今回は少し長めです。
目が覚めた。
アイザックはベッドから起き上がった。机にはルナがクレイドルで気持ちよさそうに寝ていた。が、直ぐに起きた。
「ん・・・おはようございます、マスター。もう起きておられたのですね。」
ルナは軽く背伸びをした。
「いや、俺もたった今、起きた所だよ。」
そう言ってアイザックはリビングに向かった。
リビングには、まだ早苗がベッドで眠っていた。
リビングは昨日の夜、パーティーをした時のままだった。食品を包装していた紙屑が床に散らばり、テーブルに置かれた箱の中にはまだピザが一切れ残っていた。さらにあの後追加して出した菓子類の箱や包みもテーブルの上に放置されたままだった。
ソファには甚平が寝ていた。
本来は昨日の夜に帰るはずだったのだが、パーティーで疲れたのか、そのまま一泊してしまったようだ。
キッチンの方を見ると、リッキィとたま子が皿などの片づけをしていた。
「あっ、おはようございます、アイザックさん。ルナさん。」
「おはようですぅ~。」
リッキィとたま子は2人に気づいて挨拶した。
「ああ、おはよう。俺も手伝おう。」
「私も手伝います!」
アイザックとルナは部屋の片づけを手伝った。
それから1時間後、ようやく部屋の片づけが終わった。
その間に早苗と甚平も目が覚めたので、朝食の用意もした。
甚平は真っ先に洗濯機に向かった。昨日の夜、炭酸飲料で汚れた服を洗濯機に入れてそのままだったからだ。
服は既に洗い終わっており、乾燥も済んでいた。
甚平は自分の服に着替え、みんなで朝食をとると、たま子を連れて自宅へ帰って行った。
「さて、今日はどうしましょうか?」
「そうね・・・折角の休日なんだし、みんなでどこかへ出かけない?」
「良いですね。アイザックさんとルナさんはどう思いますか?」
早苗の提案に賛成したリッキィがアイザックとルナに訊いた。
「ああ、俺も良いと思う。お前はどうだ?ルナ。」
「はい!私も賛成です。」
「それじゃあ、決まりですね!」
そう言ってリッキィは早速、外出の支度を始めた。
他の3人も外出の用意をしようとそれぞれ自分の場所に向かおうとしたその時だった。
玄関の方から大きな音が響いた。
「な、何!?」
「落ち着いて下さい、早苗さん!私が見てきますから・・・」
リッキィは混乱する早苗を落ち着かせ、音がした玄関の方へ向かった。
玄関に来てみると、扉が破られていた。だが、さらにその前に立っている者を見てリッキィは絶句した。
そこには見るからに醜い姿をした化け物が立っていた。掌からは長い爪のような物が生えており、腹部からは小さな手が生えていた。
そして、頭部は顎そのものが丸ごと無くなってるように見えた。そこには細い触手のようなものが幾つも通っていた。
その化け物はリッキィを見るなり大きな喚き声のような声を出しながら襲いかかった。
「リッキィさん、危ない!」
ルナはそう叫んでリッキィに飛びかかろうとする化け物に向かって左手から青い光を放った。
放った青い光が化け物に当たると、全身が青白く光り、動きが遅くなった。
ルナが放った青い光は、ステイシスと呼ばれる物体の動きを遅くすることができる装備で、昨夜、アイザックがルナにプレゼントした武装の1つだった。
「リッキィさん、今の内に早く!」
「!?・・・は、はい!!」
リッキィは我に返り、スローモーションでゆっくり動く化け物から離れた。
それを見計らったアイザックは、部屋の中から取り出したプラズマカッターを構え、化け物の両腕、両脚、首を切断した。
「リッキィ大丈夫!?・・・今、大きな音が聞こえたんだけど。」
リビングにいる早苗が心配そうに言った。
「はい、なんとか・・・アイザックさんとルナさんが助けてくれました。」
「そう、良かった・・・」
早苗はリッキィの声を聞いて安心したようだ。
「マスター、何なんですか?あれは・・・」
ルナはバラバラになった化け物を見ながらアイザックに訊いた。
「ネクロモーフだ。」
アイザックはその化け物の名称を言った。
ネクロモーフとは、Marker(マーカー)と呼ばれる未知の遺物によって人間の死体が変質した生体再結合子で、人間の死体(Necro)を変質(Morph)させて誕生する特質から、Kyne博士によってそう命名された。
感染・増殖により生まれたネクロモーフは死体に感染させ仲間を増やす、もしくは生きた人間などを殺して感染させるための死体を増やすという行動を繰り返す。また、壁などに貼り付いている有機組織となった細胞はガスを発生させることで環境を変化させる。
死んでいる為、急所といった生命維持器官が存在せず、胴体などを撃っても殆ど効果が無いため、四肢を切断することで行動不能にする必要がある。ばらばらにしても行動不可能になっただけに過ぎず、ネクロモーフ細胞の活動は継続している。なので、先ほどアイザックが倒したネクロモーフは首と四股を切断された今も活動しているのだ。
「アイザックさんは前の世界で、こんな化け物と戦ってたんですか・・・?」
リッキィの顔は青ざめていた。
「ああ。まさか、こんなところまで追いかけて来るなんてな・・・」
アイザックは胴体だけになったネクロモーフを見て言った。
本人としては、もうネクロモーフやMarkerとの戦いはタウ・ヴォランティスで最後にしたかった。アイザックにも、争いのない平和な時間を過ごしたかった。
だが、そんな幸せな時間は、再び現れた生きた屍によって壊されてしまった。
3人はリビングにいる早苗が心配になり、様子を見に行こうとした、その時だった。
大きな揺れと共に爆発音が周り中に響いた。すると、部屋がベランダ側に向かって傾き始めた。どうやらマンションが何らかが原因で倒壊し始めているようだった。
アイザックは咄嗟に自室の入り口の縁に掴まった。ルナも上手くアイザックの身体にしがみつくと、掴まる物が無く滑り落ちていくリッキィをキネシスで引き寄せた。
「大丈夫ですか!?リッキィさん。」
「はい、助かりました。・・・そうだ、早苗さんは!?」
リッキィはそう言って上手く体勢を保ちながらリビングへ向かった。
幸い、部屋の傾きが納まったらしく、何とか上へ登れる角度で止まっていた。
だが、また何時マンションが倒壊を再開するか分からないので、油断はできない。
リビングにいる早苗は、障がい者用の手すりに掴まっていたようで、特に怪我も無さそうだった。
アイザックは自室に入り込むと、壁に釣り下げられているセキュリティースーツに手を伸ばした。
「ルナ、今の内に君も武装を装備するんだ。きっとこの先、奴らと戦う事になる。武器は行動に支障を来さない程度でなるべく多く持っていた方が良いな。」
アイザックはスーツを着ながらルナに言った。
「分かりました、マスター。」
ルナは早速、自分の武装の装着に取り掛かる。
「早苗、リッキィ、聞こえてるか!?」
「聞こえてますよ!」
リッキィが応えた。
「いずれここは倒壊する。それに奴らが何時現れるか分からない。ここから脱出しようと思う。だから、そっちも脱出の準備をしておいてくれ!」
「分かりました!」
アイザックがスーツのロックをかけると、背中のRIGが独特な音を出してライフゲージとステイシスゲージを発光させた。
折り畳まれていた胸部の小型モニターが開くと、アイザックはスーツに異常がないか確認した。
全機能問題なし。武器も正常に取り出せた。
その時、玄関の方から悲鳴が聞こえた。駆けつけてみると、甚平がネクロモーフの残骸を見て腰を抜かしていた。
「甚平、無事だったのか!」
アイザックは甚平を助け起こした。
「ああ。さっきこのマンションを出たら、街中がこの化け物でいっぱいだったんだ。それで俺もその化け物共に襲われ、ここに引き返してきたんだが、突然マンションが揺れたり傾いたり散々な目に遭ったぜ。」
甚平はバラバラになったネクロモーフを指しながら言った。
「甚平さん、たま子さんはどうしたんですか?」
ルナが甚平に訊いた。
そう言われてみれば、確かにたま子の姿が見当たらなかった。
もしやネクロモーフにやられたのでは、とアイザックが言おうとする前に、本人が現れた。
「たま子ならここにいるですぅ・・・」
甚平の胸ポケットに隠れていた。
たま子はかなり怯えていた。ネクロモーフがよっぽど恐ろしかったのだろう。
「とにかく、早くここから離れた方がいいぞ!また何時、アイツらが現れるか分からねぇし・・・」
「ああ、そう思って俺たちも脱出の準備をしていた所だ。」
アイザックは後ろにいる3人を見た。
ルナは全身に武装を纏い、フル装備状態だった。早苗も動きやすい服装に着替え、非常食や医療キットなど災害時に必要な物を詰めたリュックを背負っていた。リッキィはルナと同様、戦闘に備えて武装を装備したようだが、脚部にホバー移動ができる程度の小型スラスターが装備されているくらいで、装甲は殆ど装備されておらず、武器が大型のアサルトナイフ2本に、2連式のマグナム銃のみと心許なかった。
「甚平、シャトルは何処へ行けば乗れるか分かるか?」
「えっ!?ど、どうしたんだよ急に・・・」
「いいから答えてくれ。」
「シャトルに乗れる所って言ったら、コロニー管理施設くらいしかないけど・・・そんなこと知ってどうすんだよ?」
昨日、神宮司が言っていた場所だった。
しかし、そこは神宮司の話によれば閉鎖されているらしく、中がどうなっているのかすら不明だった。
「まさか、アイザック・・・」
「ああ、このコロニーから脱出しようと思う。」
周りにいる全員が耳を疑った。
「正気ですか、アイザックさん!?甚平さんの話通りなら、街中はネクロモーフでいっぱいなんですよ?その中を通ってコロニー管理施設に行くなんて・・・」
「しかも、ここからコロニー管理施設まではかなり距離があるぞ・・・車でも無いとキツいんじゃないか?」
「多分、さっきマンションが傾いた時に地下が埋まったと思うし、私の車はもう使えないと思うわ。コロニー管理施設に行くより、もっと近くの避難所に行った方が良いんじゃないかしら?」
早苗もリッキィも甚平もアイザックの意見に反対していた。
「駄目だ、一部に留まるのは危険だ。」
だが、アイザックは折れなかった。
「何でだよ!?避難所は空襲にだって耐えられるように造られてるし、設備や入り口の強度も万全だ。そこに居れば奴らに襲われる事なんて───」
「甚平、そこに通気口など、外部と通じるものは無いか?」
アイザックは甚平の話を遮ってそんな事を訊いた。
「通気口・・・?ああ、外から空気清浄機を通して内部に新鮮な空気を送り込む為の通気口ならあるぞ?まあ、外が有害物質で汚染されたり、コロニー内の気密性が保てなくなったりした時は通気口を閉鎖して大型の酸素タンクからの供給で1週間は生きられるようになってるけど・・・心配しなくったって、通気口は神姫も入れないくらい狭いし、外側のカバーは爆弾や日本刀、レーザー兵器でだって壊せないくらい頑丈だし、万が一、ネズミとかに入られても大丈夫なように罠が幾つも仕掛けられてるし、そんな所にコイツが入れるわけ────」
type
「ネクロモーフの種類はコイツだけじゃない。」
「・・・えっ?」
「コイツ以外にも複数の種類が存在するんだ。人間より遙かに巨大な奴も居れば、惑星級の奴も居る。さらに言えば、ネズミよりも小型の奴だって居るんだ。」
「そんな・・・だけど、そこに入られても、妨害用の罠にかかって────」
「その罠はどんな物なんだ?」
「えっと・・・侵入した生物をセンサーが感知して、床に電流を流すくらいだったとおもうけど・・・」
「それぐらいじゃ、奴らの侵入は防げない。ネクロモーフは生きてないから生命探知用のセンサーは役に立たない。それに、奴らは多少の電撃では死なない。」
「生きてないって、どういうことだよ?」
「奴らは人間の死体から作り出された操り人形のようなものだ。だから、発信源が操っていない時や、活動中以外は普通の死体同然だ。」
「その発信源が、Markerなのですね?」
ずっと黙っていたルナが口を開けた。
「ああ。」
アイザックは頷いた。
Markerとは、アイザックがいた世界の200年前の地球で発見された謎の物体、Black Markerの複製(正式名称はRed Marker)。
異星人による建造物らしく、螺旋に絡まる四角錐のような外観で、大きさは数メートルほど。全体に言語のような文字が刻まれており、解読して得た情報から得た遺伝子組換え技術で、死んだ細胞が再結合し自己再生するネクロモーフ細胞を作り出すことができる。
Markerはネクロモーフを生み出すと同時に全てのネクロモーフを操る発信源で、それの機能が停止すると、生み出されたネクロモーフは全て停止する。
「奴らの汚染を食い止めるには、Markerを破壊するしかない。あれを止めれば、それと同時に全てのネクロモーフが活動を停止する。」
「てことは、街中にいるネクロモーフを1体1体倒すよりも手っ取り早いって事だよな?」
「いや、そう言う訳じゃない。」
アイザックは甚平の言葉を否定した。
「えっ?そのMarkerを破壊すれば、全て解決なんじゃないのか?」
「Markerは複雑な律動的パターンの音波から脳波にいたるまで幅広い周波数帯を発し、通信機器に微細な影響を与え、周辺の人間に痴呆や抑鬱、不眠、幻覚の症状を引き起こすんだ。しかも、Markerに近い位置に居れば居るほど症状が早く進行する。普通の人間が無闇に近づくのは危険だ。」
Markerは、アイザックが言ったような事もあり、容易に破壊できるものでは無かった。
「じゃあ、どうやってソイツを破壊するんだよ?」
「俺がMarkerに精神のみで突入して、内部から破壊する。」
「精神のみって、そのMarkerってのが精神に悪影響を及ぼすんじゃないのかよ!?」
「そうだ。だが、俺は何度かMarkerを破壊した経験がある。」
その行為は一歩間違えればMarkerに乗っ取られる危険があるものだった。
「例えそうだとしても、また次も上手く行くとは限りません!危険過ぎますよ、アイザックさん!」
リッキィはアイザックの意見に反対した。
「それでも、今Markerを止められるのは、俺しかいないんだ。」
それは全くの事実だった。
現状、この世界にMarkerを破壊できる人間はアイザックしかいなかった。
彼がやらなければ、誰もコロニー中にいるネクロモーフを止めることはできないのだ。
「わかりました・・・皆さん、早く行きましょう。」
そう言ったのはルナだった。
「ルナさん!?何言って・・・」
「そのMarkerやネクロモーフのことをよくご存じなのはマスターです。そして、それがあった時代の人間も、Markerを破壊できるのもマスターだけなんです。マスターがやろうとしていることがどれだけ危険な行為かは、話を訊いていれば分かります。ですが、このままではいずれ私達の身も危ういですし、もっと多くの犠牲者が出てしまいます。それを回避するには、マスターにMarkerを止めて頂くしかありません。」
ルナは辛い表情だった。何故なら、マスターであるアイザックを危険に晒すことになるのだから。
「ルナさん・・・」
リッキィはルナの身を案じた。
「そうね。どちらにしろ、このコロニーに安全な場所は無いみたいだし、ここで言い争っているよりは、今出来ることをやった方が良いわね。」
ルナの意見に同意したのは、早苗だった。
「早苗さん・・・」
「仕方ねぇな、確かにコイツのことやMarkerのことをよく知ってるのはアイザックだし、逆にこの時代の設備で安心するのもかえって危なそうだしな。」
さっきまでアイザックの意見に反対していた甚平も同意した。
「分かりました。ですが、アイザックさん。決して無茶だけはしないで下さいよ?アイザックさんの意見に同意してくれたルナさんはとても辛い思いをしてるんですから。」
「ああ、分かってる。」
アイザックは再び全員の方を向いた。
「さあ、行こう。」
アイザック達6人は、マンションからの脱出を開始した。
マンションのカウンター辺りは倒壊で完全に入り口を塞がれていたので、アイザック達は裏の非常口から出ることにした。
マンションから出て裏道を通り、街の一角に出た。
賑やかだった街は恐ろしく静かで、誰もいなかった。見たところ、ネクロモーフはいないようだった。だが、アイザック達を奇襲するために建物の中や物陰に身を潜めている可能性もあった。
アイザックはプラズマカッターを構え、周りを警戒しながら歩いた。ルナやリッキィも、自分のマスターを守るために武器を構えて辺りを警戒した。
「何だが、不気味ですね。これだけ静かだと・・・」
ルナは街の変わりようを見てそう言った。
街は砂埃が舞い上がり、風の音以外は何も聞こえてこなかった。
アイザックはロケーターで最短ルートを確認した。ロケーターは建物の裏路地を指していた。
「便利だな、それ。」
甚平はロケーターの機能に関心しながらアイザックについて行った。
「そうでもないさ、逆にリスクが高くなる危険だってある。」
ロケーターが示すとおりに行けば目的地へ最短で向かうことが出来るが、そのルートが安全である保障は何処にも無いため、ネクロモーフに遭遇する可能性があった。
アイザックは、狭い裏路地を進む途中で足を止め、後ろにいる5人に手で止まるように合図した。
「どうしたのですか、マスター?」
ルナは小声でアイザックに訊ねた。
「何かが居る。」
耳を澄ますと、右の曲がり道の方から足音が聞こえた。ネクロモーフの可能性もあったので、アイザックは5人を後ろに下げ、壁を背にプラズマカッターを構えた。足音はだんだんこちらに近づいてきた。
アイザックは相手の姿が現れる前に自分から飛び出し、プラズマカッターを相手に向けた。
だが、相手はネクロモーフではなく、人間だった。そこには、2人の女子がいた。高校の制服を着ているところから見て、どうやら学生のようだ。しかも、そのうちの1人には見覚えがあった。
彼女は、昨日のF3予選で対戦した女子高生だった。あの時とは違い、長い髪を大きな輪っか状のシニヨンにしていたが、間違いなくF3予選で対戦したアルトレーネ型のマスターだった。
彼女の後ろにいたロールヘアの女子は、アイザックが向けたプラズマカッターに驚いて隠れたが、アルトレーネ型のマスターは何故かそれほど驚いていなかった。
「あなたは、もしかして昨日対戦した・・・」
「あ、ああ。君こそ、昨日のF3予選で俺と対戦したアルトレーネ型のマスターだね?」
アイザックは相手の警戒を解くために、ヘルメットをスーツに格納した。
「はい、そうです。」
「やはりそうか。一瞬、見間違えそうになったが・・・」
「ああ・・・あの時はたまたま、体育の授業中にゴムが切れちゃって、替えを持ってきていなかったのであのまま大会に出場したんです。」
アルトレーネ型のマスターは後ろ髪を触りながら言った。
「ねえ、この人知り合いなの?」
彼女の後ろに隠れている女子高生が訊いた。
「うん、知り合いって程じゃないけど・・・」
「それにしても、よく俺だと分かったな。ヘルメットを被ってたのに。」
アイザックは疑問に思ったことを訊いた。
「何となく、分かったんです。私、昔からよく変装している人を言い当てることができて・・・特に何か考えているわけでもないんですけど、直感で分かってしまうんです。」
「そうなのか・・・」
変わり者も居るものだなと、アイザックは思った。
「そう言えば、名前を聞いていなかったな。俺はアイザック・クラーク。俺の肩に居るのはルナだ。君は?」
「私は高島ユミ。こっちはクラスメートの堀江薫。」
ユミはアイザックの後ろでこちらを見ている4人に目を向けた。
「あそこにいるのは俺の友人だ。皆、出てきてくれ。」
甚平達は建物の陰から出てきた。
「はじめまして。私はリッキィです。こちらは、私のマスターの永山早苗さんです。」
「よろしくね。」
「俺は大木戸甚平。胸ポケットに居るのはたま子だ。今は怯えてて引っ込んでるけど、普段は物凄い明るくて元気なカワイイ神姫なんだぜ。」
4人はそれぞれ自己紹介をした。
「それにしても、何故こんな街中を?この辺に学校は無いはずだが・・・」
本当は、大体の見当はついていた。だが、念のために訊いておいた。
「朝、学校へ行くために駅へ向かっていたら、街が変な化け物でいっぱいになってて、駅の方も火災が起きてて学校にも行けなかったので、薫と一緒に街中を逃げ回ってたんです。だけど、その間に────」
「すまないが、その話の続きは後で訊かせてくれ。」
アイザックはそう言ってヘルメットを展開して装着した。
「えっ?」
ユミと薫が後ろを振り向くと、奥にネクロモーフが3体、こちらに向かってきていた。
タイプはSlasherと呼ばれる一般的なネクロモーフだった。
「下がってくれ。」
そう言ってアイザックはプラズマカッターを構えた。
まずは一番前にいるSlasherの両脚を切断し、左腕と頭を一気に切断した。
次に左側にいるslasherの両脚を切断し、右腕を切断すると、前で倒れているslasherの右腕と一緒に左腕を切断した。
最後の1体はルナがしとめていた。
「よし、行こう。」
アイザックは手で合図して先を進んだ。
その道を進むと、再び街中に出た。だが、そこには悲惨な光景が広がっていた。
あちこちに人間の死体が転がっており、その中にはネクロモーフも混じっていた。
「何・・・これ・・・」
ユミと薫はその光景に吐き気を覚えた。
その死体の中には2人の知り合いもいた。それ以外にも、アイザックがF3予選で最後に対戦した老人もいた。その近くには、彼が所有していた飛鳥型のものと思われる残骸が散らばっていた。恐らく、ネクロモーフに破壊されたのだろう。
その時、ユミの元にあのアルトレーネ型が居ないことに気づいた。
アイザックがその事をユミに訊ねる前に別の方へ目を向けた。
彼女のクラスメートの薫が倒れているネクロモーフの1体に近づいていたからだ。しかも、そのネクロモーフは無傷だった。
それはつまり、そのネクロモーフは休止状態だということを表していた。攻撃対象が居なければ活動を停止して死体と同じ状態で動かないが、生命体が近づくと、直ぐに活動を再開して相手を襲いにかかる。
「薫、そいつから離れろ!」
アイザックは叫んだ。
だが、それが薫の耳に届く前にネクロモーフが起き上がり、彼女の首を鋭い爪で切り落とした。
首があった所から血が噴き出した。
「きゃあぁぁぁぁぁ!!」
ユミが悲鳴を上げた。
そのネクロモーフの活動再開と共に他のネクロモーフも活動を再開した。
アイザックとルナ、そしてリッキィが武器を構えた。その時だった。
一本のレーザーが数体のネクロモーフを貫いた。
「大丈夫か!?アイザック!!」
そこに現れたのは、レーザーライフルを構えたアトラと、アイザックから見て旧式の拳銃を持ってこちらに走ってくる神宮司だった。
「神宮司!」
「やれやれ、コロニー管理施設の捜査が依頼されてんのに、今度はコロニー中がこの有り様だ・・・ちょっとは休ませて欲しいモンだよ。」
神宮司は残ったネクロモーフを撃ちながら言った。
「神宮司、奴らの手足を狙え。バラバラにするんだ。」
「知ってるよ。つい数10分前、聞かされたからな。」
「聞かされた?誰にだ!?」
アイザックは信じられない一言を聞いて神宮司の方を振り返る。ネクロモーフの弱点を知っているのは、アイザックとルナ以外に居ないはずだった。このことは、まだ早苗やリッキィ、甚平やたま子にすら話していなかった。
ならば、一体誰が。そう訊こうとする前に、神宮司が走ってきた方向から誰かが走ってきた。
「神宮司!俺とベレッタ以外、全滅だ!もう奴らが直ぐそこまで迫ってるぞ!」
走ってきたのは、赤と黒がメインカラーのスーツを着た男だった。
「そうか・・・今、こっちは生存者を発見した。護衛しつつ、ここから離脱しよう。」
「了解した。では、これより────」
男はそこまで言うと、突然固まった。
「どうした?」
神宮司は不思議そうに男に訊ねた。よく見ると、彼がアイザックの方を見てることに気づいた。神宮司はアイザックの方を見ると、彼も男を見て固まっていた。
「おい、どうしたんだ?2人とも・・・」
神宮司はわけも分からず、少しパニックになった。
「・・・カーヴァー!」
アイザックは男の名前を呼んだ。
そう、彼はアイザックがこの世界に来る前まで一緒にいたジョン・カーヴァー軍曹だった。
「アイザック!・・・何てこった、お前無事だったのか!」
2人はお互いに抱き合った。
「何だ、お前ら知り合いなのか?」
「ああ、この世界に来る前からのな。」
神宮司の質問に、アイザックが答えた。
「じゃあ、この人がアイザックさんが言ってた・・・」
リッキィは初めてアイザックに会ったときのことを思い出した。
彼はあの時、自分以外に誰か倒れていなかったかを訊いてきていた。それが、彼のことだったのだ。
「良かったですね。マスターが探していた方がご無事で。」
「ああ、本当に良かった。」
すると、カーヴァーはアイザックの方にいるルナに目を向けた。
「なんだ、お前も神姫を持ってたのか。」
「お前も・・・?」
アイザックは、カーヴァーの発言に疑問を感じていると、神宮司とカーヴァーが走ってきた方向から1体の神姫が飛んできた。タイプはストラーフMk.Ⅱ型だった。
「マスター!もう敵が直ぐそこまで来ている!至急、撤退を────」
ストラーフ型がそこまで言うと、アイザックの方を見た。
「マスター、こちらの方は?」
「俺はアイザック・クラーク。こっちはルナだ。」
アイザックはカーヴァーに代わって自ら名乗った。
「よろしくお願いします。」
ルナがストラーフ型に礼をした。
「紹介しよう。コイツは俺の神姫、ベレッタだ。」
カーヴァーはベレッタを自分の肩に乗せて紹介した。
「おいおい、2人とも。話は後だ。奴らがそこまで迫ってるぞ。」
神宮司が2人の会話を遮った。
神宮司達が来た道を見ると、大量のネクロモーフがこちらに向かってきていた。
「行くぞ、アイザック。」
カーヴァーは合成した銃を構えた。
「ああ。」
アイザックも、プラズマカッターから合成した銃に持ち替える。
「正気ですか、マスター!?あの大群を相手に2人で戦うなど、無茶だ!」
ベレッタがカーヴァーに言った。
「無茶でも、やらなきゃならん時があるんだよ。」
カーヴァーはそう言って、ネクロモーフの大群に上部のマシンガンを撃った。
命中した何体かは沈黙したが、大群の動きは止まらない。
今度はアイザックが、銃の下方のデトネーターを射出して、大群の足下に仕掛けた。
しかし、そのデトネーターは旧式である上に威力が低いため、ネクロモーフの大群には全く効果を示さなかった。
「走れ!」
カーヴァーが後ろにいる全員に呼びかけた。
リッキィは早苗を介助しつつ、甚平はショックで動けないユミを引っ張りながら、そして神宮司はアトラと共に反対方向へ走り、ルナとベレッタはアイザックとカーヴァーの援護射撃を行った。
「ルナが持っているヤツ、お前が作ったのか?」
カーヴァーはショットガンを放ちながらアイザックに訊いた。
「ああ。昨日、F3予選を優勝したご褒美にな。」
そう言ってアイザックはロケットランチャーをネクロモーフの大群に撃った。
「そうか・・・今度、ベレッタにも作ってくれないか?」
「ああ、時間があればな。」
そう言った次の瞬間、残っていたネクロモーフの大群が一気に吹き飛んだ。
振り返ると、こちらに向かって武装車両が走ってきていた。
「ご無事ですか!?警部!!」
停車した武装車両のハッチから穂波が出てきた。
「穂波ちゃん!」
「さあ、早く乗って下さい!ここから離脱しますよ!」
神宮司達は素早く武装車両の中に入っていった。
「アイザックさんもカーヴァー軍曹も早く!」
穂波は残った2人に呼びかけた。
2人はお互いの神姫を肩に乗せると、武装車両の方へ走っていった。
全員が車内に入ると、武装車両は直ぐにハッチを閉じて走り去っていった。
ついにアイザックはカーヴァーとの再会を果たしました!
次回はついに、原因と思われるコロニー管理施設へ突入します。