例えば、冨岡義勇が仕掛人だった際   作:聖獅

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ご無沙汰しております。
大分遅くなりましたが、短くても少しでもと思い、投稿しました。


神も仏もいないか?

「うめぇ・・・がふ、・・・」

 

 一人の鬼の男が、幼女の着物を剥ぎ取り、貪り食っている。

 肉は半分は無くなり、骨が剥き出しになっている。

 その子の顔はまだ残っていて、虚ろな目で宙に視点が彷徨っているが、薄っすらとまだ涙の後が残っていた。

 

 まだ日は照っているが、鬱蒼とした木々に囲まれたそこでは日が差さない。

 その光景を一羽の鴉が木の上から見下ろし、一声鳴いて飛び去った。

 

 

 一刻後、

 

 逢魔が時、その鬼は辺りが薄暗くなった人里離れた林道を満足そうに歩いている。

 

「久々で美味かったなぁ・・・けへへ・・・」

 

 鬼は歯に詰まった肉片を爪で落としながら・・・ふと立ち止まる。

 

「・・・?」

 

 黒の隊服に腰に刀を差した上に葡萄色の羽織を着て、頭には黒い編み笠を被り、肩まで伸びた黒髪の男が凝然と立っていた。

 

「あ・・・あんたは・・・!?・・・お、おどかさないでくれよ・・・」

 

「・・・・・・」

 

「な、なんだよ。あ、あれから金輪際人は喰ってねぇって、本当だ!信じてくれよ!」

 

 その男、冨岡義勇は編み笠の下から覗かせる無機質な眼光のまま羽織に隠していた銛を出し、無表情で相手の鬼に狙いを定める。

 

「あ・・・ぐっ・・・」

 

 一瞬、鬼の脳裏に戦う選択肢が浮かんだが、人間の癖に・・・この人間には敵わないのは既に知っていた。

 

 

「畜生!・・・もっと、もっと人間を喰っていたらお前ごときには・・・」

 

 背を向け逃走を謀る鬼に、その銛は縄を付けたまま飛んでくる。

 

 

「ぐはっ・・・」

 

 鬼は吐血し、その銛は首を貫通・・・直ぐ様縄を引いて引き抜かれ首を半分の状態で、悶え苦しみ、日輪刀と同様の石の為中々再生も出来ない。

 

 その間に胸を足で押さえつけられ、

 

「ぎゃあああああああ!!!」

 

 両目を銛で瞬時に潰し、その後首を完全に切断した。

 

 最期の声を上げる前に鬼は絶命し、後には骸が残りやがて消えていった。

 

 

 義勇は銛をしまい、鬼が食べ残した幼女の場所へと向かった。

 

 

 

 「お願いです、2,3日前からうちの子が帰ってこないんです。巡査様どうか・・・うちの子を探してください・・・年恰好は・・・ううううああああ・・・」

 

 東京の人通りのまばなら一角にその交番はあり、錆兎はそう訴える母親に泣き付かれどう対処して良いか困惑していた。

 助け舟を出してもらおうと、室内奥で書類を書いている先輩巡査に視線を送るが、手を振って面倒そうに腰を上げる。

 

「ここは中心街から離れているんだ、人さらいでなけりゃあ、大方野犬にでも襲われたかもな。前にも神隠しにあって帰って来ない子らがいるんだ、大変なのはお前だけじゃない。とりあえず被害届けを出すか?ここに名前と住まいを書いてくれ」

 

 ここの警察は本腰入れて動こうとせず、ぞんざいな彼の対応に錆兎は一瞥したが、まずはその母親を宥めて椅子に座らせた。

 一瞬、鋭い視線を感じて振り返ると、そこには刀は釣り用の袋に入れ、風呂敷を脇に抱えた義勇が幾分離れた位置で立っていた。

 

 訝し気に彼を見ると、黒く滲んだその風呂敷を見て全てを察し頷いて見せた。

 

 義勇はそこを後にし、錆兎は母親を励まして、自分も一緒に探してみるからと提案し、共に彼を見失わない程度に森へと向かった。次第に天候が悪くなっていく。

 

 

 

 「いつも、家の事を手伝ってくれる良い子だったんです・・・それが・・・どうして・・・」

 「そうか・・・案外、道に迷ってお腹空かして泣いているかもしれない。早く見つけ出してあげよう・・・」

 

 自身でもそらぞらしい事を言っていると自覚し、何かの間違いで実は生きている事に一縷の望みを掛けた。

 森の中を歩いていると、義勇が置いた場所の見当は着いた、死の匂いで。

 

 錆兎は母親がそこへ行くようにそれとなく誘導し、とうとう大木の枝の間にその子を見つけた。

 

 「・・・あ・・・あああああああああああああああ」

 

 泣き崩れ絶叫し、バラバラになった遺体を抱きしめて泣いた、その子の目は既に閉じられていた。

 辺りは次第に闇が包みはじめ、雨が降り始める。

 そして、3人の身体を冷やした。

 

 

 

 

 その森の奥に、今は使われていない洋館がある。

 時折、近くを通った者が人の悲鳴が聞こえたというが、意を決して中を覗いても誰もいない・・・。

 次第に妖怪が住み着いているという噂が立ち、誰も近づかなくなった。

 

 近場は雨でぬかるみ、義勇は普段の草履から下駄へと履き替え、その洋館の扉を開ける。

 中は薄暗く、時折雷鳴も聞こえてくる。

 

 カランコロン・・・カラン・・・

 下駄の音を響き渡らせ、階段を上り、

 2階の寝室のドアを開け、ベッドへ向かう・・・。

 

 

 瞬間、義勇は腰の日輪刀を抜き、ドア上の壁に潜んでいた者の腹を赤く染まり変わったその刀で突き刺し、的確に痛む部分を抉る。

 

 苦痛で歪んだその顔に上弦の鬼・妓夫太郎の両手の鎌が震えている。

 

 義勇はその刀を抜いた後、地面に降りてなおも追撃しようとする妓夫太郎の首に刃を付ける。

 

「ぐっ・・・いてぇ・・・今回も殺せなかったか・・・てめぇは本当に羨ましいなぁ・・・人間の癖によ・・・」

「つまらん、挨拶はやめろ・・・」

 

 そう言って、義勇は自分から刀を納めた。

 妓夫太郎も舌打ちを鳴らして、得物を納めた。

 

「お兄ちゃん、なんで今回も見逃したの!?こいつ腹立つ!殺してよ!」

 

 ドアの後ろから、妹の鬼・堕姫が入ってくる。

 

「たくっ・・・死んだ肉喰わせやがって、たまには生きた上等な奴持ってこい!」

「そうよ!死んだ肉喰わせるんじゃないわよ!あたし、美しい奴じゃないと喰わないんだからね!」

 

 

「こないだ(生きた奴を)連れてきただろ、それで満足しろ」

「は?あんな悪辣で不細工面した奴なんて不味かったわよ」

 

「・・・はぁ・・・不細工な割には、美しいものを食べたがるとは滑稽だな」

 

 義勇の軽口に堕姫は激怒する。

 

「おにいちゃーーん、やっぱこいつ殺して、いますぐころしてえええ!!!」

 

「・・・なぁ、おめえ本当に青い彼岸花を探すんだろうなあ?」

「ああ・・・今探している、見つけたらお前達の首魁、無惨に会わせろ」

「・・・・・・」

 

 この上弦の鬼達と義勇は取引をした。

 彼らは普段は、吉原にいるが人をこれ以上喰わない事を条件(義勇が連れてきた死体並びに、生きた人間はその限りではない)に、無惨の命令である青い彼岸花を義勇が探す事を約束した。

  

「おめぇよお、鬼狩りだよな・・・前にも聞いたが、なんで俺達に手を貸すんだ?・・・どうだ?いっそ俺達側につけ、おめぇも鬼にならねぇか?」

「おにいちゃん?馬鹿言わないで!あたしはこんな中身も外見も腹立つ不細工ぜったっぁいいいや!!」

「・・・俺はお前のような醜女と同じ鬼にはならない」

 

 血気術を使いそうになる堕姫を兄・妓夫太郎は宥めすかし、

 

「そうかよ・・・まぁいい、ところでおめぇ仕掛人って知らないかあ?」

 

 一瞬、義勇の空気が変わる。

 

「・・・仕掛人?なんだそれは?」

「なんでも金を貰って晴らせぬ恨みを晴らすなんていう、おかしな連中がいるそうだ。そういや昔聞いた事あったな・・・馬鹿馬鹿しい、てめぇの恨みはてめぇが強くなってその分取立てらりゃあ良いんだ・・・ははは」

 

 義勇にはその笑い声の中に妓夫太郎の自嘲にも羨望さも僅かに滲んでいるような気がしたが、表情には出さなかった。

 妓夫太郎と堕姫は人間だった頃、周りから虐げられ、助けてくれる者もいなかった。父はおらず、母親も泣きわめく赤子だった彼らに渋々乳を与え、少しでも大きくなったら利用する為に育てた。物心ついた頃にはよく母から折檻され、兄妹で周りからも母親からも自分達を守ってきた。

 なぜ自分は生まれてきたのか?

 他人に虐げられた事は、他人に返す事で心の安定が図れる、だから行う。

 お人よしのように、そのまま虐げられたまま、心に抱えているとおかしくなりそうだ、彼らは人間だった頃の記憶は余りない、いや、極力思い出さないようにしている。

 

「この世に神も仏もねぇんだ、いたら俺はなんだかそいつらが腹立ってくる、おい、義勇よお・・・金積むから、そいつがいたらぶっ殺してくれえ」

「仕掛人などこの世にいないだろうが、もしいたら頼んでおく」

 

 

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