婚約破棄されたので復讐するつもりでしたが、運命の人と出会ったのでどうでも良くなってしまいました。これからは愛する彼と自由に生きます!   作:柴野いずみ

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第十三話 初めてのお仕事

 朝、小さな屋敷で目を覚ます。

 一瞬ここがアグリシエ侯爵邸かと思ってしまったが、ここは海辺の別荘。そして昨日からグレースが住み始めた家であることをすぐに思い出した。

 

「……そうです、今日は仕事初めの日でした」

 

 寝ぼけ眼を擦りながら彼女は伸びをし、急いで朝食の準備を摂る。

 今日は記念すべき仕事初め。グレースの復讐への道の第一歩となるのだ。

 

 ウキウキしていてもたってもいられなくなり、食べ終えるなり急いでギルドへ向かった。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 昨日、冒険者の仕事の仕組みを簡単に説明されたところによると。

 まずは依頼者がギルドの受付嬢に依頼内容を話す。そしてその内容を書いた紙を酒場の掲示板に貼り付け、それを見た冒険者が依頼をこなせば報酬が入る。

 

 とても変わった仕事だ。しかしまあ、ただ依頼をこなせばいいだけなのだし難しい話ではないだろう。

 グレースはそう思い、早速掲示板に貼られた紙を見てみた。

 

 ランク付けで最下位のDランクである彼女にもできるレベルの、初心者向けの仕事が並んでいる。

 例えば、

 

・薬草の採取

・小さな魔物の退治

・下級貴族の用心棒

・荷物運び

 

 などである。

 

「どれもあまり面白くはなさそうですが……。とりあえずこの仕事をこなせば周囲にワタクシの価値が認められ、それだけ権力がワタクシの手に入るということ。小さな仕事でもやって行く必要があるでしょう。そうなるとやはり、一番レベルが低く力の弱いワタクシでも行えそうな薬草採取からですね」

 

 魔物などは簡単に倒せる自信はあるが、何しろ初めてなのだから段階を踏んだ方がいいに違いない。

 そういうわけで、グレースの最初の仕事は薬草採取で決定した。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 薬草があると噂の場所は、町の海側とはちょうど反対に位置する森林地帯。

 元々は貴族令嬢であるグレースにとって今まで森など無縁でしかなかった。おとぎ話に出てくる舞台装置でしか知らなかった森に足を踏み入れるのは、なんだかとても不思議な気持ちである。

 

「木々の生い茂る暗い場所……。なんとも風情がありますね」

 

 賑やかな街も悪くはないが、静かなところの方が好きだ。

 何にせよ、隣で誰にエスコートされるでもなく、一人で歩けるのはなんと心地の良いことだろうか。

 

 ワンピースを泥だらけにして走り回りたい気持ちになる。

 さすがにそれは淑女として恥ずかしいからしないが……そんなことも今なら許されるのだと思うと嬉しくなった。

 

「そうそう、ワタクシったらはしたない考えで喜んでいる場合ではありませんよ。早く薬草を取って戻らないといけませんのに」

 

 うっかり本当の目的を忘れるところだった。

 薬草は一体この森のどこにあるのだろう。奥の方だという情報はあったが、しかしそれ以上は知らない。

 Dランクの仕事なのだから、当然そこまで危険な場所にはないはず。普通に歩いていても見つかるだろうか。最初はそんな風に甘く考えていた。

 

 しかし、いくら森の中を歩いても一向に薬草が見つかる気配がなかった。

 おかしい。そう思いながら探し続けるが、ないのだ。

 その時グレースはとんでもないことに気づいてしまった。それは、

 

「そもそも薬草というのをワタクシ、人生で一度たりとも見たことがないのでは?」

 

 あまりにも今更すぎる気づきと失態。

 森には当然たくさんの雑草がある。薬草という名前からは草であることは想像できるが、一体何色でどんな形をしているのかを聞きそびれてしまっていた。

 

 一度町に戻って情報収集しなければならないかも知れない。

 

「ワタクシとしたことが……! まったく、もっと冷静に考えればすぐわかることでしたのに、なんという馬鹿を」

 

 悔しさに唇を噛み締めたが、何を言っても今更である。

 彼女は栗色の長い髪を靡かせ、慌てて駆け戻った。ギルドのシステム上、仕事は早い者勝ちのルールになっており、もしも逃せばこの仕事は無くなってしまうことになるからだ。

 初日からそんなことにはなりたくない。とにかく急がなければ。

 

 そうしてワンピースを下草に引っ掛けながら無我夢中に走っていた、その時のことだった。

 

 何か生暖かいものが彼女の白い脚に吹きかかったのだ。

 風だろうか、などと思った瞬間、強烈な痛みが訪れてグレースは苦鳴を漏らした。

 

「うあっ。な、何ですかこれは……!」

 

 突然の異変に驚いて背後を振り返る。

 もしかするとハドムン王太子の使いが早速グレースを見つけて、捕獲することにしたのではなかろうか。やはり野放しにしておくと危険だとでも考え、グレースの足取りを掴んで追って来たのかも知れない。

 胸が不安でいっぱいになる。

 

 そんなことを考えながら激痛を訴える足に目をやれば、そこには紫色の斑点が浮かび上がっていた。その正体が何かを理解する前に、突然、目の前に何やら大きな物が現れた。

 

 

「ギャアアアアアアアア――!」

 

 

 周囲の木々を薙ぎ倒し、グレースの正面に優雅に降り立つ。

 堂々たる佇まいのそれは、地にへたり込む小娘を嘲笑うように見下ろしたのである。

 

 それがたった今自分に危害を加えた者であるのだとグレースにはすぐにわかった。

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