とある技師と神姫の物語   作:グレイ雪風

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chapter12

 

 神宮司は、格納庫にあった”物体”に触れた直後、激しい頭痛に襲われると同時に視界が眩しい光に覆われた。

 その光を抜けると、脳細胞の中を進んでるような光景が映り、一番奥の黄色く光る細胞に近づいていった。

 視界が晴れると、そこには何やら遺跡を思わせる空間が広がっていた。

 周囲には黄色がかった砂嵐のようなものが発生しており、空は真っ暗だった。

 そして、この空間の中央に螺旋に絡まる四角錐のような遺物、Markerがあった。

 それは格納庫にあった物の5倍以上の大きさで、あちらはライトグリーンに対し、こちらは黄色く発光していた。

 何故自分はこんなところにいるのか、メイリーはどうなったのか、そんなことを考えていると、ふと足元に気配を感じた。

 見下ろしてみると、いつの間にかメイリーがそこにいた。

「メイリー、あれは・・・?」

                  コア

───Markerよ。そしてあれが、その核・・・

 神宮司は、Markerという言葉に聞き覚えがある気がしたのだが、何かに遮られてよく思い出せなかった。

 それに加え、頭痛が酷く、意識もはっきりしない。その場に立っているのもやっとの状態だった。

 メイリーは、視線をMarkerから神宮司に移した。

───さあ、ハチロー・・・私に触れて・・・

 メイリーは、神宮司に言った。

「今度こそ、君は救われるんだな?」

───ええ、そうよ。・・・ありがとう、ハチロー・・・

 メイリーは、うっすらと笑みを浮かべた。

 朦朧とする意識の中、神宮司はゆっくりと立て膝をついた。

 何も考えず、ただ身体が自然に動くのに任せた。

 これでメイリーが救われる、神宮司の中には、そんな達成感だけがあった。

 神宮司は、メイリーに向けて右手を差し出した。

 メイリーも、差し出された神宮司の手に触れるべく、両手を前に向けてゆっくりと彼に近づいていった。

───ハチロー・・・

 メイリーは、両目を発光させながら言った。

 

 

 

 

───私と、ひとつに・・・

 

 

 

 

 その時だった。

 メイリーが突然、衝撃音と共に遠方へ吹き飛ばされた。

 彼女は横に転がりながら2、3回跳ね、5メートルほど先で止まった。

 代わりに、つい先ほどまで彼女が立っていた場所には、1体の神姫がいた。

 型はアーンヴァル型で、装備はユニコーンモードのフルアームズ仕様だった。

 どうやらこの神姫がメイリーを蹴り飛ばしたようだ。

 彼女は一体何者なのか、どうしてこんなことを、と神宮司は疑問を抱いた。

 アトラにしては武装の組み合わせが異なる為、彼女ではないことはほぼ明白だった。

 ルナの装備は、そこにいる神姫と同じユニコーンモードでフルアームズ仕様だが、肝心なプラズマカッターが握られていなかった。

 しかも彼女は、既にBruteとの戦闘でほとんどの武装を失っていた。

 だとすれば彼女は誰なのか、神宮司が僅か数秒の間、そのようなことを考えていると、目の前の神姫がこちらを向くなり神宮司に怒鳴った。

「何してるのよこの馬鹿っ!あんな偽物に騙されるなんて、あなた神姫を見る目が無いにも程があるわよ!」

 神宮司は、彼女に怒鳴られた瞬間、今まで朦朧としていた意識がクリアになった気がした。

 そう、彼女はメイリーだった。

 つい先ほどまで側にいた神姫とは違い、彼女は紛れもなくメイリーそのものだった。

 神宮司は、奥で起きあがろうとする神姫を見た。

 今の神宮司でも、彼女がメイリーでないことははっきりわかった。

 何故今まであんなのをメイリーだと思っていたのだろう、とすら感じた。

 神姫が起きあがると同時に、何やら人型の黒い影のようなものがいつの間にかそこら中に溢れかえっていた。

 身体の形状はどちらかと言えばThe Packに似ている気がする。

 その中を1体の神姫が神宮司に向かってゆっくりと歩いてきた。

───ハチロー、私とひとつに・・・

「もうっ、アンタしつこいわよ!」

 彼女を見たメイリーが苛立ちを見せるなり、神宮司の方を向いた。

「ハチロー!アイツは私が相手するから、そっちはそこら中にいる雑魚をお願い!」

 メイリーは彼にそう言うと、スラスターを吹かして神姫の方へ突進していった。

「おい、メイリー!」

 神宮司は彼女を制止しようとしたがすでに遅し、神姫との戦闘を開始してしまった。

 そうしている間にも、周囲の黒い影が彼に迫っていた。

 こうなってしまってはもう彼女の言うとおりにするしかないと判断した神宮司は、ヘルメットを展開してRIGの収納スペースから惑星警察制式拳銃を取り出し、メイリーが言う"雑魚"の掃討を開始した。

 まずは、一番近くまで接近している方から先に撃った。

 黒い影は、拳銃から発射した弾丸が命中すると、断末魔をあげながら消滅していった。

 どうやら耐久力もThe Packと同様のようだ。

 1発で倒せる分、敵1体を倒すのに使用する弾薬の消費が少なくて助かる。

 しかし、敵は倒しても次から次へと現れる上に数が多く、一斉に襲ってくることが多い為、その度にステイシスで止めなければならなかった。

 周辺の敵を一通り片付け、弾薬をリロードしていると、突然大きな音が空間に響いた。

 見ると、先ほどまでMarkerがあった場所から巨大な触手のようなものが幾つも蠢いており、何やら文字のようなものが周囲を渦巻いていた。

 そして、その中心に黄色く光るものがあった。

「あれを撃って、ハチロー!」

 奥でメイリーが叫んだ。

「!?」

「黄色く光ってるところ!」

「何なんだあれは!?」

 神宮司は周囲の敵を撃ちながら訊く。

        コア

「あれはMarkerの核。あれを壊せばMarkerは機能を停止するわ!」

「ちょっと待て。今、その余裕は・・・」

「いいから早く撃って!急がないとまた核が隠れちゃう!」

 神宮司は時間制限があると訊くと、襲いかかってくる敵の群から逃れ、Markerの"核"を撃ち始めた。

 メイリーの言うとおり、核は撃ち始めてから僅か数秒で収縮してMarkerの姿に戻ってしまい、弾丸は4発程しか命中させられなかった。

 Markerが元に戻った直後、突然、神宮司の前にメイリーを模した神姫が現れた。

───ハチロー・・・ひとつに、なりましょう・・・

 神姫が神宮司の足元に触れる寸前のところで、メイリーが神姫を再び蹴り飛ばした。

「気をつけてハチロー、アイツ等に触られたら最期よ!」

「そう言うことは早く言ってくれ!」

 神宮司は文句を垂れつつ、周辺のThe Packを模した敵を掃討し始めた。

 しかし、この時彼の中には苛立ちよりも嬉しいという気持ちが大きかった。

 再びメイリーに会えたこと、そして、また彼女とコンビを組めることが何よりも嬉しかった。

 同時に、神崎の死亡事故の真相を共に追っていたあの頃に戻ったような気分だった。

 短い間だったが、楽しかったあの頃に。

 神宮司が敵を7体ほど倒した頃、再びMarkerが大きな音を響かせて核を露出させた。

 神宮司は、より早くMarkerの核を破壊するために惑星警察制式拳銃をセカンダリモードに切り替えて撃った。

 惑星警察制式拳銃のセカンダリショットは弾速が遅くなる替わりに通常より強力な弾丸を撃つことができるので、核に大きなダメージを与えられるのだ。

 今度は10発程当てることができた。

 そして、またしても核が収縮した直後に神姫が再び神宮司の前に現れた。

───ハチロー・・・あなたは、"私達"とひとつになるべきなのよ・・・

 瞳を白く光らせながら神宮司に近づいてきた。

 だが、彼に触れさせまいとメイリーが神姫をまた蹴り飛ばして距離を広げた。

「いい加減にしなさいよこの偽物!」

 メイリーは、レーザーソードを構えて神姫に向かって走り出していった。

 神宮司も、未だそこら中にいる黒い影を掃討するべく拳銃を構えて引き金を引いたが、弾切れになっていた。

 彼が弾薬を補充する間もなく敵の群が一斉に襲いかかってきた。

 神宮司は、敵の足元の僅かな隙間を転がりながら抜け、回避した。

 すぐさま体勢を立て直すと、素早く惑星警察制式拳銃のマガジンを取り替え、敵の群に向けて撃った。

 敵の掃討の最中、視界の奥でメイリーの戦っている様子が見えた。

 彼女は神姫目掛けてその周辺にいる黒い影をレーザーソードで薙ぎ払いながら突進していた。

 そして、障害となる敵の猛攻を突破してその奥にいる神姫を斬りつけた。

 それと同時に斬りつけられた神姫が消滅し、代わりに空間の中央にあるMarkerが大きな音と共に核を露わにした。

 神宮司は、直ぐに核を破壊すべく拳銃をMarkerに向けたが、既に周囲の敵の掃討で弾薬を使い果たしていた。

 RIGの収納スペースを確認したが、もう予備のマガジンは1つも残っていなかった。

 周囲を見渡したが、拳銃の弾薬が落ちている様子は無かった。

 ここまでなのか、神宮司がそう思った時、ふと医療デッキでシーカーライフルを購入していたことを思いだした。

 武器を惑星警察制式拳銃からシーカーライフルに持ち替え、残弾数を確認した。

 弾はまだ7発残っており、予備の弾薬もあと14発分あった。

 神宮司は、それらの確認を素早く済ませ、銃口を核に向けた。

 そして、この一撃でMarkerが破壊されることを祈って、引き金を引いた。

 弾丸が銃口から高速で射出され、Markerの核に命中した。

 その瞬間、Markerの周囲が眩い光に包まれた。

 ついに、Markerの核を破壊したのだ。

 いつの間にか周囲にいた敵も消滅しており、この場にいるのは神宮司とメイリーの2人だけだった。

 神宮司は、構えていたシーカーライフルを降ろし、メイリーがいる方へと向き直ると、ヘルメットをスーツ内へ格納させた。

「やったわね、ハチロー。」

「ああ、そうだな。」

 神宮司は笑顔で頷く。

「それにしても、何なのその格好?」

 メイリーは、神宮司が着ているスーツを見て尋ねた。

「生命維持装置付きの戦闘用スーツ、と言ったところだよ。それ以上は俺も詳しくは知らない。」

「戦闘用ねぇ・・・他にもっとマシなスーツは無かったの?ヘルメットのデザインとか見るからに不格好だったけど。」

 メイリーは、どうやら神宮司が着ているスーツが気に入らないようだ。

「俺だって、最初からこれを着るつもりで選んだ訳じゃないんだ。STOREでスーツを選んだら見本と違うものが出てきた、それがこのスーツだ。」

 神宮司は、スーツの胸部装甲を叩きながら話した。

「それに俺はこのスーツが不格好とは思わない。むしろ気に入っている。しかも狙撃に特化していて、俺にぴったりのスーツだよ。」

「そんなデザインのスーツが好きなんて、あなたのセンスを疑うわよ。」

 メイリーは、呆れた様子だった。

「俺にはそんなにセンスが無いか?」

「無さ過ぎよ。それに、そのスーツのヘルメット被ってる時、ちゃんと周りが見えてないんじゃないの?センサーの配置から見て視界が充分に確保出来てるようには見えないんだけど・・・」

 神宮司が着ているスーツは、パトロールスーツと呼ばれるセキュリティスーツの色違いで、しかも彼のスーツはヘルメットのデザインが通常のものと異なり、オレンジ色のセンサー2つが右側のみにあり、左側にはセンサーが無かった。

「いや、配置の割には意外によく見えるぞ。」

「嘘でしょ?あんなところにセンサーがあったら左側に死角ができるじゃない。」

 メイリーは、彼の言うことが信じられない様子だった。

「本当だよ。確かにセンサーが右にあるせいで若干視界の位置に違和感があるが、見える範囲としては申し分ない。」

 それなら良いんだけど、メイリーがそう言うと急に溜息をついた。

「ホント、死んだ後もあなたを見てていつもヒヤヒヤさせられるわよ。おかげで心配で仕方なくて眠れはしないわ・・・」

 彼女のこの言葉を聞いた瞬間、神宮司は確信した。

 今、ここにいるメイリーは既に亡き者の魂であり、同時に彼女の身体は恐らくMarkerの力で生成された仮初めの姿なのだ。神宮司を助ける為に、彼にMarkerを破壊させるために。

 そして、その身体を生み出した親であり、その身体を維持する役割を担っていたMarkerが破壊された今、彼女の身体は間もなくこの空間と共に消滅してしまうだろう。

「・・・お別れね、ハチロー。今度こそ本当に・・・」

 神宮司が考えていることを察したかのように、メイリーが口を開いた。

 彼女の顔は、どこか寂しげな表情だった

「残念だな、折角また会えたのに・・・」

 神宮司としても、もっと話したいことが色々あった。できることなら、このままメイリーと一緒に居たかった。

 だが、彼女はもうこの世にはいない。8年も前に死んでいるのだ。

 どれだけ足掻いても、その事実は変わらない。

「だけど、またハチローに会えて嬉しかった。もうこうして話すことすらできないと思っていたことが、形がどうあれ叶ったんだもの・・・」

「それは俺も同じだ。俺もお前にもう一度でいいから会いたかった。」

「お互い、考えてることは同じってことね。」

 2人は苦笑した。

 その直後、神宮司の視界にノイズのようなものが走り、意識が遠のいてきた。

 それは、この空間が間もなく消滅することを意味する合図でもあった。

 核が破壊された今、もう長くは状態を維持することはできないのだ。

 別れの時が、刻一刻と迫っていた。

 光がより一層強くなり、消滅していくMarkerの核を背景に、メイリーが囁いた。

「さよなら、ハチロー・・・」

 彼女の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。

 神宮司本人も、本当は泣きたい気分だった。

 そして、空間が消滅する寸前でメイリーは笑顔で神宮司に言った。

アトラ

「相棒のこと、大事にしなさいよ。」

 それを最後に、彼女の笑顔が眩い光の中に消えていった。

 光の中から出ると、Markerに精神を飲み込まれたときの光景が逆再生したかのような映像が流れ、脳細胞の中を抜け切ると元いた石村の格納庫へ視界が戻った。

「神宮司!」

「マスター!」

 直後、自分を呼ぶ声が近距離で聞こえた。

 見ると、アイザックとアトラ、それにルナが心配そうにこちらを見ていた。

 いつの間にか神宮司はその場で立て膝をつき、右手で頭を抱えた状態になっていた。恐らく、Markerの精神世界にいる間はずっとこの状態だったのだろう。

「良かった・・・!私、てっきりマスターがもうこのままお目覚めにならないのかと心配で・・・」

 アトラは、神宮司の身体に飛びつきながら涙目で言った。

 そうだ、今まで俺はMarkerに惑わされてここまで来てしまったのだ。

 そして、仲間にも散々迷惑をかけてしまった。

 神宮司は全てを悟ると、泣きながら身体にしがみつくアトラの頭を撫でた。

「すまなかった。お前にも・・・みんなにもこんなに心配をかけさせてしまって・・・」

 そして、メイリーにも。

 彼女はあの時、心配で仕方なくて眠れはしない、そう言っていた。

 つまりこれまでの間、メイリーにそれだけ心配をかけさせ続けていたということだ。約8年間も。

「それにしても驚いたな。まさかお前までMarkerを破壊する能力を手に入れてしまうなんてな・・・これでお前は3人目のMarker killerになったワケか・・・」

 神宮司は、アイザックにそのようなことを言われて正面を見た。

 そこには、足場の部分以外が丸ごと無くなったMarkerがあった。

 精神を飲み込まれるまで螺旋状に絡まる四角錐のような形状をしていたのだが、現在は原型を留めないくらい粉々になっており、あのライトグリーンの光も無かった。

 精神世界で神宮司に核を破壊されたことにより、Markerは機能を維持できなくなり、最終的に現実世界にあるMarker本体ごと崩壊したのだ。

「・・・いや、違う。」

 神宮司は、Markerから目を背けながら否定した。

「俺だけだったら、きっとMarkerを破壊することなんてできなかった・・・」

「俺、だけ・・・?それはどういう───」

 アイザックが訊こうとすると、神宮司の方から口を開いた。

「彼女が・・・メイリーが助けてくれたんだ。彼女が居なかったら、今頃どうなっていたか・・・」

 それを聞いた瞬間、アイザックは耳を疑った。

 メイリーが───Markerが自分自身の破壊を手伝った・・・?あり得ない。アイザックはそう思った。

 それでは自殺をするようなものであり、Markerにとっては何の特にもならない。

 わざわざ神宮司にとって一番大切だった存在であるメイリーの幻覚を彼に見せてまで自らがいる下までおびき寄せ、そして神宮司を取り込もうとしたというのに。

 それなのに、何故───?

 アイザックがそんな疑問を抱いている時、突然、神宮司のRIGの通信機が鳴り響いた。

 神宮司が通信相手を確認した。

 穂波からだった。

≪警部!聞こえますか、警部!?≫

 通信に出ると、すぐに穂波の声がスピーカーから響いた。

「聞こえてるよ。どうしたんだ?そんなに慌てて・・・」

 神宮司は、左耳を押さえながら訊く。

≪つい先ほど、我々が交戦していたネクロモーフの大群が突然全て動かなくなったんです!≫

「そりゃそうだろうな。ちょうど今、Markerを破壊したところだよ。」

≪やはりそうでしたか・・・≫

 穂波は、何故か少し落ち込み気味な声だった。

「どうした?あまり嬉しそうじゃないな。」

 神宮司がそう訊くと、少し合間を空けてから穂波が口を開いた。

≪皆さんがお疲れなところ、非常に申し上げにくいのですが・・・実は、ネクロモーフの活動停止と同時に、コロニーの反応炉に異常が発生したようなんです・・・≫

「何だって!?」

 神宮司のみに限らず、彼の周辺にいた全員が耳を疑った。

「詳細は!?」

≪アナウンスで確認できた限りでは、反応炉隔壁が破損したようで、予測ではあと20分もしないうちにコロニーが爆発する危険があると・・・≫

「それだともう今から来た道を引き返して、そっちに戻る時間もないな・・・」

 現在、神宮司達は採掘デッキにおり、しかも石村の各区画を行き来するのに重要なトラムは通路の途中が塞がっているため、ここからフライトデッキまで直接戻ることはできない。最低でも40分は掛かるだろう。

「アイザック、この艦に脱出用の船か何かはあるのか!?」

 神宮司は、唯一石村のことを知り尽くしているアイザックに訊いたが、彼は首を横に振った。

「脱出艇はスプロールに接舷されていた時点で1艇も残っていなかったし、脱出ポッドもその時俺が使用したのが最後だった筈だ。」

 その事は、既にフライトデッキで石村の状態を調べた時点で判明していた。

「それならこの石村で脱出しましょう!これも宇宙船なんですし───」

「いや、駄目だ。この艦を地球まで持ち帰るわけにはいかない。」

 アイザックは、ルナの提案を途中で遮って却下した。

「そんな・・・でも他に方法は───」

「方法ならまだある。それに、Markerは活動を停止した状態でも情報を解析することが可能だ。もし誰かにMarkerの情報をコイツから入手されるようなことがあれば、また同じ惨劇が繰り返される。コロニーと石村に転がっているネクロモーフに関しても同様だ。」

 さらに言えば、石村でコロニーから脱出するには船体を固定しているエアロックと燃料パイプを切り離さなければならないのだが、規格の関係でこちらからコントロールすることはできない為、直接コロニー側に戻らなければならなかった。

「穂波、俺達に構わず、すぐにシャトルで安全圏まで退避してくれ。」

 アイザックは、神宮司の通信機を通じて穂波に言った。

≪そんな・・・あなた方を残して脱出なんて出来ません!≫

「大丈夫だ、RIGスーツには推進器がある。それでそっちと合流する。今から送る座標に向かってくれ。」

≪無茶です!スーツの推進器なんて大した出力は無いのでは・・・≫

「アイザックの言うとおりにするんだ、穂波ちゃん。」

 神宮司が、尚もアイザックに反論している穂波に言った。

≪しかし警部・・・≫

「命令だ。それに、シャトルには俺達より命を優先すべき人間が大勢いるだろ?」

 穂波達がいる格納庫にあるシャトルには、ネクロモーフの襲撃の中で生き残った生存者が大勢乗っていた。

 その中には、アイザックの命の恩人である早苗やリッキィ、甚平やたま子も同乗している。

≪・・・わかりました。どうかご無事で・・・≫

「ああ、必ず戻る。」

 そう言って通信を切った。

「行こう。ぐずぐずしている時間は無い。」

 アイザックが立ち上がりながらそう言うと、全員が無言で頷き、プラットフォームへ向かって来た道を戻っていった。

 その間、神宮司は精神世界でのこと考えていた。

 あの時、自分の前に現れたメイリーが本当に彼女の魂だったのか、あるいは自分の記憶の中にあったメイリーの情報を元に生み出されたものなのかは未だに解らなかった。

 Markerによって生み出されたにも関わらず、何故自分を助けてくれたのか。

 だが、どちらにしても神宮司はまたメイリーに命を救われたことになる。

 それはどんな形であれ、変わらない事実である。

 同時に彼女は、まだ神宮司のことが心配で眠れないと言っていた。

 何としてもこの地獄から生還し、そして早く彼女が安心して眠らせてやれる人間になろう。

 神宮司は、そう誓ったのだった。

 

 

 




 どうにかここまで話を進めることができました。
 次回はボス戦です。
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