新田剣丞のマガイ物になったので、悪役ムーブを決めて暗躍したい 作:Hoffnung
「はぁ!!」
裂帛の声と共に俺は刀を思い切り振るう。
『グギャアア!』
まるで溶けたバターの様に容易く鬼の体を切り裂き、塵に変わる。
鬼に対しては別格の特効力を発揮する刀の力は今日も今日とて順調だ、最近刀身に纏う青い輝きが増している気すらするぐらいだ。
「…ふっ!」
続け様に俺の近くに寄っていた鬼に向かって刀を振り払い同じく塵と化した。
それと同時に今まで眩いぐらいに蒼く光っていた刀身から徐々に光が失われていき、やがて沈黙する。
…よし、これである程度は片付いたかな。
「ふぅ…」
一息をつくと同時に刀を鞘に納めた。
鬼に反応するこの刀の光が消えたってことはもう周囲に鬼はいないって事だろうし、警戒は解いても大丈夫だろう。
「剣丞さま!ご無事ですか!?」
「!…詩乃!大丈夫、鬼達は倒したよ」
そんな中心配そうな掛け声と共に俺に近寄ってくる。
最早見えてないんじゃない?と思わなくもない程に目に前髪を伸ばした女の子…竹中半兵衛こと詩乃が声を掛けて来た。
様子を見るにどうやら俺の様子が気になって来たらしい。
「今日はここ最近出没している数よりも多いようでしたから…心配したのですよ?」
「大半は綾那達が引き受けてくれたし、俺は精々そこから狩り損ねた奴らを片付けただけだ…確かにいつもより多くは感じたけどね」
「もう、あなたという人は…いつも無茶ばかりして…」
「はは、ごめんごめん」
軽く苦笑する俺にまたもや不機嫌そうにする詩乃に対してフォローを入れる、こんな可愛らしい女の子がかの今孔明にして秀吉を支えた名軍師である竹中半兵衛だなんて思わないよな。
…更に言うなら俺の奥さんでもあることに驚きだ、普段の言動からちゃんと好きでいてくれるんだという事がこれでもかとわかって嬉しさで胸の奥が暖かくなる。
抱き締めて慰めたい所ではあるけれどもまずはやるべき事をやってからだな。
「詩乃、鬼達はどうなったか報告お願い出来る?被害はどれくらい?」
「はっ!雫の指揮の元、綾那さん歌夜さん中心に鬼の殲滅は時期に完了するとのこと、別隊に別れていた春日さん兎々さんも同様の模様です、更には小波さん率いる伊賀衆が鬼の残党確認と周囲の警戒をしてくれてます、襲撃された集落の被害ですが現時点では一部の建物が破壊された以外には被害報告は入ってませんね」
「とはいえ、何人か戦死したと思われる方もいるそうですね…」
「今回も被害は建物の損壊だけか…はいのことは残念だけど…ありがとう詩乃、俺達も戻ろうか」
「はい、剣丞さま」
踵を返して俺たちは本陣の方へと一緒に歩き始める。
詩乃はすかさず俺の隣へと駆け寄って歩幅を合わせた、以前まではよくわかんなかったけどこれって俺の隣にいたいっていう詩乃なりのアピールだと知ってから尚更微笑ましい、教えてくれたひよところには感謝しかないぜ。
「…?何をニヤニヤと笑っていられるのですか?」
「あれ、顔に出てた?」
「口元がだらし無く上がっておられましたよ」
「ははっ、俺の奥さんって本当に可愛いなって思ったらつい…」
「なっ…!」
詩乃が上擦った声を上げる。
「本当に、本当にあなたという人は…っ!」
「ご、ごめんってそんな拗ねないでよ」
「拗ねてなど…いません…」
しまった、詩乃の反応が可愛くてからかい過ぎてしまったらしい、慌てて宥めようと腕を動かすと…
ズキッ
「!……っつう」
「!!、剣丞さま、いかがなさいましたか?」
「いやちょっと肩がね…」
「もしや御館の乱の時の傷口がっ!?いけません、直ぐに兵を呼びます!」
「いいっていいってこれくらい大袈裟な!」
「そう言っていつも無茶ばかりなさるのはどこのどなたでしょうか?」
「うっ、そ、それを言われると…」
詩乃のジトリとした視線に思わず言葉が詰まる。
毎回何かしら心配をかけてる身からしたら耳が痛くてしょうがない。
「どこぞの誰かさまがご自身の立場を理解して、独断で動かず、ゆっくりと養生してくださると確信出来るのなら大袈裟という表現も納得するのですが…」
「……ごめんなさい」
「剣丞さまのそういう素直なところは素敵ですよ、それはそれとして安静にはしてください」
うーむ、やはり口では詩乃に勝てる気が全くもってしないな。
あの今孔明こと竹中半兵衛であるというのもあるだろうがそれ以上に普段心配をかけさせまくってるという前科があるのが痛い。
特に久遠からも直接口酸っぱく言われてるからかこういう話題に関しては付け入る隙は無さそうだ。
「新田剣丞ーっ!」
…ん?
詩乃と話してると俺の名前を呼ぶ声がする。
この甲斐で俺をそう呼ぶってことは…
「兎々!それに春日まで…そっちはもう終わったの?」
「当然なのら!兎々達武田は
「そういうわけでござるよ良人どの、つい先程拙らが担当していた鬼の殲滅がほぼ完了したのでな、連絡は回っておらんでしたかな?」
「いや、さっき詩乃から報告は聞いてたよ、流石精鋭ぞろいの武田兵なだけあるね」
「ふふん、当たり前なのら、この程度のことを容易く達成
俺の言葉に気を良くしたらしい甲冑を纏った小さな女の子が得意げにそう鼻を鳴らした。
このどこか正しく発音しきれてない話し方をする小さな女の子が高坂弾正昌信、通称は"兎々"、そして次にやってきた長身の女の人が馬場美濃守信房、通称は"春日"だ、この武田家において侍大将を務めてる凄い人だったりする。
2人ともこう見えて武田における四天王なんて言われてるぐらいの猛将なんだ、今日はこの2人を加えた剣丞隊と鬼の殲滅に出向いてたんだけど…
「にしても最近鬼の出没する頻度が高すぎなのら!新田剣丞!もうちょっとどうにかするのら!これじゃ兵が持たないのら!」
「いや俺のせいじゃないと思うって前も言ったじゃないか、……最近は自信無くなってきたけどさ」
「実際、良人殿が甲斐に来られてからこの様な騒ぎが増えたことは事実ですからな、何かしらあると考えるのが自然でありましょう」
「私も小波さんを中心とした伊賀衆の協力のもと調査を進めてはいますが…あまり芳しくないようですね」
合流して早々に文句を言われてしまった。
俺としては苦笑いするしかないんだがそれにしたって兎々の気持ちはわかる、いくらなんでも最近の鬼の出没頻度は異常だ。
それも俺が行く先々、もしくは俺のいる近くや、俺が出動しなければいけないようなタイミングで鬼が出るもんだからこうも言いたくなるだろう。
甲斐に来てからある日を境に激増したんだが流石に俺との何かしらの因果関係があると睨んで調査は進めてはいるんだが…詩乃の言うとおり関係性が見えてこない。
……なんだ?鬼は一体何をしたいって言うんだよ。
「そうでした、春日さん、剣丞さまの肩の傷が少し開いたようでして手当てをお願いしたいのですが…」
「肩?…あぁそういえば越後にいたころに負傷されたと言っておりましたな、詩乃殿、すぐに手配させましょう」
「助かります」
鬼の話題もそこそこに詩乃は春日に俺の傷の処置をお願いしていく、どこか申し訳なさはあるがここは素直に好意に甘えておこう。
「?…負傷したのら?」
「あぁ、実は越後にいた頃にちょっと肩をね…」
どうやら事情を知らなかったであろう兎々の疑問に俺は肩を軽く抑えながら思いを馳せた。
◇
あれは御館の乱の時に詩乃と雫と居合わせてたときに起きてことだったんだ、突如として降り始めた雨の中で俺は…
ザクッ!!
「ぐわっ…!」
「「剣丞様っ!!?」」
突如として現れた不気味な少年に刀…いや、大きさ的に正確に表すなら小太刀だろうか?随分と変わった装飾をしていたと思う。
それが俺の肩へと吸い込まれるように刺されたんだ。
「うぐぐぐ…」
久しく受けてなかった刀傷に思わず刀を取りこぼしそうになるが肩を抑えるだけにとめ、何とか踏みとどめてみせる。
骨には届いてない程度の刺し傷ではあるようだがそれでも痛いもんは痛い。
擦り傷ぐらいなら戦場では日常茶飯事だったが立場が上がって護衛が本格的についてからはめっきりと減った大きい傷だった。
「…っ!、"顔を見に来ただけ、今は何もするつもりはない"、じゃなかったのか?」
『ふふふっ、少し良いことを思いついたのでな、その為に貴様の血がどうしても必要だったのだ、許せ』
刺されたことでズキズキと痛む肩を抑えて俺が睨みつけるように問いただしても目の前の少年は飄々と答えるのみ。
はははっ、ひとしきり笑うが俺の血がべっとりと付いた小太刀を拭う様子は無い。
『ふむ…これにて朕の用は済んだ、貴様の働きを楽しみにしておるぞ』
俺の血がべっとりと付いた小太刀を満足そうに見つめ口角を上げてほくそ笑む謎の少年。
傷口を抑えながら見たその表情はなんとも不気味その物だった。
気配も無く、背後から声をかけられた時に感じた激しい悪寒といい正体が掴めない。
俺の血…?いったいそんな物がなんの為に必要だって言うんだ。
「剣丞様!か、肩が…!!」
「下郎…よくも剣丞さまにっ!!」
「落ち着け詩乃!雫!」
「ですがっ…!!」
『ほう、元気に吠えるではないか…この調子でこれからも精進せい、朕は貴様らを応援しておるぞ』
「ふざけないでください!!」
「詩乃っ!!」
挑発とも取れる言葉に激昂した詩乃を俺が再び静止する、正直ここまで怒りを露わにした詩乃を見るのは初めてだった、俺が敵に怪我を受ける事態なんて蕩し御免状なんて物を貰って立場が変わり、最近起こって無かったからだろうか。
何にしても今目の前にいる存在は不確定要素が大きすぎた。
『花に寝て、よしや吉野の吉水の、枕の下に石走る音』
『もっと…もっともっと鬼を殺すのじゃ、この日の本を救いたいのならばな』
「…………………」
謎の少年の言葉に俺は沈黙で返す。
『鬼を殺し、邪を殺し、殺し殺して鬼血を流せ、さすれば貴様の神器は高みに昇り、この日の本を美しい世に変える鍵となろうぞ』
『くくくく…ははははははははっ!!』
◇
そう言い残し謎の少年は霧と消えた。
雫と詩乃がすぐに追手を出そうとしたが当時出現した鬼の攻勢が激しく、対応する人手が足りなかったがためにそのまま有耶無耶になったんだよな。
妙な小太刀で肩を刺されたとはいえ傷は浅い方だった、毒も無いようだったし応急処置したら即座に加勢に向かったのをよく覚えてる。
「そんなことが…ふん、これぐらいで喚くなんて新田剣丞は軟弱なのら!」
「これ兎々よ!再三申してるであろう、無礼であるから身を弁えい!」
「で、でも…」
「でも……なんだ?」
少しの沈黙の末…
「うう…わかったのら…」
「あはは…別にそこまで気を使って貰わなくても大丈夫だって」
相変わらずの辛口だが武将の基準、それも屈強揃いの武田勢からすれば俺の体たらくなんて軟弱そのものだろう。
前にも武田勢と同じ生活の仕方をしたが綾那以外は全員キツそうだったし。
…俺?ついていけなかったに決まってるだろ。
「確か甲斐に来られる前に肩を刺されたと聞きましたが…戦いの最中で傷が開きましたかな?」
「うん、そうみたいだな、でもこれくらい大丈夫だよ」
「いや、もう既に良人どのは甲斐にとっても重要なお方だ、何よりもし良人どのに変事があればお館様が悲しむのでな…手当てをさせていただきたいのですが構わいませぬかな?」
春日の言葉に俺が甲斐に来て新しく嫁になった娘、武田"光璃"晴信の存在を出されてしまってはいえ大丈夫ですがとはとても言えたものじゃない。
まだまだお互いのことを知り合おうとしてる最中とはいえ光璃から相応の思いを向けられてることは自覚している。
「…確かにそうだよな、ごめん春日、お願い出来るかな?」
「気にせずとも良いのですよ…誰かある!」
「こちらに!」
春日のよく通る声に呼応してすぐさま1人の足軽が現れる。
「手当てが出来るものを至急連れて来い!良人どのの治療を速やかに行うのだ!」
「御意!」
簡潔に要件を言い渡すとまたもや足軽は集団の方へと駆けていった。
「ありがとう春日、手間を掛けさせてごめん」
「気にせずとも良い、と申したであろう?良人どのはお館様及びに甲斐にとっても貴重な御身なのですからこれぐらいは当然であるよ」
俺の感謝の言葉にいつも如く快活な笑顔で返す春日。
程なくして何人かの兵士がやってきて「こちらに」と誘導してくれた、流石にこの場で上半身裸になるのもアレだしな、ありがたいもんだよ。
あ、詩乃が残念そうにしてる、ごめん、またどこかで埋め合わせするからな。
(しかし兎々の言う通り、最近の鬼の出没確率は異常だな…)
手当てを受けながら俺は思案の渦に入る。
(俺の持つ光るあの刀が原因?いやそれならもっと前からその前兆は見られたはず、甲斐に来てからの出現増加数との関係性が見えてこない)
今回のようなちょっとした小隊の規模から5本の指で数えられるぐらいに収まる時がほとんどだが異常なのはその出現頻度だ。
俺の行く先々にほぼ必ずといっても良いぐらいには鬼と相対することになるのだ、不審に思わない方がおかしいだろう。
甲斐に来てから俺が鬼を切った回数はゆうに二桁に突入してる。
ここまでくると最早何かに取り憑かれてるのではと突拍子もないことを考えてしまいそうだが…
『始まりの切掛と終わりの切掛…それが剣丞』
俺と光璃が祝言(まだ仮だけどな)を挙げた日にそう光璃に言われた言葉を脳内でリフレインしてしまう。
つまり、鬼の出現が俺の仕業ならば、それを終わらせるのもまた俺である…って意味だ。
まだそうだと断定した訳じゃないけれど、ここまで鬼に関わったのならこの際どうでも良いだろう。
(必ず…必ず鬼を日の本から退治して平和にしてみせるぞ…!)
俺が再び決意するのと俺の手当てが完了するのはほぼ同時だった。
◇
『
俺が再び吉野と対面したのは鬼の強化及び増殖をはじめて早数日が経った頃だった。
『然り、もっとも正確には荒加賀が裔の持つ神器に鬼を斬らせる、ということだ』
『
『あの神器には当世を終わらせる力が眠っておる、その力を十全に発揮するには鬼血を吸わせ神器の力を増す必要があるのだ…朕の外史を確実に作り上げる為にな…』
くくく…と小休止を挟む様に笑う。
『後はどこかで大きく鬼を仕向けよ、当世への影響が出ない程度にな、今は神州を無駄に下賤な武士の血で汚すことはあるまいて…』
『
『新田剣丞は神器を発動させる鍵でもあるのだ…朕の大願成就に必要故、くれぐれも死なすでないぞ?』
『
『期待しておるぞ、朕の従順なる僕よ』
ーーーーーーーーーー
「
俺がそんな言葉を呟いたのは、先程主人公達が会話していた近くの茂みからだった。
一応吉野お手製の妖術で音が漏れにくい結界は張ってるけど万が一気づかれたら面倒だしな、気配も完全に消して隠密工作は万全に喫している。
あちらがこちらに気づくことはまず無いだろう。
グシャ…ベチョ…ボリバリッ、グシャ…
後ろからは俺が回収した武田勢の足軽の死体を鬼達が貪っている音がしている、うーむ、相変わらず惨い音だ。
ここ最近ずっと聞いてる音だが既に慣れたとはいえ聞いていて気持ち良い音では決してない、出来れば見たくもないし聞きたくもないんだけど…立場状仕方ないんだよなぁ。
さて、俺がこんなことを呟いてる時点でお察しの通りだと思うが先程の主人公たちに襲いかかっていた鬼を仕向けたのは俺だ。
ここ数日にわたって数はざっと多くて50前後、または今回みたいに10いかない程度の小規模で、適当な集落に出没させては武田勢を引っ張りだして鬼退治をさせている。
ああ、その度に村人とかは食わせては無いよ?あくまでも退治にこさせるのが目的だから母屋とかを数匹ぐらいで襲わせて騒ぎを大きくしてるだけにしてる。
第一皆殺しにでもしたら住民が救援も呼べないしな。
鬼を増やしたのに使っちゃうの?と思ったが俺だって工夫しようと考える頭ぐらいある。
原作において時折出没していた所属不明の鬼達…便宜状"野生の鬼"とでも言おうか、俺は自身が増やした鬼達の消耗を抑える為にこの甲斐に存在している全ての鬼の巣を洗い出し更にそこにいた全部の鬼を俺の支配下に置くことを完了している。
基本的に下級の鬼ばかりで質は良いとは言えないが鬼は鬼だ。
鬼には自分より強い者がいればそれに服従するという弱肉強食思考全開の習性が備わっているのが幸いしていとも簡単に俺は甲斐中の鬼の掌握に成功した。
これでざっと300体ほど、俺の手元にこれだけの鬼が増えたってわけだ。
俺の見落としたが無ければ甲斐に存在している全ての鬼は俺の支配下ってことになる、文字通り草根もわけて探し出すぐらいの勢いで洗い出したからおそらく不備はないだろう。
…ない、だろう。
そんな鬼達を使って何をしてるかといえば武田勢の戦力を消耗させようだなんて目的じゃない、そんな目的なら鬼なんて使わずに俺がそれとなく出向いて部隊や武将を壊滅させていく方が遥かに効率的で手っ取り早い。
俺がこんな回りくどい事をしている理由は勿論別にある。
集落を襲われたことにより鬼退治の為に出張る武田勢に付随する外史の基点…もとい新田剣丞を鬼退治に行かせる手段を増やしているのだ。
もっと言えば新田剣丞に鬼との戦闘回数を増やしてもらう事で奴の持っている鬼を切る刀の使用回数を増やさせることが1番の目的だ。
吉野が言うには主人公が持っている刀には新田剣丞の外史における基点となる力とは別に、外史そのものを終わらせる鍵となる力が眠ってるらしい。
あの場では勢いよく返事した(この体が勝手に変換した)とはいえ正直なところ何のことだかさっぱりわからないが…察するに吉野の言う刀の秘められた力ってのは戦国†恋姫における本来の首魁、明智光秀及びルイス・フロイス…エーリカを炎が包む本能寺にて貫いてみせたあの力のことだろう。
様は万が一、刀そのものに力が足りなかったら大事な場面で発動しないと外史を終わらせることが出来ないし、自分の計画に支障が出るから俺がそれとなく鬼を仕向けて調整しとけってことだろう。
わかりやすく例えるなら鬼を切る刀がソフトウェアで、新田剣丞本体がそれを発動させる為のハードウェアってところだ。
故にこの2つは絶対にセットじゃないといけない、間違っても死なせてはならないとはこういう事なのだ。
はぁ、吉野に協力するって都合上とはいえ下働きは辛いぜ…まぁこのハイスペックな体のお陰で身体的疲労は皆無だけど。
これでも大変なんだぜ?何せ新田剣丞自身に鬼を切ってもらわなきゃいけないからアイツの出先だとか、複数に出現させて人手として駆り出させるとかの工夫をしないといけない。
誑し御免状を貰った後の剣丞ってガチで偉い人扱いだからなぁ…最初は無駄に鬼を消費しちゃって苦労したよ。
今回は6体だからそこそこ上手くいった方かな。
「き…き、貴様…」
ん?……ああ。
思考中断し、俺は声の発生源がある地面へと視線を向ける。
「
そう俺は冷たく足元に転がっている物…否、人に向かって口を開いた。
「何故…貴様は鬼を使役出来る…そして何故……お館様の良人殿と同じ顔をしているのだ…!」
「
「質問にっ…!答えろ…!」
「
満身創痍の状態で俺に言葉を投げつけるのは先程の戦闘で戦死したと思われている武田の足軽だった。
装備や戦闘の際の立ち回りからして足軽組頭よりも更に上…恐らくだが足軽大将を務めていたであろう男だ、鍛え込まれた肉体と、鋭い眼光が一朝一夕では身につけられない年期の入った印象を受ける、この男が率いていた部隊の足軽達は現在進行形で鬼達に食われてる分も含めて全員死んだというのに…
当の本人は鬼に切り裂かれた挙句に両足を砕かれて最早立つことだって出来はしない、虫の様に這いつくばりながらも鋭い眼光で睨みつけるその姿はただでは終わらんと言う強い意志を感じる。
俺が知らないだけで後世にも名が伝わるような著名人物だったりでもするのだろうか。
…うん、決めた、ここでこの足軽をただ死なせて鬼の餌にするには惜しいな。
俺は再度口を開く。
「
「正統なる日の本の主…だと?」
「
前言を撤回し一応質問には答えてやる。
試しに結構ガッツリバラしたけどちゃんと都合の良い言葉に変換してくれるこの体ナイス過ぎだろ。
俺はお望み通りに質問に答えた後、足軽に向けて更に言葉を薦める。
こんだけの素体をただ鬼の餌にするのは惜しい、てなると今の俺が選ぶ手段は一つだ。
「
そう、
鬼っていうのは大きく別けて2種類に別けられる。
人間を素体にしてるか、そうで無いかだ。
さっき新田剣丞達に差し向けていたのは説明した通り野生の鬼、つまり自然発生した鬼だ。
一応女に鬼が孕ませて誕生する"鬼子"って例外もあるんだが…まぁそれは置いておいて…
更に鬼とは上級、中級、初級と階級で別けることが出来、人間を素体にした場合で生み出した鬼の強さは人間時の肉体の強さに比例する。
つまり素体となる人間の元が良ければ良いほど、強い鬼が作り出せるということなのだ。
恐らく今足元に死に体で転がってる男は足軽大将を務めてたであろう存在、俺の見立てではほぼ間違いなく中級クラスの鬼にはなってくれると睨んでいる。
そんな絶好の素体を、ただ鬼に食わせてしまうのは勿体無いという他無いであろう。
「…そんな要求を呑む、とでも?」
「
「ふざけるな!貴様のような外道に落ちるくらいならば俺は…誇り高き死を選ぶ!」
真面目に誘ってるんだけどな…一応穏便に済ます方法ならあるし、出来るなら痛くない方が良いだろうに。
だが足軽はそんな俺の誘いを一蹴した後、先程までの弱々しい様子が無くなり力強く啖呵を切ってみせた。
そして足軽は最後の力を振り絞って腰に据えてあった短刀を抜き放ち、自らの首筋目がけて刃を振りかざす。
…自害する気だ、しゃーない。
パシッ
「
「もごっ!…がっ!がぁあ…!!」
悪いんだけど自害なんてさせる気なんて無いんだなこれが。
俺は足軽が自害する為に最後の力を振り絞って抜き放たれた刃をアッサリと受け止めて自害を阻止し、その代わりに足軽の口に懐からとりだした
…強硬手段だからあんまり使いたくは無かったんだけどなぁ。
「あ…がっ、ガァァァァア!!」
丸薬を半強制的に飲ませると足軽は凄まじい声を出してもがき苦しみ始めた。
死に体の状態などお構いなしに転げ回り暴れて苦しむ様は見てるこっちでも痛みの強さが容易く想像できてしまう様で、何とも惨たらしい。
ボコボコと筋肉が盛り上がり甲冑が一部弾け始める。
バキバキッ!
--
「ななななななんんんだだだ、ここれれれれ、かかかかららだだだだだだだががががががが…!!!」
まるで狂った機械の様に言葉の羅列が回らなくなるのも束の間…そして足軽は何かを悟ったのか困惑から絶望へと表情を変えた。
「い、嫌だ…イヤダァ!!」
先程の俺の発言と自身に起こっている体の変化にこれから自分がどうなるか…それがわかってしまった足軽は拒絶の声を上げるがそうこうしてる内にも体はどんどん変質していく、随分とガタイもデカくなり肌色も浅黒く変色しはじめている。
「オ、オヤカタ…サマ…!!」
…もう人間ですらない嗄れた声で足軽が力無く呟く。
「オユル、シ…ヲ…」
そう言い残し、今度こそ足軽は息絶えた。
…最後まで武士としての誇りを捨てず、武田への忠誠を見せたこの足軽をこんな目に合わせたことに罪悪感を感じないと言えば嘘になるが…こっちも腹は括ったんでね、勘弁願おう。
………そろそろだな
そう俺が思った時だった、目の前で突っ伏した足軽はムクリと起き上がりーーーーー
『グギャアアアア!!!!』
ついさっきまで
俺はその雄叫びを聞いてニヤリと笑う。
「
そう
さて、俺がさっき飲ませた丸薬っていうのは他でも無い。
鬼の体液を濃縮した物…つまり、人間が鬼と化す丸薬だ。
原作の二条館にて鬼となり攻めてきた三好衆が使用していた丸薬とほぼ同等の物で、正確には丸薬というよりも鬼の体液を濃縮したもの。
鬼っていうのは牙や爪に特殊な毒が含まれていて、傷を受けたものは徐々にその毒に蝕まれて同じく鬼と化してしまう、ゾンビ映画とかでよくある感染を引き起こす効果があるのだ。
そんな鬼の体液を濃縮した物を直接飲ませたんだ、効果はご覧の通り的面。
一度飲んでしまえばまず鬼になることは避けられない。
飲んだ者の身体と心を悪に染め、異形の鬼と化す魔薬。
一応死んだ後でも鬼として蘇生は出来るんだが、そうすると一度死んだ物を無理矢理蘇生させて復活させる分、知性が落ちて折角素体が良いのに下級の鬼として誕生するかもしれなかったから強硬手段を取らせて貰ったってわけだ。
そしてその判断が功を成して期待を裏切らず、まんまと中級の鬼へと進化してくれた。
流石に上級とまではいかなかったが本能のままに動く下級の鬼を統率出来るという利点は大きい、これでまた一つ鬼達を動かせやすくなった。
『グルルル……』
「
そう言って俺は後ろに向かって顎をしゃくる。
俺の言葉に中級の鬼となった足軽は振り返ると嬉しそうに食事をしていた鬼達に向かって一目散に走りだし、ボリボリと嬉しそうに音を立てて死体を貪り始める。
既に人間としての理性は全く見えない。
少し前までの俺ならあまりの惨さに嘔吐していただろうがもう慣れた物、というかこの体自体が元々そういう仕様なのか
自分でも驚くほどグロさ耐性が高いもんだから不思議な感覚である、自分の体の筈なのに…
ズキリッ!
「ッ…!!」
…なんだ頭痛か?
珍しいな、この体になって以降体調不良とは無縁だったんだけどな。
………まぁ大したことは無いでしょ、痛みは直ぐに治ったし。
それよりもだ、吉野が言っていた通りに話を進めるならば小出しにするだけでなくどこかで大きく鬼達を差し向けて新田剣丞の神器を強化しなければならない。
外史においての影響がなるべく少なく、かつ相手に鬼を迎撃する戦力が整っていて、その場に新田剣丞がいるタイミングとなると…
(川中島、しかないよなぁ…)
越後国主、長尾美空景虎と甲斐、信濃国主、武田光璃晴信がぶつかり合う大戦、川中島の戦いしかないだろう。
そうなるとだ、既に越後側は出陣しているのは偵察に出していた鬼から報告は受けているし、さっき盗み聞きしていた会話からも武田側はその事に気づいてる様子だった。
…悠長にしてる時間は無いな。
「
『グルルル…』
文字通り骨の一本も残さず平らげた鬼達が俺の言葉に従い、順に森の奥深くへと消えていく。
鬼を使役する立場にいるとはいえ、原作をプレイしていた側からするとこうも鬼達が従順に従ってくれるのは何とも言えない違和感を感じてしまうものだ、いい加減慣れるだろうか。
(とりあえずある程度作戦練らなきゃなぁ)
そう俺は漠然と考えると鬼達に続いて暗い森へと姿を消した。
勝つ必要の無い戦いとはいえ骨が折れるぜ…
…………………
…やれやれ相変わらず人の体で好きにやってくれる物だ、主の意向に沿うように行動している様だから私には些細なことだが…
いざとなれば私が修正せねばならんな。