とある技師と神姫の物語   作:グレイ雪風

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chapter11

 

 アイザックとルナは、医療デッキでアトラを拾い、神宮司がいる採掘区画へ向かっていた。

 医療デッキから採掘デッキへの通路は、障害物により塞がれているため、反対側のプラットフォームへ出て無重力空間の通路を自力で飛んで行かなければならなかった。

<Entering zero gravity>

 アイザックはプラットフォームに出ると、重力靴をOFFにしてスラスターを展開し、通路の奥へ進んで行った。

「どうなされるのですか、マスター・・・」

 アイザックの右肩に掴まっているルナが突然、そんなことを訊いてきた。無論、採掘サブデッキのセキュリティ解除のことだ。

「そこにMarkerがある可能性が高い以上、解除しないわけにはいかない。ロックを解除したら、俺が神宮司よりも先に格納庫の認証キーを見つけだし、Markerを発見次第俺の手で破壊する。」

 それがアイザック達の本来の目的であり、同時に神宮司を救う為の手段だった。

 彼を狂わせているMarkerを破壊することで、精神汚染の侵攻を食い止めるのだ。

「お願いします、アイザックさん。マスターを救って下さい!」

 左肩にいるアトラがアイザックに言った。

「ああ、勿論だ。」

 何としても救って見せる、その決意を胸に、アイザックは目的地である採掘デッキへ進んだ。

 通路を進む途中、所々にLurkerの死骸が空間を漂っていた。弾痕から見て、神宮司が惑星警察制式拳銃で倒したようだった。

 神宮司がネクロモーフを倒せるところから見て、どうやらまだ彼の精神は完全にMarkerに取り込まれていないようだ。

 ネクロモーフの死骸が漂う通路の先に、採掘デッキのプラットフォームが見えてきた。

 アイザックはある程度床に接近し、重力靴をONにして着地すると、扉の奥へと進んで行った。

<Exiting zero gravity.>

 扉が閉まると、無重力状態が解除された。

 アイザックは、室内にあったSTOREで弾薬やヘルスパック等の補充を済ませ、BENCHで装備品を強化すると、エレベーターに乗って神宮司のいるメンテナンス区画へ向かった。

 到着後、エレベーターを降りて通路を進んでいると、その先に誰かが倒れているのが見えた。

 近づいてみると、その人物の下半身がなくなっており、しかも神宮司と同じパトロールスーツを着ていた。

「そんな・・・嘘だろ!?」

 アイザックは、慌ててその身体を抱え上げた。

 俺はまた大切な仲間を守れなかったのか、そう思い始めていた時だった。

「アイザックさん。この方、マスターではありません。」

 アトラが死体を見てそう言った。

 彼女に言われる少し前に、アイザックも彼が神宮司でないことに気が付いていた。

 何故なら、その死体が被っていたヘルメットの外装がノーマルタイプ、つまり、アイザックが着用しているのと同じものだったからだ。

 神宮司が着用しているパトロールスーツのヘルメットは、丸いセンサーが2つ右側のみにあり、通常のスーツとは外観が異なる。

 このタイプのスーツは殆ど使用された記録がなく、タイタン・ステーションの特殊部隊でも極一部の隊員にしか使用されていなかった。

 アイザックは、念の為に死体のヘルメットを外して顔を確認した。

 その死体は、推定20代くらいのまだ若い銀髪の男性だった。

 恐らく、コロニー管理施設の従業員か調査隊、あるいは救助隊のいずれかだろう。

 アイザックは、死体に再びヘルメットを被せると、彼の両手を腹部に組ませた。

「行こう。」

 そう言って、アイザックはエレベーターへ進み、鉱物処理デッキを選択した。

 

 

 

 神宮司は、辺り一面がビニールシートで覆われた部屋を抜け、石村に乗船した際に乗ったのと同じゴンドラがある空間にいた。

 レールの途中で停止しているゴンドラをキネシスで引き寄せ、乗降部分が床に接触すると、入り口のポールが開いた。

 どうやらまだゴンドラは動くようだ。

 神宮司はそのゴンドラに乗り込み、パネルを操作した。

 乗降口のポールが降りると、彼を乗せたゴンドラは向こう岸に向けてゆっくりと動き出した。

 中間地点まで到達した時、神宮司はふと、ゴンドラにメイリーが居ないことに気付いた。

「メイリー!?」

───ここよ、ハチロー・・・

 辺りを見回すと、進行方向から見て右側にある通路に、メイリーがこちらを向いて歩いていた。

「どうしてそんなところにいるんだ!?」

 神宮司は声を荒げる。

 もし、万が一ネクロモーフに襲われたらと考えると、恐ろしくて居ても立ってもいられなかった。

───この先の扉がロックされているの。解除するにはこの道の先にある制御装置へ向かう必要があるわ。

 メイリーは、神宮司の乗るゴンドラに合わせてやや早歩きで進んでいた。

 神宮司は、彼女の話を訊く間も周囲にネクロモーフが現れないか警戒していた。

「そういうことは先に言ってくれ。わざわざ君が行かなくても、俺が解除したのに・・・」

───それだと時間がかかってしまうわ。彼が来る前に鍵を見つけないと・・・

「彼・・・?アイザックのことか!?」

 神宮司は、メイリーに問う。

───そうよ。彼はあなたを止めようとしている・・・私を救おうとしているあなたを妨害しようとしている。だから、一刻も早く鍵を見つけないと・・・

 そうして話している内に、ゴンドラは目的地である向こう岸に到着した。

 メイリーは、そのまま奥の部屋の中へと消えていった。

 乗降口のポールが上がると、神宮司は直ぐにゴンドラから降りて扉の奥へ進んでいった。

 部屋の中は、右側に谷を挟んで通路が伸びており、その奥に制御装置らしきものがあった。その証拠に、そこの近くにはメイリーが立っていた。

 左側に扉があったが、ロックされていて開かないようだった。これがメイリーの言っていた扉で間違いなさそうだった。

───今から私が扉のロックを解除するから、ハチローはそこで待ってて。

 メイリーはそう言って制御装置のパネルの上に登り、何やら操作を始めた。

 神宮司がいる場所とメイリーがいる通路は繋がっていないらしく、そちらへ行くには先ほど乗ってきたゴンドラでまた向こう岸に戻らなければならないようだった。

 何故、彼女が扉のロックの解除方法を知っているのか。それどころか、この艦のことを知り尽くしていることに神宮司は疑問を抱いていたが、今はそんなことはどうでもよかった。

 今、自分がやるべきことは、万が一解除中にネクロモーフがメイリーに襲ってきたら、それから彼女を守ること。

 そして、今度こそ彼女を救うこと。

 それが何を意味するのか、具体的な救い方はまだわからなかったが、それがメイリーの為になるのならよろこんで協力しよう。神宮司はそう思った。

 直後、大きな音と共にメイリーがいる通路側の通気口のカバーが吹き飛んだ。

 そして、その中からSlasherが這い出てきた。

 神宮司はすぐさま惑星警察制式拳銃を構え、ネクロモーフ目掛けて発砲した。

 Slasherは両脚、左腕、首、右腕の順に破壊され、行動不能になった。

 しかし、ネクロモーフの勢いは止まらず、通気口から次々に新手が現れた。

 神宮司は、メイリーに指一本触れさせまいと必死で戦った。

 その間に神宮司の方にも1体、ネクロモーフが襲いかかってきた。

 メイリーを狙うネクロモーフを掃討することに必死だった神宮司は直ぐに対応できず、あっさりと組み付かれてしまった。

 神宮司は振り解こうと対抗したが、ネクロモーフはそれなりの力を持っており、なかなか彼の身体から離れなかった。

 そうしている間にも通路側にいるネクロモーフがメイリーに迫っていた。

「メイリー!」

 神宮司は組み付いているSlasherの頭を殴り飛ばし、怯んで両腕をあげた隙を狙って脱出し、暴れ回られる前に拳銃で四股を切断した。

 そして直ぐにメイリーに迫るネクロモーフに照準を定め、セカンダリショットで両脚と頭部と左腕を吹き飛ばした。

 すると、今度は背後から通気口のカバーが吹き飛ぶ轟音が聞こえた。

 振り返ると、平べったいエイのようなネクロモーフ、Infectorが神宮司に向かって飛びかかろうとするところだった。

 神宮司は咄嗟にステイシスを放ち、Infectorを空中で止めた。

 そして、生きた人間や死体をネクロモーフに変える厄介なトゲのついた触手をプラズマソーで切断すると、惑星警察制式拳銃のセカンダリショットでひたすら撃ち続けた。

 Infectorには弱点というものが無く、平べったい割にはかなり頑丈な体である為、なるべく強力な武器でくたばるまで撃ち続けなければならない。

 神宮司はふと、メイリーの方へ振り返った。

 見ると、ちょうど通気口からLurkerが這い出てくるところだった。

 神宮司はイヤな予感を察知し、Infectorに念のためもう一度ステイシスをかけると、弾丸の発射態勢に入ろうとするLurkerの触手を3本とも切断した。

 Lurkerは猫のような断末魔をあげて谷底へ落ちていった。

 神宮司はInfectorにとどめを刺すべく再びそちらへ振り返ると、力なく地面に落下し、代わりにネクロモーフになる前に所持していたと思われるヘルスパックがそこにあった。

 神宮司は重力靴を使用してInfectorを踏みつけてみた。反応がないところから見て、どうやら倒したようだった。

 ステイシスを無駄に消費してしまったな、神宮司はそう思った。

 メイリーもロックを解除したらしく、制御パネルから飛び降りてこちらを向いていた。

───扉のロックは解除したわ、ハチロー。その先の部屋を調べて。

 神宮司はメイリーにこちらに来るように言おうとしたが、やはり2人のいる場所の距離から見て、彼女のジャンプ力でもこちらに来れなさそうだった。

 神宮司は言われるがままに扉の方へ足を運んだ。

 扉の奥の部屋には、ひとつのカードキーが置いてあった。

───それが認証キーよ、ハチロー。これで採掘サブデッキの格納庫のロックが解除できるわ。

 案外あっさりと見つかったな、そう神宮司が思っていると突然頭痛が彼を襲い、メイリーの周囲が歪み始めた。

───もうすぐ全てが終わるわ・・・さあ、ハチロー・・・私を救って・・・

 そう言って、メイリーは姿を消した。

 

 

 

 アイザックは、鉱物処理デッキに降りて各エリアを隈無く捜索していたが、一向に認証キーが見つかる気配は無かった。

 しかも先ほど鉱物処理室に閉じこめられて大量のネクロモーフとの戦闘で大分足止めを食らった後だった。

「クソッ・・・こうしている間にも神宮司が・・・」

 アイザックは壁に拳を打ち付けた。

 もしかしたら既に神宮司が認証キーを発見したかもしれない、とすら思った。

「落ち着いて下さい、マスター。焦ってはいけません・・・」

「わかってる!」

 アイザックは思わずルナに怒鳴ってしまった。

「っ・・・」

 ルナは見開いたまま固まってしまった。

 アイザックの中は、不安と焦りでいっぱいだった。

「・・・すまない。・・・そうだな。冷静さを失っては、神宮司を見つける前に奴らの餌食になりかねない。」

 アイザックはロケーターでルートを確認し、それに沿って歩き出した。

「もうこのエリアは殆ど探し尽くしたはずだ。多分、ここには認証キーは無いだろう。」

 アイザックは、そう言って大型エレベーターへ向かった。

「後は神宮司が認証キーを見つけてなければ良いんだが・・・」

 それともう一つ心配なことが、神宮司の安否だった。

 先ほどから神宮司と連絡が全く取れなくなっていた。

 最悪の場合、彼が死亡した可能も高い。

 現在移動可能なのはこの鉱物処理デッキとメンテナンス区画だけで、神宮司は間違いなくメンテナンス区画にいるはずである。

 しかもメンテナンス区画はさほど広くはないので、扉がロックされていない限りは直ぐに認証キーを見つけ出してしまうだろう。

 アイザックは、その認証キーが採掘デッキに無いことを祈った。

 だが、その願いに反するようにシステムからアナウンスが流れた。

<採掘サブデッキのロックが解除されました。>

「・・・何だって!?」

 アイザックは耳を疑った。

 何故なら、彼はまだ採掘サブデッキのロックを解除していなかったからだ。

 そんな、どうやって・・・?

 アイザックがそんなことを考えていると、大型エレベーターが稼働している音が聞こえてきた。

 アイザックは早足でエレベーターへ向かいながら、神宮司に通信を入れた。

 運良く、彼と連絡が取れる状態になっていた。

「神宮司、聞こえるか!?神宮司!!」

「マスター!」

 アイザックとアトラは必死に呼びかけた。

 しかし、応答がなかった。

 もしかしたら、既に神宮司は神宮司では無くなってるのではないか、アイザックは一瞬、そう思ってしまった。

 だがすぐに被りを振ってそのような思考はかき消した。

 数分後にエレベーターがアイザック達がいる階に到着し、扉が開くと同時にすぐに乗り込んだ。

 エレベーターが下降し始めたとき、通信機から何やら声が微かに聞こえてきた。

 耳をすますと、それは神宮司の声だとわかった。

≪・・・・・・っ・・・イリー・・・メイリー・・・≫

 神宮司は、今は亡き神姫の名前を呼び続けていた。

「神宮司、そいつは幻覚だ!ついて行くな!」

 アイザックは神宮司に呼びかけた。

 しかしその声は神宮司に届いていなかった。

 彼の容態はかなり深刻な状態のようだ。

 エレベーターが採掘サブデッキに到着し、扉が開くとアイザックは通路へと一目散に飛び出した。

 一方、神宮司は朦朧とする意識の中、ただメイリーの後を追い続けていた。

 今自分がどの辺りに居るのかさえ、把握できていなかった。

───ここよ、ハチロー・・・

 メイリーは、向かって右側の扉の中へ消えていった。

 神宮司も、すぐに彼女を追うべく、認証キーで格納庫のロックを解除し、扉を開いて中へ進んだ。

 彼が格納庫へ入るところを、ちょうど駆けつけたアイザック達が見ていた。

「神宮司!」

「神宮司さん!」

「マスター!」

 3人は神宮司を見つけると、直ぐに彼の元へ駆け寄ろうとした。

 しかし、その前に扉が閉じ、おまけにロックされてしまった。

 恐らく、Markerが邪魔したのだろう。

 それと同時に、採掘サブデッキのロックを解除したのも、きっとMarkerに違いない。

 アイザックは、扉を殴打した。

「よせ、神宮司!そいつの言うとおりにしたら駄目だ!!」

 アイザックは、神宮司に向けて叫んだ。

「分かっているんですかマスター!一度死んでしまった方は、人間だろうと神姫だろうと、どんなことをしても生き返らないんですよ!?」

 アトラも、必死に神宮司に呼びかけた。

「目を覚まして下さい、神宮司さん!あなたは既に亡くなられているメイリーさんと今の神姫であるアトラさん、どちらが一番大切なんですか!?」

 ルナも、神宮司に必死に呼びかけた。

 だが、いずれの声も彼の耳には届いていなかった。

 アイザックは扉を殴打するのをやめると、扉の隣のパネルを引き剥がし、配線の中へ両手を突っ込んだ。

 ハッキングして開くのだ。

 格納庫の中へ入った神宮司の目の前には、螺旋に絡まる四角錐のような物体が、そこにあった。

 全長は1~2メートル程で、全体に文字のような記号が記されており、ライトグリーンのような色で発光していた。

「これは・・・」

 神宮司がそう呟いていると、メイリーが発光する物体を指しながら言った。

───さあ、ハチロー・・・これに触れて・・・

「これで、君を救えるのか・・・?」

 神宮司は、光る物体を見つめながら訊いた。

───そうよ。ようやく、全てが終わるわ・・・

 神宮司は、言われるがままに、ゆっくりとその物体に右手を伸ばした。

 その直後、アイザックがハッキングで扉のロックを解除し、格納庫の中へ駆け込んできた。

「よせ、神宮司!」

 アイザックは、神宮司の目の前にある”物体”に彼が触れようとするところを見て叫んだ。

「そいつはMarkerだ、メイリーじゃない!!」

 だが、その声が神宮司に届くことはなく、彼の右手が物体に触れ、同時に彼の精神が”物体”の中へと吸い込まれていった。




 長らくお待たせして本当に申し訳ありませんでした!
 本来はchapter12で完結させる予定でしたが、あと2、3話ほど続きそうです。
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