最後の贈り物は幸せなBADENDとしよう 作:勝てなくても努力して勝つのが好き
最近はみんなどう?俺はネット配信を始めた
「はいまあそれじゃあ! この度初出撃でオウガテイル3体、ザイゴート2体、コンゴウ1体の撃破とシユウ1体の結合崩壊まで達成した期待の新人エリック君のアナグラ歓迎会と、残念無念! とうとうグラスゴー支部に引き抜かれてしまった我らが変態紳士のハルオミさんの送別会を始めます! 今日は私の奢りなので好きなだけ飲み食いするように! 今日も一日お疲れ様でした! カンパ〜〜イ!」
アナグラの食堂の一角を貸切って私が音頭を取れば、参加してくれてる第1~第3部隊の面々もグラスを掲げてくれた。地味に端の方でソーマ君が小さくグラスを上げてくれてるのが嬉しい。お姉さんは成長を感じています。
私の奢りということで容赦なく高い酒を注文している
隣に座ってる
「いや〜! にしても第1部隊の皆も第4部隊の2人も今回はマジで助かったよ! おかげで外部居住区の中にアラガミを通さずに済んだ!」
「ああ、加納の活躍にはいつも助けられるているが、今回の新兵エリック君だったか? 彼の射撃も見事なものだ。既に交戦している俺たちの邪魔にならない援護だった。感謝する」
「わ、私が新兵だったころなんて全然アラガミに当てれなかったのに、す、凄かったです!」
「エリック・デア=フォーゲルヴァイデだ。
ボクの華麗な戦いぶりは全て、隊長のニーナ君の適切な事前指示があったからさ。ボクだけなら何も出来なかっただろう。だが、感謝は受け入れておくよ。これからもよろしくお願いする」
第2部隊の3人──大森タツミ、ブレンダン・バーデル、台場カノン──からの言葉を少しの謙遜を交えながらも受け入れたエリック君。
少し尊大に見えなくもない態度だが、神機使いならこれくらいの自信はあった方が長生きしやすい気もするし、まあ問題ないだろう。
私はそんなことより、今も1人悔し涙を流してる哀れな男を慰めなくてはいけない。
「ハルオミさーん? いい加減元気だしましょーよ。ほらお酌してあげますよ。貴方の大好きなウイスキーのストレートですよ」
「せめてロックにしてくれよ隊長……ってか注ぎ過ぎだよ!?」
「あ、早めに潰れてもらおうと思って」
「悪意しかないな! 俺の送別会兼ねてるんだよな!?」
ハルオミさんの打てば響くような反応を楽しみながら笑っていれば、ようやく少し元気が出てきたらしい。
「クソォ! 支部長は訪ねても居ないし、なんか新人は初っ端から大活躍してるし、俺はとうとうグラスゴーに引き抜き! 俺は悔しいぜ隊長! 俺はまだまだアンタと更なるムーブメントを追い求めたかった……!」
「そのムーブメント追求。私が女だからただのセクハラ対応なんですよね。査問会行きになって無いのマジで私が寛容なおかげだって理解してます? このサリエルの飛行高度より高くてグボログボロの最大水深より深い器の大きさに感謝してくださいよ」
「はっはっは! 面白い冗談だなぁ隊長! アンタの器の深さは嘆きの平原レベルだぜ」
「おっと一線超えてきましたね? グラスゴー行くのを直行便から査問会経由にしてやりますよ?」
フェンリル本部へとあとは送るだけの状態の陳情をペラリと見せてやれば反射的にハルオミさんは頭を下げる。どうやらまた1つ勝ち星を重ねてしまったらしい。敗北が知りたいものだ。
ハルオミさんのつむじを肴に勝利の美酒としてハイボールをグビグビ飲みながらほかの面々のバカ騒ぎを眺める。
エリック君は育ちがいいだろうしこういうバカ騒ぎは苦手かもなと杞憂していたけど、心配はないらしく早速挨拶回りがてら第1部隊の面々とも酒を飲み交わしていた。
お、ソーマ君にも絡んでるな? 良いぞ流石はコミュ強だ。ソーマ君の友達出来たね記念を眺めていると、ハルオミさんが声をかけてくる。
「なぁ隊長、俺がいなくて本当に大丈夫か?」
泣き言ではなく心配の情念が強いその声に思わず目を向ければ、やけに真剣な顔がある。どうやらこの人の中で私はいつまで経っても子供のまま、いや、女扱いをしているだけなのかもしれないけど。
「誰にモノ言ってるんですか? 少なくとも私はこの極東でTOP5に入るくらいには強いですし、書類仕事も得意ですからね。それに……アリアが居ますから、絶対に負けませんよたとえ相手がナニであってもです」
「……そうか」
何かを堪える様に言葉を飲み込んだハルオミさんを見て、少しいいことを思いついた。
「そうだ、ハルオミさん、カルネアデスの板って知ってます?」
「かるねあですの板? 知らないな。そんな素材あったか?」
「いいえ。まあ大昔の思考実験とかそんな感じの話ですよ。
ホラ、最近支部長室の壁に飾られるようになった絵の話です」
「それがどうしたんだよ」
「もし、ハルオミさんがこの先愛する人を見つけたとして、地球上の多くの人間が死ぬのを黙って見ていることが出来れば、その愛する人とハルオミさんあとはその家族が助かるとしたらハルオミさんはどうしますか?」
思わず自分口角が引き攣るのが分かる。私は今いつも通りに笑えているだろうか? あくまで酒の席の与太話の体裁を崩さずにヘラヘラとする私を、ハルオミさんは眉間に皺を寄せて見遣る。
「隊長、そいつはすぐに決めれることじゃないだろ。オレらは神機使いだぜ?」
「そうですね、ハルオミさんとかはすぐに決めれないんじゃないかなて思いますよ」
「へぇ、じゃあ隊長の答えは?」
「アリアが確実に助かる道があって、私がそれを選ばないわけないじゃないですか。ただ──ハルオミさんが私と同じ方に立ってたら嬉しいなって思って」
まぁ、方舟は極東からしか出ないのだからどの道グラスゴーにいるだろうこの人には関係の無い話ではあるのだけど。
「隊長、そんな風に言ったってダメだ」
ピシャリと、水をかけられたかのようなにべもない言葉に酒を呷ろうとした腕が止まった。
先程までの心配な表情はどこへやら。どうやら少し怒っているらしいその顔は教師が生徒に説教をする時のような、雰囲気を醸し出している。
「いいか隊長。アンタは確かにこの極東で五指に入る神機使いかもしれない。アラガミの生態調査課だとか神機デザイン企画課だとかの課長も兼務出来ているかもしれない。
だがな、アンタの目的の為に他人の人生を決定づけるような選択をさせちゃダメだ。
権謀術数が巡っているだろうフェンリルの文官達と話す機会が俺らよりは遥かに多い隊長のことだ。そういうやり方が自然と学習出来てるのかもしれない。
だけど、だからこそ、本当に助けて欲しい事があるなら、素直に助けを求めるべきだよ。オレたち神機使いは命を預け合う仲間だろ?」
頬を片手で掴まれながら強制的に目を合わせられる。
その真剣な眼差しは確かに逸らしがたいものがある。コレをたかが1人の神機使いの言葉だと切り捨てるには、私はこの人と共に戦場に出すぎていた。
それでも簡単に譲れることではない。
「……仲間なのは分かってますけど、方向性の違いはどうしても出てくる。極東の神機使いはお人好しが多いですから、私はきっと少数派です。だから普段から人を助けて、普段から愛想を振りまいて、普段から人の懐の中で窒息しそうになりながら浅く息をしているんです。
両親が死んだあの日から、アリアだけはこのクソみたいな世界から守るって決めてる。その為なら私は文字通りなんだってやりますよ」
「隊長……そいつは」
「実に興味深い話をしている」
酒宴の喧騒に紛れて、ほんの少しだけピリついた雰囲気を発していた私達の会話に1人割り込んできた。
バッとハルオミさんと揃った振り返れば、そこに立っていたのはヨハネス・フォン・シックザール支部長だ。
「楽しい宴会の席に水を差すような真似をして申し訳ない。だが、アラガミ生態調査課長の加納君に少々急用が出来てね。詳細は私の部屋で話そう。それから真壁君、今回の急な辞令については本当にすまないことをした。が、グラスゴーの窮地を救える人材として適任なのは君だろうという合理的判断によるものだ。ここは堪えて従ってくれると助かるよ」
「あ、ああ。まあそういうことなら……っていうかもう決まったことなんだろ? なら、もういいさあっちで多少配給に便宜があると嬉しいですがね」
「伝えておこう。
それでは加納君、10分後を目安に支部長室に来てくれ。頼んだぞ」
「承知しました」
言うだけ言って支部長はツカツカと静かな足音を立てながら去っていく。
嵐みたいな人だったな。というかすごいな、歓送迎会中にも呼び出しあるのかこの企業。
まあ、呼び出しがあるのは業務上仕方ないことだけども。
他の人たちも支部長がこちらに来たことは酔っ払いながらも認識していたのか、全員がこっちを見ているしタイミングを考えるとちょうどいいか。
「はいはい皆さーん! 私支部長から急用ということで呼ばれたのでこの辺で撤収しますけど、この貸切はあと2時間くらい取ってあるので皆さんは他の職員に迷惑書けない程度に楽しんどいてくださーい!
エリック君はいきなり上司消えちゃってごめんね! ハルオミさんはグラスゴー行く前に皆とちゃんと話していくんですよ! あ、これ私の緊急通信コードなので、ホントに助けて欲しいことがあったらいつでも連絡してくださいね。セクハラする為に連絡してきたら査問会にふっ飛ばしますけど!
さてさて〜それじゃ皆さんご唱和ください! 宴会中だろうと呼び出しとかするフェンリルは〜?」
「「「クソだー!」」」
ケラケラ笑いながら皆で1本締めれば、酒ビンを1つ一気飲みで空にして「おお〜!」なんて、男連中に持て囃される声を背中に受けながらクールに去る。私はお酒に強いのだ。
エレベーターに乗る頃にはとっくにお酒効果のいい気分は落ち着いていて、冷静な思考が戻ってくる。
未だに支部長からアーク計画のお誘いは来ない。
カルネアデスの板の絵が支部長室に飾られたから、少なくともアーク計画の為に動き出してるのは間違いないと思うんだけどな。
私の方から話を出してしまえば、知りすぎたな枠でリンドウさんみたいに暗殺されちゃうかもしれないし、どうにか向こうから話を振ってもらいたいんだけどな。
支部長室の前にて一応身嗜みを手鏡で確認しながら整えてからノックする。
「入りたまえ」と威厳たっぷりの声を聞いて中に入る。
「失礼します。先程は急用との事でしたが何か問題が?」
「モスクワ支部にてクアドリガ神族の接触禁忌種であるテスカトリポカが発見された。
君も知ってのとおり他支部と極東では危険度が段違いだ。ただの大型一体ですら他所の支部では総力戦、接触禁忌種等その支部を放棄することすら真面目な意見として上げられるほどに。
だがフェンリルとしてはこれ以上人類の活動圏が狭まるのは許容しがたい。
そこでアラガミの生態調査に詳しく、実力も申し分ない加納君に聞きたい。極東から人材を派遣する場合、何人程派遣をすればコレを打倒できると考える?」
「前提確認ですが、極東から人材が到着した際のテスカトリポカと防衛対象までの距離、それからテスカトリポカ以外のアラガミの存在は如何程ですか?」
「これからすぐにジェットに乗れば、到着後凡そ2時間後にモスクワ支部が設定している防衛ラインとテスカトリポカが接敵する想定だ。ほかのアラガミに関しては小型が多いらしいが中型以上は存在しないようだ。小型だけなら現地の神機使いだけで何とかなる想定らしい」
テスカトリポカを倒せばいいだけなら私1人でいい気もするけど、現地の神機使いのレベルじゃテスカトリポカとの戦いの巻き添えで死んじゃう可能性もあるか。
「第1〜第3部隊に所属している遠距離神機使い誰か1人と私、この2名が行けば何とかなるかと思います。
他のパターンなら第1部隊丸ごとが安牌ですかね。リンドウさんが多分今酔ってますけど」
「……なるほど、君が行くとしてもう1人は誰がいい?」
「そうですね……ベストはツバキさん、ベターはカレル君かカノンちゃんですかね? あ、でもカレル君も今は酔ってると思うので除外でお願いします」
「では台場君にも招集をかける。15分後に2人でジェット機に搭乗、モスクワを救援してきなさい」
「承知しました、それでは私も準備がありますので失礼します」
「加納君、この任務が終わったら暫く通常任務の割合を減らす。フォーゲルヴァイデ君の教育に時間をかけるといい。スケジュールの詳細は追ってまた連絡するよ」
「分かりました、ありがとうございます」
さてと、また1つ伝説を建設しに行こうかな。
モスクワの人たちには極東は魔境という事を実際に教えてあげよう。