最後の贈り物は幸せなBADENDとしよう   作:勝てなくても努力して勝つのが好き

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感想、評価、ここすき、誤字報告ありがとうございます!

アンケもありがとう!まずはタイミング的に書きやすくて得票高かったアリサやね


4-8

 黒いヴァジュラが、パパとママを喰い殺してる。

 それを、私は隠れていたクローゼットの中から、ずっと見ていた。

 

 フェンリルの職員の人に助けられて、大車先生に預けられた。

 なんでも先生は心のお医者さんだとかなんとか。

 アラガミに対する恐怖を、怒りに変換し、殺意をもって引き金が引けるように魔法の言葉を教えてもらった。

 

один(アジン) два(ドゥヴァ) три(トゥリー)

 

 共用語で言うところの1.2.3の合図、引き金を引くぞという心のトリガー。

 その言葉を教えられながら、見せられたのは【リンドウ隊長と赤髪の女性の顔写真】だった。冷静に考えれば、いや普通の精神状態であればだれでも、人間がアラガミなワケないんだからおかしいとわかる筈なのに、成績優秀だと持て囃されていた筈のちっぽけな私の頭脳は、そんな簡単なことにすら違和感を抱かなかった。

 そんな愚かな私が、これまでの記憶を言い訳に、隊長が死ぬ原因となった瞬間を拒絶し続ける時間が続いた。

 

 おそらく錯乱している私に鎮痛剤を打たれてたんだろう。

 不意に意識が遠くなって、気絶するように眠りに落ちる。

 その眠りの中で、ふと暖かい何かが流れ込んできたことで私の眼は覚めて、ようやく錯乱状態から抜け出すことが出来た。

 

 流れ込んできたのはおそらく私と同じ新型の、ユウの記憶だった。

 外部居住区の中でも防御の薄い危険地帯で生まれ育った彼は、アラガミの脅威にさらされながら、荒んだ性根の持った人間が多い中、まっすぐに育ったらしい。伝わってきたのは感謝と善性。同じ立場のみんなを護るんだという決意と身内との絆、私の過去とは程遠い、温かくまっとうな人間の感情。

 

 神機使いになってからも、より一層市井のみんなを護らなければという決意が固まったらしい。

 上の人間に可愛がられる言動と、確かな実力で私と違って多くの人と仲良くしてたみたいだ。

 

 赤髪の女性には銀髪美人がタイプだから……とか言っていた。私のことを指してるわけじゃないのは分かってるし、我ながら調子がいいなとも思うが、悪い気はしない。

 

 ただ、彼の記憶の中で、一つだけ気になるところがある。

 

『あ、ガム食べる? ……ごめんさっきので最後だったみたい』

『つまらんことで死にたくなければ私の命令にはすべてYesで答えろ』

『エリック、上だ!』

『命令は3つ。死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そんで隠れろ、運がよかったら不意を突いてぶっ殺せ。あ、これじゃ4つか』

『旧型は、旧型なりの仕事をしていただければいいと思います』

『全員を統率! 引け! これは命令だ!』

 

 時々、限定的なあるシーンだけが二重に流れる。というより、実際起きる数秒前に脳裏に流れてくるらしい。

 彼自身良く分かっていないようだし、榊博士も興味深いと言いつつ、実際は分からないと匙を投げているみたいだ。

 

 そんな光景と感情の波に流されて、私の意識は明瞭な状態で浮上した。

 

「おお! 本当に目覚めたね。アリサ君、気分はどうかな?」

 

「榊博士……今は落ちついています」

 

 眼を開けば、一番最初に飛び込んできたのは榊博士だった。辺りに視線をやれば、病院着でベットの上。私がユウの手を握っていて、少し離れたところにツバキ教官もいる。

 ……私がユウの手を握っている? 

 

「わ! ……その、すみません、ずっと握ってしまって。痛くはなかったですか?」

 

「全然平気だよ。むしろ起こしちゃってごめん。榊博士が感応現象を使えばアリサの精神を落ち着かせながら起こせるかもっていうから、試していたんだ」

 

「は、はあ、なるほど……?」

 

 思わず振り払うように手を放して、自分の手を抱く。失礼な態度をとってしまったが、気にしてないように笑う彼。その様子に少しほっとした。

 

 それから彼が言っていた感応現象。

 新型神機使い同士で理論上起きるとされている記憶の共有現象……だったはず。

 私が呆けていればツバキ教官とユウが何やら小声で話し込んで、榊博士が私の瞳孔とか体調の軽い確認をしてくる。問題無いと判断したのか、質問が飛んできた。

 

「さて、早速で悪いんだけどねアリサ君。キミは先ほどの感応現象によってユウ君の心の内、あるいは記憶を感受したはずだ。何か見えたか喋れるかい?」

 

「多分、ユウの記憶の断片と、感情みたいな温かいものを感じました。

 外部居住区の知り合いたち、たしか、ダン、レント、クイナ、マイを始めとした同年代の子たちと遊んでいた記憶、彼らを守りたいという決意。年長者に取り入る言動、それから、私は通信越しでしか話したことがありませんが、赤髪の、ニーナ先輩や榊博士に報告している限定的かつ局所的な未來視擬き。

 

 あとは、まあ、その、日常でのたわいない雑談のシーンとかです」

 

 好きなタイプの話を思い出して一瞬顔が熱くなって俯く。

 一瞬疑問に思ったようだが、榊博士は概ね私の報告に満足したのか、大きく頷く。

 

「実に結構。楽にしていてくれたまえ。まともに食事もとれていなかったから、胃に優しいものを持ってこさせよう。

 そういうワケだ、ツバキ君、ユウ君から受けた報告の裏が取れたね。ユウ君、アリサ君についていてあげてくれ。ツバキ君は私と共に。ソーマがニーナ君を連れて出ている間に方向性を纏めておこう」

 

「ユウ、そういうわけだからアリサのことをしばらく頼む。アリサ、眠くなったら寝てもいい、今はゆっくり休め」

 

 

「承知しました」

 

 ツバキ教官が労わるように私の肩をたたき、榊博士に伴って出ていく。

 ……実の弟のリンドウ隊長に、私はあんなことをしてしまったのに。

 

「……ユウ、今どういう状況なんですか」

 

「う~ん、実はオレも良く分かってないんだよね」

 

 タハハと頭を掻きながら笑う彼は、医療スタッフがもってきた粥を受け取って、私の前に差し出した。

 

「アリサの疑問に答える形で話そうか。と言っても、さっき言ったようにオレ自身理解が浅いところがあるから、全部こたえられるかはわからないけど」

 

 そうして彼から語られたのは、予想通りに最悪なことだった。

 

 私が錯乱していたところに、青白いヴァジュラ、プリティヴィ・マータの群れが襲い掛かってきて、そこに赤髪の女性、加納ニーナ第4部隊長が偶々助けに来てくれたこと。

 リンドウ隊長は黒いヴァジュラ、ディアウス・ピターに襲われた結果KIAとなったこと。

 私の主治医の大車先生は、どうやら私をマインドコントロールすることで、リンドウ隊長暗殺の刺客として育て上げたらしいこと。

 大車先生は本部に向かう道中、護衛の加納第4部隊長ごと心中しようとしたが失敗し、ウロボロスの攻撃により亡くなったこと。

 けど当の加納第4部隊長は一人でウロボロスを討伐し、生還。今はソーマと浜辺でデートしているらしいこと。

 

 ……最後におかしい部分がありましたね? 

 

「ちょっと待ってください。そんな状況でなんで加納第4部隊長はけろっと生きてるんですか!? というかあの協調性のないソーマに恋人がいたんですか!?」

 

「めっちゃわかる! なんで生きてんだろうね? 

 しかも聞くところによるとプリティヴィ・マータ8体を一人で討伐しきった後に、手負いとはいえディアウス・ピターも撃退してるらしいし、ウロボロスなんて、映像見たけど、ほぼ山だったよ。あんなのどうやって近接だけで倒してんだって話だよね。

 

 ああ、でもソーマとの件はアリサがアナグラに来た辺りから割と噂になってたよ。実際に付き合ってるかは知らないけど、実際にデート行くんだからかなりイイ感じらしいね」

 

 ユウから聞いた加納第4部隊長の話は素直に信じられなかった。

 そういえばロシア支部に居た頃に、モスクワ支部のベテランに話を聞く機会があった。なんでも極東には一人で接触禁忌種を数分で倒す『施しの英雄』がいるみたいな話だ。

 どうせ最前線、人外魔境の名を欲しいままにする極東が、ちょっと大袈裟に盛っているだけだと思っていたけれど、もしかすると彼女のことだったのかも……。

 

 いや、だとしたらどうしてそんなすごい人物があんなぶっきらぼうなソーマとお付き合いしてるのか、という謎が生まれるわけですけど。

 

「ち、ちなみにですがユウ、極東で施しの英雄と聞いてピンとくる方は居ますか?」

 

「施しの英雄? ……ああ、英雄は知らないけど、たしかニーナ先輩が【蒐集者】と【施し】の二つ名で呼ばれてたはずだよ。ソーマ曰く、字面がダサいからもうちょっとカッコイイ奴がイイって本人は言ってるみたいだけど。そろそろ【不死身】とかが付いてもよさそうな戦績だなぁとは思うしね」

 

「なるほどこれが、ロシアの英雄は、極東にありということですか」

 

「なにそれ」

 

「ロシアとモスクワ支部の新兵全員に聞かされている言葉です。数年前テスカトリポカ率いる群れの進行を、一つの流星と一つの身体のみで討滅せしめた英雄が極東に居るとのことで……モスクワ支部を放棄するかどうかの瀬戸際を救っていただいたからと、神聖視されているんです」

 

「へ~! ニーナ先輩そんなにすごいんだ!」

 

「流石に少しは話を盛っているともいますが……加納第4部隊長の戦績を考えると事実な気がしてきますね。本当に同じ人間なんですよね?」

 

「なんかユーバーセンス? っていう固有スキルで凄い細かく戦況把握ができるらしいけど、他は適合率が滅茶苦茶高いだけで普通の旧型近接神機使いらしいよ」

 

「俄かには、信じられ、ません……ね」

 

 粥を口に運びつつ、ユウと話していると、突然意識が遠のくように眠気が襲い掛かってくる。

 溢さないうちに匙を置いて枕に頭を預ける。急速になくなっていく自意識に、またあのトラウマの光景に引きずり戻されそうな気がした。

 

「眠くなった? 博士には伝えておくからゆっくり休んで」

 

「手を……」

 

 席を立ちそうになるユウの手に縋ったのが私の最後の記憶だったけれど、指先から伝わる仄かな熱のおかげで、悪夢は見なかったように思う。

 




しれっと入れてたアリアが地味に人気高いのもワロてます

一人称小説なのであくまで目立たないキャラが多く居ますが、こいつの視点みたいかも!とかありますか?気が向けばそのキャラ視点で一話進行させます

  • 藤木コウタ
  • 雨宮ツバキ
  • 橘サクヤ
  • アリサ・イリーニチナ・アミエーラ
  • 楠リッカ
  • 竹田ヒバリ
  • 大森タツミ
  • 台場カノン
  • 加納アリア
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