ルナの意識が戻り、瞳を開いた。
そこは、何処か室内のようだったが、正確な位置は把握できなかった。
ルナは、クレイドルの上に乗せられており、そこから伸びるコードの先には変圧器などの電子部品、その一番先には隔壁用の大型バッテリーが繋がれていた。
このクレイドルは、アイザックがマンションから出るときに持ち出していたのだろう。
床に置かれたクレイドルのすぐ側で、アイザックが心配そうな表情でルナを見ていた。
「ルナ!?」
アイザックは、ルナが意識を取り戻すと彼女をクレイドルごと抱え上げた。
「マス・・・ター・・・?」
ルナは朦朧とする意識の中、何とか口を開いた。
「大丈夫か!?・・・どこか調子が悪い所はないか!?」
アイザックは、尚も心配そうに訊く。
「大丈夫・・・です。特に、異常は・・・」
ルナは、目覚めたばかりだからか、まだ意識がはっきりとしなかった。
だが、ルナはそんな中、先ほどまでの出来事を思い出し、急にアイザックから目を背けた。
「ごめんなさい、マスター・・・私、あんなこと・・・」
ルナは、バッテリーが切れる前に、通信で自分がアイザックに言ったことを思い出していた。
アイザックは過去に2度も恋人を失い、多くの仲間を失っていた。そして、石村に突入する前にも1人、生存者を守れなかった。
そのことを踏まえ、ルナはアイザックにこれ以上辛い思いをして欲しくは無かったのだが、現に先ほどアイザックに、彼にとって大切な存在である自分自身を置いて先へ進むように促していた。
「ルナ・・・」
「私がもし・・・あのまま死んでしまっていたら・・・マスターがどれだけ辛い思いをするか・・・」
ルナの心の中は、罪悪感でいっぱいだった。
アイザックにこれ以上辛い思いをさせない、そう決めておきながら自分が彼を悲しませる引き金になりかけていたことに対する罪悪感で満ち溢れていた。
「良いんだルナ・・・もう、自分を責めるな。」
「ですが・・・」
「ルナ、誰にだって失敗はある。俺だってそうだ。・・・起きてしまったことをいつまでも引きずっていても仕方がない。次に同じ過ちを繰り返さないことを考えればいい。」
アイザックは一度言葉を切り、ルナに囁いた。
「ルナ・・・お前が無事で良かった。」
ルナの瞳からは、涙が溢れていた。
頬は赤くなり、しゃくりをあげていた。まるで、親に叱られた子供のように。
だが、ルナの心境は叱られた時の子供というよりも何か失敗をして親に慰められる子供に近かった。
「マスター!」
ルナは、アイザックの身体に飛びつくなり、泣きじゃくり始めた。
アイザックは少し同様したが、黙ってルナの頭を撫でた。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい、マスター。私・・・」
「ルナ、これ以上自分を責めるな。俺は、お前が無事だっただけで充分幸せだ。」
アイザックは、ルナにありのままの気持ちを伝えた。
過去に何度も恋人や仲間を失ってきた彼にとっては、大切な存在が無事だっただけでも、これ以上無いほどに幸せだった。
「ですが・・・私、マスターに苦労して買っていただいた武装を壊してしまった上に、折角、マスターが毎晩遅くまで私の為に作ってくださったプラズマカッターも無くしてしまって・・・」
「武装なんて、お前の命に比べれば・・・それに、お前のプラズマカッターなら───」
アイザックがそこまで言い掛けた時、近くを捜索していた神宮司とアトラが戻ってきた。
「ルナさん!」
アトラはルナが起きているところを見るなり、彼女に飛びついてきた。
「ごめんなさい・・・私がしっかりしていれば、こんなことには・・・」
「そんな・・・別に、アトラさんのせいじゃ───」
「アトラは君が行方不明になってから、あの時自分が余計なことを気にしていたせいで君を危険な目に遭わせてしまったって、酷く落ち込んでいたんだ。」
神宮司は、2人の会話に割り込んでルナにそう説明した。
アトラが気にしていた事とは、神宮司の様子がおかしいという話のことだろう。
「あっ、そうだ・・・これ、ルナさんが触手にさらわれた時に落ちてたんです。」
「!!」
アトラが差し出したのは、ルナのプラズマカッターだった。
ルナがTentaclesに浚われた際、彼女が落としたプラズマカッターをアトラが回収していた。
アトラはこれを、今まで大事そうに抱きしめていた。
ルナはプラズマカッターを受け取り、各部に異常がないかを確認した。
「良かった・・・ありがとうございます、アトラさん!」
異常がないことを確認すると、ルナはアトラに礼を言った。
彼女にとって大切な武装(正確に言えば工具だが)であるプラズマカッターが手元に戻り、ルナは少し安心したようだった。
「いえ、そんな・・・」
2人が話している間、神宮司はアイザックに聞きたいことがあったため彼に歩み寄った。左手には何やら見慣れない物を持っていた。
「そこのロッカーの中にあったんだが、何だか分かるか?アイザック。」
「それはプラズマソーだ。だが、それは比較的新型の方だな・・・」
アイザックは、神宮司が差し出した”プラズマソー”と呼ばれるものを見て首を傾げた。
「どうかしたのか?」
神宮司は、何か不思議そうに見ているアイザックに訊いた。
「いや・・・本来、石村に配備されているプラズマソーとは型が違っていたから、少し不自然に思ってな。」
石村は建造62年の旧型艦で、ショックポイント・ドライブを搭載した最初の採掘艦だった。
その為、石村の設備は旧式で、配備されてあるプラズマソーも比較的旧式のものであるはずなのだが、神宮司が持ってきたのは、少なくともアイザックがタイタン・ステーションにいた時点では新型のプラズマソーだった。
本来石村に配備されているプラズマソーは、ちょうどフォースガンくらいの大きさで、上部のレバーを前に押すと前方のカバーが開き、その間からプラズマの刃が形成され、稼働状態になる。
ちょうど稼働状態のプラズマソーの外装と持ち方は、チェーンソーを使用するときと近い姿に見える。
そして、神宮司が回収してきたプラズマソーは、石村に配備されているプラズマソーよりも比較的小型で、両手で持たなければ取り回しが困難だった旧型に対し、片手で扱えるほど軽量になっていた。
旧型は刀身を丸ごとプラズマで形成していたが、新型は刃の部分のみをプラズマで形成し、チェーンソーのように高速回転させて物質を切削する。
ちなみにこのプラズマソーは、あるユニトロジストによるタイタン・ステーションのシステムの破壊工作に使用された工具なのだが、それはまた別の話である。
「グリップの上にある赤いスイッチを押すとプラズマソーが稼働状態になる。もう一度赤いスイッチを押せば停止する。電源を入れるのは難しくない。ただ、使用するときは必ずヘルメットを着用してくれ。特に、堅い物を切削する時は破片が飛び散るからな。」
アイザックは、神宮司にそう促した。
神宮司は、プラズマソーの動作確認をする為に3人から少し離れると、安全の為にヘルメットを展開した。
スーツの背面と前方の胸部にあるモニターの中からヘルメットのパーツが現れ、小さなアームによって神宮司の顔と後頭部に移動して前後のパーツが連結すると、アームがスーツ内に格納され、ヘルメットが下から順に展開していき、展開が完了すると共に右側のみに備え付けられた2つの丸いセンサーがオレンジ色に光った。
神宮司は、ヘルメットの着用を終えると、プラズマソーのスイッチを入れた。
緑色に輝く鋸歯状の刃が現れ、それが独特な駆動音を響かせながら電動鋸のように高速回転した。
神宮司は、プラズマソーの各部を観察して異常が無いことを確認すると、二回ほど振ってからもう一度赤いスイッチを押して停止させた。
プラズマソーをRIGスーツの収納スペースに納めると、奥にあるSTOREに向かった。
神宮司がSTOREに近づくと、操作パネルが自動的に降りてきた。
神宮司は、先ほどの戦闘で入手したcreditでシーカーライフルと呼ばれる狙撃銃を購入し、それの弾薬であるシーカーシェルと拳銃のマガジンを幾つか購入した。
用事が済むと、"Thank you Have a nice day"という表示と共に操作パネルがSTOREの上部に折り畳まれた。
神宮司がアイザック達の所へ戻ろうとした、その時だった。
大きな音と同時に部屋全体が大きく揺れた。
「何だ!?」
神宮司は、何とかバランスを保ちながらアイザック達がいる方へ歩を進めた。
どうやら何かが船体に衝突しているようだった。
本来は石村船体のの各部に装備されたADS(Asteroid Defense System)砲によってデブリや小惑星は撃ち落とされるため、船体に衝突するようなことは無いはずなのだが、現在は一部のADS砲の制御回路が故障しており、ADSの壁に穴があいた状態になっていた。
「神宮司、コロニーに対デブリ用の主砲かシールドなどの防衛設備はあるのか!?」
アイザックは、戻ってきた神宮司に訊いた。
「小惑星やデブリの衝突防止用にシールド発生装置ならあるが?」
「そうか・・・」
アイザックがそれを訊いて安堵した時、神宮司のRIGに通信が入った。
穂波からだった。
≪警部!・・・聞こえますか、警部!?≫
穂波は酷く慌てている様子だった。
「聞こえてるよ。どうした?そんなに慌てて・・・」
≪今、このコロニーがいる領域を小惑星が通過しています!危険ですので、直ぐにこちらへ引き返して下さい!≫
「大丈夫だ。こっちには対小惑星用の主砲があるらしい。最も、一部が故障しているようだから修理しないといけないがな。そっちはシールドで守られてるから、少なくとも小惑星の心配をする必要はないだろ?」
しかし、穂波の口から出た返答は、安堵していた神宮司とアイザックの期待を裏切るものだった。
≪それが・・・シールド発生装置が、作動していないんです。≫
「何だって!?」
神宮司は耳を疑った。
≪詳しい原因は不明ですが、どこかに異常があるようで、今、カーヴァー軍曹と異常箇所を探していた所なのですが───≫
その時、"代わってくれ"という声がスピーカー越しに小さく聞こえた。声から見て、どうやらカーヴァーのようだ。
≪こちらカーヴァー軍曹。≫
案の定、カーヴァーが穂波と交代して通信に出た。
≪神宮司、よく聞いてくれ。今、コロニーの居住区域の一部に穴が空いて酸素濃度が低下している。システムが隔壁を閉じて対応はしているが、このままだと1時間以内にコロニーは宇宙の塵になる。シールド発生装置の回復は望めない。そっちで石村のADS砲の守備範囲を広げてくれ。≫
「そんなこと本当に出来るのか?」
神宮司は、少し不安になって訊いた。
いくら大型の宇宙船である石村であっても、コロニーの5分の1ほどの大きさしかない上、ADS砲は他の宇宙船やコロニーを護衛する事が前提ではない為、長時間も自身とコロニーを小惑星から同時に守るのは困難だった。
≪ずっと石村の主砲だけで賄うのは難しいが、時間稼ぎくらいは出来るはずだ。詳しいやり方は、アイザックに訊いてくれ。≫
カーヴァーはそれだけ言うと、通信を切った。
ぐずぐずしている暇は無かった。一刻も早くADS砲の制御回路を修理し、石村だけでなくコロニーも、小惑星から守らなければならない。
神宮司は、アイザックに故障しているADS砲の位置を訊いた。彼の話によれば、どうやら医療デッキ付近らしい。
アイザック達は、ルナのバッテリーを急速チャージで50%まで充電すると直ぐにトラム・ステーションへ走り、医療デッキへ向かった。
医療デッキに到着するまでの間、神宮司とアイザックは武器の軽い点検や弾薬の補充を行っていたが、アイザックがどうにも落ち着かない様子だった。
「どうした、アイザック?」
神宮司が訊いた。
「いや・・・俺の最初の恋人、ニコールが石村で死んだという話は知ってるな?」
「ああ。」
神宮司は、アイザックの問いかけに頷いた。
「今、俺達が向かっている場所・・・医療デッキで死んだんだ。」
その瞬間、トラムの中は重い空気に包まれた。
なぜなら、アイザックは今から恋人が亡くなった場所へと行かなければならないからだ。
自分の大切な人間が亡くなった場所へ行くのがどれだけ辛いことかは3人にもよく理解できたが、だからと言ってADSの修理を中止するわけにもいかなかった。
例え彼がどんなにそこへ行くことを拒もうと、そこを通らずして故障しているADS砲を修理することはできない。ADS砲を修理しなければ、自分達どころか、コロニー管理施設の格納庫にいるカーヴァーや穂波、早苗とリッキィに甚平とたま子、それに多くの生存者が危険に晒されることになる。
だが、アイザックは決して躊躇わず、行きたくないなどと弱音を吐くこともしなかった。
彼はもう事実から目を背けないと決めていた。
それは、2人目の恋人であるエリーと別れる時から決心していた。
神宮司らは、そんなアイザックを少しでも支えてやりたいとそれぞれ思った。ルナは、彼の神姫として。アトラは、彼の友人、仲間として。そして、神宮司は心情を共感できる存在として彼を支えようと思った。
その時、神宮司の頭に頭痛が走った。それと同時に視界が歪み、赤く染まった。宇宙空間で起きたときには無かった症状だ。
耳鳴りも酷く、今にも気を失いそうになる中、室内の一角に目に付く存在がそこにいた。
神姫だった。
型はルナやアトラと同じアーンヴァルMk.Ⅱ型で、身体の彼方此方が煤で汚れていた。他にも所々に傷がついており、溶解しかけているカ所もあった。
そして、その神姫の瞳は白く発光していた。
だが、明らかに様子がおかしい神姫がそこに居るというのに、一番近くにいるルナやアトラ、さらにはアイザックですらその存在に気づいていなかった。
端から見ればおぞましいとすら思うのではないかという姿の神姫がそこにいるのに、驚かないどころか気にも留めないというのは普通に考えればあり得ないことである。
しかし、そんな神宮司も意識が朦朧とするせいか、その神姫の姿に違和感を感じることはなく、彼の中に浮かんできた疑問はただ1つだった。
「君は、・・・メイリー、なのか?」
神宮司は、神姫に問いかけた。
───そうよ。でも、あなたは分かっているはずよ・・・分からないわけがない・・・忘れられるわけがないんだもの・・・
メイリーは、発光する瞳で神宮司を見つめたまま言った。
「教えてくれ、メイリー。どうしたら君を救えるんだ?」
今、神宮司の中にはそれしか浮かばなかった。
Markerの破壊、生存者の保護、ADSの修復、仲間を守る、他にも大切なことがたくさんあるはずなのに、何故か今はそのことしか頭の中になかった。
───私だって、出来ることなら今すぐ救って欲しい・・・だけど、まだあなたには先にやらなければならないことがあるわ・・・大事なことを後回しにしては駄目・・・大切な仲間を失いたくはないでしょう?・・・感情的にならないで。
「俺が、感情的に・・・?」
神宮司は、我に返った。
自分は一体何を考えていたのだ、と思った。自分は今、仲間や生存者達の生死のことを棚に上げて、メイリーを救うことだけしか考えていなかったのだから。
「何か言ったか、神宮司?」
気づけば、アイザックがこちらを向いていた。
先ほどまで発症していた頭痛や耳鳴りなども治まり、視界も元通りになっていた。
神宮司は、再び前を向いた。
そこには、不思議そうな顔でこちらを見るルナと、心配そうな顔で見つめるアトラがいるだけで、メイリーの姿は無かった。
「どうしたんだ、神宮司?アトラからも聞いたが、さっきから様子が変だぞ?」
「いや、大丈夫だ。何でもない・・・」
アイザックの問いかけに対し、神宮司はそう答えた。
だが、それでもアイザックは今の神宮司の状態を正常とは見ていなかった。
彼は、神宮司について気掛かりなことがあった。
それは、彼がMarkerに幻覚を見せられているのではないかということだった。
Markerは、複雑な律動的パターンの音波から脳波にいたるまで幅広い周波数帯を発して周辺の人間に幻覚を引き起こし、 症状としては、その対象にとって大切な人物の幻覚を見せる事が多く、事実、Dr.カインとアイザックは妻や恋人の姿を見せられている。
神宮司もまた、過去にメイリーという名前の神姫を失っており、同時に彼女は神宮司にとっては大切な存在だった。
その事を踏まえて、彼はMarkerにメイリーの幻覚を見せられている可能性が高かった。
「神宮司、もし何かあるはずがないようなものが見えたら直ぐに言ってくれ。いいな?」
<進路上に未知の障害物を検出。これ以上進めません。医療デッキへようこそ。>
アイザックが神宮司にそう言った時、システムから医療デッキに到着したという案内が流れた。
神宮司は、トラムの乗降ハッチが開くと、アトラを自分の肩に乗せ、黙って立ち上がってトラムの外へ出ていった。
「おい、神宮司!」
アイザックは神宮司を呼び止めようとしたが、聞こえていないのか、彼はそのまま医療デッキの入り口へと消えていった。
石村のことを全く知らない神宮司を1人にするわけにはいかないので、アイザックもルナを自分の肩に乗せ、彼の後を追った。
医療デッキ内は照明が全て消えており、入り口から内部まで蛍光塗料が血痕のように天井、壁、床にこびりついていた。
そして、通路や部屋のあちこちにネクロモーフと人間の死体が転がっていた。少なくとも、ネクロモーフの半分は過去にアイザックが倒したもので、残りの半分は一緒に倒れているコロニー管理施設の捜索隊の死体が変質したものだろう。
倒れている捜索隊の何人かの手にリベットガンが握られているところから見て、どうやらここにある装備を何とか使いこなしてネクロモーフと戦っていたようだった。
神宮司がロケーターで最短ルートを確認したとき、奥で何かが蠢いているのが見えた。
神宮司は咄嗟にコンテナの陰に隠れ、シーカーライフルを取り出し、蠢いているものに向けて構えるとスコープの倍率を上げた。
その先には、小型恐竜のような外観のネクロモーフ"Stalker"が物陰に隠れていた。
Stalkerは群れを成して物陰に隠れて顔を出しながらこちらの様子を伺い、隙をみて高速で目標に突進してくる習性があり、同時に他のネクロモーフに比べてかなり賢い種類である。
神宮司はStalkerの頭部に照準を定めて引き金を引こうとしたとき、突然、肩を軽く叩かれた。
神宮司は声を上げそうになるのをぐっと堪え、後ろを振り返った。アイザックだった。
「おい、脅かすなよ・・・」
神宮司は小声で言う。
「そっちこそ、1人で勝手に動き回るな。危険だぞ。」
「それは悪かったよ・・・確かに、今の俺は少し感情的になっているな・・・彼女の言うとおりだ」
「・・・何だって?」
アイザックは耳を疑い、神宮司に尋ねる。
「いや、何でもない。・・・それより、そこにいる奴なんだが弱点はどこなんだ?」
神宮司は話を逸らしてStalkerについて話題を変えた。
「一般的なネクロモーフと同じ"両腕"だよ。・・・それに、隠れているのは1体だけじゃない。」
アイザックにそう言われ、神宮司は辺りを見渡した。
よく見ると、他の場所にも2、3体のStalkerが物陰に隠れており、顔を出してこちらの様子を伺っていた。
すると、隠れていたStalkerのうちの1体が独特な鳴き声を上げながらアイザックと神宮司に向かって突進してきた。
だが、それは2人にたどり着く前に爆発と共に四散した。
アイザックが予め、Stalkerが隠れている場所の手前にデトネーターマインを仕掛けていたのだ。
いくらネクロモーフの中で賢いとは言え、理性が無い上に生命以外を的確に察知するほどの知能は無いため、デトネーターなどのトラップに気づかないことが多い。
「こういう障害物の多い所では、デトネーターを使った方が効率が良い。」
アイザックは、デトネーターをリロードしながら神宮司に言った。
「いいんだよ、コイツは俺の特性に合った武器だから。知ってるか?俺の特技のひとつは射撃なんだ。」
神宮司は少し自慢げに言った。最も、まだシーカーライフルを実際に撃ったことが無いので、威力や反動を全く把握していなかったのだが。
その時、隠れていたStalkerがまた1体、2人に向かって突進してきた。
だが、またしても予め仕掛けられていたデトネーターマインにかかり、アイザックと神宮司にたどり着く前に爆散した。
ところが、それと同時に別の方向からStalkerの鳴き声が聞こえてきた。
見ると、アイザックが把握していた場所とは別の物陰からStalkerが突進してきていた。また、そこにはデトネーターマインを設置していなかった。
アイザックは直ぐに突進してくるStalkerの手前にデトネーターマインを撃ち出そうとしたが、突然、そのStalkerが後方へひっくり返った。
見ると、神宮司がシーカーライフルを構えていた。どうやら彼が撃ったらしい。
「スナイパーライフルも捨てたモンじゃないだろ?」
「後方にも注意を払えよ。スコープを覗いてターゲットを狙い撃つことに集中している時が一番、周囲に意識が回らなくなる。」
アイザックは、新たにデトネーターマインを周囲の壁に設置しながら神宮司に言った。
「大丈夫だ。後ろならアトラが見ている。」
神宮司は、そう言って起き上がったStalkerの両腕を撃ち抜き、とどめを刺した。
「マスター、後ろは私が相手をします。マスターは前方を。」
ルナは突然、アイザックにそう言った。
「バッテリーは大丈夫なのか?50%程しか充電していないはずだが・・・」
アイザックは心配そうに聞く。
「問題ありません。それより、今はネクロモーフを倒すことに専念して下さい!」
そう言ってルナは、プラズマカッターを構えてネクロモーフの掃討を開始した。
アイザックも気持ちを切り替え、突進してきたStalkerをフォースガンで吹き飛ばした。
次々に現れるネクロモーフを倒していく中、Stalkerのうちの1体が彼らの死角に回り込み、神宮司が隠れているコンテナの下に身を潜め、彼がシーカーライフルを構えて身を乗り出した隙を狙って飛び上がり、馬乗りになって神宮司の身体を押さえつけた。
神宮司はなんとかStalkerから逃げようとするが、Stalkerはしっかりと神宮司の身体を押さえつけている上に体重が重いため抜け出すことが出来なかった。
何度か抵抗しているうちにStalkerが神宮司の右腕を左手で掴み、残った右手で神宮司の頭部を掴んできた。
引き千切られる、そう察した神宮司は咄嗟にRIGの収納スペースからプラズマソーを呼び出し、自分の頭部と右腕を掴んでいるStalkerの両腕を一気に切り落とした。
Stalkerは切断された両腕から血しぶきをあげながら後方へ身じろぐと、神宮司にシーカーライフルで頭部を撃ち抜かれて倒れた。
それから数十秒後にStalkerの掃討が終わり、アイザック達は目的地であるADS砲へ向かった。
ADS砲の操縦室はロックされていて中に入れない状態だった。
アイザックはパネルの一部を引き剥がし、物理的なハッキングを行おうとしたが、そこで神宮司が「下がってくれ」と言ってきた。
「何をする気だ?」
アイザックは神宮司に訊いたが彼は答えず、突然プラズマソーを取り出すや否や、扉の隙間に刃を押し付け、なぞるように切断し始めた。
全てのロック機構を切断すると、扉を手動で半ば強引に開いた。
「俺がハッキングした方が早かったんだがな・・・」
アイザックは少し呆れながら言った。
「少しは良いところを見せてやろうと思ったんだよ。」
神宮司はプラズマソーを仕舞うと、操縦室の中へ入っていった。
室内のほぼ中央に操縦席があり、手動射撃モード起動時は席ごと外のADS砲と連動して動くようになっていた。前方には大きな窓ガラスがあり、左右にはADS砲の弾薬が縦に積まれていた。
入り口近くの壁面にアイテムボックスがあり、開いてみると中にはパワーノードと200creditが入っていた。
右側の壁面には何やら四角い端末のようなものがあったが、それが何に使うものなのかは神宮司には分からなかった。
「マズいな・・・」
壁のパネルを外して中の配線を見ていたアイザックが頭を抱えてそう言った。
「どうかしたのか?」
神宮司が訊く。
「ADSや自動照準システムに繋がるケーブル自体が断線している。電子回路だけなら直ぐに交換できるんだが、ケーブルを丸ごと交換するとなれば話は別だ。」
電子回路は取り付け及び取り外しがある程度容易な仕組みになっているため、その部分のパネルを外して交換するだけなので手間は掛からないが、ケーブルの場合は壁の内部を伝っている為、これを修理するには壁のパネルを全て剥がさなければならなかった。
「交換にはどれくらい掛かるんだ?」
「急いでも2時間程は掛かるな・・・」
「2時間!?・・・おいおい、コロニーはあと1時間もしないうちに木っ端微塵になっちまうんだぞ?」
神宮司の心の中に不安が広がった。
コロニーのシールド発生装置の回復は望めない上、石村のADSの修理どころか守備範囲の拡張が行えなければ、自分達やコロニーにいるカーヴァー達が危険に晒されることになる。
「ここの修理をしている時間はない。こうなったら、他のADS砲のプログラムを書き換えて守備範囲を広げるしかないな。」
「いいのか?ここだけ稼働しないことになるが・・・」
神宮司は、今いるADS砲以外の主砲で防衛を賄いきれるのかが心配だった。
「そこは設定で何とかする。だがその間、石村及びコロニーの被害をなるべく最小限に抑える為に、プログラムの再構成が完了するまでの間、手動で守備範囲外の小惑星を撃ち落とす必要がある。」
小惑星はこうしている間にもコロニーに衝突しており、このままでは最悪の場合、予測よりも早くコロニーが崩壊する危険性があった。
それをできるだけ防ぐには、唯一、自動照準が故障して稼働していない医療デッキのADS砲でコロニーに接近している小惑星を撃ち落とさなければならなかった。
「手動射撃システムは生きているから問題は無いと思う。だが、そこでなんだが神宮司・・・」
「何だ?」
神宮司は、直感的に嫌な予感がした。
「俺がプログラムを再構成している間、お前にここの操縦を頼みたいんだが・・・」
「何!?・・・お、俺がやるのか?」
神宮司は、突然、ADS砲の操縦を言い渡されて動揺していた。
「ああ。本来は俺がやるべきなんだが、他にADSのプログラムを構成できる人間がいない。だから神宮司、すまないが俺がプログラムの再構成を完了するまでの間、ここでADS砲を操縦して小惑星から石村とコロニーを防衛してほしい。」
アイザック自身としても、本当は神宮司にこんな真似をさせたくは無かったのだが、自分はADSの制御プログラムを再構成しなければならず、その間、コロニーにいる仲間や生存者達を守るためにも、射撃に自身があるという彼にこの役目を委ねる他は無かった。
「・・・分かった。だが、なるべく早く頼むぞ?」
神宮司は了承してくれたが、彼自身はADS砲の操縦は初めてなため、長時間の応戦は厳しく、不安も大きかった。
「最善を尽くすさ。ちょっと来てくれ。」
アイザックはそう言うと、神宮司に手招きをしながらADS砲の操縦席に歩み寄った。
これから神宮司に、主砲の操縦方法を説明するのだ。
投稿が遅くなり、大変申し訳ありませんでした!
ここ最近、生活スケジュールが大きく変化した影響でなかなか時間が取れなくなり、投稿がこんなに遅れてしまいました。
今後も投稿が遅れると思いますが、必ず連載中の作品は完結させますので、これかもどうぞよろしくお願いします!