触手を伸ばして楔状の弾丸を飛ばしてきた。

 神宮司はそれを上手く避けながらステイシスをLurkerに放ち、触手を惑星警察制式拳銃で3本とも吹き飛ばした。

 Lurkerから出たcreditを回収していると、別の方向から弾丸が飛んできた。

 その内の1発が神宮司の背中に当たり、血が噴き出すと同時にRIGのライフゲージが減少した。

 振り向くと、破片の陰にLurkerが触手のみを出しながら隠れていた。

 すると、Lurkerがまた弾丸を飛ばしてきた。

 神宮司はそれを避け、惑星警察制式拳銃で触手を切断した。

 その後もLurkerを3匹ほど倒し、数分後にようやく目的地にたどり着いた。

 そこは採掘デッキだった。

 神宮司はプラットフォームに着地して重力靴の電源を入れると、ヘルスパックを1つ取り出してヘッド部分を傷口に押し付けた。

 するとヘルスパックのヘッド部分から青白い透明な液体が染み出てきて、傷口を塞ぎ始めた。

 ヘルスパックは、いちいち傷口に押し付けるより飲んだ方が手間が掛からないのだが、生憎今は無重力空間にいる上、空気も薄いためヘルメットを脱ぐわけにもいかなかった。

 神宮司は、治療を終えるとロケーターでルートを確認し、先へ進んでいった。

<Exiting zero gravity.>

 扉が閉じると同時に無重力状態が解除された。

 部屋の中で惑星警察制式拳銃のマガジンとパワーノードを拾い、扉の奥へ進むと、エレベーターの近くにあったSTOREでアイテムの購入及び整理を済ませ、大型のエレベーターに乗った。

「どの階に行けばいいんだ?」

 神宮司はエレベーターの制御パネルを見ながらメイリーに訊いた。

───採掘サブデッキよ。でも今はロックされていて入ることが出来ないわ。

 いつの間にか神宮司の足下にいたメイリーがそう言った。

「どうすれば入れるんだ?」

───システムにハッキングして、ロックを解除する必要があるわ。それに、格納庫に入るための認証キーも探さないといけない・・・

「その認証キーはどこにあるんだ?」

 神宮司は、メイリーに訊いた。

 だが、その直後に通信機からアイザックの声が響いた。

≪神宮司!応答しろ、神宮司!!≫

 気が付けば、先ほどまで側にいたメイリーの姿も無かった。

「・・・メイリー?」

 神宮司は、辺りを見回してメイリーを探す。

≪神宮司、よく聞け!お前が見ているのは幻だ!もうそこに彼女は居ないんだ!≫

「・・・何を言っているんだ?」

 神宮司は、アイザックが言ったことの意味が理解出来なかった。

 確かに9年前、メイリーは燃え盛る工房の中で死んだ。

 だが、彼女はまだここにいる。

 そして彼女は、自分を救う方法があると言っていた。

 メイリーを救うことが───彼女の手助けをする事が、神宮司にとっての罪滅ぼしでもあった。あの時、彼女を救うことができなかったことへの。

「アイザック。俺は今、採掘区画のエレベーターにいる。採掘サブデッキに向かいたいんだがシステム側からロックされていて中に入ることが出来ない。」

≪採掘サブデッキ・・・?そこにMarkerがあるのか!?≫

 アイザックは、神宮司に訊く。

「俺は、今から格納庫に入るための認証キーを探す。アイザックはシステムにハッキングして、採掘サブデッキのロックを解除してくれ。」

 神宮司はアイザックの質問に答えず、エレベーターの制御パネルを操作してメンテナンス区画を選択した。

 エレベーターが大きく揺れ、下へと降り始めた。

≪待て神宮司、質問に答えろ!そこにMarkerがあるのか!?≫

「わからない。・・・だが、今俺はそこに行かなければならないんだ。」

 神宮司がアイザックの質問に素直に答えた直後、彼を再び頭痛が襲い、エレベーターの入り口前にメイリーが現れた。

───着いたわ・・・行きましょう、ハチロー。

 エレベーターがメンテナンス区画に着くと、メイリーは手招きをしながら奥へと走っていった。

「メイリー・・・!」

 神宮司は、慌てて彼女のあとを追いかけた。

≪おい神宮司、そいつについて行くな!≫

 アイザックは必死に叫んだが、それが神宮司の耳に届くことは無かった。




 大変お待たせしました。
 今回から視点が少しずつ神宮司警部に移っていく流れになっていきます。
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