明けて翌日
鬼殺隊組織の要となる柱達と当主・産屋敷耀哉を交えての柱合会議が午前10時に開かれる。
柱達の遅刻は許されず、いや、皆は当主を崇拝しており、彼が来る数十分前に集合しているのが常である。時間前に余裕を持って来るのも、普段多忙で別々に行動することが多い柱達が情報交換も兼ねての事であった。
集合場所に向かう中、冨岡義勇は一人で、てちてちと足音を立てて歩いている。武術の修練を積んでいるものから見れば、呆れる足運びではあるのだが・・・。
そんな義勇は後ろから近づいて来る気配に感づいてはいたが、当然殺気も何も無いので気にはしていない・・・とはいえ、殺気を消して奇襲を仕掛けてくる手練れもいるので、油断はしてはいなかった。そして、その相手の方から声をかけてくる。
「義勇さん!今日も清々しい良いお天気ですね♪」
義勇は全力の殺気をその声の主、胡蝶しのぶに叩きつけた。俺に話しかけるなと。だが、彼女は気にもせずにっこり微笑み返すだけだった。
「もう、独りで寂しく歩かずに一緒に行きましょうよ?そんなに嫌われていたいんですか?」
胡蝶は何を考えているのだ?昨日それなり脅したはずだが、自ら関わってくるとは自殺願望でもあるのか?こちらの気も知らないで。
義勇は歩く速度を上げたが、その速度にしのぶも着いてくる。更に上げると、それにも着いてくる。
「追いかけっこですか?負けませんよ!」
遂には、二人とも全力で走り集合場所に到着してしまった。息は切れてないが互いに汗ばんでしまっている。
そこは屋敷の縁側に面し白砂利が敷き詰められ、普段の清掃が行き届いている。
「しのぶちゃ~ん!」
彼らより先に、甘露寺蜜璃、伊黒小芭内、不死川実弥、悲鳴嶼行冥の四人が既に集まっており、その中の一人、甘露寺が声を掛けてきた。
「甘露寺さん、いつもお早いですね。ふふふ」
「ええ、皆とも会えるし、お館様にも会えるし、あたし嬉しくって嬉しくって!」
「私もそうですよ」
そんな甘露寺達を伊黒はいつもの定位置、木の上で微笑ましく見ていた。勿論、産屋敷が来れば即座に地面に降りる。
義勇は胡蝶から解放されて、表には出さないが安堵していた。出来れば同役を斬りたくない。昨日の事を忘れたのか?まさか若年性痴呆か?それとも、年頃の娘ならではの怖い物知らずか?まぁ良い、元締が来るまで胡蝶に関わらなければもうこの一件は終わる。
彼は産屋敷耀哉の事を表向きにはお館様と呼ぶが、内心では仕掛人風に元締と呼んでいる。そして、一人いつものように、皆から少し離れた位置で待機し、時間が過ぎ去るをの待った。
そうこうしている内に、他の柱達も集合し始め、義勇の隣に何故か最年少の時透無一郎が立った。彼は普段空を眺め、ぼ~っとしている。
義勇は、そんな彼を内心一目置いている。経った2ヶ月で柱となり、今は14歳。自分が14の頃、これだけの実力があったかどうか定かではない。
空を見ている為か少し顎が上向き過ぎるが、力が抜けている。脳も体も脱力がかなりの位だ。これをこの年齢で本能で分かっているのか、出来ているのが素晴らしい。
何も考えず、ぼや~とする時間も脳には良い。腕が立つだけの事はある。だが、話によると記憶障害らしいから哀れではある・・・いや、それよりも時透早く皆の所へ行ってくれ!
「・・・冨岡さん、今日は良い天気でよかったですね・・・」
彼は偶に義勇に話しかけてくる。裏の仕事の為に余り鬼殺隊員と必要以上に関わりたくはない、極力目立たないようにしたいが、仕方ない。
「・・・そうだな。良い天気で良かったな」
会話はそこで終了する。何故だか追い払う気も沸かず、かといって、必要以上会話することも無い。ならば放って置くかと義勇はいつも通りの結論に達した。
「しのぶちゃん、見て見て。二人並んでお空を見てるのね、とっても可愛いわ!」
「全くですね、微笑ましいです。冨岡さんは、私には冷たいのに、時透君や炭次郎君には優しいんですよ。困ったものです、妬ましいです、うふふふふふ」
義勇は顔を動かさず、表情はいつもの能面だが、内心では苛立った。
どうして、この年頃の娘はどうでも良い事で騒ぐのだ、何が可愛いのか分からん。そういえば真菰もつい数年前はあのような雰囲気だったかもしれない・・・とにかく目立つ訳にはいかない。もう少しで元締も来る頃だろう。皆の所に行くか・・・。
その時、甘露寺が黄色い声を出して騒ぐ。
何故、移動しただけでこうなるのかさっぱり分からん。
「もう冨岡さん、私達に言われて、照れてるのよ。とっても素敵だわ」
「全くですね、私の前でもこれぐらい素直になって欲しいです、ふふふ」
・・・この二人、この場で斬り倒した方が良いだろうか?柱の中でこの二人がある意味、一番厄介だ。
義勇が二人の女柱に絡まれてうんざりしていた頃、今度は不死川が絡んでくる。
「おい、冨岡ァ!?近頃、全然鬼共斬ったぁつう報告が無いが、遊んでのか、ああ!?」
内心この圧力の方が、先の女性陣よりもマシかと思ってしまう。
義勇はちらっと不死川を見た後、一言そうかと呟いただけであり、それで彼が怒り出すのも想定内であった。
「てんめぇ、ふざけやがって!初めに見せた威勢はどこいきやがった!7日で柱になったのは、ありゃ嘘だったのか!」
義勇は今になって心底後悔している。柱になれば色々特権が与えられ、裏の仕事の為に動きやすくなると踏んで早めになったのだが、前例でも柱になったのは早くて2ヶ月であり、それも12,3歳位である。自分は19歳前後で鬼殺隊に潜入したのだから、その人物から見て年を経ている自分は然程目立つ事は無いと思っていた・・・。
伊黒は不死川を援護し、他の柱はまたいつもの事かと静観し、胡蝶と甘露寺は緊張しながら成り行きを見守っている。
「あと、一番許せねぇのは、お・・・とにかく、なんであんな事しやがった。後で決着つけてやるから、首洗って待っていろ!」
「・・・ああ、おはぎの件か・・・」
不死川から言語不明瞭な罵声が飛ぶ。知っている者は密かに知っており、強面で鳴らしている不死川が甘い物好きだとは、彼の沽券に関わるので口外法度の仕留人なのである。
鬼殺隊に入ったばかりの頃は、不死川のような者が何を言ってきても馬耳東風で相手にしなかったが、何故か次第に怒りを覚え、からかいたくなってしまった義勇。
少しは仕返ししようと、不死川の屋敷に忍び込み、大量に備えてあったおはぎの中身の一つを餡から塩丸ごとに入れ替え、旨そうに何個も食べていた彼がとうとうそれに手を伸ばし・・・。
怒り狂った不死川が誰がやったと犯人捜しをしようとしたその時、障子の隙間から体半分出して、ムフフと不敵にほくそ笑んでいる義勇を発見。
その後、全力で追いかけ追いかけられる二人を胡蝶と甘露寺は目撃している。
「二人とも・・・青春の汗を流しているのね、素晴らしいわ!」
と当の二人が聞いたら、心底嫌がるであろう明後日の方向の感想を胡蝶は耳にした。
そうこうしているうちに、産屋敷耀哉が現れ、任務の再確認、皆の安否、対策などを小一時間かわした後、解散となる。
終わって当主の姿が見えなくなった瞬間、不死川は抜刀し義勇へ斬り付けるが、彼は瞬時にかわしてさっさと逃げていった。
本来、隊員同士の私闘は禁止であり、ましてや真剣で斬り合うなどもっての他だが、何故か義勇も不死川も今まで怪我もしていないので周りの柱達もそれらの喧嘩を黙殺していた。
追撃しようとした不死川も流石に悲鳴嶼に諫められ、今日の所は見逃した。
義勇は自身の屋敷へと帰る。柱の特権で与えられ、独りになれるので裏の仕事の準備に都合が良い。
押し入れの中に入れた、警官服に手を伸ばす。それは錆兎から借りたもので、真菰達と連絡を取る為に市井に出向く為の変装である。
・・・しかし、無い。
義勇は腰の日輪刀の鯉口を斬り、後ろへ振り返るとそこには胡蝶しのぶが立っていた、彼の警官服に顔を埋め、匂いを嗅ぎながら・・・。
大正必殺話
真菰は義勇の事を息子のように思ってる。そして、義勇は真菰の事を娘のように思っている。